救護の手にクリームを   作:救急パックA

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だいたいチヨコ>ミネ>ハナエ>>セリナくらいのサイズ感です


シャクヤクとトラック

「やー、こんなにたっくさんのシャクヤク、ほんとにいいのぉ?」

「はい。セイア様からもよろしくと仰せつかっております」

 

チヨコとハナエが最初に来たのは、サンクトゥス分派の運営する植物園だった。

「シャクヤクを貰いに行く」と聞いていたハナエは、てっきりパーティーで使った大量の花を貰いに行くのだと思っていたが……

 

「……根っこがたくさんです!」

「ご要望通り、コサージュに使ったシャクヤクの根を集めましたが……こんなものが返礼品でよろしいのですか?」

「充分充分! 状態も最高だし、最高だよぉ~!」

 

……チヨコが受け取ったのは、シャクヤクの根だけだった。

ティーパーティー襲撃事件で活躍したチヨコに、セイアが恩賞は何を望むか聞いたところ、チヨコはこのシャクヤクの根を希望したのである。

一見不要なゴミにしか見えないが、チヨコの顔はコサージュを受け取った時よりも機嫌がいい。ハナエも植物園の管理をする生徒も首を傾げる中、チヨコは喜々として解説した。

 

「シャクヤクの根は色んな漢方薬の材料になるんだよ~!」

「漢方薬ですか?」

「ええと、セイア様の内服薬のひとつですね。確かれんじゅ、とかなんとか……」

「連珠飲(れんじゅいん)のことだね~、血流改善を促す四物湯(しもつとう)と水分代謝を調整する苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を調製したものだけど、その四物湯に使われてるんだ~」

「しもつとー」

「りょうけいじゅつかんとう」

「百合園さんの身体を熱くしちゃうおくすりだね~」

「「えっちなやつ」」

「違うよぉ!?」

 

チヨコ曰く。

救護騎士団で扱う医薬品の原料は校外から購入したものであり、その原料から原薬(薬の有効成分)をトリニティ総合学園傘下の工場が精製し、製薬会社が医薬品として作成を行う。

つまり原料を安く輸入して、自分たちで作ることで校内需要を安く回しているのだ。

 

「けど、漢方薬は山海経が作ってるからね~……輸入品となると、保険適用外になっちゃって高くつくんだぁ」

「漢方薬は高いとダメなんですか?」

「だめだめ~。漢方は継続して飲むことで効果があるタイプの医薬品だからねぇ」

「ああ、だからうちの植物園で栽培しているシャクヤクが欲しかったんですね」

「そう~! シャクヤクは色んな効能があるから助かるんだよぉ~!」

 

チヨコは山海経に度々出張しては漢方薬の生成手段と技術書を買い漁っており、後は原料の安定供給を課題として残していた。

それを各分派の所有する植物園などで卸すことができれば、一気に問題が解決する。

チヨコはサンクトゥス分派のシャクヤクを、そのきっかけづくりにしようと目論んでいたのである。

 

「これを漢方薬の原料として試してみて、問題なければ卸して貰えるよう契約を持ちかけるつもり~!」

「いつも花以外の処理は困ってたんですが……おくすりの材料になるなんて思いませんでした」

「シャクヤクって、いつもはどうしてるんですか?」

「花はコサージュや飾りにして、使い終えたら染料に。味も香りもないので、それ以外は焼くか肥料かにしていたんですが……」

「これからは収入源にもなるよぉ! 期待してていいからねぇ!」

「わぁーい!」

「そ、そうなると嬉しいですね」

 

チヨコは植物園の生徒とハナエを愛情いっぱいに抱きしめる。

植物園の生徒は元気いっぱいのハナエのパイと愛情いっぱいのチヨコのパイに押し潰されるが、幸いにしてパテル分派に趣旨替えするほどの性癖の変更は防がれた。偏にセイアへの忠誠の賜物である。

 

「……か、漢方かあ。豊胸効果がある漢方も、あるのかな……」

 

代わりにこの日、「デカパイセイアサンクチュアリ」なる邪教の萌芽が芽生えたが、これは本筋に関わらないことなので割愛させて頂く。

それは闇から闇へゆくもの。すべては消えゆく余燼に過ぎないのだ。

 

***

 

「ぜ~んぶ入っちゃいましたね!」

「10t積めるからね~、まだまだいけるよ~」

 

チヨコは助手席に座るハナエに笑いかけながら、慣れた調子でハンドルを握っていた。

救護騎士団の所有物である10tトラックは荷台に空調設備がついており、冷蔵保存しなければならない医薬品にも対応ができる優れものである。

夏場はしばしばこの10tトラックの荷に乗って移動を希望する生徒が続出するが、代価として庫内清掃を提示すると誰もが辞退する。

空調を切った状態で、蒸し暑い庫内ごと消毒液塗れになって清掃するのは、誰だって憂鬱になるのだ。

ちなみにシートベルトはふたりともちゃんと締めている。ハナエの元気いっパイが縦に割られ、その形の良さをはっきりと示しているのに対し、チヨコの愛情いっパイは逆にシートベルトを呑み込んでいた。これも成長の差である。

 

「私もトラックを運転したいです! やっていいですか!?」

「夏休みに特別講習で免許取れるから、大型四輪取ってね~」

「副長、免許いっぱい持ってますね……!?」

「必要だったからね~」

 

チヨコの趣味は資格取得……というわけではない。

この薬剤を扱うにはあの資格が、この薬剤を運ぶにはあの資格が……と定められた条件を満たしていった結果、様々な資格を持つことになっただけなのだ。

薬事班で仕事をする上級生はだいたいこの傾向があり、気づけばどこでもなんでもできる人材に成長する。偏に人材不足の賜物である。

 

「責任を取れるって、それだけのことを学んでいるってことだからね~」

「責任……副長、責任って言葉、けっこう使ってますよね!」

「ありゃ、そうだっけ?」

「はい! 前に団長と楽しそうにお話してる時も言ってました!」

「あはは。ハナエちゃんはよく覚えてるねー」

 

ハナエは意外と色んなものを見ているものだと歓心しながら、チヨコは照れ臭そうに笑う。

何故責任を重視するのか。チヨコはふと自身の価値基準に関して思考を巡らせた。

それはチヨコにとって言語化したことがなく、言語化の必要がなかったものだったが、ハナエの将来にとっては大事なパズルのピースになるかもしれない。

その大事なピースをひとつでも多く託すことが先輩の役目である。チヨコは大事な仕事に向き合う時のように、真摯になって考えた。

 

「まぁ、責任を取れる人がいるって、安心するからね~」

「安心? 救護しやすい、ってことですか?」

「うん~。救護だけじゃなくて、色んなことで迷う人の背中を押せることなんだぁ」

 

チヨコは軽い調子で言いながら、それが決して軽いことではないことを再認識した。

他人の行動の責任を負う。それは時に、理不尽に近い叱責や追及を受けることに繋がるものだ。

その負担は容易に人を潰すものであり、少しでも賢明であるならば、ひとつでも負わない方が気軽に生きられることが理解できるだろう。

 

「でも、決して。決して、いいことばかりじゃないよ」

「……そうなんですか?」

「うん。それは任せることで、人の失敗を自分の失敗として扱うことだから」

「じゃあ、私が失敗したら……」

「うん。面倒見きれなかった私が悪い、ってことになるね」

「ええー! そ、それはダメです! チヨコ先輩は悪くないです!」

「ふふ。その上で、ハナエちゃんがどうするかは、ハナエちゃんの自由だけど……そうだね」

 

けれど、とチヨコは合理性に待ったをかける。

例えそれが不合理で不条理だったとして、本当にすべての人が負わないことが正しいのか。

誰もが誰かの責任を負わなくなった時、それは誰もが自分の責任から逃れられない、己の過ちに脅かされる世界になりはしないか。

それは本当にハナエに、下級生たちに与えていい世界なのか。

チヨコは思考を巡らせた。

 

「ハナエちゃんの責任を負えるのは、私は嬉しいよ」

「ええ? 怒られても、ですか?」

「うん。ハナエちゃんに頼られてるんだ~って、嬉しくなっちゃう」

 

片手でハンドルを捌きながら、チヨコはハナエの頭を撫でる。

どうにせよ、少なくともチヨコはハナエの責任を負うことは苦と思わなかった。

素直で明るく、ちょっと信じすぎるきらいはあるが、直向きに頑張ることを楽しめる後輩。

そんな彼女は失敗を重ねるほど逞しく、頼もしく成長することだろう。

それが少しの間だけでも見守れる、その栄誉をチヨコは何より重視していた。

 

「だから、失敗を怖がらないでいいよ。怒られたら、いっしょに謝ればいいから」

「……はい! チヨコ副長といっしょなら、こわくないです!」

「ふふふー。私もハナエちゃんとなら、ミっちゃんにガン詰めされても怖くないかも」

「あ、それは怖いです! なるべくナシにしてください!!」

「急に逃げるじゃん」

 

ハナエにとって尊敬と畏怖の対象となっているとミネが知ったら、果たしてどんな顔をするだろうか。

シスターフッドの部長そっくりの苦渋に満ちた顔をしたミネを思い浮かべ、チヨコは軽く吹き出しながら、目的地までハンドルを切る。

 

目的地はD.U地区。連邦生徒会の拠点、サンクトゥムタワーである。




お読み頂きありがとうございます。
次回は2024/02/19 23:00頃を予定しております
(2024/02/18は業務に集中したい為、提出を翌日に変更致しました。お待ちいただいている中恐縮ですが、ご理解の程よろしくお願いします)
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