救護の手にクリームを   作:救急パックA

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今日は仕事が長く続いてしまい、文量少なめで恐縮です
一日にどれだけ書けるか、の計測の意味合いも兼ねて本作を書いているので、毎回の量が上下あることをご承知おきください


合格と不合格

 

「ではこちら、軟膏250缶、消毒液250瓶の検分をよろしくお願いします」

「ワ……ァ……!」

「泣いちゃった!」

 

駐車場に並べられた、段ボールの箱、箱、箱。

膨大な量の軟膏と消毒液は、250人分の刑務作業によって託された希望の証だ。

これの成否で刑期が変わるとくれば、その重要さは計り知れない。

故にチヨコは泣いた。勿論感動ではない。この苦労が自分にのしかかる事実にである。

 

「わ、私、手伝います!」

「私たちも、できることがあれば是非」

「うん、うん……ハナエちゃん、あっちの山から使えそうなやつと使えなさそうなやつ分けて貰える?」

「はーい!」

「尾刃さんは、リスト持ってるよね? ハナエちゃんが分けたもの、どの服役囚が作ったやつか記録してくれるかなぁ」

「わかりました」

「あとはできる限り、私の前に並べちゃって~」

「指示は聞いたな。梱包から出す、並べる、梱包に閉じるで3班に分かれろ。行動開始」

「「了解です!」」

 

チヨコはペンライトを口に咥えながら、受け渡しの為に集まったヴァルキューレの生徒たちに指示を飛ばす。

任務に対し誠実な彼女たちは、カンナの指揮のもと、的確にグループ分けされ、きびきびと働き始めた。

 

「そういえば、矯正局ってヴァルキューレの施設なんですか?」

「いえ、区分としては連邦生徒会・防衛室の所轄です」

「え、じゃあどうしてカンナさんが来たんですか……?」

「……まあ、仕事として命じられましたので」

「た、大変ですね……?」

「あまり、相性がよくないみたいで……」

 

ハナエの質問に、カンナは曖昧に微笑んで答える。

その笑みの中には様々な苦労が滲み出ていた。

 

(確か、防衛室は今期から新しい子だったような……?)

 

連邦生徒会と関わりも多少あるチヨコは思い返そうとするが、頭に叩き込んだ情報は古いものばかりだ。

そもそも生徒会長がいればすべて盤石、と謳われる組織であるが為に、一室の長が変わったところで大した変動はないだろう、とチヨコは睨んでいる。

それでも一応大事な瞬間なのだから、代理を命じず直接出向けばいいものを……そこまで考えて、チヨコは作業に戻った。

 

「ふむふむ……見た目ヨシ! くんくん……ニオイヨシ! んむんむ……粘り気ヨシ!」

「では、これはOKですか?」

「はい! ヨシです!」

「わかりました。21番、合格。次を」

 

ハナエはきちんと見た目を検分し、臭いを検分し、粘り気を検分する。

それは異常な薬は決して使わぬようにと、検分する癖をミネから常に教えられてきた為に身についた検品の技能だった。

若いのにしっかりしていると関心しながら、カンナはチヨコの方の様子を見てぎょっと目を剥く。

 

「ヨシ、ヨシ、ヨシ、ヨシ、注意1、ヨシ、ヨシ、ヨシ、注意2、ヨシ……次ある~?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 今……」

「は~い、無理しないでね~」

 

1個3秒。

それがチヨコの検品ラップタイムだ。

ペンライトを口で動かして中身を透かし、蓋を一瞬開けて閉じる。たったそれだけの動作で検品をする姿は、間違っても雑と誹れはしない。

紛れもなく、熟知している。カンナやヴァルキューレの生徒たちはそう確信させられた。

 

「す、凄まじいですね……」

「こうでもしないと日が暮れちゃうからねえ。さ、次々~」

 

それはチヨコが三年間の部活動で培ってきた、卓越した検品技能だ。

毎日何百と検品を丁寧にしていれば日が暮れる。しかし見落とせば信用問題だ。

それ故にチヨコたち薬事班は、検品作業を効率化し、無心で出来るようにしているのだ。

反芻作業の末に降臨した、哀しき効率の化身である。

 

「はい、次の箱ぉ~」

「あ、あわわ……私も急がなくっちゃ!」

「焦らず、確実にやってください。それが1番早いんですから」

「は、はい!」

 

チヨコの健闘を見て、こうしてはいられないとハナエが奮起する。

しかしそれを制するように顔を覗かせたカンナに、ハナエは竦み上がって応答した。

ハナエの暴走癖を鎮めるため、チヨコはカンナを隣においていたのである。

 

「見た目ヨシ、ニオイヨシ! ヨシ!」

「粘度のチェックを忘れていますね」

「はうっ! そ、そうでした……!」

「何個もやってれば忘れるよね〜」

「き、気をつけます! これはヨシ、で、次は……?」

 

そうしてハナエが検品を再開すると、彼女の目にひと瓶の消毒液が目に映った。

透かし、臭いを嗅ぎ、粘度を確かめ……チヨコの方を向く。

 

「副長、これ見てもらえますか?」

「はいは~い、どれどれ〜?」

「これなんですけど……」

 

ハナエに差し出されたその消毒液を、チヨコも興味深げに見つめる。

カンナやヴァルキューレの生徒たちもなんだなんだと覗き込むが、それは何の変哲もない、ただの消毒液にしか見えなかった。

 

「ハナエちゃん、お手柄だね~」

「わあっ、やりました!」

「どういうことです? これが何か問題でもあるのですか」

「うーん、とても上手くできているけど……上手くできているから問題なんだよねぇ」

 

しかしチヨコは思案げに耳を伏せ、そしてカンナへと告げる。

 

「これ、お酒だよ」

 

それはこのキヴォトスに、生徒たちの手に、あってはならないものだった。




お読みいただきありがとうございます
次回は2024/02/21 23:00頃の予定です
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