ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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学区

 ムシャムシャガツガツと、()()は肉と野菜を挟んだバランスの良いサンドイッチを食いながら獅子のような髪をした男の隣を歩く。

 

 氷のようだと評されるエルフの冷たくも美しい容姿とは方向性が異なるが、それでも美しいと称していいその男にすれ違う女子生徒達は熱い視線を送り、隣を歩く少女に嫉妬を覚える。

 

 そこにいるのがその女子生徒達なら、男に見惚れそんな視線も気付きもせず優越感にすら浸れないだろう。ただ、その少女は違った。

 

 隣を立つ男にも、周りの視線も、まるで興味を持っていない。大きな三つ編みに纏められてもフワフワとウェーブのかかった白い髪と渦を描くように生えた角が羊人(シープル)である事を証明していたが、纏う気配は飢えた狼や虎を思わせる。

 

「よく食べるね」

「腹減ってんだよ俺は」

 

 男………レオンの言葉に少女はそれだけ返して食事を再開する。学鞄(ブックバッグ)から新しい食材を取り出した。魚だ。

 

「………教材も入れているかい?」

「? 食えねえのに?」

「学ぶうえで、必要なことだ」

「知識を蓄えるんだろ? ちゃんと全部覚えた」

 

 と、少女はなんでもないかのように言う。レオンはそうか、と微笑んだ。

 やがてたどり着いた教室は劇場(シアター)のようだ。

 

 半円で階段状の席から生徒達がレオンと共に来た少女に視線を向ける。

 

「君達の新しい仲間を紹介しよう」

「……………………」

「「「…………?」」」

「? ああ………」

 

 視線にさらされ、漸く反応する少女。

 

「リリス・ヴィナス」

「……………」

「………………よろしく」

 

 それだけ言うと空いてる席に座った。

 

「彼女はオラリオ出身の元冒険者だ。年こそこの中では低いが、経験の濃さだけならこの中でも一番だろう」

「オラリオ!」「元冒険者?」「オラリオから学区って、珍しいな」「そうか、普通じゃね?」「オラリオからの入学生ってあくまでその日に学区が来るからって待機してた奴らだろ」

 

 オラリオの冒険者と聞いてザワザワ騒がしくなる教室内。リリスは気にせずブックバッグを漁り、肉を取り出し食べる。授業中なのに。

 

「オラリオの冒険者か。なら、そんな(なり)でもさぞ強いんだろうな………?」

「ル、ルーク!」

 

 と、灰の髪を持つ少年が睨みつけるようにリリスを見ながら声をかけてくると隣で小柄な少女がアワアワと狼狽える。

 

「……………」

 

 リリスはモグモグと食事を続ける。

 

「おい!」

「……………?」

「何か言ったらどうなんだ!?」

「…………………」

 

 モグモグと口を動かし、ゴクンと飲み込むリリス。そのまましばし考え込む。

 

「お前が喧嘩を売ってるのは解るが、アフロディーテに弱いものイジメは止められてる。こういう場合……レオン……せんせー、決闘とかでわからせていいか……です」

 

 教室では辿々しいながらも敬語を使うリリスは、面倒くさそうに言う。その態度にルークと呼ばれた少年はカッと顔を赤くして立ち上がる。

 

「上等だ! こっちだってランクアップを果たしてる。オラリオから逃げたような奴に、負けるか!」

「じゃあ授業の後な」

 

 と、サラリと流すリリス。今すぐにでもやってやると意気込んでいたルークはなっ、と声を漏らす。

 

「出来れば放課後にしてくれると助かるかな」

「じゃあ放課後にしてやる………です。お前もそれでいいな?」

 

 と、ルークに言うリリス。言い終えるともう用はないとばかりに視線をレオンに戻した。

 

 

 

 転校生というのは、そこそこ注目を集める物だ。そこに物珍しさがあればさらに。

 

 オラリオで冒険者をしていた者が生徒としてくる。それは間違いなく初めてのことだ。しかも9歳でランクアップもしている。

 

「リリスさんは何時から冒険者をやってたの?」

「生まれてすぐ」

「初めてのランクアップは何歳?」

「7歳頃」

「髪の毛、すごくツヤツヤだね。どんな手入れしてるの」

「知らん。アフロディーテがやってくれる」

「どんな胸が好みだ?」

「……………?」

 

 なんか変な質問があった、と貰っていた食料を食っていたリリスは顔を上げる。

 

「またかよバーダイン」「死ねよバーダイン!」「こんな小さい子に何聞いてるのよ!」「ていうか女の子にそういう話するな!」

 

 女子達の態度からして幻聴の類ではなかったようだ。罵声を浴びる牛人(ブルズ)の男子生徒はしかし気にしていないようだ。

 

「………デカけりゃいいんじゃねえ?」

「────」

 

 肉を食うでも、乳を取るでもでかいに越したことはないだろうという食料としてしか見てないリリスの言葉だったが、しかしバーダインは雷に打たれたように衝撃を受け、涙を流す。

 

「………どうやら俺達は、親友だったようだな」

「違うぞ?」

 

 リリスは珍獣でも見るような目でバーダインを見る。

 

「ていうかリリスちゃんも、別に今のままでも素敵だよ?」

「そうそう、すごく可愛い!」

「……?」

「胸が大きくっても小さくても変わらないって!」

「デカけりゃそれだけ食える量があるだろ。後乳も取れる」

「え?」

「?」

 

 漸くリリスの言ってるでかい胸が乳牛とかの事だと理解した生徒達。

 

「リリスちゃん、食べることばっかりだな」

「俺は基本的に食うことしか考えてない」

「………ふん。野蛮な冒険者め」

 

 と、教室の一角から声が聞こえる。ルークとは別に、何人かの生徒達が面白くなさそうに睨んでいる。

 

「穴に籠っていればいいのに」「今更外に出て何のつもりだ」「どうせダンジョンから逃げただけだろう」

 

 なんて声が聞こえる。

 学区は戦争へ参加したり、地上のモンスターを倒したりと感謝されることが多い。故にオラリオで完結している冒険者が役立たずに見えるのだろう。

 

「き、気にしなくていいよ……」

「? 気にしてないぞ。口だけだからな」

「!!」

 

 その言葉に陰口を叩いていた者達の顔が歪む。

 

「そ、そんな事聞こえるように言わないほうが………!」

「? なんで?」

「いや、ほら………喧嘩になったり」

「…………あいつ、強い方なんだろ?」

 

 と、指さしたのはルーク。周りの態度からして、彼はこのクラスでもそこそこ強いのだろう。

 

「なら1000人同時にかかってこようが、全員海に落としてシハチとモハチの餌に出来る」

「ふざけるな!」「舐めんじゃねえよガキ!」「オラリオなどという蛮族の都しか知らない世間知らずめ」「私もランクアップぐらいしている!」

 

 と、怒気が向けられるも気にせず食事を続ける。彼等などまるで気にしていないのがよく解る。その態度に敵愾心剥き出しの生徒達が立ち上がりかけ、リリスが食っていた魚の骨を噛み砕かずに口から抜く。まさにその時

 

「リ〜リ〜ス! お友達は出来たかしら!?」

 

 美しい女神が入ってきた。何故か学区の制服を着ていた。ただしかなり改造されておりスカートは短いし、シャツも臍が出るほど短く切られている。

 

「お友達が出来たなら、一緒にご飯食べに行きましょう?」

「出来てない」

 

 と、そこそこの高さの席だったがリリスは一足で飛び降りた。ドアの隙間から2匹の犬が覗き込んでくる。

 

「行くぞ」

「あ、ちょっと! 待ちなさいよ〜!」

 

 犬を連れて教室から出ていくリリスを女神が慌てて追いかけた。

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