ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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イクテュオケンタウロス

 学区とは教育機関の名前であり、船の名は別にある。

 超巨大船『フリングホルニ』と言うその船は、直径700М(メドル)という巨大さから基本的に荷物は全て船に載せられる。

 

 しかし今は珍しく海に浮かび牽引されるものがあった。

 それは一辺50М(メドル)はある大型水槽(プール)だ。中には何もいない。と、海面を突き破り現れたシャチがプールへ飛び込む。その背に乗っていたリリスは紐を引っ張る。それは漁網だった。漁師が数人がかりで引き上げるようなサイズのそれを片手で引っ張る。大量の魚がピクピク動いている。

 

 今度は鎖を引っ張ると息絶えた水棲モンスターが大量に引き上げられる。

 

「あら大量ね。なにこれ、おっさんみたい」

 

 プールの縁に備え付けられた足場でアフロディーテは魚を見ながら呟く。リリスは大食いなので食料はある程度自分で確保しているのだ。

 

「ところで放課後お友達と用事があったんじゃないの?」

「友達……? …………ああ。もう済ませた」

 

 

 

 学区は3つの階層(レイヤー)で分けられる。大量の大型浮遊力発生装置の備わる底部に、船の心臓部とも言える機関部や『研究室』の密集する『制御層(コントロールレイヤー)』。

 

 真ん中には居住区が設けられた『住居層(ライブ・レイヤー)』。

 

 そして三層の頂点。学区を学区たらしめる校舎や演習場が存在する『学園層(アカデミック・レイヤー)』。

 

 そんな学園層(アカデミック・レイヤー)に存在するアリーナ。実技を行うそこに、現在大量の人間が倒れていた。

 

 数十人の年若い彼等は全員がオラリオの外でランクアップを果たした優秀な人材。

 オラリオですら半数の冒険者がLv.1のまま生涯を終える。迷宮都市ですらLv.2の新人と聞けばどの派閥でも勧誘候補に入れることを考えれば、この若さで数十人も居る学区はなるほど、素晴らしい。

 

 そんなエリート達を、リリスは歯牙にもかけなかった。

 決闘相手のルークを前に視線を向けることすらせず観客に「後で魔導士の自分なら、とか俺達の強さは連携だ、とか言われるのは面倒だから、もう全員でかかってこい」と言い放った。

 

 顔を見れば、それが本当にただ面倒だからと言っていた。

 合同訓練も行うし、複数の班が組んでモンスター討伐や戦争にも参加する。足を引っ張り合うことなどなく、事実彼等はオラリオの雑多な冒険者パーティよりも『戦闘部隊』()()()()()優秀だったろう。

 

 だが負けた。全員腹に一撃、吐かない程度に食らった。いっそ吐ければまだマシだったろうが、ドワーフの前衛もエルフの後衛も吐かなかった事を思えば一人一人に威力を調整する余裕すらあったのだろう。

 

 本気ではない。遊ばれたと憤ることすら図々しい圧倒的な実力差。観客席に唯一残っていた褐色の少女だけがケラケラと笑っていたが、今はいない。

 

「ル、ルーク…………」

「………くそっ!」

 

 叫ぶことすら出来ずルークはフラフラと立ち上がる。手を貸そうとした幼馴染の手を振り払い、その瞳には屈辱を宿す。

 

 それでまだ敵愾心を持てるのは、自分も彼女と同じ生まれなら、と思っているからだろう。生まれた時からオラリオにいて、冒険者となって、ランクアップを重ねれば………同じレベル帯なら、そんな風に己に言い聞かせる。

 

「彼女は最年少でLv.4に至った傑物だからね。冒険があまりに過酷すぎて、真似する者が現れないように伏せられているが」

 

 と、レオンが言う。彼は多対一を止めなかった。それはつまり、彼もこの結果を予想していたということだろう。

 

「君達が弱いわけではない。だが、圧倒的に経験が足りない」

「経験なんて、幾らでも積める」

「そうだね。それは、彼女も同じだ」

「……だけど彼奴は!」

 

 オラリオから逃げ出した。ルーク達はそう考える。オラリオの冒険者を見下し、それ故にダンジョンすら見くびってしまう。

 

 レオンは意識改革をしたいが、その為には彼等をダンジョンでも危険な階層に送らなければいけないという矛盾が生じる。と、その時…………

 

「なんだ?」

「レオン先生?」

 

 レオンが唐突に顔を上げルークを介抱しようとしていた少女が首を傾げる。瞬間、魔導士は膨大な魔力を感じ取る。

 

 轟音が鳴り響き、船体が揺れた。学区全体に警報が鳴り響く。

 

 

 

 

 学区が水棲モンスターに襲われることなどザラにある。陸生のモンスターと異なり、メレンのロログ湖に存在したダンジョンの出入り口は塞がれて間もなく、ウラノスの祈祷で抑えられているとはいえそれでも原種が数多く溢れ強力なモンスターが海には多い。

 

 学区の生徒の平均(アベレージ)が高いのにも一役買っている強力なモンスター。しかし、ここまでの魔力の波長は早々ない、とレオンは船の端へと向かう。

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

「………なんだ、あれは?」

 

 ケルピーにも似た馬の前下半身と魚の尾を持つ怪物。だが、本来の個体より巨大。それはまだいい。問題は、本来馬の頭がある首から上が人のような形をしている。

 

 腕は鰭で、目や鼻はなく口だけが鳴き声を放つ。それに合わせて他のケルピーが駆けてくる。

 しかし、先程の衝撃は?

 

 と、ケルピーもどき………古代の英雄譚の名前を借りるならイクテュオが両腕のような鰭を広げると海水が浮かび上がる。

 

「ラアアアアアアア!!」

 

 放たれる水の砲撃。レオンは武器を持っていなかったので拳で弾く。

 ()()。海に残る原種だとしても、格段に強い。何より海の上にいるのが厄介だ。Lv.7のレオンだからこそ目視できる距離にいて、攻撃が届かない。

 

 魔導士に………いや、あの威力と発動速度では、教師でも陣形を組まなければ狙い撃ちにされる。まずは合流が先?

 

「ラアアアアアアア!」

 

 と、海面が盛り上がり大量の水が蛇のように襲い掛かってくる。ご丁寧に、陸でも活動できるモンスター付き。

 

 ケルピー以外が戸惑っているのは、あのモンスター達は無理矢理海から引きずり出されたからだろう。まずはあのイクテュオをどうにかしない分には………

 

「レオンせんせー………海上の足はいるか?」

 

 と、何時の間に現れたのかリリスが尋ねる。

 

「片方借りよう」

「りょーかい」

 

 2人揃って船から飛び降りた。

 そのまま海面に激突する。普通ならそのまま潰れるが、どちらも高位の眷族。ダメージはない。

 

「行くぞ」

「頼む」

「「キュイ!」」

 

 海面から顔を出した2人はシャチに乗っていた。背の低いリリスに至っては上に立っている。

 

 水棲モンスターもかくやという速度で泳ぐシハチとモハチ。イクテュオが気付いた瞬間にはもう遅く、レオンの拳が叩き込まれ爆散し、周りに控えていたケルピーもリリスに蹂躙された。

 

 

 

 

「あれをばら撒く必要はあったのか?」

 

 暗い地下で、男は仮面の神に問いかける。質が悪くてもいいからと大量生産させたある物を、この神は地上にばらまいた。

 

 仮にも『彼女』の大切な一部を。

 

「彼の消息が掴めなくなったからね。適当にばらまけば、何処かで当たるだろう」

「そのような適当なやり方で彼女の力を利用しただと!?」

「まあ、落ち着け」

 

 と、神が酒瓶を開ける。その芳香な匂いに、男は仕方ないと己を落ち着かせた。

 

「期待しよう。野に放ったあれらが、馬鹿な邪神が受け取ったあれらが、地上に狂乱(オルギア)をもたらすのを」

 

 


 

 

またお前か

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