ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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終末対論

 海から上がったリリスはプルプル体を振って水を飛ばし、そのまま食堂に向かおうとしてアフロディーテに連れて行かれた。

 

 髪の毛はしっかり手入れしなさいとか聞こえた。やってもらってると言っていたし、おそらく本人はまるで興味ないが美の女神であるアフロディーテは眷族が美容に対してそのような怠惰を貪るのは許せないのだろう。

 

 アフロディーテと共にホカホカと湯気を立てるリリスは手にした魚を調理してもらい、待ってる間残した魚を食っていた。

 

 食事を終えると、リリスが向かったのは図書館。

 

「さすが学区。小国の王立図書館より品揃えが良いわね。これなんて歌劇の国(メイルストラ)でも希少な英雄譚!」

 

 と、アフロディーテがはしゃぐ中リリスは本を適当に選ぶ。

 

「ほらリリス、この英雄譚なんか面白いわよ?」

「それは読んだことある」

「え、リリスって英雄譚読むの?」

「読み聞かされた」

「……………読み聞かされた?」

 

 

 

 

「さあ! 私の美声に酔いしれなさい!」

「どうした急に」

 

 ショートケーキを食いながらアフロディーテの突然の行動に首を傾げるリリス。アフロディーテはそんなリリスをじっと見つめる。

 

「どうかした?」

「さすが私。きちんと可愛くできてるわ!」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 リリスの髪やナチュラルメイクを施したのはアフロディーテだ。満足のいく結果だったらしい。

 

「それより、そろそろそれ取りなさい()()()()。そこの髪が痛んじゃうわよ?」

「…………………」

 

 その言葉に、リリスは角を外した。

 そう、何を隠そうリリス・ヴィナスの正体はリリウス・アーデその人である。

 

 因みに2週間の準備期間中、リリウスの勉強はもちろんだが、愚者にアイテムの依頼も出している。

 リリウスの着ている制服は一見学区の戦闘衣(バトルクロス)だが実際は着用者の魔力と体力を吸い取りステイタスを低下させる呪衣(カースドクローズ)

 

 ただの魔道具だとリリウスの体質に食われるので、マナを通す素材を特定の形に編み込み術式を維持するようにしたとても手間暇かかった特別製だ。

 

「さ、それじゃあ読み聞かせて上げる!」

 

 歌劇の国(メイルストラ)で劇団を持つアフロディーテだ。当然、その語りは当然うまい。が………

 

「下手くそ」

「はあ!?」

「アーディ達のが上手い」

「誰よアーディって…………恋人?」

「? 違うぞ?」

「なんだ、つまらない」

 

 愛を司る女神として眷族の恋バナの1つ2つ知りたかったが、リリウスの態度からして本当にそういうのではないのだろう。

 だが少なくともリリウスの記憶に残る誰かはいるらしい。

 

「………続きは読まないのか?」

「下手なんでしょ?」

「アーディよりはな。だけど、自分で読むのは面倒くさい」

「この我儘ちゃんめ…………」

 

 と文句を言いながらもアフロディーテは再び本を開いた。

 読み進めるとリリウスの寝息が聞こえてきたので、アフロディーテも毛布をめくりベッドに入る。寝息は2つに増えた。

 

 

 

 

 学区には様々な科目が存在する。リリウスは適当に箸を落として決めたが、『終末対論』や『現代史』などはアフロディーテに受けるように勧められた。

 

 昨日殴った奴等も来ている。彼等はどちらかというと、授業を聞きに来たのではなくリリウスを追ってきたような視線だが。

 

 リリウスはそんな事より生徒でもないのに参加してる最後尾席のアフロディーテの視線の方が気になっていた。

 とはいえ何時までも気にするわけにもいかないので授業に意識を戻す。カラコロと飴玉を舐める音が頭の中で響いていた。

 

 魔道具により映し出されるのは燃える街、煙を上げた焼き焦げる村、木々が蹂躙され尽くしたエルフの里、地上に広がる破壊の後。

 

 死の七日間(いつか)のオラリオの一角のように、破壊し尽くされ殺し尽くされた終末(おわり)の光景。

 

「ここ近年『竜の谷』から強大なモンスターが次々降りてきているのは皆も知っての通り」

 

 知らなかった。オラリオの一部冒険者なら知っているかもしれないが、少なくともまだ住んでる住民が知るような噂にはなってない。

 

 外部からの冒険者依頼(クエスト)もあるだろうが、ギルドの方針は基本的にダンジョンに集中させる事。ベヒーモスのような例外中の例外でもない限り、後回しか学区など世界勢力に任せているのだろう。

 

「質問、よろしいでしょうか?」

「なんだね?」

「アドラー先生ではなく、オラリオの冒険者へ」

 

 リリウスは面倒くさそうに視線を向けた。面倒くさがっているが、話は聞いてやるつもりのようだ。

 

「世界の惨状に対して、今のオラリオの在り方は正しいか、どうお考えですか?」

「正しいんじゃねえ? 少なくとも、外で黒竜に挑める英雄を作るにはそれこそ古代、精霊や英雄を以てしても封じる事しか出来なかった怪物を目覚めさせる必要がある。んなことすりゃ冒険者は死ぬし国も幾つか消える」

 

 アンタレスを思い出しながら、リリウスは己の『考え』を教えてやった。

 アンタレスの子供はリリウスがドゥルガーだのスキルだのを隠していたから勝てたのだ。アンタレス本体に階層主以上の力が残っていた事を考えれば、まだ強くする余力はあった。そうなればリリウスは死んでいた。

 

 そんな相手だからこそランクアップ可能になったとも言えるが、例えばこれを【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】にやらせて同じ結果になったかどうか。いや、Lv.7のいない【ロキ・ファミリア】ならば普通に死ぬか。

 

「っ! だから、苦しんでる人達を見捨てろってのか!」

 

 と、ルークが立ち上がり叫ぶ。

 

()()()()も何も、俺はそいつらなんざ()()()()が?」

 

 こうして映された映像も、苦しんだ後のものだし。

 しかしリリウスの言葉に納得していない者がほとんどだ。アドラーは納得してるようだ。

 

 リリウスを一つ下の少女と思い込んで昨日からやたら面倒を見ようとしてくれるハーフエルフの少女はアワアワしてる。

 自称『リリスの親友』の牛は腕を組み理解者面。

 

「こんな、こんな時代になったのはあんたら冒険者が不甲斐ないからだろ!?」

「まあ……そうとも言えるな」

 

 ルークの言葉をリリウスは否定しない。最強の冒険者達(ゼウスとヘラ)の敗北を皮切りに、世界に混沌は訪れた。邪神達は我が世の春を謳歌し混迷する世界を蹂躙したことだろう。

 

 かつての時代より衰えたのは、何もオラリオだけではないはず。それだけ黒竜討伐の失敗の、ゼウスとヘラの敗北の影響は大きい。

 

「ならば、オラリオは深い誠意と早急な対応を───!」

「………………なんで?」

 

 数秒考えた後、サンドイッチを一口食ってからリリウスが吐き出した言葉は純粋な疑問。

 

「────なんて?」

 

 あまりに予想外だったのか、質問者は思わず聞き返した。

 

「誠意を示す必要があるとしたら、それは最強を継いだロキとフレイヤ…………いや………」

 

 リリウスはアルフィアやザルドを思い出し言葉を止める。

 ロキとフレイヤは、譲られた。糧としろと、他でもない最強達に立ちはだかられ。

 

「………いや、だとしてもか」

 

 託されておいてのんびりしてるのは彼等の落ち度。他の派閥に隙を晒せないから、とかいう理由らしいが、なら全員ぶっ殺せばいいのだ。

 

 それだけの凶行を犯そうと、ギルドは【ロキ・ファミリア】に付く。付かざるを得ないのだから。

 

「少なくとも俺は知らん。当時生まれてないか赤子だし」

「っ! なんで、そんな事を言えるんだよ! 今、どれだけ人が泣いてるか知ってるか!? 俺達が来ただけで喜ぶ人達を想像出来るか!? 俺達は冒険者でも何でもない、ただの学生なのに!」

 

 怒りに震えながらもその瞳を宿すのは、悲しみや無力感。己が見てきた救えなかった光景に打ちのめされ、身を震わせる。

 

「世界は英雄(あんた)達をずっと待っているのに!」

「だから知らん」

 

 少年の主張などまるで響かず、リリウスは淡々と返しアフロディーテはアチャーと呆れる。

 

「救う気もない俺に責任を求めるな。知ったこっちゃねえから何もしないのが俺で、救いたいとか喚くくせに何も出来てねえのがお前等だろ」

 

 全てはお前達の無力だと言い切った。

 まあ、アフロディーテもそれが間違いだとは思わない。小判鮫が他の鮫に食い殺されそれを誰かが宿主を責めたところで、ならお前が守ればよかったろとしか言えない。

 

「なら、なんであんたは冒険者になった!? 何のために力を手に入れたんだ!!」

「冒険者になったのは親に酒のために売られたからで、力は生きるため。当時の俺(Lv.4)なんて、明日死んでても大した騒ぎにならねえからな」

 

 教室の空気が固まる。リリウスは教えてやったし、他の質問も来ないからとアドラーに視線を戻す。と……

 

「リリス〜、今日はここまで! 自習にしましょう?」

「は? 受けろと言ったのはお前だろ」

「このあたりの海域、マグロの回遊ルートらしいわよ」

「先生、体調が悪いので帰る………です」

 

 


 

 

なんとリリスちゃんの正体はリリウスだった! 皆気づけたかな?

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