ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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未熟な勇気

 赤黒いオーラを放つ赤竜は、片目でギョロリと周囲を睥睨する。

 

「う、うおおおお!!」

 

 教師が再び剣を振るう。渾身の力を込めた一撃は、赤黒く染まった鱗を切り裂く。

 

「!?」

 

 打撃のつもりで振るった剣だったが、先程は通じなかった斬撃が通じたことに困惑しながらも追撃しようとした教師に向けられる竜の顎(砲口)

 

「ゴアアア!!」

「ぐっ!!」

 

 咄嗟に回避したというのに、吐き出された炎の熱は触れていない教師の肌をチリチリと焼き、空中に逃れた教師を竜の翼の一撃が吹き飛ばす。

 濁流の如き流れる炎は大地を熔かしながら民家を焼いた。

 

 炎の中で無事なのは黒竜の鱗の欠片のみ。それを再び喰らおうと言うのか、重い足取りで近付く赤竜。

 病に冒されたかのように目の焦点は合わず、流した唾液が焼けた大地に触れ蒸発する。

 

「……………!」

 

 止めなくてはと頭では解る。欠片を取り込んだだけで明らかに桁違いに強くなったのだ。残りまで食われた瞬間には、この中で最強の教師に勝ち目はなくなり、つまり此処にいる全員が死ぬ。

 

 解っているのに、動けない。

 成長に合わせた戦場が用意される学区の生徒では立ち会うことの無い『理不尽』を前に、少年の覚悟など容易く砕け散った。

 

「あああ!」

「ギッ!!」

 

 ルークと同じく鱗を食わせる訳にはいかないと判断した教師が竜の尾を掴み、7М(メドル)の巨体を投げ飛ばす。

 

 元々大剣使い………『力』のアビリティに特化した前衛。相手が強化されようと重さが変わる訳では無いのだ。

 

 狙った先には茸を生やしたモンスターの群。凶悪な竜を自らの一部に取り込もうと殺到し、炎に焼かれていく。そのまま潰しあえば倒せないまでも消耗を………そう願うも、それは甘えた考えだと思い知らされる。

 

「カァ────!!」

 

 地面に向かい吐き出された炎が波紋の如く広がりモンスターを焼き尽くす。地面から伸びてきた菌糸の束は、触れた端から剥がれ落ちる。

 

 乗っ取れないのではない。今の赤竜が纏う赤黒いオーラの正体は過ぎたる力に内から砕かれた鱗の破片。菌糸が張り付いた瞬間、再生した鱗に押しのけられた古い鱗と共に剥がされるのだ。

 

「カ──ハァ──!」

 

 破壊と再生を強制され、内から弾けそうな魔力を再生に費やしながらも寿命をものすごい勢いで削っていく赤竜を突き動かすのは、内から響くさらなる力の渇望と、破壊衝動。

 

「──────」

 

 ギョロリと、視線を向けるのは皮肉にも黒竜の鱗に守られていた村人。一番近くにいるのは幼い少女。誰もが脳裏に最悪な光景を思い浮かべる。

 

「くそ!」

 

 まともに攻撃を喰らい、時間稼ぎで呼吸を整えようとしていた教師は動けない。誰も少女を助けられない。

 全員の脳裏に浮かんだ光景のまま、喰われて終わり。下界に満ち溢れた、良くある悲劇。誰が悪いでもない、強いて言うなら、運が悪いありふれた光景。

 

「────!」

 

 ふざけるな! 動け、動けよ!

 

 なんのために学区に入った! なんのために強くなった! なんのために!!

 

 決まってる。泣いている誰かをみたくないからだ。誰かの悲鳴を止めたいからだ!

 

 英雄に憧れた。沢山の人を救う英雄になりたいと思った。

 誰かの涙を止めたかった。今まさに、誰かが泣こうとしてるのに、本能的な恐怖が鎖となって足を縫い留める。

 

 自分は、こんなに弱かったのか。

 自分は、こんなに臆病だったのか。

 

 身の程をわきまえて、強い奴に任せていればよかった………? そうすれば自分についてきてナノがこんな場所に来ることもなかった?

 

 レオンとリリスが戻ってくるまで、視界に映らないようにしていれば………

 

「良い訳、ねぇだろ!!」

 

 吸い込んだ息を全て吐き出すような声量で叫ぶ。唇を血が流れる程噛む。

 

──なら、俺がやる! あんたらがのんびりしてるなら、俺が強くなって、英雄になって! 世界を救ってやる!!

 

──? 最初からそうすればいいだろ、面倒くさいやつだな

 

 今、動かなければ。

 今、逃げれば。

 

 英雄になんてなれない。世界なんて救えない! 怖がってる女の子一人救えないで、英雄なんかになれるか!!

 

 恐怖と本能の鎖を引きちぎり、駆け出すルーク。

 取るに足らない、警戒すらしてなかった人間の行動に赤竜の反応が遅れ、羽の付け根に剣が突き刺さる。

 

 やはり、脆くなっている。深々と突き刺さり肉と血管を引き裂く剣に赤竜が悲鳴を上げ体を振り回す。

 ルークの体が吹き飛ばされ、無理やり動かした体は受け身もとれず地面を転がる。

 

「カロロロ!!」

 

 意識を少女からルークに向け直した赤竜は傷を癒しながら己を傷つけた矮小な存在に怒りの目を向ける。炎ではなく、牙を以って噛み殺そうと迫る。

 

「…………くそ」

 

 赤竜は健在。この後、直ぐにでもまた村人を、学区の生徒を狙うだろう。ルークが出来たことと言えばほんの数秒の時間稼ぎ。

 

「……畜生!!」

「何を悔しがってんだお前?」

 

 だがその数秒は、赤竜を倒せる存在を間に合わせ、確かに一人の少女の命を救った。

 

「!!?」

 

 口内に突き刺さるハルバードの石突。先端の槍が地面に突き刺さりつっかえ棒となり竜の牙からルークを守った。

 

「ほら、俺達が居なくてもお前等が救えば助かるんだよ」

 

 ハルバードから口を離そうとした赤竜だったが、遅い。

 頭蓋に罅が入る程の踵落としを喰らい、後頭部からハルバードの石突が頸椎を砕きながら飛び出す。

 

「カヒュ、カ──!」

「まだ生きてるのか」

 

 片目を動かし敵を睨もうとする赤竜は首を蹴られ、首か吹き飛ぶ。そのまま魔石を引き抜かれ灰へと散った。

 

「で、怪我はねえかよ、えいゆー君?」

 

 風に流れる白い髪が炎に照らされ赤くなりながら振り返るリリス。

 炎に照らされる、男女の境目が曖昧の年頃の顔を軽い化粧で女に近付けた幼女の顔に、ルークは病に冒されたように赤くなった。

 

 


 

 

ちょい出し情報

 

リリウスの剣が治るのはオリンピア

 

Lv.8で目覚める発展アビリティ

『鍛冶』

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