ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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雨の中で

「リリスちゃんは良く食べるわね」

「ん………」

 

 実はこっそりそこらの石とか土とかも食ってるが。だから本来なら食事を分けてもらう必要がないのだが、よそわれた食事を拒む理由もない。

 

 ちゃんと対価として働いているわけだし。

 

 

 

 リリウスが流された川は流れが速く濁り、水草も生えない。どっかで温泉と混ざっているのも原因だろう。生物が住めない川だが、大雨の後何かが流されてくるので様子を見に来たらしい。リリウスはその時に見つかった。

 

 生活水は山を越えた先にある川から汲んでくる。

 リリウスは巨大な壺を片手で運びながら隣山を見つめた。

 

「あの実った山から食料を探さないのか?」

「あそこはなぁ、昔死んだモンスターの死骸に怯えてどんなモンスターも近づかなかったこの辺りを、平然と縄張りにするような強いモンスターが住み着いちまったんだんだって」

 

 山の頂をよく見れば怪物の骨(ドロップアイテム)が見える。骨の形的に、巨大な地竜。黒竜の死体ほどではないが、地上のモンスターならまず近づけないだろう。

 

「住んじまったから、わざわざ端の住みにくい此処に?」

 

 住み着いたモンスターもわざわざ近づかない痩せた土地。だとしても、些か不便な立地だ。

 

「元々は山向に簡単に移動できたんだってよ。ほら、あの土砂崩れの後。あれで道が塞がる前は、もう少し住みやすかったって」

 

 過去形ばかり。この子供も見たわけではないんだろう。しかしなるほど、モンスターが近づけぬ骨の近く。その骨の周囲を住処にしてしまえる程の強いモンスターもわざわざ実った山から不毛の地に訪れる理由もなく、元々は山向の川に簡単に水汲みにいけたなら、まあまあ住みやすい土地だろう。

 

「今じゃ住みにくいがな」

「俺が生まれる前からだしなぁ。不便に感じたことはねえよ」

 

 神の眷族はこんな金にならない村を救わないだろう。オラリオも同様。

 村人達も受け入れ、噂にもしないせいで、無償で助けるであろう【アルテミス・ファミリア】や学区もこの村を見つけない。

 

 

 

 山を越え、水を手に入れる。運が良ければ肉も得られる。今日は運良く猪が居た。

 少年、ロルフが弓で仕留めた。大した腕だ。

 

「今夜は丸焼きか?」

「んなもったいないこと出来るか!」

 

 干し肉にして、或いは塩漬けして日持ちさせるらしい。リリウスは仕方ないかと諦めた。

 

「骨とか牙、毛皮なんかは街に売りに行くんだ」

「その金で香料や塩買うのか」

「ああ!」

 

 後は非常時の時に使えるようためておく。今は妊婦のアマンダがいるので、食料が取れなかった時のために買ってきたり産婆に滞在して貰うために使うらしい。

 

 村の金を………あの村は、支え合って生きているのだろう。

 

「嬢ちゃんも大きくなったらいい男を見つけないとなあ。ロルフなんてどうだい?」

「おっちゃん! 俺はこんなちんちくりん趣味じゃねえ!」

「ああ、無理だ」

 

 バッサリ切り捨てられロルフはうぐ、と言葉に詰まった。おっちゃんは優しく肩を叩いてやる。

 

「まあ、嬢ちゃんも両親のところに戻りたいだろうしなあ」

「両親なら死んでる」

「…………すまん」

 

 何を謝るのか、とは思うが、一般的に家族というのはいないのが寂しいのだったと思い出す。

 

 

 

 

 

「俺も、両親いないんだよ」

「…………?」

 

 ロルフの言葉にリリウスは首を傾げる。父親は半年前に死んでいないが母親は居た。

 

「母さんと、血は繋がってないんだ。赤ん坊の頃、街道で捨てられてた俺を、父さんが拾ってくれて」

「ああ、血は繋がってないのは知ってる」

 

 匂いからして血縁でないことは知っていた。

 

「え、あ………そ、そうか」

「だがお前には母親がいる」

「…………でも、今度生まれるのは血の繋がった本当の子供だ」

 

 不安なのだろう。血の繋がった子供が現れて、自分が愛されなくなるのが。親に愛されたことがないリリウスにはまるで分からぬ感情だ。

 

「………まあ、大丈夫だろ」

「そうか?」

「アマンダはそういうの気にするタイプじゃない」

 

 

 

 

 その翌日、また雨が降った。

 土の性質からして水は溜まらない。畑の土は他所から持ってきた土だから少しは水を吸うが、吸いすぎるのもよくないので今は布を被せてる。

 

「明日、お前とあった河原に行ってみようぜ。また何か流されてくるかも」

「雨が止んだらな」

 

 この雨じゃ川も山も危険だ。まず落ち着いてから。

 と、その時………台所から何かが割れるような音が聞こえた。

 

「母さん!?」

「…………!」

 

 血の匂いと、これは嗅ぎ覚えがない。

 台所に向かうと、アマンダが倒れていた。呼吸が荒く、汗の球が額を流れる。

 

「母さん!? どうした!」

「………産まれそう」

「え!?」

 

 まだ予定には2週間はあったはず。早まった?

 

「お、俺産婆さん連れてくる!」

「外雨だぞ?」

「でも……!」

「駄目、よ………!」

 

 外に飛び出そうとするロルフをアマンダが止める。

 

「貴方も、お父さんみたいに……」

 

 アマンダの夫は、雨の中山を越えようとして死んだ。それでも行こうとするロルフを止めようとするが、立ち上がれない。

 

「…………なら俺が行く」

「え?」

「リリス!?」

「俺は恩恵持ちだ。お前が行くより、よっぽど確実だ」

「でも……」

「駄目よ、そんな!」

「ロルフは村の人呼んでこい」

 

 と、リリウスは家を飛び出した。

 

 

 

 雨に濡れた岩山は滑りやすい。落ちそうになった際、岩を掴むと岩ごと落ちかけた。

 

 水の都ともまた違った環境の悪さ。久方ぶりに息が上がるリリウス。そもそも、ここまでする義理はあるのだろうか?

 

 

──そう。リリスちゃんって言うのね。こんな時期に出会ったのも、何かの縁かしら。じゃあ、この子は男の子だったらリリウスにしようかしら。

 

──なら、女だったら…………■■■■は?

 

──いい名前ね。

 

「………………」

 

 邪魔な岩を蹴り飛ばし再び山を登る。一度登ってしまえば、後は落ちるように降りるだけ。あっという間に降りて、街へ辿り着いた。

 

 

 

 

「馬鹿言うな! こんな雨の中、婆ちゃんを危険な目に遭わせられるか!」

「雨が止むまで待ってくれ!」

 

 産婆の孫や息子達の言葉は当然だ。事実何回か落下した。無事だったのはリリウスのステイタスが高いから。

 

「こん馬鹿たれ! 今まさに生まれそうな命より、儂みたいな老いぼれの命を優先する馬鹿が何処にいる!」

「ば、婆ちゃん!?」

「母さん落ち着けって!」

「…………………」

「嬢ちゃんも、この雨だ。まず温まって…………あれ?」

 

 このままでは産婆が無理についてきそうなので、リリウスはその場から離れる。

 

 でも、じゃあ、どうする?

 初産どころか、そもそも出産に関する知識なんて修めてない。こんな事なら、学区でそちらの本を少しでも読んでいれば………!

 

「あら、どうしたの?」

 

 不意に聞こえた声に顔を上げるリリウス。曇天、大雨の中でも輝く金色が見えた。

 

「……………………」

「何か迷っているの? 答えが見つからない、迷子のような顔をしてるわ。神の全知を分けてあげましょうか?」

 

 そう言って、女神は微笑んだ。

 

「頼む、アフロディーテ。教えてくれ」

 

 


 

 

こんな余裕の笑みを浮かべているが、実は目茶苦茶探し回っていた

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