ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
成長すると世界の見え方が変わる。
それは体が大きくなるからとか、そういう理由ではない。知識が増える、も少し足らない。
精神的に、世界が切り替わるからといっても良い。自己の世界が外の世界を見つめ始める。精神的な成長。
リリウスは、皮肉なことにあれだけ強くなっておきながら漸く幼年期を脱したと言っても良い。
「……………」
なまじ知識も肉体も成長していたゆえに、その精神の成長に追いつけていないリリウスは時折ボーっとする。
熱した鉄を金鋏を使わず鍛冶をしてたり、『
とはいえリリウスだ。数日もすれば慣れる。
心配していたアフロディーテも、今では今まで通り一緒に風呂に入って一緒に寝る。
他に大きな変化と言えば、シハチとモハチがランクアップしたぐらいか。
アクア・サーペント数匹と融合した精霊の分身体、スキュラをリリウスとレオンと共に倒し、Lv.2になった。ちなみに高品質の『宝玉』を買っていたのは国だ。
何時だったか、幼女が言っていた人間同士で争う疑問を思い出す。そう言えば、あれは結局モンスターがどうこうで話がそれて、答えられてないな。
戦争を見た。
何処ぞの愉快神の
貴族共が腐った国を革新しようとした王妃を、異国の姫というだけで信じず炊き出しで生きていた民衆が
まあ学区が逃がしたけど。
先導者もただ祭り上げられた愚か者。直ぐにでもあの国は滅びて隣国の1地方に変わるだろう。
なんで争うのか………きっと、満たされないんだろう。だから他人から奪おうとする。そんな人間はきっと醜くて、かつてリリウスが嫌った『世界』そのもの。
でも少し目を向ければ、そうじゃない人間もいたな。
属国の子供が使い捨ての兵士にされる中、子供達を守ろうとした指揮官。
神の言葉に踊らされる者達の目を覚まさせ革命を止めた貴族。
故郷を同じくする王妃のために地位を捨てた騎士。
あれはリリウスが嫌う世界にはいなかった人間だ。
「リリスちゃんの好みの異性って、どんな人ですか?」
と、唐突にナノが尋ねてきた。
「好みの異性?」
なんで答えなくちゃならねえと、訝しみながらジャガ丸くんグランデチョコレートチップエクストラコーヒーミルクキャラメルフラペチーノウィズチョコレートソーストッピングトリプルを食うリリウス。
「き、気になるんです」
リリウスは面倒くさいと感じつつも奢られたので、と考える。好み、良く解らないが………一緒に居てもいいかと思える異性。
薬くれる心配性な女、英雄譚が好きな女、高慢な魔女………取り敢えず浮かんだ3人の共通点………。
「灰色に近い髪の──」
「!?」
「っ!」
ナノが涙目になり、聞き耳を立てていたルークが勢いよく振り向き………。
「──似合う女」
「「「…………女?」」」
周りの反応に首を傾げるリリウス。そう言えば、今の自分は女装しているのだった。
「リ、リリスちゃん、お、女の子が好きなんですか?」
「………まあ」
誤魔化すのも面倒なので、良いかと弁明をしないことにしたリリウス。神々の言う『ユリ』とか『ジーエル』とか、そういう事にしておこう。
「えっと、じゃあ………わ、私なんかも?」
恐る恐る尋ねてくるナノを見る。気弱な性格ながら何時も他人を気にして、行方不明になっていたリリウスが戻ってくれば飛びついてワンワン泣き喚いた少女。
「まあ、なしではない」
「だ、だめ! 私、好きな男の子いるもん!」
「なしじゃないだけだ」
一緒にいてもいいが、一緒に居たいと思うわけではない。と言うか何だっていきなりこんな話を………近々行われる聖夜祭が関係しているのだろうか?
精霊もどきのせいで進路を変更しながら、漸く落ち着いてきた学区が次に訪れる場所は山と海に挟まれた都市サンニコラ。聖夜祭には特に力を入れる国の一つらしい。後は山が近くにあるだけあり、スキーが盛ん。
そう言えば、聖夜祭でサンニコラの
ナノはルークを誘いたいのだろう。だから誰かがルークを誘わないか様子見に来たというところか。
「リリスちゃん、私と回らない?」
「いいえ私と!」
「私でも良いわよ?」
「アフロディーテと回る」
「私と? まあ良いけど、誘いたい女の子は居ないの?」
「? アフロディーテ」
「…………いい子!」
と、リリウスを抱きしめ頭を撫でるアフロディーテ。リリウスの今の言葉は、主神冥利に尽きる。
レオン含めた一部の教師と生徒が船に残り、多くの生徒が街に降りる。世界勢力の中でも特に人気な学区の来訪に聖夜祭も相まって、街が大いに盛り上がっている。
アフロディーテが犬ぞり大会に勝手に参加しようとしたが、シャバラとシュヤーマはずるいから、と拒否。
仕方なくレンタルした犬で走ったアフロディーテはカーブで雪に突っ込んだ。
多くの神や眷族も訪れ、雪合戦という大会も開かれた。名が売れる学区に嫉妬した眷族達とも戦うことになったが、リリウスがぶん投げた雪玉が雪壁を吹き飛ばしたのを見て棄権した。
因みに理屈は摩擦熱で蒸発した雪玉が膨張したからとか実況の神が言ってたが、んな理由ねえだろとリリウスは思った。
「次はスキー大会よ! リリスの優勝間違いなしなんだから!」
「体重が軽いと加速に不利では?」
と、リリウス。アフロディーテは「私を背負う?」と言ってきたが、犬ぞりで盛大に吹っ飛んだ理由がアフロディーテの体重移動の下手さだったのを知っているリリウスは当然拒否。
「あ………」
「ん?」
会場に向かっているとルークとあった。以前のルークなら、こんな風に遊んでいるなんて、と学区に籠もって鍛錬でもしていただろうが、少しは余裕が出てきたらしい。
「なあ、その………俺が勝ったら………前夜祭、一緒に回らないか?」
「? アフロディーテと回るから良い」
「あらこの子ったら」
嬉しいこと言ってくれるわね、と頭を撫でるアフロディーテ。
「まあ、4日もあるんだし1日ぐらい友達と回るのもありだと思うけど」
「友達と………」
「…………っ!」
「ニイナ誘うか」
「あら………」
ルークはガクリと項垂れた。
スキー会場に向かう道中、リリウスは周囲に人目が無いのを確認する。
「ドゥルガー」
その言葉と共にドゥルガーが現れる。ただしその姿は腕が2本で目も2つ。学区の制服を着て、まるで人間の少女のよう。彼女の大元である神も神威を消し人に化けるのが上手かったらしく、ドゥルガーも精霊の気配も隠している。
「妾は寒いのは好かぬのだがな。まあこうして主様と歩めるのなら、我慢はするが」
腕を絡め、肩に頭を乗せるドゥルガー。リリウスに精霊として力を貸し、デーヴァ神族の戦神の分け身として武術を授けているし、何ならデートしろと学区を回っているがそれはそれなのだろう。
「お前もスキーやるか?」
「やらん。主様の活躍を観ている」
「そうか」
「スキー?」
「「!?」」
不意に聞こえてきた声に振り返るリリウスとドゥルガー。人が居ないことは確認したはず。近づいてきたらなら気付くはず。
こういうの前にもあった。確か、ドゥルガーの時と同じ。
だが、振り返った先にいるのは人間の少女。精霊の気配はない。ドゥルガーも隠せるが、精霊の契約者にしか解らない隠した違和感というものがあるはず。
じゃあ、接近を感じ取らせなかったこの女は何だ?
「スキー! 私もやりたい!」
「…………はあ?」
雪のように白い髪、山の緑のような深緑の瞳をした少女は目を輝かせ近付いてきた。
「スキー! するんでしょ?」
「ああ、まあ…………それより、お前は何者だ?」
「? 私…………私は……私は…………スカディ! それが私の名前だ! 多分………」
「…………多分?」
「私はスカディだけど、何処で生まれて、ここで何をしていたんだ?」
どうやら、目の前の少女は記憶がないらしい。