ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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少女スカディ

「それで、スキーは何処でやる?」

 

 記憶喪失のくせに、スキーをやりたいらしい。リリウスとドゥルガーは顔を見合わせる。

 どうするべきか?

 

 記憶喪失を差し引いても、リリウスの探知をすり抜ける女だ。厄介ごとの匂いしかしない。いや、彼女からするのは雪と、山の香り?

 

「早く、行こう!」

「………………」

 

 面倒だからとりあえずスキー会場につれていくことにした。

 ドゥルガーは観客席。後で合流する。

 リリウスが優勝すれば聖夜祭屋台限定の食事券が手に入る。

 

 因みに、神の眷族が多く参加する為一般の部と眷族の部で分かれている。

 

 

 ルートは自由。ゴールにさえたどり着ければ良い。

 整地された遠回りの安全コースもあれば、木々が生え岩が飛び出した危険な近道も存在する。

 

 因みに妨害あり。常人離れした神の眷族の妨害は、毎年怪我人を出す。

 

「それでは、スタート!」

 

 パン、と火薬が破裂する音が響くと同時に滑り出す一同。リリウスは安全コースを抜け、ほぼ真っ直ぐなルートを選ぶ。

 

 と、学区の生徒を警戒したのか数人の眷族が追ってくる。

 中には平行詠唱を行える猛者までいる。

 

「……………」

 

 まあ、あくまでオラリオの外にしては、だ。いや、オラリオでも並行詠唱は高等技術扱いだが、それでも無限に湧くモンスターを相手にするオラリオの魔導師に比べ遅い。

 

 少し雪をかき上げ集中を乱してやればあっさり転び魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を引き起こし他の選手も巻き込む。

 

 リリウスは並外れた身体能力と五感を駆使して木々の隙間から最適なルートを瞬時に選別し進んでいく。このまま独走…………

 

「…………!」

 

 風に巻き込まれほとんど聞こえないが、背後から音が聞こえる。距離もドンドン近付いてくる。

 更に聞こえた風切り音に、リリウスはストックを振るう。

 

 鏃が潰された矢だ。生地の隙間を縫いながら、リリウスを正確に狙っていた。

 

「お前は……!」

 

 リリウスに迫るのは、弓を構えたスカディ。

 なんで眷族の部で参加してるんだあの女。記憶喪失になって、常識も失ったか?

 

 しかしスキーが目茶苦茶上手い。

 体重移動、ルートの選別………最適解を選んでいたと確信していたリリウスだったが、思い上がりであったと思い知らされる。

 

「………!」

 

 と、前方から魔力の気配。先を越された? ありえない。なら、妨害目的で事前に潜んでいたか。

 

「今だ!」

「……チッ」

 

 一斉に魔法を放つ。背後にはスカディ。動きこそ一流以上だが、神の恩恵は得ていない彼女が神の恩恵受けている前提の攻撃を喰らうのはまずいだろう。

 

 あと単純に死ななきゃ大怪我してもいいと思ってる奴等は、大怪我させてもいいだろうから、リリウスは氷の槍を生み出し放つ。

 

 ほんの僅かな減速。されど確かな減速………スカディがリリウスを追い抜いた。

 

「………マジか」

 

 距離が詰められない。寧ろ離されていく。

 林を抜け、最後の直線。スカディとリリウス、たった二人の一騎打ち。

 

 ここまで早く来ると思っていなかったのか観客席から歓声より先に戸惑いの声が聞こえた。

 

 

 

 

「…………山の女神(スカジ)? いえ、若い?」

「ふむ、やはり? にしては気配が希薄だが」

 

 リリウスと共に現れた少女の姿にアフロディーテは眉を寄せた。その姿が、美の女神でもないのに数多の神々を魅了し『神々(おれたち)の花嫁』とまで言われたなんかムカつく女神に似ていたからだ。

 

 だが、容姿はあの女神より若い。神の似姿………それが意味することは……と、ドゥルガーを見ればドゥルガーも首を傾げる。

 

「いっけー! リリスちゃ〜ん!」

 

 と、リリウスの友人であるニイナが叫ぶのを聞いて、アフロディーテ達も一先ずリリウスの応援をすることにした。

 

 

 

 呪衣(カースドクローズ)でステイタスが大幅に低下しているとはいえ、それでも並外れたステイタスを持つリリウスがストックで己を押し出しても追いつけなかった。

 

 ゴールが近付き、傾斜が緩やかになり漸く距離が縮み始める

 

 結果は………

 

 

 

「惜しかったわねリリス」

 

 同着。商品の食事券は一位と2位の分を分割して2人に配られた。

 優勝を逃したリリウスをアフロディーテがよしよしと頭を撫でる。されるがままのリリウスを見てニイナも手を伸ばしてみるがはたき落とされた。

 

「そうだニイナ、明日祭りを回ろう」

「うん。いいよ。でも、男の子誘ったりしないの?」

「男?」

「ルークさんとか………」

「…………なんで?」

 

 ニイナは此処に居ないルークを憐れんだ。

 まあ、初対面でつっかかったのはルークの方だけど。と、その時……

 

「リリス!」

「スカディ………?」

 

 スカディが駆け寄ってきた。

 

「あなた、凄く滑るの上手いね!」

「そうか?」

「私にあそこまで迫れる人、初めて!」

「………記憶喪失だろ」

「…………そうだった!」

 

 天然? 記憶喪失よりスキーを優先したりと、本当にスキーが好きなようだ。

 

「記憶喪失ねぇ………」

「…………?」

 

 アフロディーテがスカディを眺め、スカディはその視線に首を傾げる。

 

「何か知ってるのか?」

「知らないわよ。そんな娘………それより屋台を回りましょう?」

 

 

 

 冬の祭りだけあり、やはり温かい食事が多い。

 美の女神、神の似姿、高貴なエルフの血を引くハーフエルフ、元々整っている顔立ちに、美の女神による化粧がされた者。

 

 道行く人々の視線を集める。2匹の大型の犬を連れていても、力に自慢のある神の眷族がやってきては吠え立てられ、神が絡んではアフロディーテに追い払われる。

 

「スカディちゃん、本当に何も覚えてないの?」

「うん。なんにも…………スキーは大好きだよ。弓も!」

「弓の腕は【アルテミス・ファミリア】の連中にも引けを取らない」

 

 どころか、あるいは狩猟の女神(アルテミス)に匹敵するとまではいかなくとも、迫る腕を持っている。

 

「私は槍投げのほうが得意だけど」

「そうなのか」

 

 などと会話していふと、大通りに出た。ちょうど仮装した一団が通る。その中に、明らかに不気味な仮装があった。

 

 怒ったように歯をむき出しにした、角を生やした異形の怪物。この世界で怪物の仮装などとても珍しい。

 収穫祭などでは、その昔モンスターに荒らされないようにという祈願を込めてモンスターの仮装をする事もあるが、聖夜祭ではまず見ない。

 

 サンニコラで伝わる風習らしい。確か、クランプス。

 聖夜祭では良い子にプレゼントが配られるが、サンニコラでは悪い子の下にはクランプスがやってきてお仕置きをするのだとか。

 

 具体的には釣り針のように曲がった鋭い鉤爪で悪い子を掴み地獄の穴……つまりダンジョンに落とすのだとか。厳しいを通り過ぎていないだろうか?

 

「クランプスクランプス♪ 怒りん坊のクランプス♪ 悪い子逃げろ、森の端まで♪」

 

 と、子供が歌いながらかけていく。悪い子だけを狙う怪物などまずあり得ないが、何だってそんな伝承が残るのか。

 

 怒りん坊………怒ったような顔が、聖夜祭の伝承と混ざり変質したのか。

 

「……………………」

「スカディちゃん?」

 

 街を歩くクランプスの仮装をした者達を見てスカディは怯えるようにニイナの背後に隠れた、お姉さんぶりたいニイナはキュンとしていた。

 

 

 

 

 サンニコラの直ぐ側にある山脈の、通る洞窟。

 ガリガリと硬い何かを噛み砕く音が響く。それを眺めるのは、神の眷族と彼等の主神。

 

「ひひ。すげぇなぁ〜、これ、何処の神が送ったか知らねえがよぉ、精霊がこんなんなっちまってよ」

「俺にもわかるぜ、すげえ魔力だ」

「最強の魔法種族(マジックユーザー)だからな。素体も、俺達以上のを集められたのはいねぇだろ」

 

 邪神は嘲笑う。育っていくそれを見ながら、それが振りまく災禍を想像して。

 

「明後日には間に合わせろよ。この下界に、最高の聖夜の贈り物(プレゼント)をやらねえとなあ」

 

 そんな神に仕える眷族達もまた、そんな未来を想像して嗤う者達。小指の爪ほどしかない魔石からオラリオの魔石製品の魔石まで『彼女』に与えていく。

 

「おい、もっと薪燃やせ。寒くて仕方ねえ」

「へいへい………つか、本当に寒いな」

 

 先程までは空気のこもった洞窟内は、外に比べ暖かった。だが、急に冷えたような。

 

「おお、なんか…………変だぞ?」

「ああ? 何が………」

「あ、あれ…………」

 

 

 

 

 悪い子悪い子♪ すぐ逃げろ♪

 クランプスがやってくる♪ 地獄の蓋は、もうないぞ♪

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