ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
リリウスは向かってくる氷獣を蹴りつける。途端に、足が凍りついた。
冷気を纏い、触れれば凍てつく近接厳禁の生粋の戦士殺し。
「知ったことか」
リリウスは凍りついた足で氷獣を蹴りつける。
氷同士がぶつかり、どちらも砕けた。氷獣の纏う冷気では、リリウスの表面を凍らせるのが精々だ。
とは言えそれはリリウスが規格外だから。街中から聞こえる悲鳴は、寧ろ劣勢。強さ的にはLv.2から3程度だが、触れたら凍る………なら触れなきゃいいだけ。
「氷の化け物に触れるな! 凍りつくぞ! 魔導師、魔法を放て! 前衛はそこらの棒で殴り飛ばせ!!」
シャバラが目を回しかける声量で響く声に、学区の生徒、教員はもちろん訪れていた神の眷族の一部も直ぐに対応を変える。
『オオオオ!!』
市壁の奥の雪から、大型の氷獣が作られる。民家を越える怪物の登場に多くの者が絶望に染まりかける中、リリウスは一刀で破壊した。
子供のような体躯で、怪物を討つ。そのまま街を一瞥だけして再び氷獣に向かう。
神の眷族達はその姿に『勇気』を貰う。
図らずともそれはリリウスがあまり好かない『勇者』の鼓舞と重なった。
「…………山の雪だけか」
他の雪を混ぜて体を作る、なんて理不尽さはない。事前に魔力を混ぜていた雪だけ。本体はやはり山の中か。
無限ではなく有限なら、やりようはある。
「きゃあああ!」
「ニイナ!」
「………っ! わ、私だって今は『戦技学科』なんだ!」
と、ニイナは元同じ学科の『教養学科』の生徒達を守ろうとしていた。リリウスは氷獣を踏み砕く。
足が凍りつくが、気にしない。
「レオン!」
「先生を付けなさい」
と、レオンが氷獣を切り裂きながら現れる。近接厳禁の凍てつく怪物を、近接で相手している。方法は単純で、凍りつく前に切り捨てる。
「その手があったか………まあ良い。取り敢えずこれ以上の増加を食い止める。市壁の奴等を避難させておけ…………あ。です」
と、リリウスは建物の上を駆け上がる。
「シャバラ! スカディを避難所に運べ!」
「バウ!!」
リリウスが目指したのは海。夜闇に溶け込んだ漆黒の海へと飛び込む。
シハチとモハチがよってくる。
リリウスはシハチの背に乗り、紡がれるは詠唱。
「【瓶を割れ、池を飲め、川を崩し、大海へと至れ】」
シハチとモハチのスキル【
シハチは『魔力』も共有する。
「【大陸を覆え、新なる始祖を背に、全てを呑み込め】」
「【ヴィシュヴァールーパ・マツヤ】」
瞬間、
そうとしか形容できない。
海水で出来た巨大な魚………尾鰭の向きからしてシャチ。
津波の如く、地上へ乗り出す。
街を越え、未だ氷獣が生まれる市壁の向こう側へと。
『『『─────!!』』』
自らが放つ冷気で凍らせた海水が、そのまま自身を拘束する。魔力の混じった海水は込められた魔力も拡散させ、やがて完全に動かなくなる。
後は残った氷獣だけだ。
「…………あれもう、戦略兵器の勢いね」
その光景を見ながらアフロディーテは呟く。
まだまだ余力もありそうだし、下手したら海の国は一匹と一人で滅ぼしてしまうのでは?
まあ、アフロディーテが消したい炎は水ごときでは消えないが。
「一先ず、落ち着いたか……」
と、リリウスは最後の氷獣を炎で溶かす。魔石のない氷獣だが、糸のように張り巡らされた魔力の流れを絶たれるか氷そのものが形を保てなくなると倒せるようだ。
「あれは魔法だな」
学区の教師達と、各ファミリアの代表が集まり話す中、リリウスが氷獣の正体について断言する。
「さっき俺とシハチがやったのを見たろ? 水で生き物を象る…………あれの氷版」
「あの規模の魔法が可能の敵ということか?」
「まあ、精霊だろ。これまでと強さの桁が違うが」
と、リリウスがあっさりいうとエルフ達が顔を赤くして叫びだす。
「精霊だと!? ふざけるな!」
「何を根拠にそのようなことを!」
「経験則」
「はっ! 語るに落ちたな、薄汚い小娘が、何処で精霊を見るというのだ!」
「家畜臭い羊風情が、獣らしく知能も低いらしい」
「薄汚い口を閉ざせ。私が教育してやる!」
偏見、侮蔑。エルフらしいエルフ達の態度に、リリウスは一番強い奴の顔面を拳で殴る。鼻の骨が折れ、頭蓋陥没。小さな拳が僅かに埋まり、内圧でエルフの長い耳から血が噴き出す。
「き、貴様!」
「よくも!」
「実力も解らず、話も聞かねえ。邪魔だな……」
取り敢えず全員殺すか、とリリウスが指を鳴らしレオンが止めようとした瞬間……
「やめなさい」
と、場の空気が一瞬で支配された。
見目麗しいエルフですら及ばぬ美を持つ女神。アフロディーテがスカディを抱えて現れた。
「ッ! た、たとえ女神であろうとも、止めないで頂きたい!」
「その小娘は我等が隣人たる精霊を侮辱した!」
「隣人? あんたら、精霊見たことあるの?」
精霊が住む森は、そこら中にあるわけではない。そうでなければ、エルフの森を散々焼いていたとある魔剣はもっと早く精霊に呪われていただろう。
精霊の住まう森を燃やすまで呪われず、その間に多くの里が焼き尽くされたのは、つまりそこに精霊はいなかった。
多くのエルフは、精霊の隣人を名乗りながらも精霊を見たことなどないのだ。
「それに、その子は大精霊との契約者よ?」
「それ言っていいのか?」
「隠しておくよりマシでしょ?」
と、リリウスの体からドゥルガーが現れる。教師の中でも知っていたのはレオンだけなので、レオンとアフロディーテ以外がその光景に目を疑う。
だが神の分身たる精霊は、前にすれば自ずと解る。ましてやそれが、大精霊ともなれば。
「せ、精霊様!」
と、エルフが跪き、その中の一人が声を上げる。
「世界の救済のお役目、どうぞ私をお使いください!」
「…………なんじゃ?」
「私はいずれオラリオに赴き、リヴェリア様の御力に、世界救済のご助力になるために今日まで経験を積んできました! 必ずや、貴方の御力を使いこなしてみせましょう!」
「いやじゃ。妾、お前等嫌い」
「……………は?」
エルフは何を言われたか解らないというように呆けた。精霊の隣人を自称する彼等にとって、それは予想外の言葉だったのだろう。
「あの時代、恐れ怯え、森に引き籠もった種族が今更世界を救うなど、笑い話にもならん」
「ドゥルガー、それは過去のエルフだろ」
「だがこいつ等は、そんな過去のエルフこそ誇りにしておる」
「まあ、そうか」
エルフの英雄は少ない。何せかつての時代エルフは森に結界を張り、世界を救うために動くこともせず引きこもっていたのだから。
例えば記される最初の大穴侵攻、フィアナ騎士団最後の戦いにおいては本当に最後の方に少し登場したぐらいで、英雄を語るのが仕事の吟遊詩人のエルフ、ウィーシェでさえ、他種族の物語を多く残すほど。
因みにそのウィーシェは森を飛び出せと言い残したらしい。
「里を出たハイエルフを信仰するくせに、里も出ないとか意味わからんしー」
「まあ、血を残すには隠れていたほうがいいだろ」
「そんな臆病者が王の種族に仕えるなんて妾嫌じゃー」
「勇気のあるエルフもいるぞ?」
リューとかリヴェリアとかセルティとかハーフだがニイナとか。
「こいつ等だって里を飛び出しモンスターと戦ってる」
「では主様、此奴等に勇気があると思うか?」
「思わねえな」
あるのは他の種族でも戦えるのだから自分達も戦えるはずという高慢。見下す為にやる以前に、見下しているから出来る。
「まあ今はエルフなんてどうでもいい。それより件の精霊だ」
と、リリウスは話を切り替える。これ以上エルフと言い合いをするのは時間を無駄にするだけと判断したからだ。
「その精霊から、言いたいことがあるそうよ」
アフロディーテのその言葉に、スカディが青白い顔を向ける。
「貴方達が、氷獣と呼ぶのは、私の力…………アルスワイス」
「お前の?」
「…………私は、精霊。精霊スカディ………山の女神スカジが地上に送った、古の大精霊………その残り」
「………残り?」
「かつてクランプスを討とうとして、果たせず、千年の時を経てクランプスに食べられた、精霊の残り………」
スカディの足元から冷気が溢れ、霜が張っていく。さながら氷獣達のように。
「誰かがクランプスを精霊と融合させようとした。でも、大怪物であるクランプスの意識は、たとえ大精霊でも奪えない。クランプスに
その結果、クランプスはまず己を千年に渡り封じる精霊の力を食い始めた。
「この体も、
あの氷の城は、中の物を外に出さぬ為の封印だったようだ。
「クランプスを討伐できず、逆に利用されるような始末。本体も力の大半も奪われておいて、恥を承知で貴方達に依頼する。私ごとでも構わない、クランプスを、今度こそ討伐して」
先の氷獣ですら、力の一端。そんな大精霊ですら殺し切れなかった古の怪物の討伐依頼。誰もが言葉を失う中、リリウスはスカディに尋ねる。
「お前ごとって事は、お前はまだ残っているのか?」
「? えっと、
「そうか。じゃあ、断る」
「え!?」
「クランプスをぶっ殺して、お前を
「約束?」
「妹に会うのと、本当の花畑を見に行く………忘れたのか?」
「…………あ」
確かに、約束していた。だけど、こんな状況になるとは思っていなかった。
リリウスは徐ろに角を外す。
「まあ、取り敢えず頼れ。俺とレオン………