ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「「「───!!」」」
「………スカディ?」
氷の門が閉じ、リリウスがスカディに尋ねる。スカディは顔を歪める。
「乗っ取られている!」
パキパキと音を立て、城の壁から黒い氷獣が現れる。
『カアアア』
『コロロ』
離れていても冷気を感じる、纏わりつかれれば即死級の冷気。
「撃て」
だからこそ、エルフの同行を許した面もあるのだが。
放たれた魔法が氷獣へと殺到する。とはいえ、この巨大な城全てが襲いかかってくるとなると…………いや、一部か?
『カアアアア!!』
「ッ!!」
「チッ」
床から現れた氷獣がスカディに襲いかかり、リリウスが踏みつける。黒い氷がリリウスの足を覆う。
「っ!!」
ディース姉妹やヴァレッタの拷問で痛みに耐性がついたリリウスでさえ、顔を顰める激痛。
直ぐ様砕く。皮膚の一部の細胞が凍結して死んだ。
「リリウス………」
「あ?」
「私を守る必要はないよ」
「…………ああ?」
「この私は分身だし、門がクランプスに乗っ取られていた以上、もう出来ることはないし」
「…………お前、意識をその体に移したつってたな? その体が砕けたらどうなる?」
「………………」
リリウスが学区で手にした知識の中に、本来閲覧禁止の禁書の中に殺生石という悍ましい道具が出てくる。
ある種族の魂を石の中に移し、その力を他者に与える。砕いても使えるそうだ。そして、砕けた魂は元には戻らない。なら、精神は?
無言のスカディが答えだろう。シャバラかシュヤーマ連れてくるべきだったか。
カシャンと、氷と氷がぶつかる音が聞こえた。
「────!」
首のない人型の氷像。その構えに、リリウスの脳裏に過るのは──
「っ!! これは、
氷像が放ったのは極東の居合い切り。リリウスの頬を裂く。まともに当たっていたら、この程度では済まなかった。
血は出ず、凍りついた傷口に塩や酢を塗り込んだ何倍もの痛みが広がる。
「…………何だこいつ等?」
次々現れるのは
これもアルスワイスなのだろうが………。
『────!!』
槍使いが放った刺突を剣で逸らす。速い………。
「此奴等、過去の英雄か………!」
恐らくはクランプスに挑み敗れ、逃げたか死んだ古代の英雄達の複製品。オリジナルに迫るかどうかは知らないが、ただ世界を殺す怪物の記憶にも残るだけの実力を持っていた古き英傑達の再現体…………凍影体。
「ぐっ!!」
障壁魔法の隙間を掻い潜り凍影体がエルフに迫る。
杖を弾き、肩に触れる。
「っ!? ぎぃあああああああああああ!!」
同族の苦痛に喘ぐ悲鳴ほど、恐怖を伝えるものはない。その悲鳴に、魔力の制御が乱れる。障壁が消え去り、エルフの下へ殺到する凍影体。
エルフの戦士が水を
「………!」
余計な冷気を漏らさない、これまでとは質の違うアルスワイス。
凍影体が持つ短剣が迫り………
「ドゥルガー!」
「アグニ!」
火炎が辺りを飲み込む。何体かは距離を取った。
低く見積もってもLv.4………高く見積もれば6にも迫るのが交じってる。
神の恩恵もない古代の英雄の複製体………それをこの数。精霊の魔法と世界を滅ぼすための力ある古代の怪物の魔力が、最悪の形で噛み合っている。
「スカディ、門以外は開けるか?」
「…………少し魔力を使うけど」
「ならエルフ共を外に逃がせ。氷獣だけならともかく、あれがでてくるなら此奴等は邪魔だ」
「な!?」
「貴様!」
と、食いかかろうとしてきたエルフに対してリリウスは剣を振るう。床と壁に線が走るように切り裂かれた。
「戦えるならついてこい。戦えねえなら失せろ。時間稼ぎにもならねえ雑魚が意地だけで残っても、気が散るんだよ」
「っ! 生意気な
「
なおも文句を言おうとしたエルフは、その呼び方を聞いて言葉に詰まった。リリウスが精霊の契約者であると再び意識したのだろう。
「ご武運を」
「ああ。じゃあスカディ、行って来い」
「でも………!」
「出来ることをやりにいけ」
「スカディ様…………」
リリウスは直ぐ様凍影体に向かって走り去る。スカディはその背中を見つめ、しかし踵を返しエルフ達を連れその場から去った。
凍影体。
古代の戦士の動きを投影するアルスワイス。しかも触れれば激痛の
古代の怪物を封じるための城は、さすがにリリウスでも壊しきれない。クランプスとの戦いも待つ中、力を消費するわけには行かない。
『──────』
「………あ?」
元々谷があったのか、大地が見えそこの見えない割れ目とそこにかかった橋を通ろうとして、新たに現れたのはかなり小柄な凍影体。目立つ武器は持っていない。と、床に手を付けた瞬間、リリウスがドゥルガーに作らせたものと同じ形の剣を生み出す。
「っ!!」
リリウスの凍影体。
力も速さもリリウスより下だが、この環境はリリウスの敵。
剣を打ち合い、吹き飛ばし追撃をしようとしたリリウスに対して、床から生えた無数の氷柱が邪魔をする。
リリウスが氷柱を切り裂き、その隙を狙い斬り掛かってきた凍影体の剣を受け止める。
「っ!」
斬り飛ばされた氷柱が蛇のような形に変わりリリウスの首に巻き付く。一瞬の硬直で剣を弾き飛ばされ、凍影体の斬撃がリリウスを切り裂いた。
「っ! くそ………」
蛇を握り砕き喰らう。魔法の一部だ、大した回復効果にはならない。対してリリウスの凍影体は周囲の氷を利用して欠損箇所を修復していく。おまけに………
カツン、コツンと音を立て現れる凍影体の群。何ならリリウスの凍影体も何体か交じっている。首のない氷像の群は、見るものに寄っては恐怖を煽るだろう。
「ドゥルガー………焼き尽くすぞ」
炎が周囲を包み込む。生き物など容易く灰に変え、氷河を溶かす煉獄の炎。
その炎を突き破り、リリウスの凍影体が襲いかかってくる。
「っ!!」
触れ合った剣に霜が走る。高温の炎すら中和する冷気を纏う凍影体。当然、一体だけではない。
全てではないが、燃え移るものなく消えていく炎の中から現れる凍影体の群。リリウスが忌々しげに睨む。と…………
「…………は?」
白い吹雪が、辺りを覆った。氷像すら凍らせる、極寒の吹雪。
それが可能なのは………。
「スカディ!?」
「…………………」
大精霊の欠片、スカディ。内在魔力を使いすぎたのか、右腕が色を失いひび割れている。
「なんで戻ってきた!?」
「エルフの人が、貴方を助けろって…………」
「……なんだと?」
「守る為に振るわれる力なら、相応しき場所で使われるべきって………」
「だとしても…………」
「私は、貴方の助けになりたい!」
ムッ、とドゥルガーが顔を顰める。精霊として、契約者の力になりたいという精霊は受け入れがたいのだろう。
「………その腕は魔力を使った影響か?」
「…………………」
「一度だ………」
「?」
「一度だけ手伝わせてやる。ただ、残り全部の魔力を使い切るなよ。此処ぞという時に使え」
「……………うん」
なら行くぞ、とリリウスは歩き出そうとした、その時だった。リリウスとドゥルガーが顔を上げる。
「キョホホホホホホ!!」
湿地帯の猿のような独特の鳴き声と共に、天井を砕きながら巨大な影が現れた。
鋭い牙の生えた釣り上がった口に、歪んだ三日月の様な紫の瞳。
「キャキャキャホホホホ!!」
嘲笑うかのような容貌に、鳴き声。
山羊のような角を持ったその怪物の、名を尋ねるまでもなく理解する。
「……クランプス!」
地上のモンスターを乗っ取る形で復活したベヒーモスや、力の大半を切り分けていたアンタレスとも違う。正真正銘の、古代世界を殺さんとした怪物の一匹。
「カァ………!」
クランプスの胸が大きく膨らみ。
「バッ、ハアアア!!」
吐き出されたのは、黒い吹雪。体を削り、流れた血液を凍らせ張り付く
「リリウス! この、クランプス!!」
「ゴアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「っ!
城全体が揺れるほどの大音響。内臓が揺さぶられる様な不快感。クランプスは、リリウスに視線すら向けず己を封じる城の主に鉤爪の如き爪を振り上げ………
「【スーリヤプトラ】!!」
「キャホ!?」
その腕を陽光が焼く。
漸くリリウスに視線を向けたクランプス。
「キョホホホホホホ!!」
クランプスの足元から、城の氷が黒く染まっていく。外壁はともかく、中心に近いほどクランプスの影響を受けるらしい。
大量の氷柱と氷獣、凍影体が生えてくる。
だが、猿のような鳴き声のクランプスは見た目より頭が悪いらしい。あるいは、手にしたばかりの力を把握しきれていなかったのか………。
材料が減り、床や天井、橋に罅が入る。
「キョ?」
崩れてくる天井に首を傾げ、慌ててその場から離れるクランプス。彼からすれば降ってくる瓦礫など小石の如き大きさだ。
リリウスからすれば身長以上の氷だが。
「チッ!」
崩れ始める橋の上から脱出しようとするも、降ってくる氷が邪魔をする。あと一歩のところで、橋が崩れた。と、下から吹き上げた吹雪がリリウスを瓦礫ごと押し上げる。
「─────!!」
谷へと振り返れば、魔力を使った影響か右前腕が砕けたスカディが、谷底へと落ちていく光景が見えた。