ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
アイズ・ヴァレンシュタイン。
世界最速でLv.2になった少女。常に戦いを求めるような鬼気迫るその姿からついた通り名は『戦姫』。その名を払拭したい親心でロキから与えられた名は【剣姫】。
彼女は復讐者である。
復讐のために力を求めているが、復讐対象を殺すための強化スキルが目覚めるほどに。
リリウスと違い、明確な対象がいるからだろう。
世界を恨み、先の見えない未来に奪われないために力を求めたリリウスと、既に奪われ取り返すために剣を取ったアイズ。
「全部、捨てる………?」
「ああ」
「………………」
だけど、最も大きな違いは………アイズは周りに恵まれて、リリウスは恵まれなかった。
両親に愛されたアイズは、お前を愛したいと言ってくれる女性に出会えたアイズは、捨てられない。
「ううん、捨てちゃいけない………」
「…………………」
「それが私の、大事なことだから」
「そうか…………」
それはアイズの根幹。強くなるための理由。
それを失っては、アイズは本物の戦姫……いや、戦鬼に成り果てる。
「ならモンスターを斬って斬って切り続けろ。捨てられない者の代わりになるほど斬り捨てろ」
リリウスは最後のジャガ丸くんを食うと立ち上がり歩きだす。
その背を見ながら、アイズはふと思った。
全てを捨てたあの人は、どうしてまだ強くなろうと思えるのだろう。
夢を見る。何時も何時も同じ夢。
何時から見ているのかは思い出せない。きっとスキルに目覚めた時からだろう。
豚のコック達が運ぶ料理を食って、豚のコックを食って、そして最後に食らいついているのは自分そっくりな……いや、自分自身か。
どれだけ喰っても満たされないくせに、夢の中でも自分は喰って喰って喰いまくる。
「………」
夕刻が迫る。辺りは騒がしく、襲撃に備えていた。リリウスはフィンの金で作らせた新しい【包丁入れ】を開き改めて【解体包丁】と【釣り針】の位置を確認する。
「今日は頑張ろうね、リリウス君!」
「………………」
基本的にソロで活動するリリウスは親しい友人など居ない。例外的に絡みに行く冒険者は何人かいる。アーディがその一人だ。
「ああ、さっさと全員殺す」
「駄目だよ!? ちゃんと捕まえないと!」
外の組織、手を貸している商人。色々と聞かねばならぬことがあるのだ。外の組織も手を貸してる商人も、
「地上の下らねえ些事なんざさっさと済ませてダンジョンに潜りてぇんだよこっちは」
「些事?」
「ああ? 些事だろうが、俺にはなんの関係もねえんだからな」
何やらエルフの女が反応したがリリウスは向けられた敵意に敵意で返す。
「力なき民が傷つけられているのですよ?」
「だから何だ。力なんざ神に頼んで下に潜りゃ手に入るだろうが。それすらせずにてめぇ等に甘やかされて、良い御身分の他人なんざ幾ら死のうが知ったことかよ」
「人は支え合って生きている………!」
「くっだらねえ正論だな。嫌いなんだよな正論って、押し付けがましい。おっえー………ま、俺が使う分には好きだけど」
「貴様!」
リリウスの言葉にカッと顔を赤くしたエルフが木刀に手を伸ばす。原因はリリウスだけではなさそうだ。八つ当たりも含めたその態度にリリウスが【包丁入れ】から【骨スキ包丁】を取り出そうと手を伸ばし………
「やめろリオン。もうすぐ突入だってのに足並み乱すな」
「リリウス君も落ち着いて。はい、クッキーあげる」
ライラとアーディが二人を止める。
「しっかしアーディ、ずいぶん面倒見が良いな。いやまあ、そもそもそいつは誰かが面倒見るべき年齢ではあるけどよ」
「そうだね。まだ子供だもん…………それに何より、この子はリリウス・アーデ!」
「………おう?」
「そして私はアーディ! これはもう、仲良くなるしかないよね!」
と、アーディがリリウスに目を向けるがリリウスはサクサクともらったクッキーを食べて視線も向けない。
「だから飯与えてんのか?」
「だってリリウス君はご飯あげないとそのうち何でも食べちゃうから」
この前は寝ぼけながら円卓の机喰ってたし。
「しかし静かなもんだな」
「ええ、逆に何かあると勘ぐりたくなるほどです」
「というかあるだろ。フィンの野郎もその前提で動けとか言ってたし」
問題は、あの時の女が敵として現れること。というか十中八九敵だろうが………ここに現れたら全員死ぬな。
そして、突入。この集団で最高位はLv.4のシャクティとリリウス。シャクティは指揮があるため集団の中に………リリウスは先行して
討ち漏らしたのは【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】が捕らえていく。分かれ道では部隊を分け取り残しがないよう制圧していく。
「…………?」
リリウスは確かに恐れられているが、それにしても妙だ。
「………! 道が開ける、最深部!」
【アストレア・ファミリア】と共に先行していたアーディが叫ぶ。
その広間はここに来るまでの通路と同じく殺風景な場所だった。
積み木のように乱雑に、堆く積まれた鉄製のカーゴ。天井は高く10
「よぉ、来たな! あたしを覚えてるかあ!?」
頭上から女の声が響く。積み重なったカーゴの上にヴァレッタ・グレーデが佇んでいた。
リリウスは速攻で黒塗りのナイフと白塗りのナイフを投げつける。
「うお!?」
見えやすいナイフに目を奪われれば見えにくいナイフが突き刺さる。ヴァレッタはカーゴの影に隠れる。
「ちったあ人の話聞けよ! あんなにヒイヒイ鳴かせてやったのによぉ! 怒ってんのかぁ? いいじゃねえか、どうせ指潰そうと千切ろうと治るんだからよぉ!」
ギャハハハと響く笑い声。その内容に顔を歪めるアーディ達に対して、リリウスは錆臭い空間に顔をしかめる。
「またお前をかわいがりてえんだよ、こっちは!」
「…………ああ、お前あの時の」
「さっきまで忘れてたのか!?」
「その後のエルフ共の方が印象的だったからな」
と、仮にも自分の指を千切り目玉に何度も針を刺した相手にまるで興味がない様子のリリウスにライラがえぇ、と引いた。
「ヴァレッタ・グレーデ! 施設内は制圧した! 兵士もほとんど捕らえている! 大人しく投降しろ!」
一歩前に出て降伏勧告するのはシャクティ。降伏勧告に、突然攻撃はされないと判断したのかヴァレッタが姿を表す。
「ヒャハハハハ! その台詞にハイそーしますと頷く悪党がいるかよぉー! 出ろぉ、てめえ等ぁ!」
号令が轟いて、
体型の特徴から獣人とドワーフ。魔導士と思わしき者は居ない。
「おおおお!!」
ドワーフの戦鎚がリリウスの顔を叩く。先程までと動きが違う。差し詰め上位兵………
「…………おい、此奴等は
「はあ!?」
バキバキと
「ああ!」
困惑しているドワーフの喉を指で貫き脊髄を引き摺り出し、後ろから迫る獣人の目から突き刺し脳を掻き出す。
ドワーフの背骨〜獣人の脳味噌を添えて〜を喰らい、恐怖に後退る
Lv.4の力で振るわれた鎖は容易く人体を破壊する。
とはいえ、数が多い。ヴァレッタはシャクティとアリーゼが相手している。
連携ができているとしても2、3人で混戦と言ってもいいだろう。
(この程度時間稼ぎにしかならねえよなぁ………)
ヴァレッタがLv.5だろうと、このままいけば雑魚を皆殺しにしてヴァレッタを袋に出来る。
そんな簡単に終わるなら今日まで彼等が残っているとは思えない。
周りを観察する。
「あ、あああああ!」
甲高い叫び声。悲壮を通り越していっそ哀れに聞こえるその叫喚にアーディは振り向き様に剣を薙いだ。己を背を狙った相手に、彼女は目を見開く。
「なっ……子供!?」
アーディに切りかかってきたのは
「ぁ、ぁぁ………」
「こんな幼い子供まで巻き込んで………」
普段は温厚なアーディが宿さない怒りが、はっきり浮かぶ。
「ナイフを捨てて! 戦っちゃ駄目だ! 君みたいな子供に武器をもたせる大人の言うことなんて、聞いちゃいけない!」
ちなみにリリウスもよくアーディから戦いたくないなら【
仮にもLv.4という都市の上位に。
まあ要するに、アーディは子供に甘い。己が信じる『正義』に従い震える子供を救おうとする。
呼びかけられた子供は瞳を見張り、眦を歪めポロポロと涙を流した。
「私は君を傷つけたりしないよ? さぁ、こっちへ………」
安心させるように微笑み、剣をおろしてもう片方の手を差し伸べる。少女はその手を見て、右手を伸ばし左手で小さな胸を握りしめる。
「……………………………かみさま」
光の灯らぬ瞳で、声からも感情を消し、少女は唇を震わせる。
敵意も殺意も、『正義』や『悪』も抱かず、ただ願い、懇願する。
「おとうさんとおかあさんに、会わせてください………」
「馬鹿が!」
死した両親の再会を神に願う少女が
悪態をつきリリウスがアーディを突き飛ばすのとほぼ同時。
アーディの手を握った小さな指が離れる。
直後。
炸裂。
衝撃。
振動。
そして爆熱。
「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」」」
シャクティが、アリーゼが、輝夜が、ライラが、リューが、【ガネーシャ・ファミリア】の団員が知覚上限を超えた情報量に吹き飛ばされた。
炎熱を帯びた閃光が視界を白く塗り潰す。耳を聾するほどの爆音は聴覚の意味を奪う。
震動が建物全体を揺るがす。鉄製のカーゴがひしゃげ飛び、倒壊の音を連鎖させた。
「……………え?」
受け身も取れず吹き飛ばされた冒険者達。震える体を起こしたリューは、チカチカと明滅する視界が徐々に収まりその光景を見た。
ごっそりと何もかも抉り取られた空間が煙の向こうから現れた。何もかも粉微塵に吹き飛び、クレータの奥では血を流し倒れるアーディとリリウス。
「………………………ぇ?」
理解を拒むリュー。
「…………………………うそ」
凍てつくアリーゼ。
「………………………まさか」
悪夢を見る輝夜。
「…………………………
誰よりも早く現実を把握するライラ。
壁に絵の具をぶちまけたかのごとく出血し動かないアーディ。
己が背負う【包丁入れ】がひしゃげ、破片が腹に突き破っているリリウス。
どちらもピクリとも動かない。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
絶望の静寂を打ち砕く哄笑。放心する冒険者達を他所にヴァレッタが歓喜と狂喜の境で打ち震えた。
「見てるかぁ、
冒険者を巻き込んで死んだら、もう一度両親に合わせる。死神との契約が履行を見届け自らを爆弾と化した少女にヴァレッタは愉快そうに嗤った。
「………………アー、ディ?」
「リリウス!!」
シャクティが破片のような声を落とし、ライラの叫びが女の呵々大笑に交じる。
「………うそだ」
爆風で布が破れ、覆面を失い、露出しているリューの唇が震える。
「嘘だ! そんな、嘘だ! アーディ!」
「よせッッ! リオン!」
友に駆け寄ろうとするリューをライラがありったけの力で制止する。
「アリーゼ、輝夜! 倒れている連中から離れろぉ!
状況を正しく把握し伝えられた警告。言うが早いか、再起不能に陥っていたはずの敵兵が蠢く。
傷だらけの体で、懐に仕込んでおいた『
「「──────!!」」
「主よ……この命、どうか愛しき者のもとへぇぇぇぇぇ!!」
アリーゼと輝夜が地を蹴って左右に散るのと同時、悲痛な叫び共に咲く爆炎の花。
爆発の余波に殴られ少女達の体が吹き飛び、床を削る。
それだけでは終わらない。上級冒険者相手に時間稼ぎしか出来ない筈の
「死ねえええええ!」
「アンジュ、待ってて!」
「世界に混沌をおおおおお!!」
「タナトス様ぁぁ!!」
間断ない爆死。断末魔の叫びを飲み込む爆発の連鎖。
冒険者達を飲み込もうとする殺意の瀑流。
四方八方で発生する衝撃と爆風に第二級冒険者すら一度は倒れ込む。
それはリリウスが警戒していた自爆特攻。
そして、
地上の爆薬でここまでの威力を出そうとしたら、流石に気づけた。だからこそ小型で済むダンジョンのドロップアイテム『火炎石』を『撃鉄装置』の機構と合わせ用意された解りにくい自爆兵。
警戒をし続けたリリウスだけが動けた。ただし、その機会をアーディを庇うために使用した。
「何だ今の爆発は!?」
「団長達は無事なのか!?」
シャクティ達本隊と別れた【ガネーシャ・ファミリア】の団員が激しく驚倒し、狼狽。
捕縛されていた兵士の一人が、傷だらけの腕で意識を断った仲間の服を弄る。
「──? おい、お前ッ、何をして──」
「この命を持って、罪の精算をぉ!」
「!? ノイン、アスタ、逃げろ!」
別れた者達の下には当然捕縛された
周囲から爆発が連鎖している。天井と壁の奥から激しい爆発が連なり、施設全体が震える。
「一発目が合図だ。もう止まらねえ………じゃあな、くたばりやがれ!」
ヴァレッタはあっさり背を向け自分の背後の退路、裏口の通路に逃げ込み通路を爆砕する。
敵兵の一斉起爆。元々古い施設だ。すぐにでも倒壊し、冒険者達を押し潰すだろう。
「シャクティ、ライラ、輝夜! 脱出!」
一瞬にも満たない決断。有らん限りの声量に異を唱える者など居ない。
だが
「わかってる! けどっ………リオン、よせ! やめろ!」
「アーディっ、アーディ!!」
「阿呆!! 行くなっ、生き埋めになるぞ!」
ライラがリューの体を押さえ付け制止を呼びかける。輝夜も腕を掴むが暴れるエルフは、退路など残されていない広間に向かおうとする。
「っ!!」
倒れているリリウスとアーディが生きているのか、ここからではわからない。確かめて、生きているなら担ぐ? 無理だ。確実に死人が増えるだけ。
「アリーゼっ、待って! ライラ、輝夜、待ってえ! アーディが、アーディがまだあそこにいる!」
ライラと輝夜を振りほどき走るリュー。
「シャクティ!! アーディが、アーディがぁぁ………!」
「……………………………………………………っ」
反射的にリューの進路を遮ったシャクティは息を震わせた。振り返れば、シャクティは止まらない。止まれない。
依然続く爆撃で今まさに崩れようとしている建物の中で、妹のもとに駆けるだろう。自分の為に、他の団員も危険に晒すことになるかもしれない。
姉か、戦士か。
愛か、使命か。
希望に縋るか、絶望に諦めるか。
岐路に立った女の判断は………
「────ッ!! アリーゼ、行けぇ! 脱出する!」
戦士になった。
使命を選んだ。
絶望を受け入れた。
リューを肩に担ぎながら、心の内で泣き崩れる愛情を焼き殺す。
「アーディ、アーディイイイイイイイイイイイ!!」
泣き喚くリューの視界が通路の天井と壁に区切られる。四角に切り取られた景色はどんどんと狭まり見えなくなっていく。
アリーゼ達は拳を握りしめ、しかし逃げるしか選択を選べなかった。
「…………おい、生きてるか」
喧しい轟音に意識を取り戻した彼は、少女に声を掛ける。近くにいなければ轟音にかき消されてしまう程か細い呼吸音が聞こえた。
「…………っ、ぅ…………ぁ、はは……ごめん、ね。スープの、お礼………させ、すぎた」
腹に刺さった剣の残骸を抜き喰らうリリウス。無機物は喰えるが、傷の回復には少ししか役立たない。この深手では………
「させすぎた、からさ………おれい………」
そういって、震える腕で
「食べて良いよ………」
そうすれば、リリウスだけなら助かるはず。
「君は、君が守り……たい、人を………まもっ、て………」
血の匂い。肉がある。傷が深い。食え、食って治せ。
肉が良い。新鮮な肉。強い肉……!
都市各部で起こる爆発。衝撃と震動が大地を揺らし人々は恐怖に震える。
炎が街を赤く染める。
【ディアンケヒト・ファミリア】に次々と運ばれる怪我人。
足を失った老人。
背中を切りつけられた冒険者。
顔の半分が焼けただれたエルフの青年。
両腕が拉げたドワーフ。
片腕を失った少女。
内臓が溢れ落ちた獣人の少年。
顔に硝子が刺さったヒューマンの母親。
老いも若きも、男も女も等しく傷付き、命を散らす。
Lv.3の肉を喰らい動けるだけ回復したリリウスは
まずは主神の安全確認。Lv.4という精鋭を備えた【ソーマ・ファミリア】は数こそ多いが雑魚の集団。
ソーマが邪神に送還されればリリウスは力を失う。
本当にそれだけか、そんな事を考えられるほどの余裕もなければ腹も満たされていない。
唯一使えそうだった【釣り針】を構え、獣は屋根から屋根の上を駆け抜けた。