ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
冬と山の女神の分身。
生まれた時から完成していた、完全なる存在の分け身の少女は、数多のモンスターを凍てつかせ滅ぼし、氷の厄災と共に1000年以上の眠りについた。
時折目覚め、封印場所の闇と、少し外の雪景色を眺める。
この世界は嫌いじゃない。でも、好きにもなれなかった。世界を救うために生まれたのに、黒と白と、時折の灰の色のない世界を愛せなかった。
だから自分は世界を救えなかったのだろう。
だけど、彼に出会った。冬の山のように冷えた心を温めて、世界に色をくれた愛しい人。
私は貴方に恋をした。
もしこれがただの思い違いだと言われても、ただ初めてをくれた人への感謝の気持ちなのだと、神が保証しても、なら間違いのままで構わない。
この気持ちを恋にしたい。これが恋じゃないのなら、本当の恋などしたくない。
だから私はこれでいい。好きな人のために全てを捧げられるなら、貴方がこの先も貴方のために生きれるのなら、その歩みを支えられるのなら………。
私はどんな精霊だって味わえなかった幸せを手にしたって、胸を張って言えるんだ。
力が欲しかった。妹を守れる力が。
誰にも何も奪われないための力が。
その為に妹すら傷つけて、差し伸べられた手を振り払って、強くなった筈なのに。
強くなったのに、また腕からすり抜けた。また奪われた。
「嗤えよ。弱い俺を………何も守れねえ、滑稽な俺を、嗤ってみろ!!」
クランプスの放つ吹雪すら凍てつかせる冷気を纏い、リリウスがクランプスの顔を殴りつける。
皮膚が凍りつき、肉が砕ける。
骨まで達した冷気による激痛に悶えるクランプスは黒い吹雪を纏う。
落ち着け、冷静になれ。
怒りで突然強くなれるなら、クランプスはとっくに滅びていた。あれは後先考えぬ強さ。力の配分も忘れ、直ぐにでも目の前の存在を消そうとする、今だけの力。
「ホキャアアアアア!!」
そして、
そう、彼はクランプス。数多の英雄を殺した英雄殺し。神の降臨から1000年かけて執行されたベヒーモスやリヴァイアサンと同じ、世界を滅ぼす獣。
たかが神の眷族一人に負ける道理などありはしない。
「キャホ!」
「っ!!」
失った手の代わりに作った氷の義手がリリウスの振るう剣とぶつかり合い、弾き飛ばす。
全身に薄く、濃い吹雪を纏うクランプス。城壁すら削り砕く
高速、高圧で飛ばした砂は鉄すら削るという。クランプスの纏う鎧は、人間など容易く消し去るだろう。
「キョホホホゥ! ホホゥ!」
笑い声のような独特で不快な鳴き声を響かせるクランプス。徐々にリリウスが押され始める。
「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」
「キャホ!?」
湧き出る魔力に思わず距離を取るクランプス。神の恩恵がない時代にも、魔法は存在した。本人の素質を引き出した魔法と異なり、万人に使える代わりに操作が難しく、詠唱に対しての威力も弱い………ただし唱えるもの次第では威力を変える。
自身を滅ぼす可能性を持つ、記憶する中で最強の敵の魔法。
「【首となっても歯を突き立てろ】」
呪文を完成させるものかと襲いかかるクランプス。
格上が行う詠唱妨害に、リリウスの顔が歪む。
クランプスはリリウスしか見ていない。他の何者も、気にする必要がないと判断したから。だから、気付かなかった。
ある森にエルフの里があった。
高貴な血を引くエルフが里の長として君臨し、守り人を自称する引きこもり。少なくとも、そこで生まれたエルフ少女はそう思っていた。
森にモンスターがいないのは、森の近くの村がモンスターを討伐してくれるからだ。里の兵士達は森を出ることもない。
そのくせエルフというだけで偉そうで、他種族の村を見下している。何時か出ていってやると思いながらも、里を出られない臆病者。探せば案外見つかるエルフ。それが彼女。
そして、そんなエルフが珍しくないように、モンスターが村を襲うのも珍しくない出来事。
でも、エルフが他種族のために戦うのは、珍しい出来事だ。
守り人の名に恥じぬ戦いぶりであった。
モンスターの爪を盾で防ぎ、モンスターの首を剣で切り裂き、モンスターの体を魔法で焼く。
里の長は言った「上に立つだけの威儀を見せろ」と。
その里のエルフ達は、確かに村々に守られていた。
偶然そこに村が建ったのではない。エルフが彼等でも対処できない災いが起きた時にはエルフが助ける代わりに、村々はエルフ達が鍛える環境を守り続けていたのだ。
結局戦士達は死んでしまった。生き残った村人達に当たる子供達もいた。
だが、エルフの少女はその日確かに誇り高き妖精の姿を見たのだ。
「お前達は他種族を下に見るだけの、誇り高き行為をしたのか」
山を下りる途中、氷獣から隠れながら進んでいる内に城が砕け、黒い吹雪に襲われ、山に残っていたエルフの麗人は同胞達に問いかける。
「あれを見ろ! お前達が見下した、誰よりも若い、幼い少年が戦っているぞ!」
吹雪が一つの方向へと迫り、1
「役に立つとついて行き、お前より役に立つと大言を吐いて、精霊様の手を煩わせ、山も降りられずにいる私達が、もう一度あの子を侮辱できるか!?」
誰もが言葉に詰まる。傲慢な妖精達は、だからこそそれ以上を言えなかった。
「だが、私達では………」
「私が手を借りてやる」
それはまもなく世界に名を知らしめることになるあるエルフの少女が持つ魔法と同音のスキル。
妖精の女王のスキルにも似たそのスキルの名は【
むろん、それだけではクランプスに大したダメージを与えられないだろう。
エルフの麗人は、氷で出来た剣を見る。分身に入っていたスカディが残してくれた、精霊の力の欠片。
「お前達が、誇りあるというのなら、あの小さな同胞のために力を貸せ」
「グギャ!?」
クランプスの背後から迫った冷気が、クランプスの体を凍りつかせる。この魔力は、スカディ? 何故、いや………!
「【
氷の拘束を解こうと藻掻くクランプスを前に、詠唱が完成した。咄嗟に打ち消そうと吹雪を吐き出すクランプス。
リリウスが今一番食いたかった
黒い吹雪が空間ごと抉り消える。リリウスの右腕を黒い吹雪が覆った。
「死ね、
「グギャアアアアアアアアアアアアア!!?」
内から広がる激痛に叫ぶクランプス。これまで経験したことない、地獄の痛苦。槍を抜こうにも返しが付き抜けない。
痛い! 苦しい! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
「…………あ?」
痛みに耐えかねたクランプスが取った行動は自死。自らの魔石を抉り抜き、その身を灰に返した。
それが苦しみの果てにクランプスが選んだ答えであった。