ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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泣かせにきたけど

 クランプスが倒され、聖夜祭最終日は予定通り行われる。

 古代の怪物クランプスと、悪い子を叱るクランプスの伝統は最早別物とされ、この街の伝統として残るのだろう。

 

 リリウスは怒り顔のクランプス像を見て目を細めた。死の間際まで嗤っている様な容貌をしていた本物のクランプスとは似ても似つかない。

 

 実際は死を選ぶほど苦しんでいたようだが、異国の仮面に怒り顔にも泣き顔にも見えるものがあると聞くが、そのようなものだろう。

 

 

 

 

「で、せっかくの聖夜祭にあなたは何をしているの?」

 

 と、アフロディーテが声をかけるのは街を見下ろすドゥルガー。屋台の食事や景品だらけ。

 

「…………楽しんでおるな」

「祭りだもの。貴方も楽しみなさいな」

「そんな年でもない」

「たかが数千年生きただけで何大人ぶってんのよ」

 

 と、数億歳のアフロディーテは言う。数千年生きた精霊も今日生まれたばかりの聖夜の授かり子も、神々からすれば等しく子供なのだ。

 

「………感傷、というやつだろう。あの精霊に」

「……………………」

「妾は主様が心のままに生きてくれればいいと思っていた。未練を抱えたまま死ぬのも、仕方ないと思っていた。だが、主様の為に己の全てを捨てたあの精霊が羨ましくて、嫉妬した…………」

 

 精霊の武器という物がある。言葉通り、精霊が武器となった神からの授け物。その際精霊の自我は薄れる。

 

 精霊の心臓となったスカディも同じだ。リリウスが死ぬまで永遠の微睡みの中を彷徨う。下位とはいえ数多の精霊を喰らい、とうとう大精霊の心臓を宿した者が一体どれだけの時を生きるのかは知らないが。

 

「それでも妾は、羨ましく感じたのだ………」

「別にそいつの愛の方が強かったってわけじゃないでしょ。あんたは、あの子と死後の誓いまでした。死んだ後もいられるんだから、死に対して薄情になるのも当たり前よ」

 

 それに、嫉妬してるのはあなただけじゃない、とアフロディーテは続けた。

 

「ていうか愛の深さを競うのやめなさい。愛の女神が断言します。それ時間の無駄………貴方は、あの子の力になれてるわ」

 

 そう言うとアフロディーテは去っていく。何もかもお見通し。流石は全知の神。

 ところで、なんで角材を持っているのだろう?

 

「ああ、これ? 今から子供を泣かせに行くのよ」

 

 尋ねたドゥルガーは、その返答にますます困惑した。

 

 

 

 精霊を救えなかったリリウスに、エルフ達は何も言わなかった。

 遠目ながらクランプスとの戦いを見て、自分なら出来たと思い上がることはしなかった。

 

 だから誰もリリウスの弱さを責めない。

 

「酒臭!?」

「…………アフロディーテ」

「あんた、結構酒を飲むのね」

「俺はガキの頃から酒を飲むぞ」

「…………そうだったかしら?」

 

 そう言えばアフロディーテと出会ってから、酒を飲む量が減ったような気がする。

 

「自室にこもってお酒って、感心しないわよ? せっかくの聖夜祭なのに」

「何しに来た? なんだその角材」

「ん? 何って、泣かせにきたけど」

「………は?」

 

 意味がわからず首を傾げるリリウスの頭を、アフロディーテは角材で思っきりぶっ叩いた。

 

「つ〜〜〜!!」

 

 角材は折れ、アフロディーテの手の方が痛む。当然だ、リリウスはLv.7なのだから。

 

「何故角材?」

「私の華奢な手で貴方の頭叩いたら折れちゃうじゃない」

「…………酒瓶とか」

「割れたら危ないでしょ。私が」

「そもそも何故殴る」

「だって貴方、まだ泣いてないでしょう?」

「────」

 

 と、アフロディーテは角材を捨てる。

 

「……泣くようなことじゃねえだろ。彼奴が俺を生かそうとして、俺は生き残った」

「はいはい、だからボク泣かな〜いって?」

 

 どうでも良さそうに言うアフロディーテにリリウスの肩が僅かに揺れる。

 

「だから、ちょっとムカつくからぶん殴ってやろうと思って」

 

 そう言って、言葉とは裏腹にアフロディーテはリリウスを抱き締めた。

 

「強い貴方。意地っ張りなお馬鹿さん。泣くことは弱いことじゃないわ。泣くことが、あの子の思いを踏みにじったりしない。それでも泣けないのなら、何度だって叩いてあげる。子供は叩かれたら泣くものよ」

「………………?」

 

 ポタリと水滴が垂れる音がする。リリウスの目から涙が零れていた。

 リリウスが拭っても拭っても、後から溢れてくる。

 

「………助けたかった」

「助けられると思ったんだ。俺は、強いから」

「助けたいものを助ける為に強く、なったんだ」

「なのに、助けられなくて………!」

 

 アフロディーテは無言でその話を聞いていたが、声を殺すリリウスに、仕方ないというように肩をすくめた。

 

「泣き方も忘れてしまったの? 子供は大声で吐き出さなきゃ」

 

 その言葉に、何時か灰色の魔女の時にもそうしたように、リリウスの喉から声があふれ出した。

 

「っ………ああ………っう、あ………! うあああ! うわああああああん! あああああああ!」

 

 年相応の子供ように泣きじゃくるリリウスを、アフロディーテは抱き締め続けた。

 

 

 

 

 泣きつかれ眠ったリリウスの肩を抱きしめるアフロディーテ。

 毎日一緒に寝ているが、今日は特にその肩が小さく感じる。

 

 この小さな肩に、自分は世界の命運を乗せようとしてるのか。

 

「私も、火を司ってれば良かったのに…………」

 

 


 

 

今回のタイトルと言うかアフロディーテの台詞に既視感がある人は、他の作品も読んでくれてる人

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