ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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隠された神域

 学区は何時でも卒業できる。

 生徒が夢を見つけ、「ここ!」と決めたらそこで卒業。学区を嫌う者達からは放任主義など言われている。

 

 リリウスもまた、卒業する時が来た。

 

「うええ〜〜ん!!」

「ほらナノ、いい加減に泣き止みなさい」

 

 なんだかんだ正体がバレても小動物のようにチョコチョコついてきたナノはえんえんと泣いて班の仲間に慰められていて。

 

「リリウス君は、夢は決まったの?」

「夢………? まあ」

「そっか。頑張ってね………」

「ああ」

 

 ニイナは少し寂しそうに送り出す。彼女には色々勉強の手伝いをしてもらった。

 

「………俺は、英雄になるのを諦めた訳じゃない」

 

 と、ルーク。

 

「冒険者にももう当たらないし、死に急いだりもしない。でも、のんびりしてたら、俺が英雄になってやる」

「そうか。なれると良いな」

 

 リリウスがクランプスと戦っている間に街を襲った氷獣との一件で、ルークはLv.3へと成長した。オラリオの外ではどの国も欲しがる領域に至った。

 

 バルドルやイズン、レオンとの別れも済ませ、リリウスは再びアフロディーテと旅に出る。

 次は非戦闘員であろうと数が必要ということで、久し振りに【アフロディーテ・ファミリア】と合流するらしい。

 

 

 

 

「アフロディーテ様〜! お久しぶりです!」

「さあ皆! 感謝の踊りだ!」

「「「ワン・ツー! イヤホイ!」」」

 

 相変わらずだった。手を貸すという約束通り合流したアルテミスなんか口説こうとしてくるイケメン達に、もう弓に手をかけている。

 

「オーホッホッホ! オーホッホッホ!!」

 

 アフロディーテは今日も元気だ。

 

「人員が必要と言う割には、前より減ってないか?」

「新入りに勉強させたりもしてるのよ。私のファミリアって、劇団だし? 後クソ生意気な歌姫の世話係も残さないといけないし」

「歌姫?」

()()()は時期じゃないし、貴方が気にする事じゃないわ」

 

 つまり、また別の何か面倒事を抱えているということだろう。

 ただそれには時期が関係あるらしい。

 

「しかし、人手が必要とは言えやはり数に不安があるな」

「それなら安心しなさい。もう一柱(ひとり)呼んでるから」

「それは?」

「下界の救済はともかく、人類(子供)達想いの神よ………想い過ぎちゃうこともあるけど」

「………………?」

 

 明らかに言葉を濁しているアフロディーテ。視線からして、アルテミスとリリウスの知る神のようだが………。

 

 同郷のアストレアだろうか? だがアフロディーテが隠しているのは、どうもサプライズではなく面倒なことになるのを避けるためのような…………。

 

 となるとリリウスが苦手意識を持つ神?

 

「さ、そんな事よりさっさと行くわよ。海路で!」

「何故海路? あそこは半島だろう?」

「陸路だとシハチとモハチがついてこれないのよ」

「…………?」

 

 

 

 

 

「キュイ!」

「キュウ!」

「シハチ・ヤンクルとモハチ・ヤンクル。Lv.2のシャチの兄弟だ」

「「キュウ!」」

 

 港にて、シハチとモハチを紹介するリリウス。また動物の眷族。

 

「お〜、スパ君も先輩になったんだね〜!」

「キィ〜!」

 

 ランテの言葉に胸を張るスパルナ。

 

「ワフゥ」

「クォ」

 

 なら俺は大先輩、と胸を張るシャバラをシュヤーマは呆れたように睨んだ。

 何気に陸海空の揃い踏み。

 

「シハチ、モハチ、船を引きなさい」

「キュー!」

「キュイ!」

 

 アフロディーテの言葉にシハチ達は元気よく返事した。

 

「彼等が船を引くのか?」

「魔法でね」

 

 

 

 シハチの魔法【ヴィシュヴァールーパ・マツヤ】は()()魔法。あらゆる水を操る。海水の流れから、水の形、多少の温度から果ては不純物の濃度まで。

 

 航海で最も重要でいて、揃えるのが大変なのは水だろう。新鮮な水は、酒よりも価値がある。

 

 英雄譚に出てくる悪の海賊は年中海にいるイメージだが、実際は怪物退治に悪の国を懲らしめる海の英雄として出てくる海賊達のように陸にいることが多いのだ。

 

「誰も悪い海賊になんて近づかないからねえ。話の通じる自由を求める海賊達は浜辺にいて、詩人も近寄らない海の成らず者は海から襲ってくる時しか知られないものよ」

 

 と、船の寝室でアフロディーテは本を読む。

 悪しき海賊どもから金を奪い、税で苦しめられる人々を解放する、海の自由人にして海の英雄達の英雄譚だ。

 

「その点、シハチがいれば海水から水が作れる。世の船乗りが知ったらさぞ羨ましいでしょうね。モハチも………」

 

 モハチの魔法は【アンブラージャ・マカラ】。水にある程度の自律性と形を与える水の王とも呼べる力。

 

 周囲のモンスターを自動で殲滅してくれる。リリウスが唱えれば、並の水棲モンスターなど相手にもならない。

 

 

 

 

 逆に言えば、並じゃなければ抜けてくるのだが。

 

「恩恵持ちの海賊ね。しかも、またね…………」

「精霊の分身………あれは素体はマーメイドか?」

「すっかり魅了されて、モンスターと一緒に下僕になってるわね。あんた達、下がりなさい」

「「「はーい! アフロディーテ様!」」」

 

 非戦闘員の【アフロディーテ・ファミリア】は直ぐに船内に避難する。

 

「撃ってきた」

 

 大砲が発射される。

 船さえ壊せば海に沈められるし、Lv.2や3なら当たりどころによっては有効。海戦では火薬兵器も有用だ。

 

 しかも先端を尖らせて速度と威力を上げている。

 

「だからなんだって話だが」

 

 リリウスは砲弾を蹴り返した。高らかに歌っていた精霊の右腕が抉り飛ばされた。

 

「ラアアアアアアア♪」

「「「!!」」」

 

 響く歌声。意識を蝕む不快な多幸感。神の魅了とも異なるモンスターの魅了に対して、リリウスは気にせず飛び出した。

 

 手に持つのは、二本の黒い剣。

 

「試し斬りだ、フロストペイン」

 

 海面に蹴りを放ち跳ねながらあっという間に船に接近する。それだけの脚力で水面を蹴れば、水中にいたモンスターも『潜水』持ちも衝撃で内臓が潰れ死んでいた。

 

「!?」

 

 自身の歌が効かないのを見て、精霊は蟹の鋏を振るう。

 変異中なら他のモンスターを取り込める特性を利用した融合体。

 

「? ………貴方………仲間?」

「あ?」

「ナラ、食ベテアゲル」

 

 甲板を突き破り現れる巨大な蟹の体。タコの触手に、貝殻の盾、骨魚(ヴォルテメリア)の硬骨………。適当に混ぜ合わせた怪物の体から生えた美しい女の姿というのは、なんとも不気味だ。

 

「ララアアアアアアア♪」

 

 操られた海賊と陸でも活動できるモンスターが精霊の号令でリリウスを狙う。

 船に染み付いた血の匂いは古い。男が女を無理矢理犯した匂いもする。此奴等は気前のいい自由人ではなく、海の悪党。

 

 なので全員切り刻む。鉄の剣も鎧も纏めて切り裂く。その隙を狙い、足元の床からアクア・サーペントの口が飛び出す。

 

 バクンと口が閉じ、内側から切り刻まれる。

 

「フフ。コノ程度【水ヨ──…………?」

 

 頭の形をしていても触手の一本。大した傷では、と………

 

「!? イ、アアアアアア!?」

 

 傷口が氷付き、流れ込んでくる激痛。練られ始めた魔力は微量なれど暴発し、精霊はのたうち回る。あまりの激痛に歌は完全に途絶えた。

 

「あ、あれ? 俺達は確か…………」

海賤頭(カイセン・ドン)を強化してて………」

 

 どうやら精霊の分身につけられた名前はカイセン・ドンらしい。多分、とっくに避難した邪神が名付けたのだろう。

 

「アアアアアアアア!!」

 

 痛みにのたうち回りながら暴れる精霊の分身。海賊達が巻き込まれて海に落ちていく。

 船もとうとう壊れた。

 

「……………」

 

 フロストペイン周辺の水が冷え始める。水中だと少し使いにくい。さっさと終わらせよう。

 

 

 

 

「あら」

 

 海中から浮かび上がってくる巨大な氷山。船の残骸も、モンスターも海賊も精霊の分身も纏めて凍り付いていた。

 

 リリウスはドゥルガーに巨大な剣を作らせて、氷の中の精霊を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 そんなこんなでメディラの海を越え、目的の場所についたとアフロディーテがシハチを止める。

 

「これ以上近づいたら焼けちゃうわよ」

「………なんだあれ?」

 

 船の前方には巨大な陽炎。広く高く、例えるなら陽炎の壁。

 

「じゃ、近くの陸地に移動するわよ。シハチ、モハチ、私達が中から結界を消すから、穴を開けたら入ってらっしゃい」

 

 アフロディーテの言葉からして、結界は海中にも広がっているようだ。

 誰もがその存在感に目を奪われる中、リリウスは首を傾げながら船から飛び降りた。今回は走らないので、海面を凍らせ着地する。

 

「リリウス〜? どうしたのよ? 危ないから戻ってきなさい!」

「………………」

 

 リリウスは髪を黒く染め、陽炎に触れる。

 

「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」

「あ! ちょっと! お腹燃えちゃうかもしれないでしょ!?」

 

 詠唱を始めるリリウスにアフロディーテが慌てるが、リリウスの本能が訴えている。これは、自分には通じない。

 

「【ラーフ・シュールパナカー】」

 

 ザグン、と陽炎が空間ごと抉り取られ、巨大な穴が空いた。その向こうに景色が見える。

 半島に築かれた石造りの街並み。

 

「………まあ、予定とは違うけど、ついたわね」

「では、あれが?」

「ええ。オリンピアよ」

 

 

 

 

 さて、地上に於いて神の力に最も近い炎は、先見の神すら予期し得ぬ変化を成した。

 世界を滅ぼしうる厄災の炎。そこには、この世の悪意、恐怖、悲観、怒りが詰まっている。

 

 そう、恐怖と怒り。それが最も向けられる存在は漆黒のモンスター。海に住めぬ人類の最たる恨みの標的は、大地の王者。

 

 炎に自意識など本来は存在しえない。暖炉の火が薪も迷い込んだ虫も例外なく燃やすように、山火事が木々を飲み込み命を巻き込み燃え広がるように、ただ燃えるだけだった。

 

 それは先見の神も、どの神話の大神でも予測し得なかった未知。

 『終末』が世界を滅ぼす前に世界を焼き尽くす『絶望』に抗うために用意した『希望』は、新たな厄災(パンドラ)を運んだ。

 

 絶望が胎動する。

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