ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
アポロン。太陽を司る神格にして、男でも女でもいける(どちらかというと男が好み)変態神。
欲しがる何者かに執着してない限りはオラリオでも屈指の善神である。
意外と武闘派で眷族が殺されそうになった時、Lv.3の上がりたてのリリウスを殴り飛ばした事もある。神の武術だ、上級冒険者にすら通ずる。
「ちなみにアルテミスの弟でもあるわ」
そう言えばエンブレムに弓矢の模様もあった。
「…………チッ!」
「……………?」
と、アポロンの眷族の一部が睨んでくる。アポロンに好かれているリリウスへの嫉妬だろうか?
「久しいな、クソガキ」
「………………………?」
「私のことを覚えてないと言うのか!?」
「……………誰?」
「貴様ぁ!」
怒りで顔を真っ赤にして、足を肩幅に開き僅かに曲げ、両拳を顎の高さで構える男。その構えには見覚えがある。アポロンの使っていた格闘技………確か………撲死?
「よせ、ヒュアキントス! リリウスきゅんには勝てんぞ!」
見たところLv.3。ステイタスに振り回されてはいないようだが、それでもアポロンの見た通りリリウスの方が遥か格上。
主人の言葉にヒュアキントスと呼ばれた男は歯軋りし去っていった。
「済まないねリリウスきゅん。ヒュアキントスは君に負けて以来、君を敵視しているんだ」
「?」
「この子全然覚えてないな」
リリウスの態度に、アポロンが仕方ないと肩をすくめた。
「君との出会いが早ければ、仲良くなれていたのかな?」
「可能性の話なんざ無意味だ」
リリウスはそれだけ言うとアフロディーテの下へ戻った。
「君も久し振りだね、アルテミス。相変わらず、君は美しい」
「…………………」
「アルテミスはアポロンが嫌いなのか?」
「アポロンが昔、アルテミスの神友をストーカーしてたのよ。そりゃもう迷惑かけまくって…………」
それで嫌われたと。まあ男も女も欲しがるアポロンは、貞潔を司るアルテミスからすれば受け入れ難いあり方なのだろう。
「まあ良い。今は協力者だからな………アフロディーテ、事態は思ったより深刻かもしれん」
「どういうこと?」
「『悪夢』が顕現した……」
「「!?」」
その言葉にアポロンとアフロディーテが目を見開く。恐らくは先程のヴリトラもどきだろうが。
「あの蛇は、リリウス、覚えがあるんだろう?」
「ヴリトラ………俺がLv.6の時ぶっ殺した竜だ」
ついでにリリウスの得物であったマーダの材料でもある。結局、リリウスの精霊の炎で多少の加工はできても打ち直す前に炉が持たなかった。
「『原初の火』あるいは天の炎………いえ、穢れた炎が貴方を食べようとしたのよ」
「…………?」
天の炎。それは確かに、神が人類に与えた下界を救う可能性……
神の介入を前に生み出された神殺しの『漆黒の怪物』により下界救済をなし得ないだけではなく、炎は不完全な世界からあらゆる負の感情を吸った。
悲憤、痛哭、暗然、怨嗟、失意、憎悪、慟哭、瞋恚、激怒、喪失、嫌悪、憤怒、怨恨、絶望。そんな負の感情を取り込み続け、天の炎は穢れた。
「そして、今下界を薪に燃え広がろうとしている。その為に魂を求めるのよ」
「魂………?」
「ええ、燃料を提供してくれる魂を。その方法として、恐怖や怒りなど負の感情の記憶を象る」
それがあのヴリトラの正体。しかし、とリリウスは首を傾げる。
確かにヴリトラは強かった。しかし、恐怖するほどであっただろうか?
「紛い物だけど神の力。当然、簡単には消せないわ」
「方法はあるのか?」
「【ゼウス】と【ヘラ】がやるつもりだったように、絶大な力を持った眷族達で散らして、神殺しの獣の死体を使うとか…………」
「神殺し…………黒竜か?」
「ええ。だから、
神の力を無効化する漆黒の怪物の
「ちょっと待ってよ、じゃあ私達はどうすれば……!」
と、アポロンの眷族の一人が叫ぶ。
「リリウスを使うのよ」
「……………」
アフロディーテはリリウスを抱き寄せ頭に顎を乗せながら答えた。
「ベヒーモスの
神の力を無効化し、蹂躙する漆黒のモンスター………その代わり。それがアフロディーテがリリウスに求める役目。
「………やっぱり更新しとかない?」
「次の発展アビリティに『鍛冶』が含まれたらな」
アフロディーテはリリウスを次の位階に上げたいが、リリウスはそれを拒否。
神の知識からして、人と怪物の融合など未知も未知。それでも今ならいけると判断したが、万全を期して少しでも力を上げておきたい。
「だ、駄目です…………」
「ん?」
「その人を、炎に近づけたら………」
「ちょっとカサンドラ………!」
ジメジメした根暗な感じの女は、誰とも目を合わせず呟く。人見知りを通り越して人が苦手なようだ。なんなら、一人で食事するために便所で飯食ってそう。
「飢えた黒き獣を前に、炎が無垢な悪意を宿して目覚める………!」
「ふん。またくだらん妄言を………」
と、呆れた様子のヒュアキントス。彼女がこういった事を言うのは初めてじゃないのだろう。他の誰を見てもそんな顔をしている。
「………………」
「ひゃい!?」
リリウスはカサンドラと呼ばれた女の目の前に移動する。自分よりも小柄な
リリウスは腕を掴み引き寄せ……カサンドラの頬を舐めた。
「ぴぃああああ!?」
「緊張、恐怖……悲観? ……嘘はついてねえ。まじでビビってんのか」
顔を真赤にして離れるカサンドラを気にせずリリウスは汗に含まれる成分からカサンドラの精神状態を把握する。
「まあ嘘ついてないことが真実を語ってるとも限らねえが」
というか、真実と思いたくないと思わせる何かがこの女にはある。とリリウスが思った時、腹の底で何かが唸るような感覚。
「まあ信じてもいいが………」
「え…………?」
「それはそれとして止める気はねえが」
「っ! や、やっぱり信じてなんて………」
「信じてるさ。で? それで俺が炎に近づかないと、全部解決するのか?」
早すぎると神々は言った。ならば何れ穢れた炎は溢れる。
「どのみち結果が変わらねえなら、俺は抗う方を選ぶ。その為に手にした力だ」
「………………………」
「そう………じゃあ、アポロンとアルテミスは周辺の村々の住人の保護よろしく」
行くわよ、とアフロディーテの言葉に【アフロディーテ・ファミリア】もついてくる。リリウスは抱えられたままだ。猫みたいだ、とカサンドラは思った。
「なんか慌ててるな?」
「そりゃねえ。朝の見張りなんて、
アフロディーテはそう言うと前に出る。
「オーホッホッホッ! さあオリンピア! 私のものになりなさい!」
「「「そうだそうだ! 差し出せオリンピア!!」」」
「………………………」
リリウスは欠伸しながらシャバラとシュヤーマ、スパルナの毛繕いを始めた。
「ほら、何をしてるの? この私が来たんだから、さっさとオリンピアを明け渡しなさい? 門を開けて、私を迎え入れるのよ!」
「っ! 勝手な事を言わないでもらおう! 此処は三千年守られてきた聖域! 如何に神であろうと、踏み荒らすことは許されない!」
「あっそ。じゃあ、やりなさい貴方達!」
「「「はーい!!」」」
アフロディーテの言葉に眷族達は飛び出す。リリウスはアフロディーテの膝の上で髪を梳かされながらその光景を眺めた。
劇団主体の派閥とはいえ、それでも神の眷族。門や城壁を削り、何故か『アフロディーテ様万歳!』と落書きしている。
「くっ! お前達、止めろお!」
「狼藉を許してはなりません!」
と、兵士と女が出てきた。女達の方は、戦う者のそれではない。だが神の血の匂い。神の眷族だ。後衛だろうか?
それに兵士達も、アフロディーテの眷族よりは実戦経験がある。リリウスが立ち上がろうとするが、アフロディーテが腹に手を回し押さえる。
「必要ないわよ。だって、私がいるもの」
空気が変わる。放たれる神威に兵士達も女達も思わずアフロディーテに視線を向けた。向けてしまった。
「「「アフロディーテ様ー! 究極、無敵、最高〜〜!!」」」
「え!? ど、どうしたの貴方達!」
「巫女がしちゃいけない顔をしてるのだわ!」
「まさか、噂に聞く『魅了』!?」
「…………………」
アフロディーテが『魅了』を使った。あのアフロディーテが、迷いなく。でも本気ではない。
その証拠に城壁の向こうにいてアフロディーテを見てない者には『魅了』がかかっていない。声を聞けば問答無用でかかるはずなのに。
「…………ん?」
門の向こうから炎が飛んできた。アフロディーテを見ないようにするために、狙いは雑。それでも高位の魔導師並み。
リリウスはアフロディーテの腕の中から飛び出し城壁の上に立つ。咄嗟に狙いが移る。
「…………!!」
女の一人が明らかな動揺。当てたことと言うより、子供が炎に包まれる様に何かのトラウマを刺激されたのか青くなる中………しかし誰もが違和感に気づく。
倒れない。何より、炎で灰となって崩れない。
炎の中に動く影は、何かを掴み運ぶように口に向かう。
「もぐ………美味いな、これ」
「……………は?」
「炎を…………食べてる?」
「だが薄味だ」
ゴクン、と自身を燃やしていた炎を完全に飲み込んだリリウス。魔法ともまた違った炎。
だがリリウスは万物を喰らう。
何より、アフロディーテの『魅了』を無効化する時と同じ感覚。この炎は、リリウスを焼けない。と…………
「……………へえ」
炎が地面を突き破り、形を象る。現れたのは鎧を纏った大男。Lv.7の覇者。
「それがお前達の守護者か」
「え? いや、知りません。何これ…………」
もしもリリウスが子供の頃にロキ・ファミリア以外に助けられていた場合、アルフィアに本音ぶちまけた時からわかるように一人称は僕。
24階層で一度死に怪人になる。え、今も子供? それはそう。
「僕は、怪物の王だ」