ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
取り敢えず縛って置いた。
臍も見えるし脇腹も見える、Wをひっくり返したかのような露出。それが意味することは?
「…………痴女?」
「巫女よ!」
「巫女……………ああ、神の夜の相手をする」
「偏った知識ね!?」
「? だって輝夜が…………」
そりゃもう人格否定どころか存在否定しながら説明してくれた。子供に何を教えてるんだとアリーゼ達に連れてかれたが。
「私をそんな低俗な巫女と一緒にしないで! 由緒正しいプロメテウス教団の巫女なんだから!」
「プロメテウス? 天の炎地上に落として下界崩壊の要因作った?」
「ええ、ゼウスしか顔を見たこともない神よ」
「………………………」
リリウスはすごくどうでも良さそうに、とりあえずの確認程度にアフロディーテに尋ねる。
「どうしようかしら、この小娘」
「魅了して彼処に放り込めば?」
と、リリウスが指さした先には「万歳! 万歳! アフロディーテ様、アフロディーテ様! バンザーイ」とアフロディーテを褒め称える魅了された兵士や女達。あの女達も巫女なのだろう。
「いやよ! あんな屈辱味わうなんて!」
「じゃあ手足の腱切っといて部屋に閉じ込めるか」
「「「恐」」」
と、ベックリン達もドン引き。
アフロディーテは首を傾げる。リリウスは他人に興味がなく、身内には甘いように見えるが実は結構他人に優しい。嫌ってこない限り、ここまで雑な扱いはしないはず。
警戒してる?
「リリウス、この小娘、何かあるの?」
「う?」
「貴方、警戒してるじゃない」
「けーかい…………ああ」
自分でも気付いてなかったらしい。なら、理由は本人も分からぬ本能的に何かを感じ取ったから?
「…………そいつ、嘘つきの匂いがする」
「え?」
「匂いでわかるのに私舐められたんですか!?」
「舐めたほうがはっきり解る。俺は嗅覚より味覚が鋭い」
なので謎の女も舐めようと口を開く。
………いや、容赦なく食い千切るつもりだと察したアフロディーテが後ろから腕を回し口を押さえる。
「駄目よリリウス。あんまり変なの食べたらお腹壊しちゃうわ」
「変なの!?」
「変なの?」
「こいつらは少なくとも原初の火で三百年は生きてるの。消費期限もとっくに過ぎてるわ」
「俺は腐った肉程度食えるぞ」
「く、腐った肉………え、食う? わ、私を………?」
さっきから散々な扱いに少女はもうついていけない。
「そもそもなんで尾けてきたの? 兵士でもなく、巫女にしてもこの状況で何にも出来ないみたいだけど」
「で、出来ないわけじゃないわ! しないだけ! 別にポンコツなんかじゃないんだから!」
「……………ポンコツなのか」
少なくも、周りがそう言ってるにしろ言っていないしろ本人はそう思う程度には…………カサンドラはなんだか親近感。
リリウスは…………距離をとってじっと見つめてる。
「知らない人を家に上げた猫みたい」
「これは相当警戒してるわね。可愛いからって撫でちゃ駄目よ? 噛まれるわ」
と、少女に警告するアフロディーテ。
「それで? プロメテウスの巫女が何の用かしら?」
一応すぐに撤退することになったが、それでも敵対していることに変わりはない。斥候にしては間抜けだが、リリウスが嘘つきと警戒しているし………。
「………た、かったから」
「……………?」
「そ、外の人と話してみたかったから!」
「……………う〜ん?」
嘘はついてない。神は人が嘘をつけば解るのだ。リリウスは、相も変わらず警戒してる。
まあ、数百年は神には刹那でも、人間にはそれなりの時間。嘘をつかず隠し事をする事ぐらい覚えるだろう。
「ね! 貴方、有名よ。外の話とか、冒険譚、聞かせてくれない?」
「………!」
「……………はぁ」
リリウスが警戒して話にもならない。魅了してしまえば楽だが、生き残りを攫う以外で使う気もあまり起きない。
アフロディーテは少女に干し肉を渡した。
「……………?」
「これでリリウスと仲良くなれるわ」
「そんな動物みたいな…………すごく見てる」
リリウスの視線は干し肉に釘付けだ。
少女は恐る恐る差し出すと食いついた。モムモムと少しずつ口に含んでいく。
「…………………」
ちょっとした出来心で離そうとしたら、小さなお手で手を掴まれる。
「「「かっ………!」」」
【アルテミス・ファミリア】、【アフロディーテ・ファミリア】、【アポロン・ファミリア】の女性が胸を押さえ倒れた。
例えるならチューブから流れる餌に食いつく猫のような可愛さだった。
「リリウスきゅ〜ん! さあ、こっちにもあるぞぼん!」
「ちなみに邪な感情を抱くと蹴られるわ」
「「「アポロン様あああ!!」」」
「私はイリア……これでも貴方よりお姉さんなんだからね」
「そうか。で、外の話だったか?」
「うん! 聞かせて!」
キラキラした目で顔を近づけるイリア。この中で誰が一番冒険したかと言われれば、それは間違いなくリリウスだろう。
「何から?」
「ええと、初めてランクアップした時とか?」
「初めて…………」
かなり古い話だ。普通の冒険者なら、自分がランクアップした時の事は一つ一つ覚えているのだろうが………。
「ああ、あの日も何時ものようにダンジョンで飯食ってたら背中から魔剣で───」
「「「待って」」」
アフロディーテ、イリア、ランテが思わず止めた。周りも固まっている。
「…………?」
「背中から魔剣?」
「何時も……?」
「魔剣は何時もじゃねえぞ。同じファミリアのカスどもに蹴られたり殴られたり矢を射られたり………嫌がらせで飯奪われて腹が減っててな」
「「「待って待って待って!!」」」
再び3人が止めた。全員己を落ち着かせるように深呼吸する。
「それでリリウス。そのクズ共の顔と名前覚えてる? 殺すわ」
「アフロディーテ様!?」
「さあ? Lv.1の時も、上がって絡まれた時も殺したし………死んでんじゃねえの?」
「「「……………………」」」
リリウスは己の命を脅かそうとする相手には容赦しない。年下の、特に女には甘いけど、殺す時は殺す。
情緒は確かに育っている。だがそれは、獣の如き価値観を下地にしているのだ。
「………えっと、じゃあベルデーンの沼の王退治から……」
「ん………」
「で、最後はベルテーンの民達が力を合わせて………あ、兵士だけじゃなくてな。それで魔法の効果が………」
「語るの下手!」
基本聞き専のリリウスは、語るのがとても下手くそだった。諦観に沈んだ国民が立ち上がるという英雄譚がとても心に響かない。
「でも、なんとなく分かった。その国は、貴方に救われたんだね。怪物を倒すとか、それだけじゃなくて……」
「そうなのか?」
「そうよ。聞かせてくれてありがとう………また明日」
「え?」
「え?」
「帰すわけ無いだろ」
スッとイリアの前に移動するシャバラとシュヤーマ。後退りしたらスパルナが翼を広げてキィー! と鳴く。
「大人しくしてれば足は折らない」
「大人しくしてなかったら折るの!?」
「………?」
「なんで『何当たり前のこと聞いてんだ』って顔してるのよ!?」
とは言え折られるのは嫌なのか、大人しく捕まった。
「おはようございます…………」
「あら、おはよう」
朝、リリウスはフロストペインの柄を調節しているところでイリアが起きた。アフロディーテが見張りの眷族から大人しくしていたことを聞き満足そうに頷いた。
「じゃあ行ってくるわ」
「え? 何処に?」
「「オリンピア」」
アフロディーテとリリウスの言葉が重なる。
「!? で、でも! あの悪夢がまだ! あれ、私達は襲わないけど、多分貴方を襲うわよ!?」
「だからだ」
「え………」
「Lv.7の俺がステイタスを極めるだけの
つまり、リリウスはあの規格外達を自分の強化の糧にする気なのだ。
「でも、貴方にとっての悪夢でしょ?」
「一人は負けたまま…………もう一人は………」
今なら、その言葉を言えた。
「………殺したくなかった。多分、母親みたいに思ってた」
「なら………」
「でもあれはその形してるだけだし」
リリウスはそう言うとオリンピアの都へと向かって歩き出す。
『………………』
本来なら
重戦士と女の形をした悪夢。その規格外の強さを目にしているオリンピアの住民は、ただ遠巻きに監視するばかり。
「!?」
不意に、女が顔を上げる。続いて戦士も。
炎が解け、風に流されるように城門へ流れ、再び悪夢を象る。
「便利な移動方法だな。まあ良い………糧となれ、英雄の影」
「負けた」
「まあ、こんがり」
リリウスはボロボロになって戻ってきた。