ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「神議長…………」
轟音響くオリンピア。一人の兵士がプロメテウス教団の実質的トップの下へ訪れた。
「解っている。また来たのだな」
報告されずとも、その轟音を聞けばわかる。また、侵入者と悪夢が戦っているのだろう。
この一ヶ月、毎日毎日飽きもせず悪夢へ挑み、敗れ、撤退する。
そして翌日また現れる。
その隙に【アフロディーテ・ファミリア】が教団員を攫っていく。
追手を出したが、拠点は不明。
陽動となっている戦いは、介入出来る者など此処にはいない。
「…………昨日は、正午前だったか」
「?」
戦いは、日に日に長引く。
一方的だった悪夢の蹂躙は、何時しか戦いと呼べるものになり、今では朝日が昇り、日が頂上に来るまで続くようになった。
神の恩恵の力………だけではあるまい。短期間でそこまで強くなれるのなら、世界はLv.7を彼処まで崇めたりしない。
技術……だけでもない。恩恵とは関係ない部分で、あの少年そのものが成長している。それこそ、昔日の英雄の様に。
「ただいま」
「お、おかえりなさい…………」
カサンドラは治癒魔法が使えるので唱えてリリウスの傷を癒す。発展アビリティ『治力』を持つリリウスに、発展アビリティ『治癒』を持つカサンドラ。
相乗効果で傷は完全に癒えた。
「あれが、堕ちた英雄の炎?」
「なんだそれ?」
「えっと、予知の………『堕ちた英雄の炎を止めるは昔日の炎』と…………」
昔日の炎?
堕ちた英雄と聞けば、たしかにあの二人を思い浮かべるが………。
無垢な悪意とか、抽象的でよく解らない。それよりも………
「あの、もっと別の方法を考えたほうが……………」
「…………………」
「……………?」
「あの攻撃は通じた。明日は通じないから、攻撃を誘導して………いや、アルフィアがいるから…………」
「………………」
今日も負けてきた。今日も死にかけていた。
毎日そうだ。だけど、リリウスは全然挫けない。むしろ、楽しそう?
「そりゃ、規格外の怪物と戦ってきたリリウスの記憶から、それでも選ばれた相手よ。もう死んでいない二人。そこに手が届いていく…………楽しくて仕方ないんでしょ…………何これ」
此処は結界スレスレの孤島。海で釣りをしていたアフロディーテは、カサンドラの質問に答えながらおじさんみたいな魚を捨てる。
「そこは良かったわ。これから世界を救わせようって不要な重荷を背負わせたけど、あの子が楽しそうで」
「楽しいって、でも……死んじゃうかもしれないんですよ?」
「どの道失敗すればこの下界は滅ぶ。私達の予測を遥かに超えて、あんな悪夢を実体化させるほど活性化していたのだもの。ヘスティアも間に合わないでしょうね」
カサンドラの予知にあった無垢なる悪意が関係しているのだろうか? ならばリリウスを連れてくるべきではなかった?
その場合、いかなる奇跡が起きればヘスティアを救えるというのか。
「私はあの子に賭けたの。何時かクソムカつく邪竜もぶっ殺させるわ」
「邪竜? それって、黒竜のことですか?」
「それとは別よ………っ! 重! 貴方、Lv.2でしょ? 手伝いなさい!」
タコが釣れた。重かったのは吸盤で岩か何かに張り付いていたからだろう。
因みにリリウスはシハチとモハチと共に海深くに潜り魚を捕ってきた。深いところはそれなりに深く、アフロディーテが釣ったのはそこから逃げてきたようだ。
「毎日毎日飽きないわね〜」
翌日、またリリウスはザルドとアルフィアを象った悪夢と相対する。
剛撃。
業火。
轟音。
煌炎。
今日も街の一角が消し飛んだ。
尤も、このオリンピアは既に滅んだ都市。まだ穢れていない『原初の火』の上澄みが嘗ての日を再現し続けているだけなので、また朝になれば元に戻るが。
その光景を眺めるのは神だけではない。
「…………今日はどれぐらい持つかな」
「そろそろ勝つんじゃないか? 昨日、腕切り落としてたろ」
あの悪夢とリリウスが暴れている限り【アフロディーテ・ファミリア】も深く飛び込んでくることはない。城壁にいるより街の中にいたほうが寧ろ安全と判断したオリンピアの兵士達は、遠くからその光景を眺める。
凡夫では近づけぬ、怪物の如き怪物殺しの冒険者達の戦い。悪夢は恐らく彼と因縁のある冒険者なのだろう。
一度剣を振るえば絶命の一撃が街を切り裂く。
鐘の音が響けば絶死の轟音が街を蹂躙する。
白い影が駆け抜ければ街が黒く凍りつく。
音速の砲撃を回避し、ドゥルガーに造らせた剣の柄を蹴りつけ後衛のアルフィアに飛ばす。
轟音一つに全て破壊され、剣の欠片の向こうからリリウスが迫る。
接近から振り上げまで、刹那に満たない超高速、だというのにアルフィアのヒールは正確にリリウスの手首を蹴りつけ剣には一切触れない。
地面に倒れたリリウスの頭を狙った容赦ない蹴り。Lv.7じゃなければ首の骨が折れるか頭が破裂していただろう。
「ペッ………」
砕けた牙を吐き捨て、血に触れた石畳が溶ける。髪の一部が黒く染まり、黒い竜巻が放たれ、剣の一薙で消し飛ばされる。
ザルドが剣を振り下ろす。咄嗟に回避したが、地面を破壊する衝撃波だけで吹き飛ばされた。
地に足がついた瞬間には、もう向かってきていた。黒氷でリーチを伸ばしたフロストペインで受け止める。
地面が陥没し、走る亀裂は建物まで広がる。
剛腕と絶技を振るうザルドに対してリリウスは速度で翻弄。被弾回数はザルドの方が上だ。鎧につけた傷も、首や炎につけた傷も直ぐに修復されるが。
『オオオオオオオ!!』
ザルドが振るった剛撃を受け止めるふりをして、後ろに倒れるように回転して勢いを流す。回転の速度を込めたまま斬りつけようとすればザルドは片手だけ柄から放し、裏拳を放っていた。
『────!?』
リリウスは
『────!』
炎で再現された不滅の体を持つとはいえ、再現体だからこそ悪夢の動きは生物に寄る。
首に迫る攻撃を回避するために仰け反った。
フロストペインの片割れを地面に突き刺し石畳を破壊し土煙を立てながら減速し、向き直る。
『───』
「あっ!」
音の砲弾を、咆哮の砲弾で打ち消す。体勢を立て直す前のアルフィアにフロストペインを振るおうと駆け出し……。
『オオオオオオオ!!』
アルフィアの腰を切り裂きながら大剣が迫る。
「────!!」
空高く吹き飛ばされた。地上に目を向ければ、体を再生させながら片手を向けるアルフィアの姿。上空に炎の鐘が現れる。
魔法に関しては多少の溜めはあるが詠唱はないという鬼畜仕様。
轟音が大地を蹂躙し──
未だ立ち込める減速時の土煙からリリウスが飛び出した。
「32戦1勝30敗……これで2勝!!」
再生しきらぬアルフィアの体が切り裂かれ、断面から凍り付き、砕けた。動揺しないのは複製体故か歴戦の覇者だからか、迫りくるザルドの剛腕。
この一ヶ月、ずっと見てきた。
『────!!』
「────!!」
既に速さだけならリリウスが上。
黒風の加速。神速の斬撃。
ザルドの一撃が振り下ろされた家が両断。剣圧でそのまま破砕。
ザルドの片腕が落ちた。
『オオオオオオオ!!』
片腕のまま大剣を振るうザルド。
リリウスもまた、振り返りながら炎を纏う槍を振るう。街の一角が炎の渦に焼き消された。
「どっちだ!?」
「お、おい!」
炎が晴れる。人影は一つ。とても小さい。
「……………はぁ」
全身に火傷を負いながらも、まだ立つリリウス。疲れたようにしゃがみ込んだ。
「やった!」
「何喜んでんだ! 一応敵だぞ! いや、悪夢も敵だけど」
「あ、いや……つい」
何せ一ヶ月、ずっと見ていたから。何度も何度も挑む姿に応援したくなってしまったのだろう。
「…………捕らえよ」
「っ! 神議長!?」
と、そこに現れる神議長。琥珀の瞳がリリウスを見据える。
「今が好機だ」
「え、あ………は、はい!」
と、兵士達が駆け出そうとした時、海の方から大量の水が流れて来た。
津波、ではない。水が少なすぎる。
灼熱の大地に体積を減らしながらリリウスを飲み込み、再び海へと戻っていった。
「助かった、シハチ、目隠れ」
水はシハチの魔法。代理詠唱を行ったのはカサンドラ。
Lv.2の彼女ではリリウス程の規模の魔法にはならないが、それでも地上から
「ほ、本当に勝ったんですね」
「またやれと言われても出来るか解んねえけどな。我が記憶ながら……………やっぱり強いなあ」
リリウスは、何処か嬉しそうに笑った。