ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
良いですか? 冒険者なんて糞! と決めつけていたのにベルに数日優しくされて絆され始めたリリの兄なんです
リリルカ・アーデは不幸な少女である。
酒に狂わされた親に捨てられ、唯一の味方だったはずの兄に見限られた。
彼女自身も酒に酔い、金を集めようとした時期がある。
まあ、槍を持ったところで彼女は弱かったのだが。彼女の兄もそうだ。だが、それでも兄は止まらなかった。
リリルカがその場に留まり泣き続ける少女なら、兄は返り血と己の血で赤い足跡を刻みながらボロボロの体を引きずり進む獣だった。
怖かった。
何のためにそこまでできるのか理解出来ない兄が。
怖かった。
兄が何時か倒れ、自分が一人になるのが。
なんて醜い。
結局は自分の為に、兄に自分の下まで堕ちてきてほしかった。繋いでくれた手を繋ぎ止める鎖にしようとした。
兄のように強くなれないからと、兄の方から自分に合わせて欲しいなど。
そんなんだから捨てられるんだ。
そして、重しがなくなった兄は最強になった。
Lv.2にランクアップし、更に半年でLv.3。もう1年でLv.4。
派閥内最強。誰も手を出せない。
無能な妹と違って。
兄がLv.2になって、周りの目が変わった。この女を使えば、あれを制御できるのでは? そんな考えが透けて見えた。全く馬鹿らしい。
兄はあれ以来一度も振り返らない。振り返ってほしくて手を伸ばせば、拳が、蹴りが飛んでくる。
誰もが兄に相手されないリリルカを憐れみ、或いは嗤った。リリルカは兄を縛る鎖にはなり得なかった。兄の足を止める重しにはなり得なかった。
そんなある日、兄が死にかけたと聞いた。詳しくは伏せられたが
それにリリルカは
だって彼が冒険に怯えれば、戦いに怯えればまた自分の隣に戻ってきてくれると思ったから。
だからこれは罰なのだろう。
隣りにいてほしいと願いながら、自分から彼の隣を目指そうとしなかった。その罰……
「滅びろ、オラリオオオオ!!」
罰、の………筈なのに。
グシャリと
リリルカと同じブラウンの瞳が見つめてくる。
「ぁ………に、兄さ………」
「状況は?」
直ぐに視線をそらされ、チャンドラに声を掛けるリリウス。
「ザニスの馬鹿は籠城を決めた。主神様は、まあ何時も通り部屋に籠もってる」
「屋敷の中央に移動させろ。敵が攻めてきたら完成品のソーマでも浴びせてやれ。酔って動けなくなったところを馬鹿どもに群がられる光景でも見せりゃ、脅しにはなるだろ」
「敵は自爆すんだろ?」
「それを知った上で酒を飲むならほっとけ」
と、それだけ言い残すと去っていった。結局、一度も振り返りはしなかった。
都市全土で起きる襲撃。もしコレを止められる者がいるとしたら、それは美の神だろう。
彼女達が少し顔を見せ『魅了』すれば敵も味方もなく止まる。邪神達はそれを警戒し、自分達が送還される前提で美の女神達を見張っている。
その役目がない邪神達は燃えるオラリオを見てゲラゲラと笑う。
不幸に、不運に、不条理に何かを失い何かに苦しみ『自分が一番可哀想』だと信じて疑わない
悪でありながら正義を謳う! ああ、人間ってなんて愚か!
彼等は人間を馬鹿にしているわけでも、嫌いなわけでもない。愚かしいとは思う。だがその愚かしさをこそ愛している。
人には大凡理解出来ない愛で下界を掻き回し、秩序を乱す。
乱れた世に新たな『可哀想な者達』が生まれ、邪神に唆される。
そして、そんな彼等を邪神にすら見つけられなかった獣が襲う。
「見ていてくれアルグギャ!!」
一般人にはナイフを振るい、上級冒険者には自爆特攻。そうやって自分の命一つで多くを殺すべく叫ぶ父親は天界にいる娘との再会を願いながら死んだ。
首に鎖が絡みつき釣り上げられ首の骨が砕けた。
死体は
「………………」
飛んできた足を掴み喰らうリリウスはギョロリと辺を睥睨する。魔剣の炎が飛んできたが全て回避し、屋根の瓦を投げつける。
「クソが………!」
苛立つように呟き、飛んできた矢を掴みエルフに投げ返す。
「あら、可愛い顔をしているのにそんな汚い言葉遣いなんて駄目よリリウス!」
「そうよ! 貴方は悲鳴のほうが似合ってるわ! 最後は全然叫んでくれなかったけど!」
リリウスが振り返ると美しい
「あら、でも貴方ヴァレッタにやられちゃったって聞いたのだけど?」
「とても悲しかったのよ? この宴まで会うのを我慢していたのに!」
「ああでも、貴方は食いしん坊! 食べればどんな傷も治るものね!」
「確か、お肉が残っていたのよね? 美味しかったかしら!?」
ピクリとリリウスの肩が震える。チャララと音を鳴らす【釣り針】の鎖の音は、異国の蛇の威嚇音を思わせた。
「クソ妖精共が。てめぇ等の腐臭漂う古肉よりは美味かっただろうよ」
「あら知らないの? 妖精は長生きなのよ!」
「私達まだまだ若いのに、酷い人!」
リリウスは特大の殺気を放ち…………背を向けた。
「「…………え?」」
突然の反転にディナとヴェナはポカンとその背を見つめる。明らかに襲ってくると思ったのに………。
「誘っていたのがバレたかしら?」
「まあお姉様、誘うなんて破廉恥だわ!」
「あら、いけない。うふふ!」
「仕方ないわ、私達の仕事に戻りましょう!」
彼女達は
「あの子から襲ってくれば言い訳も出来たのに!」
「まあ、襲われたいなんて下品よヴェナ!」
「あらいけない、あはは!」
イカれた妖精共を相手する気など毛頭ない。この戦争………リリウスの予想通り向こうが
リリウスの2つ目の魔法。究極の初見殺し。当たりさえすればLv.差など覆せる防御無視。
問題はそれだけの力を持つ存在に使えばリリウスもただでは済まないということ。そして、魔力消費も激しく何度も使えないという燃費の悪さ。
「ゴアアアアアア!!」
「!?」
ドゴォ! とリリウスが駆けていた屋根を爆砕させる拳。思わず飛び退けば屈強という言葉が似合う偉丈夫が白目を剥き、口に嚙まされた拘束具から涎や泡を溢れ出させこちらを睨んでいた。
「フーッ、フーゥゥゥ!!」
狂化……それも明らかに外部の手によるもの。使い捨ての強化兵………にしては、この威圧感。
「何でてめぇがここにいやがる白髪チビ」
「奴等、このガキを僕達の仲間と勘違いしたのか」
「不愉快だからさっさと失せろよ若白髪」
「よせお前等。此奴に押し付けよう」
「「「異議なし」」」
「殺すぞ半玉野郎共」
ちなみに半玉とは4人で一人とか言ってる仲の良い兄弟達に対してリリウスが付けたあだ名。あだ名の由来は「
「「「「ぶっ殺すぞガキが」」」」
「4人で一人前のキ◯タマしかねえ種無しどもが、素直に勝てないから代わってくださいと言えよ」
リリウスは迫る拳を蹴りつけ逸らす。絡んできた
「【傲慢なる悪意の王】」
続いて、詠唱。理性が吹き飛んでいる狂戦士の数は12。此奴等は全員が
魔力をあまり消費したくなかったが、それでも使わざるを得ない。
「【血の河を啜れ、肉を貪れ】」
「オオオオオ!!」
「グガアアア!!」
空中に飛び出したリリウスに迫る狂戦士。
「【ラーヴァナ】」
理性無き獣に、獣が吠える。
「があああ!!」
太い腕の上を駆け顔面に膝蹴り。顎を砕かれふらつく狂戦士はそれでもギロリとリリウスを睨むが、リリウスは巨木のような体を駆け抜け首の後ろにあった剣を引き抜き喰らう。
「なに!?」
それに驚愕する神官のような格好をした男にリリウスは半端に理性を残した瞳を向ける。
「ルオオオ!」
「ガアアア!」
「フゥ────カァ!」
放たれる魔力。それだけで狂戦士達の動きが僅かに鈍り、その隙を逃さずリリウスはもう二体の狂戦士から短剣を抜き取る。
その短剣の正体は『武器化』した……否、『武器化』
爆発的な魔力の上昇に、特定の個体への治癒能力の発現。英雄譚の勇士たちとは比べるべくもないが高い戦闘能力を与えていたのだ。
それを見破られた?
「……………」
リリウスはこれ見よがしに刺さっていた精霊の短剣を噛み砕き飲み込む。力の注入、精霊の血を分け与えられる………その程度ではない、下位とは言え
「グルアアアア!」
「ガアアア!!」
迫ってきた狂戦士の拳に拳を叩きつけるリリウス。
狂戦士の腕がグシャグシャに拉げ、リリウスの拳が砕ける。リリウスは狂戦士の首の肉を食いちぎった。
「馬鹿な……精霊を取り込ん、いや………融合?」
「キヒャ…………ヒャッハハハハハハハハ!!」
溢れ出る魔力。体を包む万能感。
成る程、生まれたばかりの強化種が階層主に挑めるわけだ。
昔日の英雄が、時にはただの村人だった者が戦えるわけだ。
と、そこでリリウスは遠くに目を向ける。
半ば獣とかした本能が脅威を感じ、理性が自分の役目を思い出した。
「じゃあな玉足らず共、後は任せた」
食えば食うほど一時的に能力値が上昇する
どころか、精霊の力そのものによる強化はLv.5と言えど理性を失った獣共には対処不能の走力を生み出し駆け抜けた。
「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」
長文詠唱。それに相応しき魔力がリリウスの体から溢れ出す。
「【首となっても歯を突き立てろ】」
向かうはオラリオを揺るがす強大な気配。あの女にも匹敵する、自分以上の餓獣の気配。
「【
そして、文字通り都市そのものが震えた。
爆発による影響ではない。たった一撃。リリウスが感じ取った気配を中心に響く轟音。
「っ!【貪り喰らえ、
オラリオの誰もが呆然と動きを止める中、何かが壁をぶち抜きながら壊れていくのを無視してリリウスは剣塊を振り下ろした覇者………破者を睨む。
「来るか」
「【ラーフ・シュールパナカー】!!」
リリウスの口元をどす黒い魔力が覆う。
リリウスの動きと連動して餓鬼の顎が開かれる。その効果の一つは
どれだけ熱かろうと冷たかろうと、大地だろうと水だろうと、現象だろうと現状だろうと、硬さも実在も何もかも無視して
「!!」
正面から迎え撃つつもりだった男は、歴戦の勘で脅威を認識する。咄嗟に飛び退き、瞬間―
真空となった空間に空気が吸い込まれ、男の血も飛ばされた。
「惜しかったな、小僧………」
想像以上の威力に、範囲。左腕を食い千切られながらも、ザルドは眼の前の少年を見据える。
あれだけの威力。短文詠唱はあり得ない。そして、
「小僧………?」
だが、様子がおかしい。大穴の向こうにいる少年は突如膝をつき、おげっと吐き出す。
吐瀉物を浴びた地面が、溶けた。
「…………この、臭いは」
ズルリと少年の頭皮を突き破り
何より漂う
何もかもに見覚えがある。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
咆哮。
業風。
破壊。
吹き荒れる猛毒の
「ぬ、ぅ…………!」
今度は男が吹き飛ぶ番。剣で盾のように防ぐも踏み込んだ石畳は粉砕され何練もの建物を破壊する砲弾と化する。
建物より硬いのでダメージはないが、衝撃は大きい。
【ラーフ・シュールパナカー】。
魔法により喰らった対象の性質を、消化が済むまで自身に与える力。
遠くない未来、自分が嫌いで変身魔法に目覚める妹とは異なる、弱い自分を嫌い強者の性質を得ようとする変
一度に何もかも喰らった場合、変質させるのは使用者の判断。リリウスにとっての誤算は、彼が喰らったモノの中で最も力を持っていたのが、男の血肉ではなく、男の体を今も蝕み続けるある怪物の
「よりにもよって、都市を滅ぼさんとする俺の前にお前が現れるか…………ベヒーモス!!」
「グルアアアアアアアアアア!!」
大河を腐らせ森を滅ぼし山を踏み潰す。大地の王の力が、再び下界に顕現した。
【ラーフ・シュールパナカー】
防御不能の補食技。ただし使う相手によっては滅茶苦茶危険な魔法。
リリウス・ベヒーモス
モンスターが精霊を取り込んだダンジョンの子と神の子の融合体とは真逆の人がモンスターの力を取り込んだ状態。
現在リリウスの臓腑は毒により腐り始めている。