ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「キイ!」
「ん。そうか………」
偵察をしてきたスパルナ曰く、再びザルドとアルフィアは現れてないらしい。
負けたから再現する意味がないと判断したのか、あれだけの強さを新しく作るには時間がかかるのか………。
「また俺が都に近づいたら現れるか?」
「試せばいいわ。現れないなら、そのまま交渉しましょう」
「交渉ですか?」
とイリアが首を傾げる。
「一々兵士や巫女が出るのを待って魅了とか、面倒じゃない? 意図せずに力も見せつけたわけだし」
「…………………」
「リリウス?」
「兵士だけなら何人いても問題ない。ただ、強いのがいた」
視線を何度か感じた。あれは間違いなくアルフィアやザルドと同格。いや、制限時間のあった生前の二人や、動きの再現はともかく判断力は劣る再現体の二人よりも厄介な可能性もある。
「馬鹿な! Lv.7より上だと?」
「…………………」
リリウスの説明にヒュアキントスが驚愕し、アフロディーテ達神々は心当たりがあるのか考え込んでいた。
リリウスはイリアに視線を向ける。
「それは…………多分エピメテウス様のことだと思う」
「エピメテウス?」
「エピメテウス、だと?」
「ああ、天の炎で300年生きる女がいるなら、原初の使い手は3000年生きるのか」
昔日の英雄の存命に誰もが驚愕する中、リリウスだけは普通に受け入れていた。
漆黒のモンスターによる相性負けをするまで無敗の大英雄。そりゃ強いわけだ。
寧ろこの『原初の火』が降りた地では、リリウスの察知した強さよりも上の可能性が高い。
「じゃ、その老いぼれに引退宣言してやりましょう? 『原初の火』を消してやるってね」
「………………………」
「まあ、どうにも良くない考えを持ってるやつもいるみたいだけど」
と、アフロディーテはオリンピアを睨む。魅了した教団員で馬鹿騒ぎしていただけのように見えて、しっかり情報収集はしていたらしい。
「良くない考え? エピメテウスか?」
「そんなわけ無いでしょ! あの方は誰よりも素晴らしい方なんだから! ていうか教団員にもいるわけない!」
イリアが騒ぎ出した。リリウスは煩そうに眉をひそめた。
「リリウスにあたんじゃないわよ。ていうか、神の言葉に文句があるっての?」
リリウスを抱き寄せイリアを睨むアフロディーテ。仮にも捕虜の身であることを忘れていたイリアは思わず後ずさる。
「そもそも教団の中にどんな意思があろうと、リリウスが消しちゃうんだから関係ないけど」
「…………天の炎は天に還さないのか?」
「還せないのよ。あれは
「プロメテウスも、とんだ放火魔だな」
「人の主神になんて言い草!?」
「でも言い得て妙ね」
下界に炎を放ち、その炎が燃え広がろうとしている。プロメテウスの巫女の前で言うべきではないが、放火魔という呼称は中々的を射ている。
「………来ないな」
リリウスが再びオリンピアに訪れても、悪夢は具現化しなかった。やはりあのクラスを作り出すには相応の時間がいるのだろうか?
それとも、リリウスの中からあの二人を超える悪夢を探しているのか。
「それじゃあリリウス、門を壊しなさい。またあの悪夢に来られても厄介だし、手早く終わらせるわ」
つまり一気に攫うということだろう。と、リリウスが門を壊そうとした時、門が開く。
「ようこそ、異邦の客人」
「あら、客人なんて………どういう心境の変化かしら?」
「プロメテウス様からお告げがありました。アフロディーテ様と、その眷族を神殿にお連れするようにと」
「プロメテウス様から!?」
「ッッ! イリア? あなたは、魅了されていなかったのですか?」
説得を手伝うからとついてきたイリアは、巫女の言葉にバツが悪そうにアフロディーテの背に隠れる。
「この小娘は外の世界を知りたいとか言って私達に接触していたところを捕まえたのよ」
「………何をしているの」
「ごめんなさい、レア……」
女はレアと言うらしい。リリウスは女の背に立つ男をじっと見据える。
「お前がエピメテウスか」
「そこまでご存知でしたか。ですが今は、エトンと名乗っています」
「そうか」
リリウスは興味なさそうに視線を逸らし、直ぐに戻した。その手は腰にさした剣の柄に手を掛ける。
「やるか?」
「………失礼。つい」
殺気が漏れていた。だが消えた。
なら良いかとリリウスは剣から手を離す。そもそもこちらは侵略者なのだ。
「それで? どうして急に私達を入れる気になったのかしら?」
「プロメテウス様の意思を、我等が測ることは出来かねます」
「本当にプロメテウスの言葉なのか?」
イリアに聞いたが、オリンピアの誰もプロメテウスの姿を知らないらしい。女神なのか男神なのか………どのような容姿なのかも知らない。
声すら聞いたことがない。神の言葉は神殿の石碑に刻まれるらしい。逆に言えば、石碑に嘘の神託を書き記すことも可能なはず。何せそれが本当かどうか確かめようがないのだから。
「これまで我らは神の神託に従い生きてきました。今更疑う必要がありましょうか」
「……………?」
「………………」
リリウスは何か違和感を感じ取り、アフロディーテも目を細める。
この男、物腰は丁寧だがリリウスの言葉に真実を語るだけで応えていない。
「お前…………」
「……………ああ、面倒だな」
リリウスが一歩前に出た瞬間、取り囲む兵士と巫女達。
「え? え? み、皆?」
「イリア、こちらに来るのだわ!」
「勝手に接触した事は、後できっちり反省しなさい!」
イリアの友人だろうか? 二人の巫女がイリアに呼び掛ける。
「ま、待って皆! どうしたの? この人達を受け入れるんじゃ…………」
「いいえ。此処で、その
そのために敢えて誘い込み、囲んだ。
「そんな……! そんな筈、プロメテウス様がそんな神託をするはずがないわ!」
「控えなさいイリア! 神託を疑うなど、何事です!」
「!?」
イリアの訴えはレアの声にかき消される。神託を守り今日まで紡がれた歴史を否定したのだからそれも当然か。
「はっ、馬鹿らしい」
そんなやり取りを、アフロディーテは笑う。
「どんなにカッコつけようと、
「ッ! 女神の、『魅了』………! 私にまで影響を与えるか!」
「と〜ぜんじゃない! この私を誰だと思っているの? 最高にして至高の美の女神、アフロディーテよ!」
オーホッホッホッと高笑いするアフロディーテ。リリウスは何時ものように柏手でも送ってやろうとして、不意に止まる。
「………予想、しています。だからこそ、誘った!」
と、エピメテウスが構えるのは一振りの大剣。リリウスの中に眠る怪物の因子が、見下し、嫌悪し、警戒する。感じるは、神の気配!
「っ! 『魅了』を弾いた!?」
「ハハハハハッ! 成功したか! するだろうさ! これこ──ぬぅ!?」
悪党の高笑いと自慢話に付き合うのは物語の英雄なので、当然リリウスは無視して斬りかかる。
不意打ち。されど英雄、防がれる。
鋼鉄すら容易く断ち切るフロストペインで傷一つ付かない。
「小癪な! 焼き払え!」
腕力でリリウスを弾き飛ばし叫ぶ。神であるアフロディーテや教団員であるイリアが近くにいる。それに戸惑うオリンピアの民。
エピメテウスは構わず炎を放つ。リリウスはアフロディーテとイリアを投げ飛ばした。
「キィ!」
Lv.2になり、人2人程度容易く運んで飛べるスパルナが持たされていた縄に2人を絡めると同時にリリウスが炎に包まれる。
「エピメテウス様!? まだイリアが………!」
リリウスが逃さなければ焼かれていただろう。思わず叫ぶ巫女の訴えに、しかしエピメテウスは鼻を鳴らす。
「下界の救済の為、その身を犠牲にする覚悟はこの場の誰もが持っている。そうだろう?」
「そ、それは……!」
「それに、敵を前に目を逸らすな」
「…………え?」
あれだけの業火。たとえLv.7でも……と視線を向ければ、リリウスの体を包む炎が勢いを失い…………いや、食われていく!
「俺に通じるレベルの業火…………」
「当然だ。私の炎を、巫女共と同等と思うな………そして、
最後の言葉は、リリウスしか聞き取れなかったろう。聞いたとしても意味は聞けまい。何せ、その真意を聞く前に────
『オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「「「────!?」」」
都が震える。偽りの景色が剥がされ、朽ちた都の姿が晒され………
『オギャアアアアアアア!!』
ただ篝火を灯すだけの燭台から凄まじい勢いで赤黒い炎が噴き出る。
炎が集まり、形を成す。いや、
不定形に蠢き、ギョロリと複数の目玉を実体化させる。一瞬沼の王かと思ったが、違う。これは
爛々と輝く瞳が見つめる先はリリウス。瞳に宿る感情は無機質な怒りと、恐怖?
『オギャアアアアアアアアア!!』
「ッッ!!」
放たれるは光線。咄嗟に回避するも、通過した箇所が纏めて薙ぎ払われる。
炎が津波のように地面を流れながらリリウスへ向かい、咄嗟に上に跳ねる。
街中から、
「ドゥルガー!」
ドゥルガーに無数の盾を生み出させるも、一瞬で熔かされる。威力が落ちた熱線を更に黒風と黒氷で防ぐも、巨大な炎の腕がリリウスに叩きつけられた。
『オギャアアアアアア! アアア!! キャア、ハハ………ギャハハハハハ!!』
無邪気な子供のように、しかし蝶の羽を千切り蟻の巣に落とす、
悪意が目覚めた。
おはよう。否、この言葉は相応しくないだろう。
はじめまして、おめでとう。
怒りと悲しみと憎しみと…………負の感情しか知らぬ、無垢なる邪悪が下界にて産み落とされた。