ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「似合ってるぜ、リリウス君!」
「……ん」
ベックリンが親指を立て褒める。
リリウスが纏うはアフロディーテがいざという時のために用意していた装備。
中位の火の精霊も含め、リリウスも用意だけさせられた護符に
リリウスが持ってきていたヴリトラの鱗に学区からくすねた
様々な火の耐性を持つ素材をふんだんに使った耐火装備。ドラゴンの炎からすら、装備者を守ることだろう。
「に、似合ってます………」
とはカサンドラの言葉。アポロンは多くは語らない。腕を組んでウンウン、と頷く。
「だが実際問題、どうやってあの中に突入する? また食うのか?」
アルテミスが尋ねるのは炎のドーム内への侵入方法。オリンピアの神殿を中心に街のほとんどが覆われ、周囲を炎人や炎の獣………炎獣が跋扈する。
それを抜けて炎のドームにたどり着いたとしてもいかなる魔法も意味をなさないだろう。唯一、この世界でルール破りもいいところなリリウスの捕食魔法なら一部を食えるだろうが。
「それだけじゃ無理だな。中まで通らないし、再生されるだろう。鍵がいる」
「…………鍵?」
「……………パンドラめ」
女神を独占するように閉じこもる殻を見つめ、エピメテウスは顔を歪める。
3000年、自身と共に穢れ続けた炎は今や意思を持ち、下らぬ『愛』にうつつを抜かした。
「エピメテウス様………教団員の確認が終わりました。行方不明者数人………何人かは、やはり穢れた炎に飲まれたかと」
「…………そうか」
別に、思うことなど何もない。そうなる事を解った上で、それでも自身の覇道を優先したのだから。ほんの僅かな時間目を伏せたのは、手駒が減ったことへの苛立ち。それだけだ…………。
「あれが、プロメテウス様の神意なのでしょうか?」
悪夢の具現化という、暴走の兆候は見えていた。ウェスタがいない今、暴走を起こせば誰も止められないはずだったが、美の女神の『魅了』という誰も予想しえなかったイレギュラーで一先ず収まった。
「このまま、ウェスタが降臨なされるまでお待ちするべきでしょうか?」
「それでは意味がない」
「…………はい?」
「『原初の火』を守るは我らオリンピアの役目! 我々もあの中に入るぞ。あの小僧を探し出せ」
オリンピアを守護する結界を破壊したリリウス。その魔法もこの目で見た。
『穢れた炎』そのものが意思を持ちパンドラへと変質したが、細胞全てを己の意志で操れる動物がいないように、パンドラも己の全てを扱えているわけではなさそうだ。
「あの老害英雄をぶん殴って言う事聞かせて、炎を破る」
「あの若輩英雄の手足を切り落とし、その牙を利用する」
奇しくも同時に、古い英雄と新しい時代の英雄候補が出した結論は互いの再会を約束させた。
「とは言え武器の性能がな…………オリンピアから離れた土地なら………いや、あのクソガキがアフロディーテに夢中ならあるいは」
氷爪フロストペインはその名の通り氷属性の
瞬間冷却は、エピメテウスの瞬間火力で無効化どころか焼き尽くされる。
と言うかその前に折れる。今もちょっと欠けてる。
「やっぱ打ち直すか」
「それは?」
と、【アフロディーテ・ファミリア】は折れた剣を見て尋ねる。
リリウスの主装備であったマーダ。古代の怪物でこそないが、その鱗の硬度は彼等にも迫る規格外の硬さを持っていた漆黒の蛇竜の逆鱗から造られた剣。後、炎に強い。
「アンタレスの甲殻も混ぜて、後アレスの鎧の欠片も……」
精霊の力を通しやすくするために『沼の王の心臓』の一部も混ぜてみよう。黒龍の鱗を食った
「でもそれを加工できる設備は何処にあるんだい?」
「あそこ」
と、リリウスが指差すのはオリンピア。
「街に鍛冶場があった。あのドームのサイズなら飲まれてないはずだ。近くにちょうどいい炎もある」
「まって!? それって、あそこに近付くの!?」
炎人も炎獣も犇めく死者の都となったオリンピア。迎撃措置として、悪夢が生まれることも考えられる。近づくなど自殺行為だ。
「どの道死ぬ」
「でも、アフロディーテ様が抑えているんでしょ? なら、後はウェスタが降臨なされば…………それまで、待っていれば」
「待ってたら死ぬさ。恐れて逃れば、俺は死ぬ。ここで死ななくても何処かで死ぬ。それから逃げても、黒竜で死ぬ」
「こ、黒竜だって誰かに倒されるかも」
「? 俺が今、一番強い冒険者なのにか?」
ランクアップすら可能なリリウスは、間違いなく現存する眷族では最強だろう。Lv.8どころか9すらいて負けたのに、未だLv.7が増えないオラリオに、何を期待しろというのか。
「今のオラリオには先導者がいない。それ以上を知ってるくせに、そこを見つめるだけで歩まない。だったら、俺が強くなるしかねえだろ。そうじゃなきゃ、巻き添えで妹まで死ぬんだから」
そうしないために、リリウスは力を求め続けたのだから。
「……………あ」
「ん?」
炎のドームが揺らめき、何かが現れる。規格外サイズの女の上半身………それより巨大な青銅の鎧に、漆黒の蠍と、軽やかにドームの上へ駆け上がる醜悪な笑みを浮かべた巨人。
離れていても感じる威圧感は、【アポロン・ファミリア】でも経験したことがないほどのものだった。
「な、なんだあれは!? 一体、誰の悪夢だ!」
「か、過去の怪物とか…………?」
「いや、全部俺がオラリオ出てから戦った奴等だな。流石にオリジナルには劣るが」
「……………貴方、どんな冒険してきたのよ」
色々言いたかったイリアは、それしか言葉が出てこなかった。