ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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プロメテウス

 地獄があった。

 涙が大地を濡らし、流れる鮮血に染められる。

 悲鳴が空へ響き、今日も命が何処かで尽きる。

 

 世界の果てから溢れる無限の怪物は人を喰らい、喰らわずとも殺し、悲鳴の聞かぬ日はなかった。

 都へ逃れてきた流民は、果たして始まりの半数も残ったのか。

 

 誰もが絶望し、何時しかその国は災いの地(パンドラ)と呼ばれるようになった。

 男は一人、丘の上で祈り続けた。別に、神がそれを見ていたのかは知らない。

 

 後の伝聞によれば、大神(いかずち)から逃げながら地上に落としたと聞く。ならば、それは偶々だったのだろう。

 

 偶々、その男は選ばれた。

 

 

 

 

「……………………夢?」

 

 リリウスはくわぁ、と欠伸をしながら起き上がる。常に飢えてる彼は夢を見る前に腹が減って起きるか、或いは腹に穴が開く夢ぐらいしか見ないのだが。

 

 さて、どんな夢だったか?

 うまく思い出せないが、馬鹿な男の夢だった気がする。優しすぎると言ってもいい。

 

 リンデェウスも呆れていた。

 

「………リンデェウス?」

 

 誰だそれは。都から離れたとはいえ、寝苦しい暑さにどうにも変な夢を見ていたようだ。

 

「……………ん?」

『アアアアア』

 

 暑いわけだ。炎人が直ぐ側にいた。

 パンドラが自分を狙う可能性を考えて離小島で寝ていたが、どうやら消えぬ炎の体で海を渡ってきたらしい。霧というか、湯気がすごい。

 

 なんなら一部は鳥に姿を変えて飛んでいる。

 

「……………?」

 

 だが襲ってこない。リリウスを取り囲むだけ。

 リリウスが訝しみながらも歩くと道を開けた。敵意を感じない。と言うか、この炎人達は赤黒い『穢れた炎』ではなく、煌々と輝く赤い炎でその身を形成している。

 

 『原初の火』………その上澄み。まだ神聖さを保っている天の炎? それが魂を閉じ込めるのか?

 とりあえずついてこようとするが、水の中だと速度が落ちるのでシハチの魔法で上空の個体ごと海に沈めた。暫くは出てこないだろう。

 

 

 

 

 

「あれも守護者か…………」

 

 殲滅に動く様子のない悪夢達。オリジナルに劣るとはいえ、それでも相応の力を持った怪物達は火のドームを守ったまま動かない。

 

 あくまで近付くものを焼き尽くすのだろう。さて、一体一体ならギリギリ勝てなくもないがあれ全部となると流石に死ぬ。

 

 見つからぬよう鍛冶場に向かえるだろうか?

 

「ほ、本当にあそこに向かうの?」

「ああ。ところでお前はなんでついてきてんだ?」

 

 リリウスは何故かついてきたイリアに尋ねる。『穢れた炎』の変容によりオリンピアを覆っていた結界は消え、【アポロン・ファミリア】主体で保護したオリンピアの兵士や巫女、周囲の村人達は避難を開始したはずなのだが。

 

「だって、心配だったんだもの……………」

「シャバラはともかく、よくシュヤーマをまけたな」

 

 シャバラは肉でもやればそっちに夢中になるだろうが、シュヤーマは真面目だからそんな手には乗らない。ではどうやって?

 

「それは…………」

「…………」

 

 イリアが答えに迷っていると、茂げみから複数の影が飛び出してきた。オリンピアの兵士と巫女達だ。

 

「アエミリア、ミヌキア!?」

「イリア……無事だったのね」

「安心したのだわ」

 

 イリアの知り合い………反応からしてそれなりに親しい仲らしい。

 

「皆! ここは危険よ、浜辺に行けば、アポロン様達がオリンピアから避難を………!」

 

 【アポロン・ファミリア】、【アフロディーテ・ファミリア】、【アルテミス・ファミリア】は現在周囲の村人の保護と避難を行っている。

 実際彼等が揃っていてもあの悪夢には焼き尽くされるだけだからだ。

 

「避難と言ったの、イリア?」

「………え?」

「そんな事、出来ないのだわ。私達は『原初の火』を守り、浄化されるその時まで聖域を守る使命を背負っているのだわ!」

「? あの爺一人居れば事足りるだろ。オマケが何いってんだ?」

 

 と、リリウスは純粋な疑問を尋ねた。もしオリンピアの全てが反旗を翻したとしてもあの英雄はたった一人で殺し尽くすだろう。その隙を狙い神の眷属が攻めたとしても、無限の火の力(リソース)を持つエピメテウスを倒せるのはそれこそ全盛期の【ゼウス】や【ヘラ】ぐらいだろうと予測する。

 

 兵士も巫女も居なくてもエピメテウス一人がいれば聖域の守護は約束されていた。

 そう言い切られて、巫女や兵士達はプライドが傷つけられたのか顔を歪める。

 

 それでもそんな事はないと叫ぶのはエピメテウスへの信頼…………いや、信奉故か。

 

「とにかく、ついてきて貰うのだわ」

「エピメテウス様がその力をご所望よ」

「………………」

 

 そりゃ、リリウスが炎のドームを超えるためにエピメテウスを狙うのだから、向こうも狙ってきて当然か。

 

「殺そうとしてくる奴らに、素直に従うと思ってんのか?」

「「「ッ!!」」」

 

 リリウスが剣を抜く。双剣のフロストペインの片割れだけ抜くのは、それだけで十分だから。

 

「そもそも、役目を終えた俺を生かすのかお前等」

「…………神託において、プロメテウス様は貴方を殺すようにお命じになったのだわ」

「ならば、それを叶えるが我等巫女の使命!」

 

 正直だ。いや、彼女達なりの配慮だろう。好きなだけ恨んでいいから死んでくれということだ。

 

「イリア、貴方は離れているのだわ!」

「へっぽこ巫女の貴方じゃ、巻き添えになるだけ」

「…………へっぽこ巫女?」

「っ! う、うるさいわね! 仕方ないでしょ、私だけ炎を操れないんだもの!」

 

 と叫びながらイリアはリリウスを庇うように両手を広げ巫女達と向き合う。

 

「どういうつもり、イリア?」

「だって、こんなの………おかしいよ! リリウス達は、私達を助けるために来て………『穢れた炎』の暴走だって、私達がリリウスを攻撃したからなのに」

「神託に逆らうと言うの!? なんて愚か。そこをどくのだわ!」

「さもなければ、たとえ貴方でも……!」

 

 炎が灯る。その彼女達が操るのは穢れていない上澄み。パンドラによる総量(リソース)の変動はないはずだが、明らかに弱まっている。

 

「待って、皆! 話を聞いて!」

「聞く耳を持たないのだわ!」

「神託の成就は絶対。オリンピアが建設され、これまで守られてきた破られてはならない誓い!」

「そもそも、その神託誰が用意したんだよ」

 

 言い合う巫女達にリリウスはどうでもよさそうに尋ねる。

 

「あの時お前達の主神はずっと俺達と居たのに」

「…………………は?」

「何を訳のわからない……いや、不敬なことを!」

「不敬も何も、お前等こそ主神に弓引き炎向けてるじゃねえか」

「……………え?」

「お前等の主神、プロメテウスはこのイリアだろ?」

 

 と、リリウスの言葉にイリアに視線が集まった。イリアは数多の視線を前に明らかに狼狽し、視線に耐えきれぬように俯き両手で頭を抱え、腕で顔を隠す。

 その姿は神には見えず、ただの少女の如き。

 

 

「い、いきなりなんてことを言うのよリリウス! 私がプロメテウス様なんて、そんな事………………()()()()()()()()()()()()

 

 そしてその少女は一瞬で消えた。

 代わりにそこに立つは、神威纏う美しき女神。

 

「オリンピアに来た時。全員から、お前の血の匂いがした」

 

 前髪をかき上げたプロメテウスはリリウスの言葉に眉をひそめる。まさか、そんな原始的な獣の如き方法で見破られるとは。

 

 と言うか血の匂いって、炎を操るきっかけを与えるため恩恵を刻んだのは300年前に一人一度だけしかしてないのだが。

 

「このような形で眷族(こども)達に正体を晒す羽目になるとは。さて、巫女の言葉は聞けずとも(わたし)の言葉なら耳を貸すか、眷族(子供)たちよ」

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