ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
轟音が響く。
リリウスが炎で再現した悪夢……いや、憧憬達が悪夢と戦っている。
「チッ」
それでも街の中に潜む蠍型の炎獣や、沼と炎を纏う炎獣が鬱陶しい。
地上でありながら、まるでダンジョンさながらの無限の軍勢。
「邪魔だ!」
それを黒炎で焼き尽くすリリウス。『天の炎』は使わない。恐らく使った分だけ減るからだ。
使わずに済むなら消費を抑える。
「止まりなさい!」
「……………プロメテウス教団」
「レア…………」
目の前を炎の壁が覆う。放ったのはプロメテウス教団のレアを筆頭に、巫女と兵士達。
「イリア? 何故、その者と共に………ミヌキア達は………」
「……………神命にて、この地より避難を命じたよ、レア」
「「「────!?」」」
イリア………プロメテウスが神威を放ち、正体を現す。それこそ神にすら違和感を抱かせなかった彼女の擬態を人間が見破れるはずも無く、ただの少女だと信じていたイリアの変質に誰もが固まる。
「……貴方は…………貴方が、プロメテウス様………」
「ああ………」
理解が早い。誰かは知らずとも、オリンピアに住む誰かではあるとは思っていたのかもしれない。まあ眷族がいるのだし当たり前か。
「では、これまでの失態も、我々に感づかれぬための演技だったのですか?」
「そうだ」
「シアテ達とお菓子を作ると言って、私の部屋を煤だらけにしたのも演技だったのですね。あの情けない姿に、すっかり騙されました」
「…………………………………そうだ」
「………………」
だから何だと言われるかもだが、リリウスは嘘を匂いで見抜ける。
「お前達に与えられた神託はエピメテウスの暴走。奴は、この下界を滅ぼすつもりだ」
「「「────」」」
やはり、困惑しつつも何処かその事実を受け入れている。オリンピアの誰もが可能性を考えていたのだろう。
「だから、炎を収めよ。どうか、この地から離れてほしい」
「………………それで、シアテとシオンは、救われるのですか?」
ただ、レア1人だけが他とは何処か違った。唯一彼女だけがプロメテウスに問いかける。
「あの子達の魂は、解放されるのですか!?」
「……………………
プロメテウスは、己の眷族に偽りを伝えず、残酷な現実を告げた。
「ウェスタ無くして行われる救済はない。汎ゆる炎神、太陽神を以てしても、成せるのは
取り込まれ、薪とされる魂ごと消し去る。それが聖火ならざる炎に許された唯一の奇跡。
レアの瞳に、一筋の涙が流れる。続いて放たれたのは炎。
「!!」
「レア様!?」
プロメテウスへ弓引く行為に兵も巫女も驚愕する。リリウスが庇わなければ、プロメテウスは送還されていただろう。
「ならば、あの子達に救済がないというのなら………私は、エピメテウス様の願いを叶えましょう」
「レア様、何を!?」
「あの子達を救えぬのなら、私は、もうあの方を裏切る訳にはいかないのだから!!」
「……………」
プロメテウスは、その言葉にただただ悲しそうに目を伏せる。
「救いになれずとも、あの方に報いねばならぬのです!!」
「そうか。じゃあ…………殺す」
死ね、でもなく。無言でもなく、リリウスは殺すと宣言した。忠誠でも使命感でもなく、罪悪感の為に強者に向かう女を殺す。ただそれだけ…………と
『キャホ!』
そんな女の罪悪感も、或は兵士や巫女の使命感も無視して嘲弄の巨人が降ってくる。
ただ着地しただけで大地が揺れ、オリンピアの兵士達が吹き飛ぶ。
『ホホホゥ。キャホホホホホ!!』
悪夢達は基本的な目的は接近する者の排除。クランプスもまた、本来ならリリウスが再現した3人の対処に向かうべきだ。
だが、行動はリリウスの記憶に依存する。
侵入者を滅ぼすという使命を果たした上で、クランプスが取るであろう行動。強者にも挑みはするだろうが、パンドラからオリンピアの記憶を授かっているのならこちらを優先するだろうと予想した、蹂躙劇。
記憶の中に宿る悪辣な悪夢は、悪辣さをそのまま弱者へ牙を剥く。
「【アロ・ゼフュロス】!!」
その爪を防ぐは、炎の円盤。触れ合った瞬間爆発し、爪を弾く。
『キャホ!?』
「…………お前等は」
「混戦か。戦も佳境といったところか」
【アポロン・ファミリア】に【アルテミス・ファミリア】。避難民を無事避難し終え、戻ってきたらしい。
「【アルテミス】はともかく、【
「ふん。私とて、主を危険にさらす気などなかったさ!」
「だが、珍しく彼女が勇気を出したからね」
と、アポロン。神もこの場に来ていたらしい。
遡ること数時間。
保護していたオリンピアの民を送り届けた後の方針について話し合っていた一同。
【アポロン・ファミリア】は当然このまま待機。中堅派閥が手を出していい案件ではないからだ。そんな中、一人の女が声を上げた。
「も、戻って………戦いましょう!」
「カサンドラ? また下らぬ予知夢か……」
呆れたように言うのはヒュアキントス。カサンドラは時折予知夢を見たと寝言を吐く。誰もそれを信じない。当たっていないから? 的中率は…………いや、どうでもいい。
「貴様の妄言で部隊を動かすわけがないだろう」
何時も断って、それで終わり。悲観すぎるから妙な夢にうなされるのだと切り捨て、カサンドラが落ち込んでダフネに縋って終わり。そのはずだった
「ちがっ………違います!」
カサンドラが叫んだ。
「わた、私………何も、してませんでした。何も、やって来ませんでした………あの人みたいに、戦わなかった…抗わなかった」
戦って、何も変わらないかもしれない。予知からは逃れられないかもしれない。
でも、戦えば何か変わるかもしれない。
「おね、がいします……アポロン様!」
「カサンドラが私の目をまっすぐ見たのなんて、はじめてだからね。子供の思いを踏みにじる親になるわけには行かないだろう?」
アポロンはウインクしながら笑う。
「アルテミス様………アポロン様がまともな神に見えます」
「目の錯覚………と言いたいが、アポロンは本来ならまともな神だ」
アルテミスは不服そうにそう言った。
「リリウスきゅん、ここは我々に任せて、先へ行きなさい!」
「……………【アストレア】」
と、炎が溢れ出し象るは正義の乙女達。
特に元々炎を操る団長はリリウスの知る頃よりは確実に強い。
「【ロキ・ファミリア】か【フレイヤ・ファミリア】は出せんのか?」
「俺、彼奴等イメージ出来ないから無理」
あくまでリリウスの記憶から象る再現体。リリウスがあまり記憶してない相手を作ることは出来ない。
「チッ。ならば、さっさと行け………!」
「ああ」
そう言うとリリウスはイリアを担ぎ駆け出した。
『『『オオオオオオオオオッ!!』』』
「邪魔だ」
鍛冶場には武器を打ち続ける炎人が居た。肉を失い、骨を灰とされ、剥き出しの魂を焼き続けられながら鍛冶師の執念で武器を打ち続けていた彼等はリリウスに吹き飛ばされた。
『オ、オオオ! 打た、ねば………あの剣を超える、武器を』
「五月蝿え」
執念深く残っていたがリリウスに炉に突っ込まれた。過去の眷族の扱いにプロメテウスはなんとも言えない顔をした。
「道具は揃ってるな。使わせてもらう」
上着を脱いで、髪を結わえる。
世界を焼き尽くす炎は、ヴリトラの鱗すら赤く発光させる。かなりの時間炎につけていないといけないが。
金鋏は途中で熔けたので素手で掴むリリウス。
鉄を打つ音が響いた。炉から抜け出そうとしていた炎人達もその音に大人しくなる。
水は、ない。リリウスは手首を噛み千切り血をかける。
精霊の血も混ざった、未知を宿す下界の住人の血が鉄を冷ましながら焼き付いていく。
「そこをどきなさい!」
「退かぬは、愚か者!」
『アアアアアッ!!』
まさしく混戦。困惑しながらもレアに従うオリンピアの兵士と巫女、困惑したまま逃げるだけの者もいる。
【アルテミス・ファミリア】や【アポロン・ファミリア】と戦うのは彼等だけでなく、炎獣、炎人、クランプス。
叫び声と唸り声が響く中、アリーゼを模した炎がその足音に気付く。
「退け」
混戦を、業火が焼き払う。
混戦の騒音は、英雄をその場に呼び寄せた。
『キョホホホホホ!!』
「黒の怪物の複製か…………所詮、真似事だ」
脅威を正確に感じ取り排除しようとするクランプス。英雄は剣を薙ぐ。
「【
炎が巨人を焼き尽くした。