ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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神奪武器

 鉄を打つ音が響く。

 天の炎が上げる火の粉がLv.7の肌を焼く。

 

 肉の焼ける匂いと鉄を打つ音と炎の熱が籠もる部屋。

 

 カンカン規則正しく力強い音は、何時しかカカン、カカンと連続した音に変わる。

 リリウスはもう炉に向かったりしない。炎そのものが来たから。

 

「…………………」

『…………………』

 

 炎人達が『相槌』を打ち、炎を運ぶ。誰も何も言わずとも、ただ鍛冶師である事実が彼等を繋ぐ。

 プロメテウスはその光景を眺める。

 

 変化が起こり始めた。まずは炉の代わりをしている炎人が少しずつ小さくなっていく。

 いや、その体が(ほど)けるように崩れ、リリウスの血が染み付く剣に取り込まれていく。

 

 相槌を打つ炎人達も体が崩れていく。炎の肉体を失い、魂が真の意味で剥き出しになっていく。

 

「…………まさか」

 

 

 

 

「………エピメテウス」

「エピメテウス様………」

 

 強大な怪物を一撃で焼き尽くした英雄に、誰もが固まる。炎人と炎獣、小型の悪夢が襲いかかるが一瞬で焼き尽くされた。

 

「あの小僧は何処だ?」

 

 【アポロン・ファミリア】も【アルテミス・ファミリア】も見ること無く、レアに問いかけるエピメテウス。

 

「………奥に、イリア………いえ、プロメテウス様と」 

「ッ! プロメテウス、だと……!」

 

 千年間、地上に降りてその正体を隠し続けた神の名にエピメテウスは憎々しげに顔を歪め、早足に向かおうとする。

 

 それを遮るのは炎の乙女達。

 

「…………妙なことが起きているようだな」

 

 超大型級の悪夢と何かが戦う轟音を聞きながら呟く。

 

「随分と、余裕ではないか」

「………………」

 

 ヒュアキントスの言葉に漸く彼等に視線を向けるエピメテウス。しかし直ぐに興味も失う。

 

「失せろ。どの道この世界の終わりと共に燃えて消える命。少しでも長生きしたかろう?」

「エピメテウス様………本当に、この世界を………?」

 

 エピメテウスの言葉に兵士の一人が震える。

 

「ならば、どうする?」

「! 我等は、この世界が救われることを願い、今日まで炎を守り続けてきたのです!」

「そうか。ならば、異邦者共々死ね」

 

 敵が増えたことに特に気にすることもなく悠然と歩むエピメテウス。

 

「図に乗るな、過去の亡霊が!」

 

 こちらを完全に無視しているエピメテウスに斬りかかるヒュアキントス。それに続く【アポロン・ファミリア】。

 【アルテミス・ファミリア】も動き、救済の為、オリンピアの戦士や巫女達も駆け出した。

 

 対する英雄の返答は…………()()()

 ()()()()

 

「ぐあああああ!?」

「きゃああああ!!」

 

 冒険者も狩人も巫女も兵士も纏めて吹き飛ばす。

 堕ちた英雄を阻める者は、そこにいなかった。

 

「エピメテウス様」

「レアか。俺はお前がプロメテウスか、首輪かと思ったのだがな」

「…………………」

 

 レアは何も言わない。ただ俯くだけ。

 エピメテウスは興味を失ったかのように歩き出そうとすると、今度は炎人達が現れる。

 

『アアア……………』

『アアアアア!!』

「…………シアテ」

 

 その中に混じる小型の炎人にレアは視線を向けた。

 

「精々薪として燃えるがいい、弱き者達よ」

 

 パンドラは確かに『穢れた炎』の化身ではあるが、炎が燃え広がろうとする本能は健在。彷徨う炎人達は薪となる魂を求め、人を襲う。それは何も変わらない。

 

「神威で止めよう、などと思うなよ神共。その瞬間、こいつ等を一切の抵抗ができぬようにしてやる」

 

 つまりは、神の送還。いや、あの剣ならば神の殺害が行われるだろう。恩恵を失えばたとえ走れたとしても炎獣に喰われる。

 

『────!?』

「…………なんだ?」

 

 今まさに新たな魂を取り込もうとした炎人達が固まり、エピメテウスもまた身に宿す炎の疼きを感じ取る。

 

「ッ!!」

 

 次の瞬間、現れたのは炎の蛇。炎人、炎獣、悪夢を一瞬で飲み込む。

 

「ちぃ!」

 

 炎を纏う悪夢ではない。炎獣にしてもでかすぎるし、内包したエネルギーが桁違いな蛇にエピメテウスが炎を放てば容易く散る。

 

 飲み込まれた炎人達も直ぐに魂を炎が覆い復活する…………筈だった。

 

「……なんだと?」

 

 炎は空気に溶けるように消えていく。取り込まれた炎獣や悪夢はともかく、炎人すら復活しない。

 

「……………魂を包む炎だけを焼いた? いや、これは」

()()()()…………()()()()()()()()()?」

 

 何が起きたか、それを見抜いたのは神々のみ。だが、その言葉を聞けば何が起きたか理解出来る。

 

「それは、つまり………あの子達の魂は」

「解放、された…………」

 

 

 

 

 炎が舐める道を歩きながら、リリウスは剣を見つめる。

 今の感覚を知っている。最初に喰った炎人から魂を吐き出した感覚。魂を知覚できないリリウスは、また炎に囚われたのかと思っていたが………どちらにしろ、この炎は魂を捉えようとする炎すら喰らう。

 

 リリウスの血を浴び、肉を焼きながら鍛えられた剣は旺盛な食欲を持つらしい。

 蛇を象る炎を巻き付け、リリウスは戦場へと足を踏み入れた。

 

「………小僧!」

「エピメテウス………」

 

 両者が持つ剣は、間違いなくこの地上において2つしか存在しない天の炎を操る武器。

 片や、間違いなく神創(しんぞう)武器。

 

 だが片方は、天の炎(デミ・アルカナム)で鍛えられながらも、神創(しんぞう)武器のモドキと呼ぶことすら憚れる。

 

 下界の未知を宿した異質な武器。神々の造りし武具防具すら飲み込む獣の力を宿した神奪(しんだつ)武器。

 

「急かされて飛び出す羽目になった。さっさと仕上げしてえから、ぶっ飛ばしてその剣貰うぞ英雄」

「ほざくな、若造が!! その牙を利用してやる、精々死ぬな!」

 

 3000年生き続けた古代の大英雄。

 現在を駆ける英雄候補。

 

 二人の強者が、互いの剣から炎を放った。

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 分厚い炎の壁に覆われた街の一角。その中央でアフロディーテは顔を上げた。爆音が聞こえた気がしたが………まさか、外で大規模な戦闘でも起きているのだろうか?

 

『アアア…………マァァァァ……………』

 

 アフロディーテが外に意識を向けると炎が絡みついてくる。熱くはない………。

 

『ママァ…………』

「………………」

 

 パンドラの知性レベルが上っている。他者を見ることで、自分を客観的に見始めた。何時だったか子の成長は予想もつかなくて楽しいと言っていた神がいたが……まさしく、神の予想もつかない未知が訪れようとしている。

 

「リリウスだけで十分よ全く…………」

『ウゥ………ウウウ…………!!』

「………?」

 

 パンドラが唸る。嫉妬? 或いは警戒? それとも恐怖?

 いや、これは…………怒ってる? かと思えば、今度は悲しみだした。

 

 自己を確立し始めたパンドラが、己の中に混じった負の感情に苛まれ始めた。

 

「………嫌な予感しかしないわね。ほら、パンドラ? 私だけを見ていなさい?」

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