ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
三大
太古より地上に現れ人類を蹂躙した力ある古代の怪物達。
神の恩恵により強化した冒険者達が挑んで尚千年近く敗れ続けた規格外の三体の怪物。隻眼の黒竜もそのうちの一つ。
だが、内2つは討伐された。
数多の船を沈め、海岸の街を沈めた海の王リヴァイアサン。
そして、万物を侵す猛毒と漆黒の竜巻を操る大地の王ベヒーモス。
そのベヒーモスにとどめを刺したのは、【ゼウス・ファミリア】の
大地の王は死に、その脅威は地上から姿を消した…………筈だ。
「ガルルルウ、ウゥ………ガァ!」
ゴボリと吐瀉物を吐き出した黒獣は曲った刃がついた鎖を振るい、
「カァ、ハァ…………!」
「…………成る程。
「ガアアアアア!!」
ザルドの剣を殴りつけ砕けた傷が癒えた。恐らくは、
高い自己治癒能力。森すら腐らせた陸の王の毒に、回復力で無理やり抗っている。
「グルアアアア!!」
「ぬうう!!」
振るわれる拳。器に合わない力により壊れる肉体をベヒーモスの再生能力により治し、それでは足らぬ毒による侵食は他の命を喰らい癒やす。
『力』も『敏捷』も現オラリオ最強を超える。だが……
「奴程ではない!!」
当たり前だがかの巨獣の一撃はもっと重かった。小柄な分速度は速く感じるが、反応出来ないほどではない。
問題は呼吸とともに周囲に溢れる猛毒。
耐性をつけた装備がなくては耐異常を持っていようと致死となる原種の猛毒ほどではないにしろ、それでもLv.7の耐異常を超えてくるのは間違いない。
「ぬおおお!!」
「ぎっ!!」
ザルドの拳がリリウスの腹にめり込む。建物を溶かしながら吹き飛ぶリリウス。だが、毒による腐食は兎も角外傷ならベヒーモスの生命力で癒やされる。例えオリジナルに劣れど、オリジナルの山のような巨体を支え続けた生命力の万分の一でも持っていれば
「カハァ…………ガルアアアアアア!!」
吹き荒れる
Lv.7へと至った絶技を持って、理外の怪物に挑む。
「ルウウ………ガアアアアア!!」
黒い竜巻をまとった拳が地面を叩く。石畳を焼菓子を砕くかのように破壊しめり込む腕。次の瞬間、地面から
「ヅ、グゥ………グラアア!」
大規模な破壊。ここまでの破壊を行える者となれば、それこそザルドはこの場に来ている傲慢な女王や嘗ての団長達しか知らない。
「面白い、こい!!」
「カァ!!」
原種のベヒーモスでは行えなかった、
特に猛毒の
破者の剛剣と怪物の嵐の如き剛拳がぶつかり合う。
オラリオが揺れる。
弾かれた腕の逆の腕で殴る。男は反応する。
轟音。
轟撃。
轟烈。
Lv.7とLv.4の戦いとは思えぬ業と剛力、毒と怪力の応酬。
だが、長くは続かない。
ゴバッと溶けた臓腑を吐き出すリリウス。ベヒーモスの力に器が耐えられていない。
当たり前だ。千年前から最強として君臨し続けた
黒竜に劣るからといって、人類の身に余る力なのは変わらない。都市を荒らされた怒りか、或いは殺されたベヒーモスの怨念か、ザルドばかり狙い、補給せず毒が回復力を上回った。
「お前のLv.があと一つでも違えば、もう一つぐらいは四肢を失っていたかもな」
ボロリと灰色の角が崩れ、髪の色が黒から白に変わっていく。
恐らくは捕食したものの力を得る魔法で、ザルドの身を未だ侵すベヒーモスの
いやこれは、たったそれだけでここまでの力を数分使えるベヒーモスの生命力に慄けば良いのか、数分再現した彼の魔法を称えれば良いのか。
「だが、それでも届かん。あの絶望には………故に、俺の失望は消えない」
「……………か、ぇ…………」
ゴボリと赤黒い溶けた肉を吐き出しながら痙攣するリリウス。
「ここで果てろ、冒険者」
「それは困るな」
「!?」
「
突如発生する衝撃。満身創痍とは決して言えずとも、相応にダメージを負ったザルドを吹き飛ばす。
「【ディア・パナケイア】」
続いて発動する魔法。リリウスの傷を癒す………
「彼は、彼等の希望なのだ」
瓦礫を押しのけながら現れる巨大な鉄の戦士。
「この程度か………獣の獲物を奪おうなどと、命知らずもいたものだ!!」
視界は黒く、匂いも猛毒の刺激臭に隠れ、音も消している。だが、ザルドはそれでも襲撃者を捉えていた。
「ッ!! 怪物め………!」
ローブ姿の何者かに担がれたリリウス。下手人ごと切り裂こうと迫る剣塊に…………リリウスは
「ぬ!?」
「────!!」
パリッと静電気のような音が聞こえ、天から閃光が降り注ぐ。空気を切り裂く音、熱せられた大気がゴロゴロと唸る。
それは神の分身たる精霊が放つ奇跡。英雄時代に於て数多の怪物を討ち滅ぼした天の一撃。
「………………ふむ」
それを喰らい、しかしザルドは健在。
だが、取り逃がした。
「成る程、奴も
「精霊の力………しかし、何故?」
何故か魔法の効きが悪いリリウスを【ディアンケヒト・ファミリア】の近くに放置し、ローブの人物は先程の光景を思い返す。
あれは、下位精霊の気配。そしてそれはリリウスからした。感じた魔力は、下位精霊以上だが………。
「精霊の力を人間が宿す………私が産まれた時代でも、そこそこ見かけたが………あれではまるで【剣姫】だ。血に宿していた? あるいは………」
彼のスキルを考えれば、喰った? 敵対関係にある存在が精霊を持っていたのか?
まさか
都市中で同時に襲撃が起き、情報を精査できない。ていうか精霊を喰うってどうなんだ?
と、爆音が響く。また何処かで人か死ぬ。
悲鳴が消えない。殺戮が止まらない。
「…………してやられたな、ウラノス。これを考えた
数より質の神時代に、まさかの命と引換えの数の暴力。それでも最終的にはオラリオが勝っただろう。
だが、オラリオの総力戦を超えるLv.7を
状況は『最悪』。これ以上があるとするなら、それはもう『絶望』だ。
「………………何だと?」
ああ、それは間違いなく絶望である。
天と地を繋ぐ光の柱。人智を超えた莫大な光量。膨大なエネルギーの出現。
神の送還。
更に
終わらず
「主神の糞野郎が……………やられちまった?」
「──────恩恵がなくなったら、俺達は!」
「助けてくれえええええ!!」
恐慌。
狂乱。
恐怖。
神の恩恵が封印されただの人となった冒険者達を
抗えない。抗いようがない。
英雄は現れず、闇へと堕ちたのだから。
無力となった冒険者達の殺戮。
悲鳴が響く。断末魔の絶叫。
ゲラゲラゲラゲラと、殺戮に酔う
大地を震わせる光は尚も止まらない。
都合九柱。
天に還る神々の残す神々しい光の柱は、寒々しく冒険者達の心を凍てつかせる。
「今日までの無秩序な襲撃は、神々の『避難ルート』の把握のためか!!」
その過程で多くの
『聞け、オラリオ』
星空を飲み込む
『聞け、
オラリオの隅々まで響き渡る声。それは
『約定は待たず。誓いは果たされず。この大地が結びし神時代の契約は、我が一存で握り潰す』
高慢。
悪逆。
邪悪な神意が高らかに掲げられた。
息を呑む秩序の神々に。
ボロボロの冒険者達に。
天に祈ることも忘れた民衆に。
優しく首を絞めるように、ドス黒く染まった祝詞を注ぐ。
『全ては神さえ見通せぬ最高の未知──純然たる混沌を導くがため』
殺戮の音が消え、炎だけが静かに唸る。
『傲慢? 結構』
『暴悪? 結構』
『諸君等の憎悪と怨嗟、大いに結構』
『それこそ邪悪にとっての至福。大いに怒り、大いに泣き、大いに我が惨禍を受け入れろ。我が名はエレボス──』
都市北西、古い歴史を持つ大寺院。全ての者を見下ろせる屋上に、声の主と二人の覇者が現れる。
『原初の幽冥にして、地下世界の神なり!』
怒号が上がる。
闇の軍勢が、悪の眷属が、自分達を導く邪悪の王に向かって狂喜の渦を作り上げた。
一方で人々は冥府の王と言うに相応しきその姿に、大神にも劣らぬその絶大な神意に恐怖した。
『冒険者は蹂躙された! 他ならない、より強大な【力】によって!』
神の右に控える武人。片腕を失い尚も劣らぬ威圧感。
『神々は多くが還った! 耳障りな雑音となって!』
灰の輝きが揺れた。神の左に控える魔女の長髪が、凍てついた静寂を浴びる。
『貴様等が【巨正】を持って混沌を退けようと言うのなら! 我等もまた【巨悪】を持って秩序を壊す!』
『故に、告げよう。今の貴様等にぴったりな言葉を』
『脆き者よ、汝の名は【正義】なり』
数え切れない冒険者が相貌に怒りと戦慄の罅を走らせる。
秩序の神々が、『勇者』の名を関する
「滅べ、オラリオ。我等こそが『絶対悪』!!」
響き渡る『悪』の宣言。
秩序が打ち砕かれ、混沌が嗤う。
その日、英雄の都は敗北した。
大殺戮の夜が過ぎ、オラリオはまだ地獄が続いていた。
悲鳴と怒号。
まだ生きている誰かを探す声。瓦礫の下にいる母を助けてと泣き喚く子供の声。
もう死なないでくれと、死にかけの誰かに縋る冒険者。
何人死んだか、何人………殺されたか。
把握など出来るはずもなく、治療院に駆け込んでは自身の知り合いを求め、把握出来ていないと首を振られる。
生きているのか、死んでいるのか………寧ろ希望を持てるかもしれない曖昧な言葉に、しかし絶望は深まるばかり。
そんな街の声など無視して、獣は肉を喰らう。
グチャリクチャリと死に絶えた肉を貪る。
魔法すら喰らう獣には治癒魔法の効果は下がる。治癒魔法をかけられているより、肉を喰らったほうが余程早く傷が癒える。
「………………」
ピタリと、まだ少女と言っても過言ではない
「ここに居たか………」
「ソーマか………」
口元を血で赤く染めたリリウスは肉に群がっていた虫を払いながら振り返る。
「ステイタスを、更新する」
「ああ、解った」
Lv.1で
「また死にかけたな………」
主神には、眷属の変化が感じ取れる。大量の眷属を持つソーマといえど、目にかけている眷属ともなれば感じ取れた。
「勝てるか………?」
「知るか」
「そうか………」
「だが、まあ………」
「………?」
「もらいすぎた借りは、返さなくちゃならねえらしい」
「…………そうか」
【リリウス・アーデ Lv.4→5
力∶A809→I0
耐久∶S999→I0
器用∶B786→I0
敏捷∶S999→I0
魔力∶B785→I0
捕食者C
悪食C
強食G
毒牙I
《魔法》
【ラーヴァナ】
・狂化魔法
・詠唱式【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】
【ラーフ・シュールパナカー】
・変質魔法
・
・詠唱式【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身。首となっても歯を突き立てろ。
《スキル》
【
・
・強者を食らうことによりステイタス成長速度向上
・食事による回復
・常に飢える
【
・嗅覚及び聴覚の強化
・
・
・
【
・魔力に高域補正
・魔力変換
【
・猛毒生成
・黒風
・スキル発動時発展アビリティ耐異常を高域発現 】
大地の王の力を人の身で再現するというあり得ざる
むろん、完全とは言えまい。本物に大きく劣る昨夜の猛毒獣にも更に劣るだろう。それでも強力である。
リリウス・アーデ。Lv.5。
所要期間半年。
新たなる第一級冒険者が、オラリオに生まれた。