ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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決着と誕生

 世界に否定され、世界を否定せんとする古の大英雄。

 世界に見向きもされず、されど世界に目を向けた幼き英雄。

 

 2人の英雄の戦いは激化する。

 炎が辺りを照らし、血は流れた端から蒸発する。

 

「『お前は誇れ、俺達の英雄であったことを!』」

「!?」

 

 リリウスの口から溢れる言葉。その意味を理解し、動揺した隙に押し込まれる。

 僅かに開いた距離を埋めるように炎が放たれた。

 

「『お前はもう少し調子に乗れ、俺達の希望であったことを!』」

「その、言葉は………!」

 

 それはきっと、リリウスに力を貸している嘗ての戦友(とも)の言葉。

 

「『お前は守った。誰かの笑顔を……守った中から、きっと多くの英雄が生まれた!!』」

 

 それは、たとえたった一人だとしても、その誰かの背にきっとまた憧れる者が続いていく。

 勇気を宿し、正義を巡らせる、きっかけとなる。少なくとも、リリウスに力を貸す昔日の英雄達はその背中に仰がれた。

 

「『エピメテウス(お前)は哀れな(おんな)を救った!!』」

「………やめろ!」

「『エピメテウス(貴方)は魔物から私達の国を取り戻した!!』」

「………やめろっ」

「『嗚呼、エピメテウス! お前こそ、俺達の英雄なり!!』」

「────やめろぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()を、エピメテウスは振り払うように叫び、炎と剣閃を放つ。

 

 

 

「…………エグイな」

 

 プロメテウスは、その光景、その言葉に目を細める。

 あれはもはや精神口撃。心を乱し、剣先を鈍らせる……。

 

「違うさ、プロメテウス。あれは攻撃じゃあない…………」

 

 英雄に憧れ、英雄の力となり、英雄になろうと走り続けた者達の言葉を、子供が届けに来ただけだ。

 

「君達が伝えてこなかったことを、今、『彼等』がしているだけだ」

「見損なうなよアポロン。私だって伝えたさ…………3000年前は神として神託(こえ)を、1000年前には小姓に扮して………巫女(イリア)になってからも、お前はすごいやつだと、何度も伝えた」

 

 それでも、神の声も人の声も届かなかった。

 きっと、同じ『英雄達』の言葉じゃないと届かなかった。

 

 

 

 

 業火と剣戟の中で、己を見つめる瞳にエピメテウスは苛む。

 そうだ、ずっと、苛立っていた。この都に現れ、何度敗れても、悪夢に挑み続けたあの姿を見てから。

 炎が効かぬと知りながらも、何度も漆黒の魔物に挑み仲間を失った愚物の影を見てから、ずっと。

 

「ふざけるなっ………ふざけるな! 俺もお前のように『愚物』でなく、ただの『愚か者』であったのなら! 喜劇と知っておきながら、踊り続ける『道化』であれたなら────()()()()()?」

 

 脳裏によぎるは、オリンピアの住人。向けてくる笑顔も、崇拝も、俯きまともに見ることの出来なくなった故郷の子孫達。

 

「誰かの笑みを信じることが出来る……『英雄』になれたのか?」

 

 

「──なりたかった」

 

 

 

「────俺も『英雄』に、なりたかった!!」

 

 

 

 流れた涙が、黒い炎に触れ蒸発した。

 

「──【此処に願い奉る! そして、どうか許し給え! 我は神言に背く者! この手は災禍を開く罰】!!」

「詠唱………? いや、【祝詞】!?」

 

 

 

限界解除(リミット・オフ)! 『炎の鷲』の最大解放! リリウス、逃げてッ!」

 

 

 

 最早エピメテウスはリリウスを生かす気はない。この瞬間、この場で、目の前の男を否定せずにはいられなかった。

 

「………逃げねえよ」

 

 女神としてでなく少女の叫びに、リリウスは英雄を見据える。声を届けろと、止めてくれと頼まれ、力を借りたのだ。

 

「マーダ………ッ!」

 

 魔蠍の力……エナジードレインが周囲のエネルギーを喰らう。

 放つは一撃。あの英雄の一撃に応える絶対の一撃を!

 

「【目覚めよ、花嫁! 呪われし泥の巫女! 愚者の婚姻、絶望の約定、背神(はいしん)の業火! 希望はなく、祝福は去る!】」

「【神の奥義。人の身で示そう、人のみで成そう】」

 

 

 

「リリウスきゅんの、新しい魔法!? いや、祝詞か?」

「いや、あれは………宣誓? それにこれは、エーテルか?」

 

 神の創造した世界に残る神威の残滓。呼び方は天界の地によって幾らでもある、世界に満ちて人に扱えぬはずの力。

 

 

 

「【されど、汝の罪は我等の罪! 葬られし贖罪に代われ、炎の鷲! 共に捧ぐ、常春(とこはる)の地獄】────」

 

 

「──【エルグス・パンドラ】!!」

 

 必滅の炎が大鷲を型取りリリウスへ迫る。対するリリウスは、マーダの柄を逆手に持ち槍投げのような姿勢を取る。

 

「──【ブラフマーストラ】!!」

 

 界滅の炎と神域の一撃がぶつかり合う。

 高熱の衝撃波が都の一角を基盤の大地ごととかしていく。

 

 建物の陰に避難したアポロンとプロメテウスの頭上を暴風が吹き抜けていく。

 

 

 

 

 競り勝ったのは、エピメテウスの放つ大鷲。マーダが空高く跳ね飛ばされていく。

 エピメテウスが勝利を確信した瞬間、炎を突き破り現れるリリウス。精霊の鎧が溶け、全身を覆う凍傷と火傷。その右手に宿るは、『天の炎』。

 

「俺からも、一言………ちったあ側の奴にも耳傾けやがれええ!!」

「────ゴッ!?」

 

 リリウスの拳が頰に叩き込まれる。『天の炎』で強化されたLv.7の拳。巨人の一撃の如き衝撃でエピメテウスを吹き飛ばした。

 

「……………っあ、はぁ………!」

 

 傷が癒えきらない。どちらも限界を超えて力を使い、修復には時間がかかる。

 

「…………………………っ!」

「………小人族(パルゥム)は、何時だって………搾取されていた。今だって、モンスターの囮にされる。もしも今より人が減っていたなら、お前が戦わなかった、なら……小人族(パルゥム)は今の時代生きてなかったかもしれねえ」

 

 

 

「だから………礼を言ってやる」

 

 

 

 リリウスはそう言うとマーダを探しに歩く。後はエトンを奪って………と、その時。オリンピアが震えた。

 炎のドームが鳴動する。

 

「………………」

 

 そこに勇者がいれば親指の疼きを感じ取るだろう。リリウスも戦いの中で手に入れた直感で灼熱の中、凍えるような悪寒を覚える。

 

 炎のドームが崩れた。

 

 中から現れたのは一柱(ひとり)女神(おんな)………いや、神ではない。だが、精霊よりは遥かに近い。

 

 アフロディーテを模したかのようによく似た、しかし何処か幼さを残した美少女は灼熱の業火を纏いながら冷たい瞳で世界を見つめる。

 

「………怒号を聞いた」

 

 その声に怒りが満ちていた。

 

「………悲涙を見た」

 

 その声には悲しみが孕んでいた。

 

「………絶望を知った」

 

 その声には絶望が宿っていた。

 

「我が真名()天よりの贈り物(パンドラ)。不完全な下界にて生まれし完全。新たな神なり」

 

 神を名乗り、しかして神ならざる女は、神の力(デミ・アルカナム)を纏い重力を無視して浮かび上がる。

 

「生まれることはなく、死することはなく。輪廻は此処に潰える。この世に永劫不変の冥府を顕現させる。人よ、炎の(我が)中で眠れ」

 

 


 

 

厄神パンドラ

種族『亜神(デミ・デウスデア)

3000年蓄積された負の記憶を見て、人類をそれから解放するために殺し尽くして永遠の炎の中で眠らせることを目的とする紛い物の女神。

穢れた炎(パンドラ)』が女神(アフロディーテ)を観察して模倣した為よく似ている。

時間が経つにつれ炎を完全掌握していくので、顕現したらすぐ倒そう。

自分は人類救済のために送られた自覚を持つため、名の意味を『天よりの贈り物』(ギリシャ神話では全ての贈り物)と変えた。

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