ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
アフロディーテは炎の檻の中で赤く染まる空を見上げる。
あの娘、勝手に飛び出していった。魅了が通じない………いや、届かない。
「彼奴等邪魔ぁ………!」
数千年の時に、炎を穢した幾千万もの人の感情。
表面を魅了しても、奥底…………パンドラの意識までには届かない。
パンドラもパンドラで極端な結論に至るし。いや、下界への知識が負の側面だけではああもなるのか? 『救済してやるゲヘヘへ』な邪神に比べたら遥かにマシだが。
いや、下界で神の力が振るえる分厄介なのはパンドラだが。
「なんでこんな早く動いちゃうのよぉ! リリウス達は大丈夫なんでしょうね…………」
正真正銘下界を焼き尽くせる力を持つパンドラを止められるとしたら、炎を司る神が身を捧げた場合のみだろう。
パンドラはまだ生まれて間もない。己そのものたる炎を操りきれない今が倒せる一番の好機だが、今の下界に倒せる者がいるのだろうか。
可能性としては炎を操れるエピメテウスと……神の鎧すら喰えるリリウス。
「あの子には悪い事したわね………」
まさかこんな事になるとは、神の全知を持っても予想しなかった未知。下界の未知を甘く見ていた。
「俺は別に気にしてない」
「…………え?」
気付けば炎の檻の向こうにリリウスが立っていた。服装は自分がこっそり用意していた耐炎装備。炎に対して絶対とは言えずとも、かなりの耐性を持っているはずなのにところどころ燃えている。
「…………どうして」
戦っていたのだろう、パンドラと。或いは、エピメテウスと。
「なんで危ないことしてるのよぉ…………」
いや、解る、自分を助けるためだろう。
主神を助けるために、こんな無茶を。
「せめて、アホアポロンかアルテミスにステイタス更新させなさいよ!」
神の血の繋がりは決して消えない。離れていても、眷族が
「何時かはな。でも今は、俺はアフロディーテの眷族だ」
「あら? 思ったより好かれていたのね。全く、魅了の効かない相手にここまで好かれてしまうなんて、美しいって罪だわ〜!」
「ああ」
「………?」
高笑いするアフロディーテはリリウスの肯定に首を傾げる。
「惚れてる」
「──────」
炎越しに真っ直ぐ自分を見つめる瞳に、思わず固まるアフロディーテ。
「…………貴方、魅了効かないでしょ?」
「効かないな」
「なのに、私?」
「? 『一々魅了しないでも惚れられちゃう私ってば本当に至高の美神だわ〜』ぐらいよく言ってるだろ」
「それはその通りだけど! え? だって、貴方美醜なんて形の違うジャガイモ程度にしか思ってないじゃない!!」
どっちも食っちまえば一緒だと見た目を気にしないのがリリウスだ。そりゃ確かに綺麗、醜いの判別はつくようになったが………。
「そりゃ私は心も美しいけど、アストレアとかアルテミスも知ってるんでしょ!?」
「アストレアはどちらかというと母………いや、親戚のお姉さん……の、母。叔母さん?」
「…………アルテミスは?」
「近所のお姉さん、かな?」
自分でもよくわかっていないらしいリリウス。というかアフロディーテが教えた概念に照らし合わせているだけだ。
「じゃあ何時から!?」
「自覚したのは最近だが、割と最初から…………うん、一目惚れだ」
「────!!」
美の神が一目惚れされるなどありふれた事なのに、何故だかとても気恥ずかしい。
「神を愛するのは当然でも、神に恋に落ちる程馬鹿らしいことはないわよ」
「俺は別に賢人じゃないからな。それに、人はいずれ神に至るんだろ?」
ステイタス………人の可能性の促進剤はそういうものだと神は言っていた。それはつまり、人はいずれ神に至る可能性があるということだろう。
「………神になるつもり?」
「お前とずっといられるならそれも悪くない」
「〜〜〜! 駄目、駄目よ! 一時的にも私の
繁殖を司る女神だもん、と誤魔化そうとするアフロディーテ。
「ちゃんと子どもを残しなさい。あら、でも私ってば一途な男が好きなのよね〜」
「天界で恋人作りまくって浮気までしてたお前が言うな」
「………………貴方のこと、好きな女だって絶対いるのに」
「いるのか?」
「いるわよ」
「じゃあ全員抱く」
「まさかのハーレム!?」
いやまあ、アフロディーテ的にはそれはありだが。というか文句言える立場でもないし。
というかこの子供、恋愛とかそういうの獣の番みたいに考えてないだろうか? それこそライオンとかみたいに。うん、つまりまだそういう勘違いだ。
「貴方はあれよ。性欲が漸く出て来て、それで勘違いしてるの」
「それは駄目なのか?」
「え?」
「勘違いから、お前を好きになっちゃいけないか?」
「────」
耳まで真っ赤にするアフロディーテを見ながら、胸がウズウズするリリウス。だが、今は後だ。
「戦場に戻る。ステイタスの更新を頼む」
そう言って炎の檻を壊すリリウス。
「え、ええ。ほら、背中を出して…………」
【リリウス・アーデ Lv.7
力∶S983
耐久∶SSS1232
器用∶A873
敏捷∶SS1094
魔力∶A855
捕食者C
悪食C
強食D
毒牙D
咆哮F
治力E
《魔法》
【ラーヴァナ】
・狂化魔法
・詠唱式【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】
【ラーフ・シュールパナカー】
・変質魔法
・
・詠唱式【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身。首となっても歯を突き立てろ。
《スキル》
【
・
・強者を食らうことによりステイタス成長速度向上
・食事による回復
・常に飢える
【
・嗅覚及び聴覚の強化
・
・
・
【
・魔力に高域補正
・魔力変換
・精霊種への特攻
・精霊種からの特防
・精霊種の
【
・猛毒生成
・黒風
・黒雲
・発展アビリティ耐異常を高域発現
・神性抵抗
【
・氷雪精霊
・氷雪心臓 】
「SSSって………限界超えてんじゃないわよ。後、『鍛冶』発現したわ」
「それで頼む」
と、リリウスは折れたマーダを見つめながら応える。
「5分で終わらせる」
「…………そう」
『オオオオオオオオッ!!』
ベヒーモスの咆哮と共に生み出される無数の
エピメテウスが剣を翳し炎を奪うとベヒーモスへ叩きつける。
「不可解。何故、我が身を操れる」
「三千年、使い続けた炎だ。生まれたばかりのお前とは年季が違う」
炎の総量はパンドラが圧倒。されど、支配力はエピメテウスに分がある。だが、それは言葉にした通りパンドラが生まれたてだからだ。
時間が経つほど、パンドラは炎の支配力が増す。あと一つ………この厄災を超えるピースが、あと一つ足りない。
『オオオオオオオオッ!!』
『ゴアアアアアア!?』
オリンピアの都から飛び出してきた炎の蛇がベヒーモスへと襲いかかる。
「……来たか」
「────!!」
エピメテウスが笑みを浮かべると同時に、パンドラが悪夢を放つ。一体一体が乱戦となっている冒険者達の戦況を容易く覆す力を持つ規格外。それだけではなく、冒険者の相手をしていた炎獣達も新たに現れた影へと殺到する。
「無駄だ…………」
それは、ただ一振りで吹き飛ばされた。
「………なんだと?」
「…あの圧倒的な力は、まさか」
炎を越え、現れるはリリウス。打ち直されたマーダを肩に担ぎ、パンドラを見据える。
「お前がどれだけ、俺の記憶から過去を映そうともう俺には届かない」
炎の戦士が、炎の魔女が現れ襲いかかる。それも一閃。リリウスは崩れ行く炎の魔女を一瞥し、驕るように、誇るように笑う。
「俺が