ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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2人の英雄

 Lv.8。

 千年の歴史においても、【ゼウス】と【ヘラ】のみが到達した位階。

 現在においては未だ、真に到達した者なき空白の玉座が埋まった。

 

「Lv.8…………【最強の眷族(ゼウス・ファミリア)】と、同じ………」

 

 カサンドラは炎を纏う小人を見つめ、呟く。

 

「それって、世界最強…………」

 

 ダフネは【猛者(おうじゃ)】を超えた冒険者に畏れを抱く。

 

「全種族を合わせても、最強に位置どる小人族(パルゥム)か………」

 

 ヒュアキントスは己の遥か上を行く冒険者に、不甲斐なさに歯噛みする。

 

「Lv.8か…………知っているぞ。それですら、下界の破滅を拭えなかった」

 

 汎ゆる負の感情……絶望を見てきたパンドラはLv.8とLv.9の団長に率いられた神軍が終末の黒竜に敗れた世界の絶望を知っている。

 

「そうだな。新しいLv.7が生まれた話も聞かねえ。全くこの世はままならねえ………」

「故に滅ぼす。この地に最早猶予はない。英雄は生まれず、間に合わない」

「英雄………仕方ねえから、俺がなってやる事にした」

 

 とても面倒くさそうに、そう言い切るリリウス。

 

「或は弟子でも育てるか………探せば半年で第一級になれるような奴もいるかもしれねえしな」

 

 そんな規格外がいたら、神の眷族の大半がLv.1のまま生涯を終えるはずもないが。

 

「三千年の絶望より辿り着いた我が独善を、そのような戯言で嘲謔するか!」

「嗤っちゃいねえさ。俺は俺以外の英雄候補が大抵嫌いだし期待もしてねえ。期待できる数が少ねえなら、増やすしかねえだろ」

 

 しかし、独善の自覚はあったらしい。何処までも優しく、だからこそ全てを救おうと()()()()()()()()()()

 

「お前と世界を守り続けていただけはある」

「からかうな」

 

 戦友の汚名を晴らすために世界を滅ぼそうとしたエピメテウスにそっくりだと素直な感想を言うとエピメテウスは不機嫌そうに唸る。

 

「お前達は、示せていない! 救世の可能性も、終末に抗う希望も! 故に、我が炎は止まらぬ!!」

 

 再び現れる炎のモンスターの大群。今この場にいる冒険者だけでなく、三千年の歴史で蓄積された人々の恐怖。

 

 数を増やした分、強力な個体は居ない。だが、僅かに動きを止めればパンドラが諸共炎で…………。

 

「「させるか──」」

「ぐっ!!」

 

 エピメテウスとリリウスの炎がパンドラの炎とぶつかり合う。

 

「いい調子だ、マーダ・真打ち」

「『鍛冶』の発展アビリティとやらか……」

 

 打ち直されたマーダの桁違いな性能を見てエピメテウスは言う。或いはこの剣を携えたリリウスが自らの前に立っていたのなら、結果は違ったのかもしれない。

 

「その、程度!!」

「っ!」

「チィ!」

 

 真に神ならざる神であれど、三千年尽きることなく燃え続けた『天の炎』の化身たるパンドラは不死。

 殺すにはより強力な炎で打ち消すしかなく、パンドラという神格(じんかく)有る限り力を掠め取るしか出来ないエピメテウスに手段はなく、リリウスは相応の炎をマーダに食わせねばならない。

 

 刻一刻と操る炎の量も、再生速度も上がるパンドラ相手に時間稼ぎをしなくてはならない。

 

「別に時間稼ぎする必要はねえよ」

「何?」

「証明しろと彼奴は言った。俺達は、彼奴に希望(エルピス)を示せばいい。お前が散々やってきた事だろ、英雄(おいぼれ)

「ならば、今はお前がやれ、英雄(わかぞう)

 

 エピメテウスが放った炎がパンドラの炎を掻き分け道を作り出す。リリウスは炎の蛇を生み出し額に乗ると炎を食わせながらパンドラへ迫る。

 

 パンドラは炎から剣を織り成しリリウスを迎え撃つ。

 

「………お前とて、この世の不条理を誰よりも憎んだ筈だ!」

「否定は……しねえ!!」

 

 轟音を立ててぶつかり合う剣と剣。

 ランクアップしたてで、感覚と身体能力にズレがあるリリウスだが、それは人型になったばかりのパンドラも同じ。

 

 背後に転移したパンドラが転移してから振り始めた剣をLv.8の超感覚で反応し受け止める。

 

 炎の蛇がパンドラを喰らおうと大口を開け迫り距離を取るも足を喰われた。

 

「だが生憎と弱いんでね。世界を変えるより、自分が変わったほうが早い」

「誰も彼もそう強くは生きられない。お前よりも強く生まれようと、お前のように強くあれない!」

 

 肉体的にはリリウスより優れた才能を持つ者など幾らでもいる。だが、自分よりも年上の彼等を差し置き新たにLv.8になったのはリリウス。

 

 リリウスの様に強く生きることなどできない。その前に心が砕ける。膝を折って死ぬぐらいなら、駆け抜けて死ぬことを選べる人間など早々いないのだ。それは確かにリリウスの強さであり、同時にリリウスはその弱さを理解出来ない。

 

「だから全員平等にするってか? 諦めた奴も、足掻き続ける奴も?」

「足掻き続けても、何も成せなければ我が半身と同じ道を辿るのみ!」

 

 炎の柱が落ちる。地面に叩き落とされたリリウスは火傷を冷やしながら奪った炎で傷を癒していく。

 

「嘗ての希望は潰え、この先に待つのが絶望だけ。たとえ偽りであっても幸福である我が救世を、何故拒む!」

「お前は、何処を見ている!」

 

 パンドラの剣を流し、体勢が崩れた頭を掴み戦場へと向けさせるリリウス。

 

 

「太陽の威光を示せ! 我等をただの、英雄譚の名も無い兵士で終わらせるな!」

「カサンドラ!」

「う、うん! 皆さん、治療します!」

 

 【アポロン・ファミリア】が、炎の軍勢と戦っている。

 

「矢で射抜いても意味がない! 魔法で散らせ! 盾で殴れ!」

「そこらの石でも、打撃をお見舞いしてやれー!」

 

 【アルテミス・ファミリア】が炎の獣を狩っていく。

 

「魔剣追加! てー!」

「神々には近づけさせるなあ!」

 

 【アフロディーテ・ファミリア】が、後衛ではあるが懸命に戦っている。

 

 2匹の猟犬が駆け抜け、大鷲が飛び、海の中の炎獣も2匹の鯱が襲いかかる。

 オリンピアの兵士も巫女も、自身が知る物より凶悪な炎獣達に一歩も引かない。

 

「今を見ろパンドラ。確かに絶望は俺の身を蝕んだ。だが、何時しか俺だけが戦っていた世界は、俺の中にしかなかった」

 

 エピメテウスが三千年共にあった力に、世界を見るように言う。

 

「お前の中にある怒りは、誰かを愛した誰かの怒り。お前の中の悲しみは、誰かと共にあった誰かの悲しみ。お前の中の絶望は、誰かを想っていた誰かの絶望…………お前はそれを知らない」

 

 怒りの前に、誇りがあった。

 悲しみの前に、繋がりがあった。

 絶望の前に、希望があった。

 

 パンドラは、それを知らない。

 

「死んで、悔いて、悲観し怒り絶望に沈む! それの何処に、救済がある!」

「この光景と、お前の中だ! 顔を知らぬ誰かでも、自分にとっての大切な誰かのためだけであろうと、誰かが今より幸福になって欲しいという思いの中に未来がある!」

 

 人々の絶望を読み取り顕現した海の覇王が大英雄の炎に焼き尽くされる。

 

「ならば何故! 終末が生きるこの世に、未だ希望が生まれていない!! 新しく生まれた希望の欠片が、託された者達ではなくこんなにも幼い子供なのだ!」

 

 炎の魔女を生み出し、海の覇王を粉砕した破滅の鐘の音が響き渡る。リリウスが放った咆哮に押し勝ち、灼熱の衝撃波が英雄達を吹き飛ばす。

 

「…………『正義は巡る』」

「!?」

「託された奴が不甲斐なかろうが、それならそれでいいさ。爺共を置いて、背中を見ただけの託されてもねえ奴が追いかける」

 

 そしてまた、その背中を誰かが追いかける。

 

「お前のよこす希望は停滞だ。誰も生きていない世界に、本当の希望も生まれるものかよ。お前の愛が間違っていなくても、お前の行いは過ちだ」

「たとえ我が愛が間違っていようとも、過ちでたまるか! 誰かの幸せを願う、この行いが!!」

「…………そうだな。お前は母親に似て、優しい娘だ。故にこそ、お前に全ては背負わせない」

 

 マーダが取り込んだ天の炎を再び灯す。煌々と輝く炎はその明るさを増し、夜明けの空のように輝いた。

 

「ここで終われ、英雄神話! 私は偽りであっても、人々に恵みを齎す! 【世滅の洪水(ガフ・デュカリオン)】!!」

「【ブラフマーストラ】!!」

 

 炎と炎が互いを焼き尽くしながら激しく燃え上がる。

 力は互角。なれば、打ち勝つのは炎すら喰らう神奪の炎。世を呑む炎の洪水を打ち破り、パンドラを飲み込んだ。

 

 

 

 

「…………この力は、今だけだ」

「否定はしない」

 

 今の一撃はエピメテウスに放った一撃より上。その理由は、『天の炎』という極上の餌があったから。今の一撃が撃てた。

 

 自身の力で今の威力を撃てるのは、果たして何時か。

 

「だが、何時かはたどり着いてやるよ」

「…………そうか」

 

 リリウスの宣誓に、パンドラは目を伏せた。

 

「ならば、()()()()()()()

「ああ……」

 

 生まれたばかりとはいえ、それでも『天の炎』の化身であるパンドラは強力。Lv.8と9が揃った前提で対処する事を決めていた『天の炎』そのものだ。

 それに勝てたのは、彼女が別のことに力を使っていたから。

 

『アアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 パンドラの体から溢れる黒い炎。『天の炎』を穢し続けた、この世の穢れそのもの。

 パンドラが神性を取り戻していたのは穢れていない『天の炎』を取り込み直したからだ。

 

(わたし)の殆どを奪った穢れた炎そのものだ…」

「だとよ、エピメテウス」

「俺も一役買っていると思うと、なんとも言えんな…………」

「炎なら貸してやる」

 

 パンドラがそう言うと、体が崩れ二人の剣に絡みつく。

 

『オオオアアアアア!! ガアアアアアアア!!』

 

 黒炎もその気配を感じ取ったのか、自らの記憶にある最強を象る。それは数多の絶望を振りまいた破滅であり、姿を見たことがない者にすら不安という形で心の奥に住み着く終末。

 

「最後の最後に竜退治か……出来損ないの英雄にも、中々粋な計らいが用意されているものだ」

「? お前はこれから英雄になるんだろ。なら、別に最後でもねえだろ」

「…………そうだったな」

 

 二人の英雄が破滅を振りまこうとする黒竜に炎を纏う剣を構える。英雄譚の最後に描かれる挿絵のようなその光景は、されど英雄譚のほんの一端。

 

「これより始めるは、我が英雄神話!」

「過去の影はさっさと消えろ」

 

 

 

「【エルグス・エルピス】!」

「【ブラフマシラーストラ】!!」

 

 

 再び希望を掴んだ大英雄の一撃と、『天の炎』で底上げされた現代最強の放つ必殺の一撃。紛い物の黒竜が放つ咆哮を消し飛ばした。

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