ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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休息

 穢れた炎の大元が消え、残りの大地を焼いていた炎も消えていく。

 巫女達が戸惑っている様子を見るに、彼女達の操る炎も消えたのだろう。

 

「………………傷が」

 

 舞い散る火の粉が触れれば傷が癒える。焼け焦げた大地にも染み渡っていく。それでも、これは残滓だ。

 

「私自身で炎を焼いたからな…………」

 

 小さくなったパンドラはリリウスの頭の上に乗りながら呟いた。

 

「……………………」

 

 炎が失われた今、オリンピアの民もただの人。三百年止まった時は動き出し、万人と同じように年を取り老いゆくだろう。

 

「…………心配と、迷惑と、手間をかけた」

 

 エピメテウスは輪郭が崩れていく炎の兵士達に視線を向け、笑みを浮かべた。

 

「俺はもう、大丈夫だ。すぐに逝く………さらばだ、俺の英雄達」

『『『…………………』』』

 

 炎の兵士達は満足したように消えていく。

 

「……ああ、俺も英雄になりたかったな」

「エピメテウス………?」

 

 神ならざる身で、三千年も生きた。エルフすら遥かに超過したその身は、今まさに燃え尽きようとしているのが解る。

 

 燃え尽きた炎の行き着く先は解っている。この身は間もなく、灰となって消えるだろう。

 

「なら私が、その身に炎を灯そう」

「…………何?」

「私が生まれたのは先日でも、お前とは三千年共にあり続けたのだ。お前の中で眠り、お前の魂と共に天に戻ろう」

 

 パンドラがそう言うと、体が崩れ、エピメテウスの中へと染み込むように消えていく。

 

「そも、私が見た希望は二人の英雄と、その英雄に負けぬと奮起していた者達。お前が欠けてどうする」

「……………パンドラ」

「とはいえ、嘗て程の力は出せぬがな」

「………それでもいいさ。どうせお前は黒竜には目隠しにしかならんしな」

「生意気な………」

「…………ありがとう」

 

 パンドラは最後に微笑み、エピメテウスの中へと消えていった。

 

 

 

 

 下界の命運をかけた大決戦。

 灼熱の戦いの余波で出来た火口の如き灼熱の盆地に川が流れ込み、温められた水が溢れ川の水と混ざり丁度いい温度の温泉となっていた。

 

「ん〜! いい気持ち!!」

「ああ、皆泥だらけだったからな…………」

 

 大きく開けた場所で湯に入る文化のない眷族(こども)達にアフロディーテとアルテミスが入り方を教える。男湯と女湯を分ける仕切りは【アフロディーテ・ファミリア】が即席で作った。

 

「だ、大浴場は私達の館にもあるけど」

「露天風呂、だっけ? ちょっと不安になるけど、まあうちの馬鹿どもの殆どはアポロン様に首ったけだし、【アフロディーテ・ファミリア】も調教されてるから大丈夫でしょ」

 

 湯の温い端っこのほうで縮こまるカサンドラと、そんな彼女に合わせてやるダフネ。

 それに、と視線をアルテミスに向ける。近くに弓矢を置いている。ノゾキは即座に撃ち抜かれるだろう。

 

「きゃー! アフロディーテ様! 素敵です〜!」

「水滴を纏ったお姿も美しい〜!」

 

 【アフロディーテ・ファミリア】の女子達はキャーキャー騒いでいる。美の女神は男女問わずモテるのだ。

 実際、アポロンをちゃんと好きなアポロンの眷族の女子もアフロディーテの裸体に見惚れている。

 

「いくらなんでも騒ぎすぎなのだわ」

「他の者も入っているのに。注意したほうが」

「良いではありませんか。今夜ぐらいは」

「そうね。極東では裸の付き合いっていうみたいよ」

 

 プロメテウスの巫女達もそんな会話をしている。プロメテウスは今はイリアとして振る舞っている。

 

「これもう食べて大丈夫か?」

「はい。食べ頃だと思います」

 

 リリウスはリリウスで卵を温泉で温めていた。

 

「って、リリウス!? なんで女湯にいるのよー!?」

「「「!?」」」

「ピィ………」

「カサンドラー!」

 

 アフロディーテの言葉に女性達がぎょっと振り返りカサンドラは気絶しダフネに湯の底から引っ張り出され、そんなカオスを気にせず殻を噛み砕き中身を啜るリリウス。

 

「? どうした?」

「どうしたじゃないわよ。ここ、女湯よ!」

「はっ。あまりに自然にいたから………」

 

 と、リリウスに卵を渡していた【アフロディーテ・ファミリア】の眷族も女湯にリリウスがいる違和感に気付いた。

 

「………?」

「っ! まさか、リリウスとずっと一緒にお風呂入ってたせいで女湯の概念を学んでない?」

 

 アフロディーテがやらかした、と叫ぶ。

 リリウスが不思議そうにアフロディーテを見れば、慣れているはずなのにアフロディーテは湯に体を沈める。

 

「まあ、そういうつもりで来てないのは解る。だがリリウス、男湯に行きなさい」

 

 アルテミスが弓を撃ちそうになる己を抑えながら言う。リリウスはコクリと頷き男湯と女湯を仕切る壁に向かい、ふとアフロディーテに振り返る。

 

「そういえばアフロディーテ、俺の告白の返事は?」

「ぶっふ!?」

「「「────!?」」」

 

 ブクブク泡を出していたアフロディーテは吹き出し、咳込み立ち上がる。周りの女性達もリリウスの言葉にキャーキャーと騒ぐ。

 

 返事が聞けそうにないと判断したリリウスは壁を飛び越え男湯に向かった。

 

「「「「アポロン様」」」」

「フフフ」

 

 岩の上に乗り、股間を桶で隠し両腕を広げるアポロンとそのアポロンに祈る【アポロン・ファミリア】。一部はまたやってると言いたげな顔をして、同族扱いされないように距離をとっていた。

 

「神とは、ああなのか?」

「神による」

「………そうか」

 

 エピメテウスの言葉にリリウスはそう返した。

 

 

 温泉に入りに来たやたらでかい齧歯類を食おうとしたリリウスだったが、エピメテウスが血で汚すなと注意し温泉の蒸気で温めた野菜を食わせた。

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