ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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異邦者

 英雄を見た。

 エルフの王森に住まう、王族にあらじ高貴な身なれど実感の湧かない少女は怯え逃げ惑う大人達と共に叫ぶことしかできず、騎士も弓兵も抜けてきた怪物の牙に噛み砕かれようとした瞬間、その怪物が2つに裂けた。

 

「………お前は目が違うな」

 

 怪物を殺した白髪の少年はそう言うと後ろから襲いかかってきた怪物の喉に槍を突き立てる。

 槍? どこから?

 

「……エピメテウス! 此奴等、子供しか狙ってねえ!」

「そのようだな……」

 

 少年の言葉に褐色の大男は自身の倍はあるファーモルの突進を片足で止め、そのまま頭蓋を踏み砕いた。

 エルフの戦士達を無視していたモンスターの大群も、2人は脅威になると判断したのか示し合わせたかのように同時に攻めてくる。

 

 大男を襲ったモンスターは炎に飲まれ、少年を襲ったモンスターは数多の武器に貫かれた。

 

「子供…………あ、あの!」

「?」

「1人、離れた場所に住んでる子が………」

「……あのガキなら問題ない」

「え?」

 

 と、少年の周りに2匹の犬が現れた。

 片割れの白犬の背に乗り目を回しているのは、前髪を長く伸ばし顔を隠してしまっている少女、コリガンだ。

 

「ワフ………」

「ふぅん?」

 

 犬が何やら鳴くと少年は首を傾げる。

 

「オオオオオオ!!」

「シャアアア!!」

 

 と、市壁を飛び越え現れるワイバーンと、市壁を破壊しながら吠えるワーム・ウェール。

 

 木々に包まれたエルフの里を焼こうと口内に炎を灯すワイバーン。

 岩すら砕きながら進む突撃を放とうとするワーム・ウェール。

 

 どちらも単体で小国程度なら滅ぼせる、弱体化した地上のモンスターの中にあっても驚異的な怪物は、しかし吐いた炎ごと焼き尽くされ、小人1人砕くこともできずに逆に頭蓋を殴り砕かれた。

 

「オオオオオオ!!」

 

 と、モンスターが敵わぬと判断し再び全ての個体が子供を狙い出した。

 

「チッ」

「面倒な……」

 

 2人は忌々しげに舌打ちして、即座に対応する。だが、一体のトロルがエルフの子供を庇おうとする母親もろとも握り潰さんと手を伸ばし……

 

「駄目!!」

 

 コリガンが叫んだ。同時に、大気を震わせるのは膨大な魔力。

 大人達が扱う始祖の魔法とは比べものにならない猛風が吹き荒れトロルを吹き飛ばし、木に叩きつけ殺した。

 

 何時の間に移動したのか、巻き込まれかけていた少年はほぅ、と興味深そうに吹き飛ばされたトロルを見つめる。

 

「エピメテウス、もう良いぞ。焼き尽くせ」

「やっとか」

 

 少年はエルフ達の位置を確認するよう目を動かし伝えると、大男が腕をふるい、現れた炎が蛇のように蠢きモンスター達を飲み込んでいく。

 

「やはり火力が落ちているな」

「わざわざ言われるまでもない。さて…………」

 

 周囲を見回せば矢を構え、魔法を撃てる準備をしているエルフ達。

 

「貴様等、どうやって牢を出た!?」

「壊して」

「罪人の分際で、いけしゃあしゃあと………!」

「その罪人に救われておきながら、良く恥ずかしげもなく鏃を向けられたものだ。これだから、恥も知らぬエルフは」

「まあ、一応は英雄目指してるからな。弱い者を守ってやらねえと」

 

 どちらも本音で語っている。エルフを恥ずべき生き物と見る大男と弱い者として見る少年に、自尊心を刺激される。

 

「……………こうなるか」

「じゃあ殺すか?」

「お前は極端だな。半殺しでいいだろう」

「半(数)殺しか。解った」

「絶対にわかっていないなお前」

 

 と、まさに一触即発の気配。だが…………

 

「矢を下ろせ」

「「「!!?」」」

 

 声が響く。頭に血が上ったエルフ達を一瞬で冷静にさせる声。声が聞こえた時点で少女も跪いていた。

 

「ラーファル王………!」

 

 その者は尊きハイエルフ。今代の妖精達の王で、最強の魔導師とされるリヴェリアの父親。

 

「あれが今代の妖精王か」

「似てる?」

「引きこもりの顔など知らん」

 

 エルフ達が跪く中会話を続ける二人組に近衛が叫ぼうとするがラファール王が手で制した。

 

「お前達が侵入者か。何が目的でこの森に入った」

「探し物。この森にあるのまでは掴んだんだが、どう入ろうか迷ってる間に竜が暴れてたから入ってきた」

「下らぬ嘘を、ならば何故あんなにも早く………もとより神聖な森に潜んでいたのだろう!」

「俺達がお前より速いだけだ」

 

 少年は欠伸をしながら答えた。

 

「何を探している?」

「せ………」

「モンスターの卵だ。それも、孵化すればかなり厄介な」

 

 と、大男。エルフの騎士長カノスはふん、と鼻を鳴らす。

 

「貴様等以外の侵入者の報告など上がっていない。この森を出入りする商人も信用における者のみ許可している。つくならもっとマシな嘘を吐け」

「その商人が入れ替わっていることも気付かなかったくせに何を偉そうに」

「なんだと!?」

「クゥ」

 

 と、少年の隣に控えていた犬の片割れが咥えていた何かを地面に放る。

 

「俺の同族の頭蓋骨。この森に埋まっていたとよ」

「ワウ!」

「お前らが異種族の骨を埋めるはずないものな。穢らわしいと燃やして終わりだ」

「それを信じろというのか?」

 

 馬鹿でもみる目を向けてくるカノスを、少年は同じ目で見返す。

 

「信じようが信じまいが、関係ないだろ。()()()()()()()()()()だけ。その気になればお前等無視して探せばいいし」

「そんな事、世界中の同胞が黙っていると思うな!」

「俺の方が強いのに?」

 

 石を投げたら下に落ちると思うな、とでも言われたように首を傾げる少年。思ったことを言っているだけだというその態度に、カノスの顔が紅に染まる。

 

「尊きこの地を穢し、我等が誇りを侮辱するか!」

「…………誇り?」

 

 そんなものあるのか、と言いたげな顔だ。

 

「リューやリヴェリアなら解る。彼奴等は自分に義務を課してるからな。人を救おうと奔走してるし、後進を導こうともしてる。だから偉そうにする権利はまあまああるとは思うぞ? ただ」

 

 そのままリリウスはエルフ達を見回す。

 

「引きこもって世界の為に何もしてねえくせに、我々は尊いんだから従え、崇めろなんざ、思い上がりにも程がある」

「…………お前、結構ムカついてるのか?」

「………おお」

 

 大男の言葉に少年はぽんと手を叩いた。

 

「ま、エルフ相手に偉そうにして良いんじゃねえか? 縋らせてやってんだし。だが俺には関係ない」

「劣等種が!」

「何を偉そうに!」

「お前等こそ、偽りの神を信じ零落した一族だろう!」

 

 事実として、小人族(パルゥム)は最弱の種族であり、フィアナが存在しない事に心の拠り所を失い落ちぶれていった。それは間違いなく、世界に証明された歴史だ。

 

「………で? 俺達が非力な種族であるのを世界が証明したとして、お前等の尊さをお前達以外の誰が証明する?」

「…………………」

 

 ラーファル王は何も言わない。代わりにエルフ達が叫ぶ。

 

「リヴェリア様の偉業も知らぬか!」

「到達階層なら【ゼウス】と【ヘラ】に追いついてないぞ」

「Lv.6という偉業を、貴様等になせるか!!」

「勇者がいるし、エルフじゃないLv.7の猪もいる」

「セルディア様の伝説も知らぬとは、無知な蛮族め」

「それがありなら、一番尊い種族は英雄の数も多くて黒竜を追い払った奴がいるヒューマンだろ」

 

 返す言葉に、返せる言葉がない。押し黙るエルフ達。と、一人のエルフが叫んだ。

 

「ヒューマンなど、あの『愚物』を生み出した劣等種だろう!」

「そうか。死ね」

「え──」

 

 目の前に迫る指。あと少しで目をえぐり、脳を掻き回すであろう少年の指は、大男が手首を掴むことで止められた。

 

「………………やめた。どうせ壊れる森だ。後から、ただで助けてやるよ」

「待て」

 

 と、ラーファル王が止める。

 

「お前達がこの森に、我等が聖域に無断で入った事は変わらぬ事実だ」

「そうだな」

「そのモンスターの卵とやらを処理しろ。それで、侵入の罪は問わない」

 

 要するに、アルヴの王森(おうしん)での活動を認めるということだ。エルフ達が困惑する中、リリウスはラーファルを見据える。

 

「…………お前、別の森で生まれてればよかったな」

「どういう意味だ?」

「さあな………」

「………宿はそこの混ざり者の家を使え」

「…………………!」

 

 コリガンははっ、と言葉の意味に遅れて気付き、そのまま頭をさらに深く下げた。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 墓の花に、暫く一緒に住む人が出来たと嬉しさのあまり語ってからの帰り道。

 帰ったら誰かがいる。そう思うと、足取りが軽くなる。と………

 

「【契約に応えよ、森羅の風よ。我が命に従い敵対者を薙げ】【ゲイル・ブラスト】!!」

 

 風がコリガンへと迫り、一匹の鷲に掻き消された。

 

「…………え?」

「なっ!?」

「キィー!」

 

 バサバサと翼をはためかせ魔法を放った幼いエルフを睨む大鷲。自身の魔法を簡単に打ち破った巨大な鳥に怯む。

 

「貴方は…………」

 

 同世代の中で魔法が一番得意だと自慢げだったエルフ。ただ、そんな彼でもコリガンに魔法を放った事は今までなかった。

 

「さ、さっきの………魔法」

「………え?」

「どうせ、あの蛮族共に何か借りたんだろ、半端者が!」

「え? え?」

「ふざけるな! 私の方が、優れているんだ。お前なんかに、守られる必要が!」

 

 彼は、コリガンが放った魔法らしい何かに助けられた。見下していたハーフが放った自分より遥かに強い魔法に助けられた。それを認められず、つっかかってきたのだ。

 

「お前、なんか!」

 

 落ちている石を拾い、投げる。

 大鷲が庇う。翼の羽ばたきで起きた風が、コリガンの前髪を持ち上げた。

 

「──────っ!!」

 

 エルフの少年は固まる。顔を見られたと気付いたコリガンは慌てて前髪を手で押さえ、その場から立ち去った。

 

 その場に残された少年は、数秒、瞬き一つせずそのまま固まっていた。

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