ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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守られる者達

「…………毒が弱いな」

「これで、ですか?」

 

 スキルで生み出された猛毒を見てアミッドは思わず声を漏らす。

 冒険者の耐異常を超える猛毒のポイズン・ウェルミスの毒よりも遥かに強力だと言うのに。

 

「それはそうじゃろう。千年以上英雄を寄せ付けなかったベヒーモスの毒など、早々再現できるものではないわ」

 

 と、ディアンケヒト。

 リリウスの毒はあくまでベヒーモスの力を宿していた経験を経験値(エクセリア)として抽出し、ランクアップによる昇華で再構成した紛い物。

 だからこそ、デメリットなしに使えるのだ。

 

「逆に言えば貴様のLv.が上がれば、貴様は晴れて地上の厄災となる」

「…………」

 

 ディアンケヒトの言い方にアミッドはムッと顔をしかめるが、リリウス自身は都市の一角を破壊し尽くしたので寧ろ納得した。

 

「で、解毒薬は作れそうか?」

「作ります、我々の誇りにかけて」

 

 毒の強さをある程度変えられるとはいえ、この毒を本気で使う場合周りに被害が出る可能性がある。故にまずは解毒薬を作ってからということになった。

 

「後、リリウスさんの血に妙な魔力が宿っているのですが?」

「ああ、精霊喰ったからな」

「成る程、精霊を食べた影響でしたか………………は?」

 

 

 

 

 

「さっさと出てこい」

 

 固まったアミッドを置いて飯を食いに窓から外に出たリリウスは、周りに人気がなくなったのを確認すると唐突に虚空を見つめる。

 

「気付かれていたか、お見逸れするよ」

 

 空間から滲み出るように現れた黒衣の人物。不自然なほどに匂いがない。かと言って、全く無い訳では無い。

 

 体臭とは基礎代謝を行っていれば汗や皮膚から出てくるものだが…………この臭いは、埃臭い?

 

「昨日俺を助けてくれた礼がまだだったな」

「構わない。こちらにとっても、君は有益な存在だ」

「?」

「武装した………いや、喋るモンスターと言おうか。君は彼等を受け入れてくれただろう?」

「ああ………」

 

 単純にリリウスにとって言葉が通じる相手は肉かそれ以外か知り合いかの3通りしかないだけだが。

 地上の人間は大抵モンスターとは恐ろしく、人類の敵である『絶対悪』として扱うが、それはモンスターに家族や友、自分自身の命を奪われることを恐れるから。

 

 人間だって信用できないリリウスにとってはモンスターと人間の違いは姿形と知能。言葉を喋るリド達は姿が変わっているだけ。

 何よりフィアは命の恩人。未だ恩を返せていない。

 

「生憎と、私に出来ることは少ない。どうか、勝ってくれ冒険者」

「勝つか負けるかはともかく、死ぬつもりはねえよ」

「…………そうか」

 

 

 

 

 ローブの人物、フェルズというらしい謎の人物と別れた後リリウスは街を巡る。当たり前だがこんな状況では飯屋など開いていない、と思ったが一つだけ開いてた。

 

 豊穣の女主人と言うらしい。

 恰幅の良いドワーフの女主人が腕をふるった料理は、滅茶苦茶美味かった。

 美味い飯で口直しをしたリリウスは再び狩りに向かう。場所は市壁の上。

 

 民衆の冒険者を閉じ込めるべく闇派閥(イヴィルス)が陣取った『檻』の柵を駆け上がり、適当に数人捕まえて撤退。自爆に巻き込まれてやるつもりはない。

 

 ただの嫌がらせだ。外に陣取った数を見るに、数日では喰いきれない。食欲ではなく量の問題。ましてや楽に食えぬヴァレッタに………姿を見せぬLv.7達。

 

 そういえば情報がない。面倒だがフィンを探すか。

 

「…………ん?」

 

 ふと鼻腔を擽る嗅ぎ覚えのある臭い。薬の匂いも紛れているが、これは確かエルフの女王?

 【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)より近い。フィンの性格からして情報共有はすでにされている筈。あちらから聞くか。

 

「罪深き民に断罪をおおお!!」

 

 闇派閥(イヴィルス)も何人かおり、金髪金眼の少女に襲いかかっていたので蹴り飛ばす。

 他の闇派閥(イヴィルス)とぶつかり合い、暴発。固まる闇派閥(イヴィルス)の一人の首を引き抜くと別の兵に投げつける。肋がへし折れ内臓が潰れ、ゴボリと血を吐き出し絶命した。

 

「ん? お前は、【剣姫】か…………」

「じゃが丸くんのお兄さん………」

「じゃが丸くんのお兄さん?」

 

 闇派閥(イヴィルス)を蹂躙していたのは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだった。幼いながらもLv.3。【ロキ・ファミリア】という都市最高位の派閥に育てられた彼女は技術も駆け引きもある。

 雑兵如きでは相手にならなかったらしい。

 

「………殺したの?」

「殺してないように見えるか? むしろお前こそ、何で四肢の腱斬るだけなんてまどろっこしい真似を」

「リヴェリアがそうしろって…………」

 

 後は、アイズ自身も人の命を奪いたくないのだろう。こんな下っ端に尋ねたところで得るものなど何もなさそうだが…………ただの過保護か?

 

「アイズ! この、馬鹿者!!」

「ふぎゅ!!」

 

 と、リヴェリアがアイズを殴った。体に巻かれた包帯や綿布から薬の臭い。まだ傷も完全に癒えていないようだ。

 

「今のオラリオはダンジョン以上に危険な戦場となっている、何故一人で先走る!」

「ひ、一人じゃないもん」

 

 さっとリリウスの背に隠れるアイズ。盾にしやがった。

 

「っ! お前は、【飢鬼(ラークシャサ)】………生きていたのか」

「ああ」

「それはそれとして、アイズ!」

「ひう!」

 

 サッとリリウスの後ろに隠れ直すアイズ。リリウスの方が年上だが小人族(パルゥム)かつ幼少期栄養失調気味のリリウスの方が小柄なのでアイズは思い切りはみ出している。

 

「何故無茶をする………!」

「だって、リヴェリア………怪我してる」

「……………っ」

「だから、私がやらなきゃって…………そう思った。リヴェリアが、苦しいのは………嫌?」

 

 お前が苦しいわけでもないのに、とリリウスは首を傾げた。

 リヴェリアは、自分を心配する小さな少女に動きを止めた。ややあって、地面に片膝をつく。

 

「………アイズ、その気持ちは嬉しい。だが、私もお前と同じ思いだということを、忘れないでくれ」

「……………………」

 

 アイズはリリウスの後ろからおずおず出てくる。

 

「私も、お前が傷つけば悲しい。自分のこと以上に」

「………うん。解った、リヴェリア」

「こっちに来い。血を拭く」

「んっ……」

 

 言葉の棘が消え、もう怒られないと思ったのかアイズはとことこ近付いた。

 

「そろそろ、俺が質問してもいいか?」

 

 と、リリウス。

 

「状況を教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

「【ゼウス・ファミリア】の【暴食】ザルドに、【ヘラ・ファミリア】の【静寂】のアルフィアか………フィンの楽観主義者め、やっぱり敵だったじゃねえか」

 

 リリウスから敵に【ヘラ・ファミリア】がいると聞いて、フィンは彼女達が闇派閥(イヴィルス)に与するとは思えないと言っていたが思いっきり敵の切り札だった。

 

「楽観視、か……確かにな」

 

 もっとも、だからといって相手は対策しようのない正真正銘の怪物なのだが。

 

「つーか八年もあって何で猪はLv.6でてめぇ等は5なんだよ。それだけで少しは相手出来たかもしれねえのによ」

 

 リヴェリア達の怠慢を責めるリリウスは、しかし意味のないことだと思ったのか直ぐに怒りを霧散させる。周りがどれだけ強かろうと、結局己を守れるのは己しか居ないのだ。

 リリウスはそれをよく知っている。

 

「…………何で、人同士で戦ってるの?」

 

 と、アイズが不意に尋ねた。

 

「………!」

「………あん?」

 

 リヴェリアは目を見開き、リリウスは八年も続く暗黒期に何を今更と訝しむ。

 

闇派閥(イヴィルス)の話、知ってる。前から、聞いてた。でも………私達が戦う相手は、他にいるよ?」

「何だそりゃ?」

「モンスター。私達の敵は、モンスターじゃないの?」

「何言ってんだぁお前?」

 

 と、リリウスは馬鹿を見る目でアイズを見る。

 

「俺達がモンスターの敵なんだろうが」

「…………?」

「モンスター共の巣に侵略しているのは俺達だ。飯喰う金のために潜って、奪ってんのは俺達だ」

 

 ダンジョンはモンスターが産まれる。ダンジョンは希少な鉱石、採取物に溢れている。富、名声、力……そんなものを求めモンスターを殺している自分達が最初に敵になっているのだと、人とモンスターの垣根のない答えにアイズは目を見開く。

 

「違う! 全然、違う!!」

「はあ?」

「彼奴等が悪いんだ! 彼奴等が、全部奪う! 攻めてきて、沢山沢山殺したんだ! だから、だから殺さなきゃならないの!」

「アイズ………」

 

 憎悪の炎を宿すその瞳にリヴェリアが悲痛な顔をして、リリウスはしかし訝しむ。

 

「沢山殺したって………千年前の、とっくに殺されたモンスター共の所業なんざ、俺の知ったこっちゃねーよ。まあ黒竜は生きてるが、俺は何もされちゃいねえし…………いずれ殺さねえとならねえとしても、そもそも他のモンスターは黒竜じゃねえだろ」

 

 リリウスにとってモンスターとは魔石を持った生物の範疇を超えた力を持つ………そういう生物だ。

 モンスターの目的は地上進出だとは聞いたことがあるが、ウラノスの祈祷で今のモンスターは地上を目指さず産まれた階層から動くことは殆どない。

 

 モンスターは憎むべき云々言われたところで、エルフにドワーフの友を殺されたドワーフはエルフを恨むかもしれないが、ドワーフの友をドワーフに殺された者はドワーフを恨まないだろう。

 

 人も人の形をした動物でしかないリリウスにとって、どっかの個体がやったことを全体の罪にする思考が理解出来ない。

 組織と言うなら兎も角、モンスターは滅多に争わないだけで時にモンスターを喰らうし、利用もする。

 

「失ってからじゃ、遅いの! 私みたいな人を、もう生まれないようにするために、私は…………!」

「お前みたいな奴等を生み出そうとしてるのは、少なくとも今はモンスターじゃなくて人だろ………?」

 

 反論、ではない。ただの疑問。

 アイズが闇派閥(イヴィルス)とモンスターを区別している理由を、本気で理解できていない。

 

「………………」

 

 アイズの理解できないものを見る目と、リヴェリアの憐れむような目に、リリウスはモンスターと人類は敵対するのが当たり前なのだろうと改めて認識する。

 

 実際そうだ。リヴェリアが向ける感情も、人類すら敵に思わなくてはいけない環境で育ったことへの憐れみであり、モンスターが敵であるという前提は変わっていない。

 

 ユニコーン(モンスター)を飼ってるエルフの王族のくせに。と、リリウスに知識があり、リヴェリアがまだ敵意を持っていたら言っていたであろう。

 

「ようは闇派閥(イヴィルス)はお前にとってのモンスターと同じだ。これまで通り、疑問なんて持たず敵として殺せば良い」

 

 リリウスはそう言うと用は済んだとばかりにその場から離れた。

 

 

 

 

 

 大通りに戻ったリリウス。チラホラと人が見える。

 誰も彼もが下を向いて、絶望に染まった目をしている。

 

「……………」

「なんだ、お前?」

 

 と、リリウスの前に一人の女が立ちはだかる。

 

「………どうして」

「………あん?」

「どうしてあの子を助けてくれなかったの!!」

 

 女は叫んだ。怒りと悲しみがごちゃ混ぜになった目で。

 

「あの子は、信じてたのに! あな、貴方が助けてくれるって、信じてた! また、飴をあげるってぇぇ…………!!」

「飴………ああ、あの時の………」

 

 あの時、瓦礫に押し潰されていた母親か。言葉からして、あの時の子供が死んだのだろう。

 

「そうか。で、なんだ? 助けなかった理由? 昨日は闇派閥(イヴィルス)の拠点を攻めてたからな。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただただ事実を紡ぐ。何処ぞの正義の味方なら、自分達の不甲斐なさを詫びるのだろうが、リリウスは違う。

 

「っ! ふざけないで、そんな、理由で! どうしてあの子が死ななくちゃならないのよお!!」

「どうしてもなにも、死んでほしくねえなら何で守ってやらなかったんだよ」

「……………は?」

「お前が生きてるってことは、そういう事だろ? 娘のために命をかけなかったんだろ?」

「貴方が………冒険者(あなたたち)が守ってくれるから、守ってくれるはずだったから………!」

「はあ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 知りもしない相手のために、何故奔走しなくてはならないのか。戦わねばならぬのか。それを当然のように求める女に、リリウスは不快感を募らせ睨む。

 

 だが、その在り方は女だけではなく他の者達の怒りも買った。

 

「ふざけんな!!」

「守ってくれなかったくせに、開き直るな!」

「お前達が不甲斐ないから、こんなことに!!」

「どうしてこんな目に遭わないといけないんだ!」

「お前達のせいだ!」

「何とかしろよ!!」

 

 飛んでくる灰色の雨。投げられる非難の石。

 足元の瓦礫から手頃な石を拾い投げつける民衆。娘を失った母親が新たな石を拾い腕を振り被り…………

 

「………………え?」

 

 胸を氷の槍が貫く。

 

「あ、え………なん、で………え、なんで…………」

 

 血は出ない。凍り付いた。バキバキと胸に赤い氷が広がり女の体は凍り付き砕けた。

 

「………は? え、ころ………は?」

「ひ、ひいい!? ひと、人殺しぃぃ!」

「い、闇派閥(イヴィルス)!?」

 

 恐慌する民衆に、リリウスは指を振り下ろす。落雷が民衆を殺し尽くす。

 ただ俯くだけで最後まで石を投げなかったヒューマンの女は顔を青くしてへたり込む。水溜りが広がる。

 

「こ、殺し………何で、こんな事…………!?」

「なんで? 敵を殺すのに、理由なんかいるのか?」

「敵って………だって、あの人達はただの………」

「こっちは結果的に街を守ってやって、今回は守ってやるつもりだってのに………何処にでも湧きやがるな闇派閥(イヴィルス)共………」

「あの人たちは、ただの一般人ですよ!?」

「………………そうなのか?」

 

 じゃあ何で攻撃してきた、と疑問を口にするリリウス。

 

「それ、は…………助けて、もらえなかったから」

「助かりたいなら神の恩恵刻んで戦えばいいだろ」

「そ、それが………怖くて出来ないから…………!」

「俺に石を投げられるのにか?」

 

 ランクアップしたばかりで知られてないとはいえ、表向きにはLv.4。恩恵などない一般人など千人居ようが数秒足らずで皆殺しに出来る人の形をした怪物だ。

 

「俺に攻撃できるのに、俺より弱い奴等に怯えるのか?」

「それ、は………だから…………」

 

 攻撃してこないと思った。だから石を投げた。言葉にすれば簡単なのに、言葉にしてしまったらなんと浅ましく悍ましい。

 言えない。言ってしまえば、リリウスが人を見限るのではないかと恐ろしくて。

 

「とっくに見限ってる」

 

 と、女の内心を見透かし呟くリリウス。

 

「違うな。最初から期待していない、だ………じゃあな、他のカス共にも言っておけ。守られるだけなら黙ってろ。守られる側で居たいなら、何もするなと」

 

 そう言って立ち去るリリウス。

 残された女は、笑った。何に? 解らない。ただ、ぐちゃぐちゃの感情に体はひきつったような笑い声を漏らした。

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