ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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精霊の実態

「植物系のモンスターだろうな。他の生物に種を植え付けるモンスターなんざ、少なくとも俺は知らねえが」

 

 微かな精霊の臭いを漂わせる植物を生やしたモンスターを切り裂くリリウス。ダークファンガス同様、進化の過程で妙な力を手に入れたか、リリウスも知らぬ深層の怪物か、希少(レア)モンスター。

 

「お前だったら、何処に置く?」

「城………とはいえ、そこには流石に抱えの商人でも入れねえ」

「それに、移動している可能性もあるからな」

 

 つまり手詰まり。

 せめて本体がいた場所がわかれば、そこから少しでも濃い臭いを追えばいいのだが。

 

「途中から刺激臭の強い花を出しやがったし」

「ワウ……」

 

 リリウスの言葉にシャバラも元気なく吠える。

 チラリとエルフの里を見るのは、留守番のシュヤーマが羨ましいからだろう。

 

「これなんて毒があるし。見ろ、小さな毛に触れたら毒に侵される」

「なら食うな」

 

 一見普通の葉だが、刺毛の毒はかなり強力な神経毒。耐異常を持たない者が触れれば激痛に襲われるだろう。

 

 因みにエピメテウスは毒持ちの怪物とも戦う内に、その体は覚醒を果たす度に毒への耐性を得ていった。

 

「そういや精霊の臭いを追って気付いたんだが」

「?」

「あのガキ、精霊の血が混じってるな」

「…………クロッゾと同じか」

「知らん。誰それ」

「精霊に血を与えられたヒューマンの鍛冶師だ………彼奴は特別精霊に好かれる、なんてことはなかったが」

「まあそりゃ、彼奴が精霊に好かれてるのは別の理由ってことだろう」

 

 と、そこでエピメテウスとリリウスは振り返る。ずっとついてきている奴等が殺気を放ってきたからだ。

 

 ただついてくるだけなら見逃しても良かったのだが、殺気を放ってくるなら話は別だ。

 視線の先にある木から、数人のエルフが現れる。

 

「貴様等、黙って聞いていれば勝手な事を!」

「忌まわしきクロッゾが、精霊の血を引いているだと!?」

「あの半端者が精霊に好かれるなど、侮辱もいいところだ!」

「殺すか?」

「殺すな」

 

 殺気を向けてくるエルフ達に、リリウスはエピメテウスに尋ねるとエピメテウスは止めた。監視が王命だった場合面倒なことになるからだ。

 

「四肢を斬って王の前で問いただせばいいだろう」

「それもそ…………」

 

 と、リリウスは言葉を止め振り返る。

 

「……精霊の気配だ」

「まだ言うか貴様!」

 

 無視して2人は走り出す。森全体に臭いをばら撒く穢れた精霊の分身と騒ぐだけのエルフ。どちらが危険なのか、論じるまでもない。

 

 やがてたどり着いたのは近くに木の生えていない泉。

 

「…………この気配、生粋の精霊だな。精霊違いか」

「この匂いは、潮の香り?」

 

 泉の水を舐めている。塩の味…………海水だ。

 息を切らしながら追ってくるエルフを待たず、リリウスは浮島の上に積まれた石を見る。

 

「…………お、追いついたぞ貴様等!」

「ここは?」

 

 エルフ達の反応からして、この泉を知らないようだ。近付けぬような不思議な力が働いていたのだろう。

 

 リリウスは積まれた石を蹴り飛ばした。

 瞬間、溢れるのは膨大な魔力。エルフのものとは違う。その魔力は、目の前にすれば誰でも理解させられる。

 

「ま、まさか………精霊!?」

「こんな場所に眠っていたのか!」

「それにこれは、大精霊!? 大精霊様! その無礼者達に罰を!!」

 

 実際降臨してみれば問題だらけの神よりもエルフが崇めるのはハイエルフや精霊達。ましてや大精霊ともなればハイエルフと同等の誠意を見せる妖精達。

 

「ふわーはっはっはっ!!」

 

 そんな妖精達の耳朶を打つのは、知性を感じさせぬ大笑い。それも男………爺の。

 

「よーやく見つけおったか! おっそいわもう! 世界救われてないよね? 救われてないなら儂が救う! そう、儂が来たァァ!!」

 

 泉の水が浮かび上がり渦を巻き、差し込む木漏れ日にキラキラと輝く。その光にいるのはガタイの良い筋肉ダルマ。

 

「「「…………………」」」

 

 エルフ達は言葉を失う。

 

「なんじゃあ!? かわい子ちゃんかと思えば、男ではないか! ちぇ、まあ男の娘もありじゃな。我が名はネプトゥヌス! 儂を呼び出したことを、溺れるぐらい後悔させてやるわ!!」

「…………………えっ? え? 精霊って、女性だけじゃ」

 

 少なくともエルフ達が精霊を呼ぶ場合『彼女達』と呼称することが多い。

 

「そんな事ありませ〜ん! ジュピターとか、筋肉のオッサンもいますぅ〜! 別嬪な女子(おなご)とか期待してた? してたじゃろ? ぷ〜、くすくす! 相変わらずムッツリスケベな種族なんじゃからん」

「「「…………………」」」

「面白いぐらい絶望顔をしているな」

「そもそも神の分身と聞いていて、何故神と違うと断言できるのか。単純に、憧れるに足る神もいたと言うだけだろう」

「好き勝手言ってくれるのう! 言っとくが儂強いから。大神にも迫る海神に類する大精霊じゃから! フハハハハハ」 

「海にいろよ」

 

 リリウスも、なんと言えばいいのか解らず取り敢えずそう返す。

 

「ふふん。儂の手にかかれば塩の泉を溢れさすなど簡単なんじゃい! オリーブの人気に負けるけど」

「何故オリーブ…………」

「自分でググレカス!」

「ググ?」

「殺すか、こいつ?」

 

 エピメテウスは人類には理解不能な神の言語に首を傾げ、リリウスは取り敢えず殺そうかと尋ねる。何せ食えば力に出来るのだから、無駄ではない。

 

「これが、精霊………そんな、そんな馬鹿なあ!」

「嘘だ、こんな……こんなの!」

「あんまりだあああ!」

「エルフどもでは契約できそうにないな。そっちの男は………チっ。ちょっとは可愛い貴様にしてやるか」

 

 と、ネプトゥヌスは三叉槍に姿を変える。

 

「さあ、海流を支配し大地を鳴動させる力を与えよう! 大地を震わし、世界に知らしめれば契約完了じゃあ!」

「…………………」

 

 リリウスは勝手に手に収まった三叉槍を、サクッと浮島の中央に刺した。

 

「なんで!?」

「俺、精霊と契約してるから」

「妾の契約者じゃ! 控えろ、下郎!」

 

 と、ドゥルガーがリリウスの体から飛び出し威嚇する。

 

「だ、大精霊………?」

「契約者って、え?」

「卑賤な小人が、そんな………」

 

 リリウスはギャーギャー言い争う精霊達に鬱陶しそうに目を細める。

 

「じゃあ、あれだ。お前の力を必要としてるガキを紹介してやるよ」

「え〜、子供ぉ? 可愛いのか〜? 将来超絶美人になる〜?」

「顔は前髪に隠れて良くわからん」

「メカクレ!? それを先に言わんかい!」

 

 想像以上に食いついた。

 

「それで、その娘は何処に!?」

「それは………!!」

 

 響く轟音。

 方向は、王都。木々に邪魔をされ何も見えない、と思った瞬間、樹木が一斉に枯れ始め茂っていた葉が落ちる。

 

 隙間だらけの枝から覗くのは、木で生まれた巨大な竜。

 

「…………あれは、同族? ちょっと変じゃけど」

「チッ。行くぞ、エピメテウス」

「ああ」

 

 

 

 少し時間を遡る。

 リリウス達が戻ってくる前に、花の友達に会いに行こうとソロリソロリと部屋を出る。

 

 誰にも私を教えないで、と言われていたから秘密にしておきたいのだ。初めての友達だったから。

 

「………あれ、寝てる?」

 

 シュヤーマと言うらしい猟犬も、コリガンを守ってくれた大鷲のスパルナも寝ていた。

 コリガンは起こさぬようにそっと外に出た。

 

 

 

 昨晩エピメテウスから聞いた封印を解かれた灼熱の蛇との戦いを彼女に話したい欲求が抑えられず、早足で駆け出す。と……

 

「あっ………」

 

 子供達の集団と出くわしてしまう。昨日のモンスターの襲撃のせいで遊べる場所が限られてしまったからだ。

 

「混ざり者!」

「半端者か………」

 

 不愉快なものを見せられたと言わんばかりの子供達の反応に俯くコリガン。

 

「聞けば男二人を家に泊めてるとか」

「それは王命でしょ? 不敬なことを考えるべきじゃないわ」

「ふん。穢らわしい外の蛮族の事だ、王の言葉を違えているに違いない」

 

 彼女を庇う言葉は、それ以上の悪意を以て汚される。

 

「どうなんだ混ざり者? お前も、母親と同じように浅ましい考えでその体に触れさせているのだろう」

「全く。外の生き物とは本当に汚いな」

 

 母を、自分に優しくしてくれた2人を侮辱され、立ち去ろうとしていた足は止まり振り返るコリガン。

 

「と、取り消して!」

「「「!?」」」

 

 逆らってくるとは思わなかったのかぎょっと目を見開く子供達。しかし直ぐに睨みつけ、足元の石を拾う。皆が守ってくれるので投げられた石が当たったことは一度もないコリガンは、それでも反射的に目を瞑る。

 

「ぐぇ!」

 

 石を持ったエルフが吹き飛ばされた。

 

「…………え?」

「な、なにを!?」

 

 思い切り蹴りつけたのは昨日コリガンに魔法を放ったエルフだ。

 ジロリと睨まれ、コリガンは慌ててその場から離れた。

 

 

 

 何だったのだろう、彼は。まさか、自分をかばった? だとしても、何故?

 感謝よりも先に気味悪さが先に出る。

 

 隠れながら進み、漸く母の墓に辿り着いた。

 

「おい………」

「っ!?」

 

 そして声をかけられる。先程のエルフの少年。

 その拳が血に染まっている。皮膚が裂けていたが、彼だけの血ではない。

 

「助けてやった…………」

「……………え?」

「助けてやったんだぞ!」

 

 少年はそう叫びながらコリガンの肩を掴んだ。

 

「お礼ぐらい、言ったらどうなんだ!?」

 

 そのまま肩を押し、地面に倒す。

 前髪がフワリと浮き上がり、はぁ、と息を漏らす。

 

「お、お前の母親も、そんな顔をしていたんだろうな。男を誑かす、妖婦の顔………」

「っ! お母さんを………あぅ!」

 

 文句を言おうとして、しかし前髪を掴まれ持ち上げられる。

 精霊達が激しく怒り、彼を火で燃やし、風で切り、土で打つがまるで効いていない。効いているが、気にしていない。その目はまっすぐコリガンの顔のみを見る。

 

「は、はは…………!」

 

 コリガンの顔は、美しかった。まだ幼さゆえの丸みを保ち、可愛らしさを残しているが、それでも美しい。

 

 女神に勝ると言われるリヴェリアよりも………比肩になるのが美の女神しか居ないほど。

 その顔が自分の行動で歪んでいる事が言いしれぬ快感を味わわせる。

 

「私が守ってやる。だから、私に従え、私に尽くせ」

「なに、を………」

「あ、あの男達を誑して、森を出る気なのだろう。そんな事、させるものか。此処に残れ、此処がお前の居場所だ!」

 

 気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!

 

 守ると抜かしながら暴力を振るう男が、此処に留まれと縛ろうとする男が。

 

「…………いや。いや、いや!!」

 

 コリガンは叫ぶ。

 

「貴方なんて、大嫌い!」

 

 ずっと押し殺してきた、本心を吐き出す。

 

「みんなみんな、大っ嫌い!!」

 

──ソウ?

 

 嬉しそうな、声が響く。

 

──ジャア、壊シマショウ♪

 

 

 

 昔々。下界に降りた精霊がいた。

 精霊は清廉潔白と思われがちだが、無邪気なまま気に入った玩具を壊してしまうタイプの精霊もいる。

 

 彼女はどちらかといえばそんなタイプ。下界の子供達と成長し合って欲しいと願われ、送られ、しかし1000年近く相手に恵まれなかった。

 

 隠れて悪戯して、慌てふためく人間達を見てはケラケラと笑う、そんな子供だった。

 

 ある日彼女は、彼女の住処の近くの村に新しい住人が増えたことに気付いた。お腹の大きな女とその番。あれには悪戯してはいけないと、彼女は見守る事にした。

 

 何度も見てきた新しい命の誕生。それを邪魔するほど子供ではなかった。本当に、ただ悪戯が好きなだけの子供。

 

 誰にとっても不幸なのは、生まれてきた子供に神すら予見出来ぬ未知が宿っていた事。

 それは美の女神の持つ『美』のように、血を分けた両親以外を魅了した。

 

 精霊は生まれたばかりの赤子を攫い石と取り替え、乳の代わりに己の血を赤子に飲ませた。

 取り返しに来た両親と殺し合い、力を殆ど失っていた精霊は父と相討ちになって死んだ。

 

 母親は赤子を連れ村に戻り、我が子に宿る力に気付いた。その顔を見てしまえば、男も女も、欲しいという欲望を抑えられない。

 

 混ざった精霊の血は、顔を見ずとも精霊に本質を伝え魅了する。

 困った母は、神に相談し、精霊の気配を抑える方法を学んだ。なるべく人の目につかない場所に住むように言われたが、女手一つで育てられるわけもなく、 彼女は故郷に戻った。

 

 幸いな事に、故郷の同胞は彼女達を疎んでくれた。

 最悪な事に、故郷の同胞は彼女の病を放置した。

 

 成長に合わせ用意していた新しい仮面を完成させることもできず、女は息を引き取った。

 

 彼女の娘は美しい。

 人も精霊も、男も女も狂わせる。

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