ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
急速に枯れていく
「な、に……が?」
エルフの少年が混乱していると、地面から伸びた無数の根がコリガンを飲み込む。自分のものを奪われてなるものかと手を伸ばした瞬間、その腹を根が貫いた。
森の木々が枯れる代わりに伸びていく無数の根。まるで森の命を奪うかのように成長する木の根は互いに絡み合い、竜の首を編み込み、獣毛のような苔が体を覆う。
「オオオオオオオオオッ!!」
大気を震わせる咆哮に馬達が嘶きエルフ達が固まる。
大地を貫き次々と現れる竜の首。その中でも一際巨大な竜の顎が開く。
淀んだ金色の瞳が、混乱する里を見つめた。
それは美しい女の姿をしていた。
その様子は女神の写し身、人々が精霊と呼ぶ、神の分身。
寄生虫のように竜の口内に佇み、しかし下半身はなく、木の竜と完全に融合している。
病的な極彩色のドレスを纏う女の視線を遮らぬように、メリメリと音を立て開く。
「アハッ…」
楽しそうに笑いながら、女は竜の顎から少女を取り出す。
「あ、う………」
「ホラ、見テコリガン………」
「えぅ………?」
ぼんやりとした頭で周囲を見回す。
その視界に映るのは、壊れていくエルフの王都。
「………え?」
「嬉シイ?」
木の根に貫かれる女の悲鳴、木の竜に潰される男の悲鳴、瓦礫に潰され悲鳴すらあげれぬ子供の壊れる音。
「貴方ガ嫌イナ全部、壊シテアゲル」
「──────ぁ」
──みんなみんな、大っ嫌い!!
それは確かにコリガンの言葉。そして、本音。
この森が嫌いだった。母を蔑み、自分を苛むこの里が。だけど、ここまで望んでいない。
「?」
だが、そんな反応を穢れた精霊は理解しない。自我を保ちつつ、怪物の本能に支配された彼女達にとって壊すことの喜びに勝る快楽は無いからだ。
「貴方モ、素直ニナリマショウ?」
だから、それは善意。血のように赤い花と血管のように赤黒い蔓で編まれた花冠を作り出し、コリガンの頭に乗せようとする。
「ガァ!」
その腕にシュヤーマが齧り付く。牙は、刺さらない。
「……………」
鬱陶しそうに腕を振るう穢れた精霊。竜の体に爪を立てながらシュヤーマは穢れた精霊を睨み、己の不徳を恥じた。
何時の間にかコリガンの家に咲いていた花は、毒でこそないがリラックス効果のある匂いを放ち、シュヤーマ達の気を緩めさせた。
それだけで隙を晒した己を恥じ、しかし今はコリガンを助ける為に再び飛びかかる。
「キイイイ!!」
「!?」
が、ハーピーに邪魔をされた。
体に葉が生い茂る蔦を生やした、精霊の部下。スパルナも同様にモンスターに邪魔をされる。
精霊は二匹を見向きもせず、花冠をコリガンの頭に乗せた。
「!? あぎ、ぎぃ!? ぎが、わわ…………!」
茨が頭蓋の隙間から内側に入り込み、脳を弄る。
死ぬ程の痛みにコリガンの脳に蘇るこれまでの記憶。ここ数日の、二人の客人、母の笑顔………それらが塗りつぶされる。代わりに浮かぶのは母の死に顔、石を投げる大人達、穢らわしいと蔑む子供達。
大丈夫? そう差し伸べられた手の思い出を黒く暗く塗りつぶしながら、精霊がコリガンに手を伸ばした。
「モウ大丈夫。私ガ居ルヨ」
「……………あは♡」
下位精霊を近づけさせなかった魔力の暴風が止み、慌てて近づく精霊達に、コリガンは血で濡れた髪をかき上げながら微笑む。
全てを魅了する、笑みが精霊達の心を奪う。
「ねえ、皆。私の為なら、何でもしてくれる?」
「逃げろ! 逃げろお!」
「逃げるって、何処に!?」
見渡す限りの森が枯れ、代わりに生えてきた木の根と苔。しかもそれが襲いかかってくる。さらに、モンスターの大群。
「【契約に応えよ、大地の
魔法を放つ。しかし消えない。
「王よ、お逃げください!!」
「早く! グアアア!?」
大混乱。誰一人として、この里が滅びることなど想像すらしてこなかった。
この世にはエルフの里を滅ぼせる存在などいくらでもあるが、明日も続く栄光の日々を疑いもしなかった。
大人と子供も、戦士も民も関係なく逃げ惑っている。
「駄目だ………駄目だ! この里は、我々は!!」
ラーファル王は叫ぶ。この森が落ちれば、世界中のエルフが拠り所を失い落ちぶれる。高い誇り故に、崩れれば容易く砕けることを知っているから。
守らなくてはならない。戦わなくてはならない。だが、誰も守れないし戦えない。
神なき時代に抗い続けた英雄も、神の血を促進剤に走り続けた英雄も、アルヴの
そう、この森には。
森の外に出れば、古代にも今にも英雄達はいた。
「木の蛇………いや、竜か?」
「気配が森全体からするぞ」
炎が木々を焼き払い、モンスターの大群が凍り付く。
「お、お前達は………」
「邪魔。さっさとうせろ」
「無茶を言ってやるな」
エピメテウスとリリウスが都に戻ってきた。
「あら?」
「ん?」
と、その場に散歩でもするように現れたコリガン。リリウスは文字通り頭に咲いた花を見て眉根を寄せる。
「混ざり者!」
「貴様の仕業か!!」
王の近衛達がコリガンに聖樹の枝を削った剣を向け………
「…………?」
小首を傾げるコリガンの顔を見て凍り付く。
「これは………」
「魅了だな。神のとは違うが………」
エピメテウスとリリウスは耐えた。ラーファル王も、血を残す使命があるとしながらリヴェリア以外に子供を作らなかった妻への思いでなんとか耐えるがこれ以上はまずそうだ。
「あ、あぁ………」
「………はぁ」
「…………………」
うっとりと、魂が抜かれたように見つめるエルフの戦士達にニコリと微笑む。それだけでエルフの戦士達の身を震わせる。
「私の愛が欲しい?」
「ああ………! ああ!」
「よこせ、お前の愛………お前を!!」
「嫌よ」
周囲に浮かぶ無数の光球。絶大な魔力を備える、精霊の群れ。
そのうち何体かがその身を武器に変えた。
「────!!」
放たれる武器を弾くリリウス。炎が大地を焼き尽くしながら抉る。
「下位精霊の力ではないぞ」
「自爆特攻………己の命全てを焼き尽くした結果だろ。来るぞ」
雷を纏う槍が、冷気を生む短剣が、大地を震わす大槌が、風を唸らせる鎌が………数多の武器化精霊が、その命を燃やしながら突っ込んでくる。
リリウスの剣が槍を切り裂き、大槌を弾く。
エピメテウスの剣が鎌を砕き短剣を焼き尽くす。
「きりが無いな」
「精霊が好む大自然だからな」
「【火ヨ来タレ──】」
「────」
それはほぼ反射。思考を超えた速度で投擲されるマーダが精霊の本体を貫くが、ギリギリ魔石を避けられた。
「【
詠唱は止まらず。得物を手放したリリウスへ殺到する無数の武器化精霊。
「【突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】」
飛来した剣の一本を掴み、命を燃やし生み出した魔力を凍てつかせながら槍を弾き、斧を叩き落とし剣を払い短槍に投げつけ砕く。
「【全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ
「エピメテウス!!」
「ああ」
背中に刺していたフロストペインを抜き、氷の壁を生み出すリリウス。エピメテウスは大量の炎を溢れ出させる。
「【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ
「【ファイア・ストーム】」
世界が紅蓮に染まる。枯れ果てた木々が、残った僅かな水分を膨張させ内から砕く。
「………大精霊に匹敵する力か。本体は、これ以上の可能性がある、だったか」
炎の濁流でエルフ達を森の外まで押し流したエピメテウスは目の前に広がる炎を見て呟く。
「無事か、リリウス?」
「問題ない」
「問題しかないように見えるが」
ドゥルガーがリリウスの首に背後から腕を回し耳に噛みついていた。
「咄嗟にネプトゥヌスの槍を使ったから拗ねてんだ」
「……………そうか」
ただの痴話喧嘩と判断したエピメテウスはエルフ達に視線を戻す。燃え盛るアルヴの
誰かが呟く。俺達のせいじゃない。
誰かが尋ねる。誰のせいだ?
そうして視線が向くのは、2人の余所者。エピメテウスはそれをその通りだと受け入れられる、力があるから戦い続けた英雄。
ただしリリウスは、戦わず文句を言うだけの者を、その弱さを弱者故に許さない。いざという時は、と抑えられるよう構える。
「いい加減にしてよ!」
そう叫んだのは、エルフの少女。
「この森に危機が迫ると言う彼らの言葉に、何もしなかったのは我々だ」
そう己を恥じるのはエルフの戦士。
「……………………」
先程までの痴話喧嘩は何処へやら。リリウスとドゥルガーが無言で彼等を見つめていた。
ドゥルガーが生み出しかけていた剣をそっと消す。
「大精霊を前に、これ以上我らの恥部をさらすな………ん?」
「「ん?」」
「大精霊!?」
コリガン
種族ハーフエルフ(精霊の血混じり)
リリウス、カサンドラ同様生まれた時から神すら知らぬ『下界の未知』を宿す少女。顔を見た相手を問答無用で魅了する。女神ほど強力ではないので、強い精神力で抗うことは可能。
生まれたばかりの頃中位精霊に石と取り替えられ誘拐。乳の代わりにと血を与えられて、実はクロッゾ同様精霊の血を継いでいる。
そのため精霊の気配が本質を伝え、呼び寄せてしまう体質。後に神によって封じられたが、直接見れば自我の薄い精霊達は魅了されてしまう。
【魅惑の魔女】コリガン
コリガンちゃんが洗脳された姿。幼さの中に、確かな女を感じさせる動きをするぞ!
魅了した下位精霊を武器化して自爆特攻させる。
ヴィゾーヴニル(木の蛇)
エルフといえば北欧。なので北欧神話に登場する雄鶏の名前。ちなみに意味は木の蛇。蛇なのか鶏なのかどっちなんだい!
こちらでは竜。ただしこの姿は擬態で本来は
全高150
分身たる種を植え付け他者を操る。推定レベルはLv.8階層主。実は胎児がばら撒かれた初期の個体。モンスターの魔石のみならず森に集まる下位精霊達を喰らっていた。