ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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砂漠の出会い

 アレン・フローメル。

 オラリオの中で最も力を求めている冒険者を選ぶとするなら、間違いなく彼も候補に挙がる。

 

 【フレイヤ・ファミリア】で最もLv.7に近いのは間違いなく彼だろう。だがとある妖精軍師はその頂には至らないと思っている。彼が強くなるための理由を手放したからだ。

 

 それでも彼は誰にも指摘されないその事実から目を逸らし、ダンジョンに潜り続けた。主神である女神とその『娘』の護衛がない日は何日もぶっ通しでダンジョンに籠る。

 

 だが未だLv.6。苛立ちが募る毎日。そんな中で、主神がオラリオを飛び出した。

 護衛をしないという選択肢は、残念ながらアレンにはなかった。

 

 だからただでさえ苛ついているのだ。

 コミュクソ雑魚黒妖精の失態を拭うために人探しを命じられた時など、それはもうすごい顔をしていた。女神の隣を陣取る猪が思わず構える程度には殺気も漏れていた。

 

 だから、彼等は運がなかった。

 

「………はっ、はぁ………うぁ!!」

 

 紫の瞳をした少女が曲がり角から飛び出し、アレンに気付き固まり転ぶ。少女を追っていたであろう数人の男達がアレンに気付く。アレンの今の立場は、目撃者だ。

 

「…………ああ?」

「ッ! な、なんだお前!!」

「シャルザードの兵か!?」

「ま、待て! この者は関係ない!」

「どのみち目撃者だ!」

 

 事情は何一つ分からないが、面倒事に巻き込まれつつあるというのだけは分かった。因みにその理由は苛立ちから鋭くなっていく目が、彼女を追う男達を敵視しているようにしか見えないからだ。

 

 男達はとある商会の護衛。腕に自信があり、故にその鋭い目つきに怯みかけた己を鼓舞するように『禁句』を叫んだ。

 

「なめるな()()!」

「くたばれ()()!」

「チィィィビ!!」

「──死ね」

 

 銀の閃き。

 槍の一振りが鍛えられた男達を空高く吹き飛ばす。殺していないのは、女神の命を前に余計な些事を嫌っただけだ。

 

「……………ぁ」

 

 圧倒的。規格外。

 砂漠の民のみならず、英雄都市のオラリオに於いても有数の『力』を前に少女は目を見開く。

 アレンはそんな少女に視線を向けることなく歩きだす。

 

「ま、待ってくれ!」

「ああ?」

「………っ!」

 

 ギロッと睨まれる。絡むなら殺すと言いたげな視線に少女は言葉を失った。アレンは再び背を向け歩き出そうとしたが………。

 

「あら、駄目よアレン? 女の子に優しくしなきゃ」

 

 からかう様な楽しそうな声が響く。実際、楽しんでいるのだろう。アレンは歯軋りする。

 己の眷族と追われる少女なんて、何か面白いことが始まりそうだと目を輝かせる女神。美しい女神に見惚れた少女は目を逸らす。

 

「……………あら?」

 

 何か辛いことでもあったのか、淀み始めた魂はそれでもまだ強い光を湛えている。

 

「………………………」

 

 フレイヤは考える。昼間見つけた燃え盛る魂は()()()()()()。飾る分には何の問題もないが、この未熟な魂となら…………そんな事を考えながら暫し考え込む。

 

「ねえ、今私達は貴方を助けたわよね?」

「っ………」

「お話、しましょう?」

 

 

 

 

 少女の名はアリィ。

 現在行方不明のシャルザードの()()()()()本人だ。

 

 ワルサの進軍で部隊が潰走した際に敵の目を欺く為に敢えて奴隷商に捕まった。その後商品としてリオードの街へ運ばれる際モンスターの襲撃に遭い、商人と傭兵が全滅したところである人物に助けられたらしい。

 

「それって、その助けた人が犯人じゃないの?」

「姿は見てないが、外からは咀嚼音が聞こえた。何よりわざわざ襲っておいて商品を奪わないなんてありえないだろう」

 

 フレイヤの言葉にアリィはそう返す。確かにその通りだ。

 その後アリィは助けてくれた商会の屋敷から抜け出し男装して王家と懇意の商会に協力を得ようとしたが、王都を落とされた王子に味方したところで得られる利益などない。寧ろワルサに売った方が金になると鎖をかけられそうになりなんとか逃げ出したところをアレンと出会った。それが今回の流れだ。

 

「ふうん?」

 

 フレイヤは興味なさそうだ。事実、国の趨勢など神たる彼女には興味がないのだろう。

 

「私は女であろうと王子を名乗る身。戻らなくてはならない場所があり、救わねばならぬ民がいる。どうか解放してほしい」

「良いわよ」

 

 フレイヤはあっさりと了承した。神というのは無茶な見返りを要求したり、意味もわからない言葉で惑わしてくるものとばかり思っていたアリィは意外そうな顔向けた。

 

「でも、恩があると言ったわね?」

「………望みは?」

「デートしましょう」

 

 

 

 ボフマンの部下が流したロッゾの死の噂はリオードの街へ広まった。それが事実と確信しているボフマンは、準備も上々と上機嫌でとある酒場にリリウスを案内した。

 

 リリウスと繋がりがあることを他の商会に見せつけたいからだ。飯の恩があるリリウスは出る前にこれを受諾。

 リリウスがこの街にいるかもしれない、と商人にのみ流していた噂を掴んでいた商人達は、ボフマンと共に現れた白髪の小人族(パルゥム)を見て悔しそうに顔を歪める。

 

「これはこれは、誰かと思えばボフマン! 商会四天王になり損なった男が随分大きな繋がりを持てたものだ!」

「ふふん! なんとでも言え!」

 

 絡んでくる商人に勝ち誇ったように笑うボフマン。商人はニコニコとリリウスに笑みを向ける。

 

「私の名はナァーゾ! 繰り上がりでなれる()()しれないその男と違い、本物のこの街の商会四天王の一人でございます! よろしければ我が商会に是非貴方様を歓待させていただきたく………」

「不要」

 

 リリウスはバッサリ切り捨てた。

 

「……………」

 

 フフン、と得意げなボフマンを睨むナァーゾ。とはいえ、世界最強との繋がりは、諦めるには惜しい。何か言葉を探しているとリリウスは酒場の奥へ向かう。

 

 酒場ではあるが高級で、荒くれ者ではなく商人が利用するこの店はまるで社交場(サロン)のように静かで、店の奥では美女達を侍らせた商人がチラホラ。

 

 リリウスは積まれた果物を見る。

 

「あれと同じのを」

「は、はい」

 

 商会の仲間や取引相手、後は店の女と分ける量なのだが、一人で飲むためのカウンターに座りながら同等の量を頼むリリウス。

 

「………………」

 

 商会の美姫を連れていた商人が視線で絡むように伝える。女で懐柔しようとしているのだろう。

 

「あの………よろしければ隣の席に座っても?」

「お前あの席にいたろ」

「ですが、貴方と話してみたくて」

 

 リリウスは興味なさそうに食事に戻る。取り付く島もないとはこのようなことを言うのだろう。

 

「…………………」

 

 と、不意にリリウスが顔を上げる。そのまま振り返り目を細めると席から飛び降り酒場の入り口方向へと歩き出した。

 

 

 

「…………」

 

 ボフマンは焦燥していた。

 ナァーゾと『戦盤(ハルヴァン)』勝負をしていると突如現れた美しい女神。彼女は言った。『今ある貴方の有り金と私の肢体(からだ)を賭けて勝負しないか』と。

 

 好色なボフマンはあっさりそれに乗った。

 どうやらルールどころかゲームの存在すら知らなかった様子。これなら勝てると踏んだが、今まさに負けそうになっていた。

 

 思考時間なし(ノータイム)で打つ女神の一手に追い詰められていく。このままでは………

 

「それは俺の飯代じゃなかったか?」

「リ、リリウス様!!」

「…………リリウス?」

「っ!」

 

 突如現れたリリウスに女神は軽く目を見開き、付き人の少女が肩を震わせた。

 

「ん? お前は………」

「あら、私には何もないの?」

「…………………誰だっけ?」

「…………………」

「ああ、今この街にいる美の女神だから、お前がフレイヤ。はじめましてだよな?」

「そうね」

 

 リリウスはボフマンを退け席に座る。

 

「交代」

「いいわよ。そのかわり、私が勝ったら、この旅の間貴方もついてきてくれるかしら?」

「俺が勝ったらお前の有り金よこせ」

「無いわよ」

 

 聞けば、奴隷や屋敷を大量購入する際持ってきた証文を商会に預けたままらしい。だから金を求めてここに現れたのだ。

 

「……………………貧乏神め。じゃあ………オラリオ帰ってから考える」

「貴方も私の身体を味わってみない?」

「? お前は俺の事好きじゃないし、俺もお前好きじゃない」

「アフロディーテよりも胸はあると思うんだけど」

 

 少しむくれたように己の胸に手を添えるフレイヤ。子供のような表情に、大人の女の仕草。店中の人間が見惚れる。

 

「は? アフロディーテはお前より美しいが」

「あら………」

 

 そのまま駒を配置し直して再戦。

 

「だ、大丈夫ですかな?」

「ルールは昨日覚えた」

 

 

 

 

 1時間後。

 

「引き分けね」

「チッ」

 

 互いに指す度に長考時間が増え、最終的にどちらも同じ手しか使えなくなった。

 後一日早くリリウスが学んでいたらリリウスが、ボフマンとの対戦を終えていたならフレイヤが勝っていただろう。

 

 全知の神に、1日の経験で肉薄するリリウスは間違いなく賢者の資質を持っていると自負していいが、そんな事よりリリウスは素人に負けたというのが気に入らないようだ。

 

「お互い、得るものがないってことで手打ちかしら。他に誰か私と打ってくれる人は居る?」

 

 今の盤面を見て勝てると確信するものはいない。だが、財布分の金で可能性があるなら、と商人達は己の財布を見る。

 

「行くぞボフマン」

「よ、よろしいのですか?」

「外は外で面倒なことになってるからな」

 

 リリウスが酒場の外に出ると、エピメテウスと猪人(ボアズ)の男、オッタルが対面していた。

 

「…………………むぅ」

「どういう状況だ?」

「女神に時間をよこせと言われてな。知るかと返した」

 

 オッタルやヘディンはそれで手を出すほど浅慮ではないが、小人共は不愉快そうだ。そして……

 

「なんでてめぇがいやがる!!」

 

 猫人(キャットピープル)………アレンはリリウスの姿に叫んだ。

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