ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
前回のあらすじ(大嘘)!
嘗て迷宮の里を襲ったベヒーモスをその身に宿した人柱力リリウス。里の差別に暴力で応酬し里で恐れられる彼も、やがてアカデミーを卒業し冒険者になる日がやってくる。
リリウス 漆黒の怪物ベヒーモスの人柱力。石を投げられれば拳を振るい、水をかけられれば川に落とす。
ベル 迷宮の里エリート一族【ゼウス】の出の落ち零れ。リリウスのチームメイト。漆黒の怪物、アステリオスの人柱力。
アーディ チームメイト。治癒魔法が得意。
エピメテウス チームの担任。次の迷影候補。
スカディ 漆黒の怪物クランプスの人柱力。
フィン 迷影の座を狙っている。
アイズ 落ちこぼれと言われるベルを気にしている女の子。薬とかあげる。
決戦の地、ガズーブの荒原に新たな将兵が辿り着いた。
「アラム王子の忠臣ジャファール! 参上したぞぉ!」
「おおっ! ジャファール殿!」
「来てくださりましたか!」
既に集まり始めていたシャルザード軍は、アラム王子の右腕と称される男の合流に沸き立つ。
「リオードの演説を聞いて立ち上がらぬ将兵がシャルザードにいるものか!」
がはは、と豪快に笑う老将ジャファール。歴史書において『リオードの演説』と名を残す、アラム王子………否、アリィ王女の始まりの伝説となる演説。
秘されていたアリィの真名を名乗ったのならそれは本物。ならば駆けつけるのは当然だ。
「それで! アリィ様はどちらに!? シャルザードの未来を照らす次代の光は!」
と、ジャファールが尋ねれば何やら言葉に詰まるシャルザード軍。
「それが、その…………何処にも姿が見えず」
「…………はっ?」
カブース荒原に隣接する純粋な砂漠地帯シンドの砂漠。岩場もなく、砂丘のみで見晴らしも良い砂漠を砂煙が立ち込める。
「囲い込むか。数の力に溺れぬ冷静な将もいるようです」
と、それを眺める女神にヘディンは説明する。尤も、全知の神はわざわざ説明されるまでもなく理解しているが。
「分ける部隊は5つ。数、足りるかしら?」
「足りないでしょう。あの小人と、小娘。それからあの男なら一人で万の軍勢すら蹂躙出来ますが、奴の連れていた畜生はLv.4…………いや、どういう事だ」
「私、猫を眷族にしてみたいわ」
「『魅了』してくださるならどうぞ」
「それじゃあつまらないわ」
と、フレイヤはため息を吐く。彼女は断じて人形が欲しいわけではないのだ。
「あの畜生共単体では第三級冒険者程度でも、徒党を組まれれば押しつぶされるでしょう。分けられて4つ。一つの部隊を取り逃すでしょう」
「そうでもないようだ」
と、オッタル。見ればワルサ軍を囲むように炎が渦巻いていた。
「なんだと!?」
指揮系統が統一する前にシャルザード軍を囲み、今度こそ取り逃さず殲滅しようとしていたゴーザは突如現れた炎を前に目を見開く。
恐らくは魔法。だが、なんて大規模な!!
「隊長! 敵影です!!」
「なんだと!? 数は!」
「そ、それが………部隊では、ありません」
「…………ほう、悪辣な獣に落ちていない部隊も混じっていたか」
数の暴力に酔わず、戦場に一人で立つという意味を理解して警戒する軍を見てエピメテウスは呟く。
略奪者でありながら、それでもあちらの部隊は軍であった。
それに比べ、目の前の部隊は…………。
「血と煤と涙と、雄と雌がまぐわった匂い」
スンスンと
「殺戮に酔うなら、妾は何も言わんとも。だが、力に酔っているだけの輩は別だ。何より」
人に化けたドゥルガーはシミターを構えながら幼いながらも女が現れたと下卑た視線を向けてくる男達を見つめる。
「我が身も心も、余すことなく主様のものだ」
また別の場所。
仮面を外し、髪の色を戻す。白髪の、黒い大剣を携えた
泣き叫ぶ命を奪い、泣き喚く女を犯し、子を嬲り老人を踏みつけ他者から奪う快楽を覚えた獣は気付かない。
最強の獣はそんな彼等に吠えはしない。獣の王が居ると示す、そんな価値すら目の前の連中にはないのだから。
告げる言葉はただ一つ。流石に聞こえないとわかっているが、仲間へ向けての言葉。
「蹂躙しろ」
目の前を走っていた100の兵が焼き消えた。
超高温の炎は叫び声さえ焼き尽くし、直接触れていない者達すら肉が灰となり剥き出しの骨が乾いて崩れる。
「全てが救いがたいというわけでは無いらしい」
恐れ背を向ける愚者も、隣の友の為に囮になろうとする勇者も、炎の前に等しく灰燼と散る。
男が一歩軍に近づけば足元の砂は赤く発光し、Lv.1ならそのまま焼け死にLv.2でも吸い込んだ肺を爛れさせる熱風が吹き荒れる。
「き、聞いてない! 聞いてないぞこんなの!!」
兵も将も関係ない。指揮官が残ろうが兵士が残ろうが、圧倒的な力を前に等しく消えていく。
あまりに理不尽な虐殺に怯え流れた涙が蒸発する。
「助けて………助けてくれえええ!!」
いっそ哀れさを誘うほどの懇願に、古代の英雄の足がピタリと止まった。それはしかし、同情などでは断じてない。
「陳腐な言葉だが、お前達は
その言葉に返答する者は居ない。己が守った世界の、己が救った命の先に生まれた者達を前に、英雄はただ目を細めた。
「何より、幼き娘に王威を示させ、未熟な身に未来を背負わせたのだ。この身を以て蹂躙を成さねば、幼き友にも、若き王にも申し訳が立たん!! よって死ね、砂漠の蛮族!!」
「………あっつ」
立ち上る火柱を眺めながら、溶け始めた体を再び凍らせる
派手にやっている。流石は嘗てたった一人で世界を焼き尽くそうとした男。嘗ての欠片とも言える炎でも、長く戦えば砂漠世界が燃え尽きてしまうのではないかと思えてくる。
「う、うおおおお!!」
よそ見をしたリリウスへ迫る大剣。リリウスに触れた瞬間、持ち主ごと凍りつく。
「ただの砂漠ならともかく、あの炎に包まれた砂漠じゃこの身も長く持たねえ。とっとと終わらせる」
その軍に所属する兵達は、人生に於いて一度も灼熱の砂漠を出たことはなかったが、その人生に幕を閉じた死因は、凍死であった。
「ハハハハハハハハ!!」
「ぎゃああああ!!」
戦場に響くは嬌笑と悲鳴。
戦場に舞うは血風と銀閃。
ワルサの兵士達は逃げ出しては切り刻まれ、果敢に挑んでは切り裂かれる。
舞うように剣を振るう美しい少女。幼女と言っても過言ではない小さな体軀は、鮮血を浴びながら妖しく輝く。
「ああ、やはり………殺戮は愉しい! そら、来い! 蛮勇の勇者も逃げ惑う弱者も、等しく殺し尽くしてやる!!」
殺戮を司る女神の分身。殺戮精霊の宴は、まだ終わらない。
「本当なんだよ! たった一人で軍を焼き払う奴が………」
「そんな馬鹿な!」
「向こうじゃでっけえ氷が軍を凍らせて…」
「いや、踊り子が血に染まりながら踊り狂ってるって!!」
ワルサの予備部隊を纏める将軍オルカスは、馬鹿馬鹿しい情報が錯綜するほど戦況が混乱する現状に苛立つ。
戦況の推移に合わせて随時各部隊に二万の予備戦力を供給する手筈だったというのに、こんな誤情報が飛び交っていては下手に動けない。
「オルカス将軍! 敵影が現れました!」
「何!?」
敵の参謀はこちらの予備部隊を見抜いていたらしい。
「方角の規模は!?」
「さ、三方向に……3匹」
「……………は?」
「えっと、その………ですから三方向に。シャルザードの旗をくわえた犬2匹と、鳥が一羽」
神の眷族たる常人ならざる視力で三方向を見るオルカス。確かに灰色の犬と白い犬と茶色い鳥がシャルザードの紋章が刻まれた旗を咥えたり掴んでいたり。
「ぶふ! ふははははははははは!! 血迷ったかシャルザード! 我等二万の軍勢に対して、兵士ですらない畜生を置いて包囲したつもりか!?」
ゲラゲラと笑い声が伝播する。
「グウウウ!!」
不愉快な笑い声に牙を剥き出しにするシャバラ。シュヤーマは落ち着いているように見えるが、毛が逆立つ。
気の早い犬共に呆れるスパルナ。獲物を追い立て捕らえる犬共と、即座に接近し捕らえる自分とでは同じ狩る者でも気が合わないとでも思っているのかもしれない。
「オオオオオオオン!!」
などと利口ぶっても、シュヤーマの遠吠えにシャバラが飛び出せば遅れず飛び出すスパルナ。
その速度に、ワルサ軍の笑いは止まり、代わりに悲鳴が鳴り響いた。
後の歴史においてその一戦は『シンドの戦い』の名で刻まれる事になる。その日、その時、その場所で一体何があったのか解き明かそうと研究する歴史家は後を絶たない。
とりわけこの戦いでは、『犬にやらせる画期的な対軍戦術』という嘘か真か解らない革新的な戦術が生まれた。
名だたる軍略家と調教師を唸らせ、彼等をして『ははは、何をおっしゃる』と信じられない戦法は、確かにワルサ軍二万の部隊を壊滅させたと記されている。
この凄まじい戦いを記した『シンドの戦い』数少ない生き残り、後に砂漠世界で著名な史実家オルカス・グリューンはこう書き残す。
『犬と鳥めっちゃ怖い』
「ジャファール将軍! ワルサ軍が既に開戦しています!?」
「何だとぉ!?」
「斥候の報告によると『炎が邪魔でよく見えないけど、なんかワルサ軍がボコボコにされてる』と」
「なんだそれは?」
その報告にぽかんと固まるジャファール。
「え、ええい! 我等も向かうぞ! 姫様も、そこにいらっしゃるはず!」
「はっ!!」
さて、その頃件のアリィと言えば………。
「………………」
「アリィ様。余り前に出過ぎぬ様………軍に見つかれば、未熟なこの身では守りきれません」
「あ、ああ……」
炎の円の中、砂丘の上から戦況を眺めるアリィは一方的に過ぎる光景に固まっていた。
本当に、たった2人と一柱と2匹と一羽で八万の軍が壊滅しようとしている。
「お休みになられますか?」
「目を疑うが、目を逸らす気はない。これは、私の言葉で始めた蹂躙だ」
「…………そうですか」
「ところで、お前は誰だ?」
と、何故か当たり前のようにリリウスからアリィにつけと言われていた男を見る。
シャルザード軍のものではない。全員を覚えているとは言わないが、ここまで強ければ忘れるはずもないと周囲に転がるモンスターの死体を見る。
地上の弱体化したモンスターとはいえ、リリウス達の戦いに怯え狂乱に陥ったモンスターを難なく斬り伏せた剣士。
豪奢な服装はしかし決して嫌味を感じさせず、精悍な男に良く似合っている。
覗く腕は引き締まった筋肉で構成されているのが見て取れる。少し長めの髭を時折撫でる男は貴公子と呼ぶには歳が過ぎているが、それでも夜会に顔を出せば女達は目を潤ませ頬を染める事だろう。
格好に反して無骨な剣も、彼が持てば何処かの宝剣と見紛えそうだ。
本当に誰? 見覚えがない。
「ボフマンでございます」
ニコリと微笑めば白い歯がキラリと光る。
「………USOだろ」
「昨晩リリウス様に厳しい改造を受け、暗殺者の生き残りを倒した時、自分は知ったのです。強くなる喜び、奪われない安堵を」
「…………………」
「『力』を得る、快感を…………しかして力に飲まれぬようにと、リリウス様の知り合いの強くとも力の扱いを間違えぬレオンと言う方の在り方を学ばされました」
リリウス曰く、俺を真似したところで結局死なせるだけだから、とのことだ。
「え、いや………でも一日で。ええ………」
「アリィ様がおっしゃりたいことも解ります。『その髭はどうした』と言いたいのでしょう」
「違うが?」
確かにチリチリだった髭がサラサラになってるが。何なら髪もサラサラだが。
「…………!!」
「あれは…………」
と、アリィ達の目に映ったのは天を突かんばかりの薄茶色の柱。巨大な砂の竜巻であった。