ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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偽善者達

「私、そんなに気持ち悪いですか〜?」

「食えないものってのは気持ち悪いってことだろ。今の俺にそんなものがあったとは…………」

 

 スキルによりそこらの木だろうが石だろうが喰えるようになったリリウスをして、喰っては駄目だと本能が訴えかける。

 気持ち悪い、とは言ったが実際触れられることに忌避感はなく、だからこそその矛盾が気持ち悪いという悪循環。

 

「食える食えないでしか判断しないんですか?」

「他に必要なかったもんでな」

「う〜ん………」

「お、おい!!」

 

 と、先程の男が叫ぶ。リリウスはチラリと娘を見る。少女はニコニコ微笑んでいるが、リリウスは何とも言えない顔でたじろいでから男に目を向ける。

 

「なんだよ五月蝿えな」

「だ、だから! 役立たずの冒険者が飯なんざ喰ってんじゃねえよ!」

「騒いでるだけのお前より役に立つんだから腹拵えぐらいさせろ」

 

 と、リリウスは取り合わず食事を続ける。

 

「腹が膨れたところで、何も守れやしねえよ!」

「? 冒険者に守られたから、お前等は生きてんだろ」

 

 リリウスの言葉に、男は思わず固まる。

 

「っ! け、けど! 妹を守ってくれなかったじゃねえか!」

「冒険者が守るのは民衆全員だぞ、一人一人気にできるかよ。大切だったらてめぇが守れよ」

「!!」

「それにそもそも、俺は敵を殺すだけだ。守る気もなければ、守ってやると言った覚えもねえ。おかわり」

 

 リリウス・アーデは都市を救う気などない。餌場を守るだけ。それは、ライラや輝夜もよく知っている。

 だが、自分達を守らぬと言い切るリリウスにますます怒りが集まり娘はあちゃー、と額を押さえる。

 

「なんで………何でそんな風に言えるのよ! あの子は、(リア)は、あんなに小さくて……可哀相だと思わないの!?」

「お、おい!!」

 

 娘を失った母が叫ぶ。夫であろう男も止めるが、本気で止めてはいない。それで妻の心が晴れるならと、形だけで黙認に近い。

 

「思わねえよ」

「…………なっ」

「おいおい」

「彼奴は……」

 

 いっさい逡巡をせずに返された言葉に、母親は目を見開き輝夜とライラは呆れる。

 

「可哀想ってのは、哀れむことだろ? なら、全然哀れじゃねえだろ」

「ふ、ふざけないで!! あの子は、今年で、あと少しで、10歳に……そんな、子供なのに………!」

「何だ俺と同い年かよ」

「…………………は?」

 

 小人族(パルゥム)は成長しても他種族の子供程の背丈しかない。だから年齢も解り難いが、まさかの年齢に民衆が固まる。

 

「兄ちゃん、10歳だったのか」

「ああ」

「俺11歳……」

「そうか………」

「………冒険者、さん」

 

 子供扱いされて当たり前の年齢。確かに【ロキ・ファミリア】にはもっと幼い少女はいるが、その少女も闇派閥(イヴィルス)の戦いに参戦したのはつい先日。

 

 【飢鬼(ラークシャサ)】は、更に幼い頃から闇派閥(イヴィルス)と殺し合いをしていた。

 

「うわ〜。親御さんは何してるんです? 反対しなかったんですか?」

「両親なら団員増やせば金が貰えるって聞いて俺達に恩恵刻ませたぞ。酒買うために」

「達?」

「ああ。俺と………俺と……? ああ、思い出した。妹だ………昨日のあれ、俺の妹か」

「………………」

 

 ピクリと猫人(キャットピープル)の少女が肩を揺らして反応した。

 

「酷い人達ですね。えっと、確か【飢鬼(ラークシャサ)】様の最初のランクアップが三年前だから、7歳で……ええと、6歳?」

「生まれて直ぐらしいな」

 

 リリウスは不幸自慢も、お前等より不幸だからとも思わない。ただ聞かれたから答えるだけの淡々とした言葉にそれが誤魔化しの類ではないと嫌でも分からせる。

 

「酷い親もいますね!」

「酷いのか………ああ言うのが普通なのか?」

 

 と、娘のために泣いた母親を指差すリリウス。

 

「まあ、基本的にああかと…………」

「そういうもんか」

「でも、そんな子供をほっとけない良い先輩達に恵まれたんですね!」

 

 そうじゃなきゃ、非力な小人族(パルゥム)が生きられるはずがない。普通ならそう考える。

 

「いや彼奴等殴るし蹴るし、人の飯も奪うぞ。だから強くならなきゃならなかったんだ」

「………………あ〜………もう少しおかわりします?」

「ああ」

 

 娘が新しくよそう。リリウスは周りを見て、何故か静かになったから食事に集中する。

 

「貴方も、こんな小さな子にあたっちゃ駄目ですよ?」

「だ、だって……もうこんな、希望のない…………」

「う〜ん」

 

 多くの者が絶望にのしかかられ頭を俯かせるなか、少女は一人困ったような笑みを浮かべた。

 ほっそりとした顎に人差し指を添え、何かを思案していたかと思うと…………ぱんっ、と。

 子供のように両手を叩き、ニコリと満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

「じゃあ、皆で死んじゃいましょうか?」

 

 

「は?」

 

 男が固まった。

 

「「はっ?」」

 

 ライラと輝夜が停止した。

 

「「「えっ?」」」

 

 住民と獣人の少年は耳を疑った。

 

「おかわり」

 

 リリウスはおかわりを強請った。皆死ぬなら、残りのスープは自分のものだとでも思ったのか鍋に視線を向ける。

 

「辛くて、悲しくて、苦しいから、そんなことを言うんですよね? それなら死んでしまえば、きっともう、何も感じなくなります」

 

 男の反応など意に介さず、娘は朗々と語る。邪気の欠片もなく、無垢な笑顔のまま。ややもすれば教理を説く聖女にも見える。

 

「天に還れば、貴方の妹さんにだって会えるかもしれません。大丈夫、神様達の話が本当なら、何時か生まれ変われますから!」

「え、あ、いやっ………な、なにを………」

「みなさーん! この方とご一緒に、死にたい人はいらっしゃいませんかー? もう苦しむことはありませんよー!」

「…………………」

 

 リリウスは考える。この娘は、果たして都市を乱す輩か? 集団に死を………いや、あくまで望むならとか言ってるし本人の選択なら自由だなと認識した。

 

「死ぬなら疫病のもとになるから燃えて死んでくれ。闇派閥(イヴィルス)の足止めでもいいぞ、一緒に焼いて爆破させる」

「だ、そうでーす!」

 

 挙動不審になる男に、娘も、リリウスも気にしない。まるで酒場で明るい笑顔を振りまかれるように『道連れ』を尋ねられ、住民達は超が付くほど困惑していた。

 

「「………………………なんだ、あの女…………やべえ」」

 

 しばし時を止めていたライラと輝夜から戦慄の言葉が漏れる。第二級冒険者を数秒絶句させたやべえ娘の前に立つ男は、かろうじて口を開いた。

 

「お、俺は別に………死にたいわけじゃ」

「はい、そうですね。意地悪でごめんなさい」

 

 その言葉を待っていたように、娘は舌を軽く出した。

 

「でも冒険者様達も、決して皆さんを死なせたいわけじゃない」

「!!」

「死んでも気にしない子もいますけど」

「………ん?」

 

 娘は10歳の少年の頭を撫でる。

 

「冒険者様は、今も頑張ってますよ?」

「誰よりも傷付きながら、皆さんを守ろうとしている」

「勿論、守れなかった人達も居る」

「そして、そのことを誰よりも責めているのは、あの人達自身」

 

 滔々と続けられる娘の言葉は誰も責めていない。ただただ憤っては嘆くばかりで目と耳が塞がっている民衆に事実と真実を語る。

 

「私の場合は、意地悪な勘違いだけど………皆さんはどうか、冒険者様たちのことを、勘違いしないであげてください」

 

 その静かな微笑みを、民衆達は直視できず俯く。リリウスは食いたくもない、されど目が離せない娘に困惑の瞳を向ける。

 

「………それでも! 守れないなら、最初から『守ってみせる』なんて期待させるなよ!」

 

 なんとか叫び返す男。知れず涙を流しながら、眼の前の娘に感情を吐露する。

 

「口だけの『正義』なんて、ただの自己満足だろ! だから俺は、冒険者(あいつら)に石を投げたんだ! あんな奴等を『偽善者』っていうんだ!」

「その『自己満足の偽善』で今日まで救われておいて、何を偉そうに」

「こ〜らっ!」

「!!」

 

 コツン、と娘がリリウスの頭を叩くとリリウスは猫人(キャットピープル)の少女の後ろに隠れた。

 理解出来ない己の感情。理解出来ぬ少女に思いっきり警戒している。

 

「でも、この子の言う通り」

「じゃあ何故叱られたんだ俺は」

「言い方………でも、そう。貴方達をその偽善者達が守ろうとしてきて、守ってきて、今も、守ろうとしている…………簡単に人が死んでしまって、皆自分を守ることで精一杯。そんな中で、誰かを救おうとする『偽善』は………とても尊いものだと、私は思います」

「!!」

「でもこいつら『結果』が伴わないから文句を………」

「う〜ん。だって、皆さん冒険者様は神様じゃないからね。仕方ないよ………でも、『結果』だけじゃなく『行動』を見てあげてくれませんか?」

 

 ライラと輝夜は瞠目する。住民達も呆然とする。

 

「こんな状況で、『偽善者』になれる人こそ、『英雄』と呼ばれる資格がある。私はそう思う」

「………………」

「冒険者様達が戦っているように………皆さんも、苦しみや悲しみと戦ってみませんか? 『英雄』にはなれなくても、『英雄』の力になれるように」

 

 残酷なまでに住民達の胸に突き刺さる。

 力強く胸を揺さぶる。

 達観を抱き、自暴自棄となり、戦う者達に石を投げた彼等からすればあまりに鋭利な言の刃であった。

 

 だが正しかった。

 

 娘の言葉は何よりも正しかった。このオラリオで………『英雄の都』に生きる者達にとって。

 

「っっ………」

 

 間もなく男は項垂れた。

 そんなものは無茶だと返すことはできた。無辜の民(おれたち)は無力だと主張することも出来た。

 だが出来なかった。それを理由に戦う者に石を投げる資格などないから。

 力がないから力を手に入れた自分の人生の半分も生きていない幼子が居たから。

 

「…………わたしは…………わたしは………っ!」

 

 女は認めたくなかった。我が子(むすめ)を失った自分こそが一番不幸なのだと、本当は怒鳴り散らしたかった。

 だが、開き直れなかった。

 

 どれだけ悲憤に囚われても、彼女は人間だった。何時か、何処かで我が子(リア)とともに『正義の味方』に感謝できたように真っ当な人間だった。

 

 己の行為がどれだけ歪か、わかってしまったから。

 

「嗚呼っ…………リア………!」

 

 自分達は守られて当然なんだと、そうふんぞり返ることはとても楽で、とても醜悪だ。

 少なくとも自分達が『戦う者』に回った時、彼等彼女等はきっと、そんな者達のために戦えない。

 

 怒りと悲しみ、喪失に打ちひしがれ、不条理な怨嗟を『戦う者達』にぶつける『悪』と戦えない。

 そいつ等はとても哀れで、無自覚な『悪』。

 

 少なくとも、そこに正義はない。

 

「………みんな、迷子なだけニャ」

 

 それまで黙っていた猫人(キャットピープル)の少女がポツリと呟いた。

 

「………おい、『英雄』だってよ」

「………よせ。体がむず痒くなる」

 

 満更でも無さそうに鼻の下を擦る小人族(パルゥム)の少女に、ヒューマンの少女は頭を振る。

 

「少なくとも、それは私には縁遠い…………」

 

 と、その時。爆音が響き渡る。

 オラリオの恐怖の象徴となった白装束達がなだれ込んできた。

 

「い、闇派閥(イヴィルス)だああああああああ!?」

「都市内地だからといって、油断しきりおって………護衛も用意していない、愚かな民衆め」

 

 この場の民衆は、昨日【アストレア・ファミリア】に石を投げた者達のように冒険者に不信感を募らせ避難を拒んだ者達。

 冒険者に守られた避難所ではなく、身を守るすべもなく、自ら守る者達から離れた民衆を狙ったようだ。

 

「混乱は望むところ! お前達の断末魔の声を持って、冒険者どもに────!!」

 

 首が飛ぶ。リリウスが【釣り針】についた血をはらう。

 

「た、隊長!? くそ、お前達! 一人でも多く殺せ! 我等が神の尊き願いを──!!」

 

 グシャリと踏み潰される。それでも、闇派閥(イヴィルス)達は動いた。殆どが力無き民衆。3人ほどが自らの命を使いリリウスを道連れにしようと………

 

「アーニャ! 皆を守って!!」

「………!!」

 

 アーニャと呼ばれた猫人(キャットピープル)の少女は娘の言葉に逡巡するも、直ぐに民衆に迫った闇派閥(イヴィルス)へと駆け長物を振るう。

 金の穂先が姿を表した。

 

「冒険者か!?」

「皆さん、逃げて! 速く!」

 

 闇派閥(イヴィルス)が動揺する中娘は混乱の最中にある民衆達に叫ぶ。その声は、民衆のみならず闇派閥(イヴィルス)も引き寄せた。

 

「他人の心配などしている場合か!」

「……………!」

 

 リリウスが振り返り片手を伸ばす。が、それよりも速く闇派閥(イヴィルス)小人族(パルゥム)によって切り裂かれた。

 リリウスではない。ライラだ………

 

「大した胆力だな、ヒューマンちゃんよ。逃げ出しもしねえで周りを庇って、本当に馬鹿だな、アンタ」

「貴方達は………」

「なあに、ただの『偽善者』だ………」

 

 娘の言葉に、輝夜は皮肉に笑い闇派閥(イヴィルス)へと斬り掛かった。

 【アストレア・ファミリア】の中でも白兵戦最強に近い輝夜の猛攻。その影に隠れるように動くライラ。

 民衆と闇派閥(イヴィルス)が入り乱れ大きな技は使えないが、そこにリリウスも加わればこの程度ものの数ではない。

 

「ア、【アストレア・ファミリア】………がは!」

 

 最後の一人が意識を失うのは、時間も大してかからなかった。

 

「片付いたな。これだけの騒動だ、憲兵団(ガネーシャ・ファミリア)あたりがすぐ来るだろう。残った連中の捕縛は任せるか」

「ああ、リオンもいねえみてぇだし、先へ……」

 

 と、ライラは言葉を止める。民衆の視線に気付いたからだ。

 

「あ、あんた達………」

「私達、あんな酷いことしたのに…………守って………」

「………行くぜ、輝夜」

 

 と、ライラは歩きだす。

 民衆達はその背を黙って見送るしかてきなかった。

 

 

 

 

「良かったのか、何も言ってやらなくて? 石を投げられて、お前も相当腹を立てていただろう?」

「バーカ、何も言わず立ち去るのがミソなんだ。民衆(れんちゅう)の顔を見たか? 勝手に罪悪感に苛まれて、胸も超すっきりってもんだろ?」

 

 輝夜の言葉に、ライラは悪戯が成功した悪童のように笑う。

 

「うわぁ……本当に、性根が腐った小人族(パルゥム)ですこと」

 

 と、輝夜が呆れる。だがまあ、概ね同意だが。

 

「それに、あれだ………こっちの方が『正義の味方』っぽいだろ?」

「…………違いない。性には合わんがな………しかし、良かったのか?」

「あん?」

「私達の中で、あの小僧の死に一番動揺していたのはお前だろう?」

 

 まあ、その前にあったシャクティから生きていたという報告は聞いたのだが。

 

「生きてくれてりゃ一先ず良いさ。しかし、あの兄妹はなんだ? 人助けなんて彼奴がやるかねえ」

「それこそ、正義にでも目覚めたか?」

「それはない」

 

 

 

 シャクティから闇派閥(イヴィルス)の襲撃に対する対処と避難が遅れた者達の保護を命じられたリリウスは食事も終え、兄妹を引き連れ避難所に向かう。

 ここの連中は…………今何かを言っても面倒くさそうだから後にする。

 

「ねえ………」

「ん?」

 

 と、アーニャと呼ばれていた少女が話しかけてきた。

 

「妹さんは、どうしたニャ? 顔も、忘れてたみたいだけど…………」

「捨てた。強くならなきゃならねえのに、足引っ張って邪魔だから」

「──────!!」

 

 その言葉に目を見開き、耳を伏せ逃げ出すアーニャ。

 

「う〜ん。貴方、アーニャのお兄さんにそっくりですね」

「……………?」

 

 リリウスは何の話かわからず首を傾げた。

 

「ところで、女の人を腐肉とかドブとかゴキブリ扱いするの、よくないと思います!」

「そうだな。今の俺なら全部喰えるし…………」

「そういうことじゃなくて…………う〜ん。じゃあ、せめて食品サンプル!」

「食品サンプル?」

「神様達の世界にあるんだって。本物そっくりでも、食べれないの」

 

 それがなんであれ、リリウスなら食べれそうだが。いや、流石に天界の物は食べられないか?

 

「食品サンプル………食えるモノの偽物…………偽物?」

「うん?」

 

 リリウスの視線に首を傾げる娘。リリウスはしばらく見つめ合った後、腹が減ったので兄妹を避難所に送り届けて何処かで飯にしようと歩き出した。

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