ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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漆黒の蛇

 【ロキ・ファミリア】。

 オラリオ三大派閥の一角を担う大派閥であり、Lv.6が3人も在籍するオラリオ最強候補。

 

 そんな彼等が行う遠征目的は、到達階層の更新。

 現在彼等が潜った最深階層は58階層。これは【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】以外に到達した者は居ない階層。順調に、現在最強派閥の一つとされる【ロキ・ファミリア】は過去の影を追えていた。

 

 ダンジョン50階層。モンスターの生まれぬ灰色の大樹林を内包した安全階層(セーフティポイント)

 【ロキ・ファミリア】はそこに拠点を築く。『遠征』は順調。

 

 以前は階層をまたぐ竜の砲撃に物資と体力を失い撤退を余儀なくされたが、今度は準備もしていた。問題はない、はずだった。

 

 突如【ロキ・ファミリア】を襲った異常事態(イレギュラー)。見たことも聞いたこともない、極彩色の巨大芋虫。人もモンスターも壁も武器も、等しく溶かす溶解液を持ったそのモンスターは、攻撃すれば傷口から溶解液を吹き出し殺せば爆発して溶解液を撒き散らす。

 

 最悪も最悪な敵。ついでに冒険者依頼(クエスト)をこなそうとした2つの小隊が襲われ、何とか撃破すれば拠点(キャンプ)が襲われた。

 

 未知のモンスター。武器破壊の特性。それでも、何とか迎撃したあたり、流石三大派閥と言えるだろう。

 喜びも束の間に現れたのは、芋虫型に良く似た、しかし人型にも見える器官を持ったさらに大型の個体。

 

 溶解液のみならず爆発する鱗粉を使う新種。

 物資も失った中、倒せば周囲を巻き添えにする最悪の怪物。

 

 フィンの判断は、早かった。

 

「総員撤退だ。速やかにキャンプを破棄、最低限の物資を持ってこの場から離脱する」

 

 殿はアイズ。不満を漏らす団員達を大声上げることなく黙らせ撤退を開始した。

 一見未知のモンスターへの無茶ぶりのようだが、それでもフィンは確信していた。アイズこそがこの新種の天敵であると。そしてそれは事実であり………それが事実であっても、何の意味もない。

 

「えっ──」

 

 世界から音と光が消え、真っ白に染まる。遅れて轟音と衝撃。

 

「うっ…………」

 

 色が戻ってきた視界に映るのは、巨大な大穴。地面は勿論、天井にすら空いていた。最低でも2階層をぶち抜いた階層無視攻撃。赤熱化した縁がドロリと下へ垂れる。

 

「!?」

 

 まさか、58階層に住む竜の砲撃? しかしあれは52階層までのはず。まさか、強化種?

 

 警戒するアイズの目に映ったのは、大穴に比べ小さな影。それでも、5M(メドル)はある大型級のモンスター。

 

「……犬?」

 

 一見犬型にも見える大型のモンスターは、しかしよくよく見ると手足は細く長く、尾は太い。

 頭部に生えた角に、背中に生えた翼。銀の毛並みを持つ巨狼にも似た竜………獣竜とでも呼ぶべきそのモンスターは、恐らくはワイバーンの亜種だろう。

 

「いきなりやってくれやがる」

 

 その背に乗るのは、小柄な誰か。複数の眼球のように嵌められたダンジョン産の宝石類を妖しく輝かせる黒髪の人物は問題のモンスターから降りるとその首筋を撫でる。

 

「ご苦労。巻き込まれる前に離れろ」

「………………」

 

 その言葉に従うように見た目通りの獣の俊敏性をもって離れる獣竜。明らかに言うことを聞いていた。ならば、仮面の人物は調教師(テイマー)

 

 仮面の調教師(テイマー)と聞けば【ガネーシャ・ファミリア】が思い浮かぶが都市の憲兵である彼等は滅多な事では遠征を行わない。都市の中立であるために、いかなる派閥でも相手に出来る程度の力を維持する為潜るが、基本的には地上にて活動する。

 

 何より彼等の仮面はあんなに不気味ではない。

 

 不審人物。警戒するべきか迷うアイズに視線を向けることなく、黒髪の人物は跳ねる。途端、地面が吹き飛ぶ。

 

 砲撃………ではない。分厚い岩盤を砕き現れたのは、全長100M(メドル)にも届きうる巨大な蛇。

 深層に潜るほどダンジョンの壁や床に埋まる超硬金属(アダマンタイト)の内包量が増え硬さを増す。

 

 その事実を嘲笑うかのように、黒い鱗には傷一つ存在しない。

 

 蛇と称した通り手も足も、翼すらない漆黒の大蛇。されど間違いなく竜種に区分されるであろう威圧感。

 アイズは、フィンは、リヴェリア、ガレス、ベート、ヒュリテ姉妹など第一級は勿論、ラウル達第二級ですら瞬間的に理解した。

 

 目の前の蛇竜はこれまで戦ったいかなる深層の階層主よりも強い。特に5年前からオラリオにいた者達の脳裏には、復活を果たした陸の王者を連想させる威圧感。

 

「こいつは攻撃して構わねえな!?」

「おりゃあああ!!」

「くたばれ!!」

 

 質問の形を取りながらも既に動く若い第一級。フィンの制止を振り切り、豪脚、剛腕が炸裂する。

 深層の怪物だろうとその命を刈り取る第一級の一撃。鮮血が舞う。

 

「い、つぅ!?」

「うあっ!」

「があ………!」

 

 ティオネ、ティオナの拳が砕けベートの足が折れた。怪物は小揺るぎもしない。鬱陶しいとすら感じていないどころか、存在に気付いてすら居ない。

 

 見つめるはただ一人、仮面の人物。

 それ以外は些事にすらならない。

 

「リヴェリア、結界を張れ!!」

 

 フィンは親指の疼きに従いリヴェリアに備えさせる。都市最強の魔導士の結界魔法。すなわち、竜の谷を除いた下界最高の防御。準備をさせるフィンの親指の疼きは収まらない。

 

「ティオナ、ベートを回収しろ! アイズ、撤退!!」

 

 ティオナが足の折れたベートを引っ掴み引きずりながら駆ける。アイズも直ぐ様駆け出した。

 そんな光景をまるで気付かず唯一の敵を前に、蛇の鱗の隙間が蒼く輝く。ガバッと開けた大口の奥で煌々と光が輝く。

 

「ガアアア!!」

 

 吐き出される咆哮。仮面の人物を飲み込み、突き進む。森を触れることなく焼き払い、壁を貫く。

 

「っ! 【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

 一番距離が近いアイズは、迫る熱波に対して咄嗟に風の鎧を纏う。吹き荒れる暴風により一瞬で剥がされた。

 

 光線は岩盤を燃やすでも溶かすでもなく消滅させた。余波でしかない熱波が第一級の肌を焼く。

 

 彼等より離れてなお、結界に籠もらなければ第二級……それこそLv.4ですら焼け死んでいたかもしれない。

 

 再び竜の体が発光する。

 

「あれだけの攻撃を、まだ撃てるのか!?」

 

 いや、まだ撃つのか? 標的だった仮面の人物は明らかに当たっていた。どう考えてもあれの直撃を受け、生きている筈が。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

 二度目を打たせないとアイズが風を纏う斬撃を放つ。やはり見向きもしない。出力が足らない。脅威たり得ない。故に……

 

「【起動(テンペスト)】」

 

 風が黒く染まり始め、漸く蛇が視線を向けた。

 

「【復讐姫(アヴェンジャー)】」

 

 漆黒の風が階層全体の大気を唸らせる。不壊属性(デュランダル)という特性を持つ決して折れぬはずの『デスペレード』が悲鳴のような軋みを上げる。

 

「……………ッ!!」

 

 漆黒の流星となったアイズの突撃に、大蛇の鱗に傷を付ける。命にも届かぬ小さな傷。

 漸く蛇は他者に意識を向ける。鬱陶しいという、ただそれだけの意識を。

 

「ガア!」

 

 吐き出される光線。下界の民には知る由もないが、それは炎であって炎ならざる光。

 神ならば知っているであろう、物質の第四の形態。超高温により分子も原子も崩壊させ生まれたプラズマ。

 

 触れた瞬間汎ゆる物質を原子レベルで崩壊させる必滅の光。虫を払う程度に放たれたが故に狙いは曖昧で回避に成功したアイズだが、階層が再び破壊される。

 

 呼吸するのすら苦痛となる高熱の地獄。その地獄を生み出した蛇は、払った虫になど興味ないと言わんばかりに視線を戻す。

 

「な、なんなんすかあれ…………」

 

 結界まで吹き飛ばされたベート達が力なく倒れるのにも気付かず規格外の怪物にただただ呆然と立ち尽くすラウル。

 

 と、その時………ダンジョンが哭いた。

 モンスターを生む亀裂音でも、イレギュラーの前兆でもない。比喩無く、ダンジョンが哭いている。

 

 無機質な高音域。世界に匹敵するサイズの女が哭くなら、きっとこんな音を出すのだろう。それに対して蛇はまたかと言わんばかりに鬱陶しそうに目を細める。

 

 ビシリと天井に亀裂が走る。最初に飛び出してきたのは液体。高熱を宿し湯気を上げながら血液のように噴き出す紫色の漿液。

 

 ドシャリと、邪魔な岩と共にそれは落ちた。

 逆関節の足を持った痩せ細った竜にも、鎧を纏った恐竜の化石にも見える様なこれまた見たことない新種。

 

 そして、()()()()

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 産み落とされる無数の新種。真紅の眼光が憎々しげに蛇を睨む。

 そして、何匹かが消えた。金属音を響かせ、蛇の鱗に跡を刻む。

 

 疾い。誰一人その動きを捉えられなかった。

 それは蛇も同じだろう。蟻の群の如く、一つの生き物のように殺到する新種の爪が次々蛇へと叩き込まれ………傷つけることはなかった。

 

 傷に見えたのは、()()()()()()()が残っていたから。鬱陶しそうに身震いして尾を振るう。

 新種の耐久力がないのかその巨体が繰り出す一撃が強力なのか、簡単に破壊されていく新種。

 

 それでも恐怖など感じないかのように向かう新種へ蛇は光線を放つ。

 跳ね返った。余波の熱だけで受けた個体は勿論周辺の個体も溶けたが、圧倒的な破壊力を持つ光線は跳ね返され規格外の防御を破る。だが………

 

「…………!!」

 

 シュウウウと傷口から湯気が立つ。魔力が燃え、細胞を活性化させ傷を癒やす。

 

「総員撤退! 余計な荷物は一切持つな! 逃げ遅れた者に構うな! 一人でも生き残り、あのモンスターの情報を地上に伝えろ!」

 

 フィンが叫ぶ。殿も無意味と判断し、生き残れとすら命じなかった。あれは駄目だ。自分達だけでどうにかなる怪物ではない。

 

 三大派閥で手を組み挑まなくてはならない、嘗て【ゼウス】と【ヘラ】が打倒した漆黒の怪物に迫る規格外。彼の選択は間違っていなかった。叫ぶタイミングも、遅いようで完璧だった。

 

 早すぎても呆然と固まる彼等は聞けなかっただろうし、遅すぎても混乱していただけだ。だから、逃げ出すにおいては完璧なタイミング。ただし、状況は最悪。

 

 走り出そうとしたLv.2の少女が倒れる。文句を言いながら肩を貸していたベートが舌打ちしながら少女の名を叫ぼうとして固まる。

 

「あっ……かふっ………」

 

 目と鼻、口と耳からも血を流す少女。否、少女だけではない。Lv.2は軒並み。Lv.3ですら、その場に膝をつき血を吐き出す。Lv.4も一部が目眩を起こしていた。

 

(耐異常のランクが低い者ほど症状が重い! 何だ、毒? 何時!?)

 

 これも恐らく神しか知らぬだろう。或は古の賢者なら知っていたかもしれない。この世には、毒となる光がある事を。

 

 蛇が放つ光はまさにその毒の光を生む。細胞を破壊し遺伝子を壊す死の光。地上に放たれれば恩恵なき命を殺す毒を数十年はその地に残すだろう。

 

 フィンは決断しなければならない。倒れた仲間を見捨てるか、見捨てないか。そしてどちらが確実にオラリオを、下界を守る事に繋がるか問われれば、それは………

 

「オラア!!」

「ガッ!!」

 

 蛇が仰け反る。否、殴られ吹き飛んだ。

 殴ったのは、先ほどの仮面の人物。炎が煌々と燃える剣を担ぎ、新種を踏み砕きながら蛇を睨む。

 

「嗚呼、クソ。だいぶ吹き飛ばされたぞ」

 

 火傷は負っているが、健在。

 蛇が巨体を滑らせるように迫れば仮面の人物も駆け出し剣を振るう。

 

 剣と角がぶつかり合い空間が砕けるような衝撃が階層を揺るがし床も壁も天井もひび割れていく。

 

 あの怪物(絶望)と互角。何者だ、彼は?

 いや、今は………

 

「動ける者は動けない者を運べ! 急げ! 階層一つ二つ抜けた程度では、巻き込まれるぞ!!」

 

 避難を優先。そう、避難。これは撤退ですらない。ただ逃げる。あの怪物達の戦いから。

 竜の喧嘩に巻き込まれた蟻が潰されぬよう離れるように。

 

 


 

漆黒の蛇

火力高めた結果なんか電離起こすレベルの火力を手に入れた。放射線出しちゃうから一度殺して弱体化させましょうね。

 

因みに天の炎は炎の形をした神の力に近い炎とは別の何かなので、プラズマ化してないからといって決してヴリトラの温度に劣るわけではない。

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