ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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単眼の王

 それは『破壊者(ジャガーノート)』という。

 5年前突如として現れた、1000年近くダンジョンを押さえ続けた創設神(ウラノス)をして未知の怪物。

 

 その身は俊敏、その爪は鋭く、その殻は魔法を反射する。

 さらには全身魔石とも呼べるジャガーノートは魔力を燃焼させその桁違いの性質を得て寿命を削る代わりに、その時が来るまでほぼ不死身。

 

 頭が砕かれようが半身が破壊されようが再生こそしないが動き続ける。魔法は効かず、故に物理的な力で全身を破壊するしかない。

 

 まさに絶望。破壊者の名に相応しい怪物。

 そして、そんなジャガーノートは生まれる階層ごとにモンスターの強さが異なるように、下に下に向かう程に生まれる個体は強くなる。50階層のジャガーノートなど、オラリオの冒険者で相手出来るのは極僅かだろう。本当だ。本当に強いんだ。

 

 ただ、今回は相手が悪かっただけだ。

 

「バキゴキ、ゴリ」

「ガリガリ、ボキッ」

 

 逃げぬよう足を引きちぎられ、爪は牙に噛み砕かれた。ゴリゴリと脆いとは言えそこそこ硬いはずの殻が飴のように噛み砕かれる。食っているのは現在世界唯一のLv.8リリウス…………()ヴリトラ。

 

 ヴリトラも地面ごとジャガーノートの群を口に含み咀嚼し飲み込む。クジラがオキアミを捕食する姿はこんな感じだろう。オキアミを狙うクジラはそのまま飲み込むだろうが。

 

「ふぅ」

「クルル……」

 

 【狂餓禁食(プレータ・ナンディン)】による強食増幅(オーバーイート)。仮にも50階層産の破壊者を糧に、リリウスのステイタスは激増。同時に火傷も回復。

 

 強化種。魔石を喰らうことで力を手にする怪物たるヴリトラは全身魔石とも呼べるジャガーノートを喰らい、更に進化。

 

 これにより両者、Lv.9の領域へ足をかけた。

 

 音を置き去りに地面が爆ぜ、高速で移動する物体に対して大気の粘度が壁となるも一瞬で破壊。その音すら、2つの影がぶつかり合った衝撃で吹き飛ばされた。

 

「オオオオオオッ!!」

 

 ゴバァと吐き出される蒼炎。今度は、炎の形をしている。

 焼夷体液(ガソリン)に引火している炎は壁や地面に張り付き燃やす。リリウスの体にも付着し、鉄すら熔かす高温の炎が纏わりつく。

 

 アンフィス・バエナが転生したヴリトラ。最初の戦いでは焼夷体液(ガソリン)による蒼炎と魔力を喰らう紅炎の2つを持っていたが、2度の転生を果たしたヴリトラの炎は蒼炎のみ。

 

 ただし焼夷体液(ガソリン)自体が精神力(マインド)や魔力を吸収する性質がある。

 絡みつく炎は、魔法で消そうとすれば激しく燃え上がり水や砂の中に飛び込もうと精神力(マインド)を啜り燃え続ける。

 

「だが、俺には効かねえ」

 

 剣から湧いた炎の蛇が蒼い炎を食い尽くす。

 対処法は魔力を持たない天の炎で焼くか、リリウスのように食わせるか、或いは魔力の伴わないスキルで剥がすか。

 炎はともかく焼夷体液(ガソリン)自体の吸収能力は高くないので、焼夷体液(ガソリン)が燃え尽きてからなら炎も剥がせるだろうが。

 

 少なくともリリウスは全部出来る。全部出来るから最後のをわざわざやる必要はないだろう。

 

「カロロ…………」

 

 全身を青い炎で覆うヴリトラ。いっそ神々しさすら感じさせる姿だが、神々しさとは裏腹に周囲の岩壁が熔け始め地獄を生み出していく。

 

 そういや、とリリウスが周囲を見回す。誰かいた気がしたが、死体はないから逃げられたようだ。もしくは死体も残らず焼け死んだか。

 

 まあ良い。そんな事を気にしている余裕はリリウスにはない。

 

 ガラララララと大気を揺さぶる音が響く。発生源はヴリトラの尻尾の先端。

 中空の節が重なった尾を振動させ音を鳴らす。勿論威嚇などではない。

 

 他の鱗より薄いとは言え硬い尾の節がぶつかり合い、罅割れる。振るうと散弾の如く飛来する。

 

 一枚一枚が第二等級武装よりも硬く鋭い尾の欠片。リリウスの目の前に現れた盾が防ぐ。

 

「……………………」

 

 あの時は持っていなかった力にヴリトラは4つの目を細める。だがそれは、こちらも同じ。

 ヴリトラの身体から黒い煙が溢れ出す。

 

「ちっ!」

 

 ものすごい速度で広がる黒煙に飲まれたリリウスは払おうとするも、絡みつく。どころか、これは………。

 

「重い………」

 

 まるで水の中にいるかのように動きが阻害される。Lv.8のリリウスをして動きにくいと感じる黒煙。しかも、独特な匂いに、流れまで存在し匂いや音でヴリトラが追えない。

 

「焼き尽くせ、マーダ!!」

 

 なので黒煙そのものを焼き払う。世界を覆いつくさんばかりに広がる黒煙も全てを飲み込む炎の前では無意味。炙り出されたヴリトラは、既に炎を溜めていた。

 

「!!」

 

 煌々と輝く口内の光はこれまでにない。だというのに気付かせなかった黒煙の遮光性。

 

「ガアアアア!!」

 

 放たれる蒼白い光線。万物を破壊し尽くす怪物の咆哮に対し、リリウスは……

 

「ブラフマーストラ」

 

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 ブラフマーストラは世界に満ちる神気(ブラフマン)……アフロディーテの故郷ではエーテル……他にもマナなどと言った呼び方がある神により創られたが故に世界に満ちる神の力を、世界の根源的な力を借り受け放つ技。

 

 故に神殺しには効かず、神の被造物ではないダンジョンの、それも深層では本来使えぬと言った様々なデメリットが存在する。

 

 だからこれはブラフマンではない。己に混じったベヒーモスの因子を通し無理やりダンジョンから簒奪したダンジョンの力。

 

 初めての試み。威力は想像以下。ヴリトラの熱線と相殺。莫大なエネルギーは2、3階層ほど巻き込んで破壊し、オラリオはちょっとした地震に襲われた。

 

「グオオオオオオオ!!」

 

 そして、灼熱の大地を突き破り現れたのはバロール。竜と人を合わせたかのような巨人。深紅の瞳はそのままだが、全身が黒く、体軀は通常種の2倍はある。

 

 生まれながらの強化種。その能力は、単純にバロールの力を強化したモノ。眼球から放たれる熱線。視界に収めると同時に消し飛ばす、即ち直視の死閃。

 

 ダンジョン(はは)を苛む神ならざれど神同様不心得者共を視界に収めようと顔を上げた単眼の王の目に映ったのは大口を開け迫る蛇と獣であった。

 

 


 

単眼の王に、黙祷!

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