ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「な、何故貴方がここに!?」
「誘われた」
「来てはならないと言ったはず……」
豊穣の女主人に訪れたリリウスとベル。何故かいたリューが顔を真っ赤にしてお盆で顔を隠す。
「お前こそ、何してんだ?」
「…………実は以前、この近くで襲われたのですがその際に」
「? 襲われた?」
「幸い怪我こそ負いませんでしたが、中々の強者で加減が出来ず近くの倉庫を吹き飛ばしてしまい…………」
倉庫の持ち主にブチギレられて借金を背負い働くことになったたらしい。
「この様な姿、
「ところでこの店ペット入れて良いのか?」
「ペット? ああ………ミア母さんに聞いてきます」
と、店内に戻るリュー。数秒して戻ってきた。
「躾が行き届いてると思えるのなら良いと。ではご案内を…………そちらの方は何故固まっているんのですか?」
席へ案内しようとしたリューだったが、ベルが固まっているのに気付き首を傾げた。
「!? あ、いや、その! き、綺麗な人だなって………」
金髪、長髪、
「…………そのように世辞を言われても、生憎と食事は共にしません」
この店でナンパになれてるリューは呆れたようにベルを睨む。
「ち、違うんです! 確かに女の人は褒めろっておじいちゃんに言われてきたけど、ほんとに、物語から飛び出してきたみたいに綺麗で!!」
赤くなりあたふたと言い訳するベル。本当に口説く意図は一切なく、ただ思ったことを口に出してしまっただけなのだろう。
最後には赤くなって俯くベルに、リューはクスリと笑う。
「どうぞ、席へご案内します」
2人と2匹は導かれるまま酒場の中へと入った。
「ベルさん! 来てくれたんですね!」
「シルさん!」
と、薄鈍色の髪を持つ店員もかけて来た。
「あ、お友達も一緒なんですね」
「……………はぁ? 何してんだ?」
はじめまして、と挨拶するシルにリリウスは何故か訝しげな視線を向ける。
「店員ですもの、接客です♪」
「………ああ、そういう遊びか」
「? お二人はお知り合いだったのですか?」
「知らねえよ、こんな『街娘』。はじめて見た」
と、リリウスはさっさと席に着く。
「とりあえずメニューにあるの全部」
「はいはーい、かしこまギニャー!!」
「クロエが吹っ飛んだにゃ!?」
「恐ろしく疾い拳。
「…………うわぁ」
ベルがパスタを半分食ってる間にリリウスはメニューの三分の一を平らげていた。そのくせ結構綺麗に食べてる。
足元ではシャバラとシュヤーマが肉と魚を食っていた。
「楽しんでますか?」
「圧倒されてます」
シルの言葉にベルは目の前に積まれていく皿の塔をみる。
とりあえずリリウスの食事の邪魔をしないことにしてベルとシルは他愛ない話をする。と、その時急に店の視線が入り口に集まる。
ベルもつられて、そしてその金の髪と金の瞳をみつけた。ベルはバッと隠れながらも視線を向ける。その視線に気付いたのは3人。
シルとリリウスと………
ベートは苛立っていた。
ダンジョンに潜ろうとすれば主神命令とやらで止められ、宴に参加するように言われたからだ。
疲れた体を労う? 数日ぶりに家族みんなで過ごしたい?
知ったことか!
例えば、あの気持ちの悪い芋虫に物資を溶かされてやむなく退散ならベートもここまで荒れなかったろう。
補給の出来ないダンジョンで、食用になる採取物やドロップアイテムを見つけられたとしても雑魚は生き残れない。だから、それが理由で引き下がるならそこそこ荒れただろうが地上に戻る頃には機嫌も直る。
ただ、今回は違う。きっかけは確かに芋虫だが、【ロキ・ファミリア】は
あの漆黒の蛇から。恐るべき怪物から。
第一級の攻撃が効かないどころか気付きもしない桁外れの耐久は逆に攻撃したベート達の手足を砕いた。
認めよう。確かにベートはあれに勝てるとは思っていない。普段の言動から勘違いされるが、彼はそこまで思い上がりではない。
だが逃げたくなかった。意地であり、誇りであり、我儘でしかないのかもしれない。それでもベートは………。
彼は知っている。世界は理不尽であるということを。
彼は知っている。弱ければただ殺されることを。
だからベートは弱者が嫌いだ。強くなろうともせず今に満足して、何時か奪われるだけのくせにヘラヘラしている奴を見ているとイライラする。昔の自分を見ているようで。
そして、特にムカつくのが選りにも選って宴の場に居た。助けられたと憧れの目を向けるだけでなく、何時か自分も隣になんて、何もしてないのに何かに期待する夢ばかり見るクソガキ。
ベートは弱い奴が嫌いだ。だってお前等は夢ばかり見て現実を見れず、死んでいくじゃないか。
「そうだ、アイズ! あの時の話してやれよ!」
店全体に響くような声に視線が集まる。
「あの話?」
「あれだって! 帰る途中で何匹か逃げた
ミノタウロス。遠征の帰り、17階層にて【ロキ・ファミリア】の前に大群で現れたモンスター。
人を襲うはずのモンスターは、しかし彼等の強さに恐れをなして逃げ出した。
上へ上へと逃げていくミノタウロスの最後の一匹が襲ったのは他でもないベル。英雄譚によく出るミノタウロスも、実際はLv.2のモンスター。Lv.3でも油断したら殺されうるが、モンスターの中では弱い方。故に追いついたアイズがあっさり殺した。
当然Lv.1のベルは逃げるしかできなかったが。
「抱腹もんだったぜ! うさぎみてえに壁際に追い詰められて! 可哀想に顔を引き攣らせて、震えてやんの!」
「……………」
俯くベルに事情を察したのかシャバラとシュヤーマが【ロキ・ファミリア】を睨む。
「最後にはアイズがミノタウロスを細切れにしてよ。それでそいつ、くっせー牛の血を全身に浴びたんだよ。真っ赤なトマト見てえだったぜ!!」
「うわぁ……」
ベルが俯き、アイズも俯く。
「アイズ、あれ狙ってやったんだろ? そうだよな? 頼むからそう言ってくれ!」
酒で赤くなった顔でゲラゲラ笑う男の言葉に、ベルは羞恥から顔を赤くする。
ベルが逃げ出したことを話せば笑い声は店中から響き渡る。それでもなお罵倒を続けるベートに、リヴェリアがいい加減にうんざりだと声を挟んだ。
「そこまでにしろベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪こそすれ、酒の肴にするとは何事だ」
「ああん?」
リヴェリアの言葉にバツが悪そうな顔で黙り込む他団員と異なり、ベートは己の主張を撤回する気はないのか睨みつける。
「何より、逃げ出したという点で我々も同じ。誰かを罵れる立場か。恥を知れ」
「リヴェリア………」
【ロキ・ファミリア】の恥部とも言っていい敗走を衆目の場で暴露したリヴェリアにフィンが咎めるように名を呼ぶが、リヴェリアは一瞥だけして取り合わない。
「一緒にすんじゃねえ! 逃げるのを選択したのはフィンだろうが! 俺はあの場で戦うつもりだった!」
「ベート、足折れてたじゃん」
「はっ。手足が折れりゃ戦わねえってか? ダンジョンがんな甘っちょろいところだと思ってんのかよ」
ティオナの言葉に嘲りを返すベート。空気が張り付く。
「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震えるだけの情けねえ野郎を」
「あの状況じゃ、仕方なかったと思います」
庇うような言葉に、ベルはますます惨めになる。
「けっ。じゃあ質問を変えるぜ。あのガキと俺、番にするならどっちがいい?」
「ベート、君、酔ってる?」
その告白ともとれる質問にフィンが目を剥くもベートの視線はアイズに向けられている。
「ほら選べよアイズ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえ」
「私はそんなことを言うベートさんだけはごめんです」
明確な拒絶。なんなら若干の敵意すら感じる。
「無様だな」
「黙れババア!」
ベートはなら、と続ける。
「お前はあのガキに好きだの抜かされたら応えるのか!?」
「────」
「そんなはずねえよなあ! 自分より弱くて、軟弱で、救えねえ。気持ちだけ空回りの雑魚、お前の隣に立つ資格なんてありゃしねえ!」
「雑魚じゃあアイズ・ヴァレンシュタインに釣り合わねえ」
「ベルさん!?」
気付けばベルは駆け出していた。シャバラとシュヤーマが思わず立ち上がるが、リリウスが視線で止める。
走り去る少年の白い髪にアイズが慌てて店の外に出た。あの子だ。聞かれていたんだ。傷つけてしまった。
人混みに紛れたが、彼を追おうとしていた少女を見つけ、向かった方向だけは解った。それでも、アイズの足はそちらへ向かわない。
恐らくは追っても何も出来ないとでも思ってるのだろう。
「……………」
せめて彼の連れに謝罪しようと彼が座っていた席に視線を向けようとした時だった。白と灰の影が【ロキ・ファミリア】のテーブルへと飛びかかった。
コミカライズ版だとベート、ベルの存在に気付いて聞かせるように言って描写があるんだよな。個人的にもそっちが好き。