ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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弱者の意地

 シャバラとシュヤーマが怒りのままに【ロキ・ファミリア】へ飛びかかる。

 一番近くにいた特徴の無い男と獣人の男を押し倒し牙を剥き出しに唸る。

 

「ガルルルル!!」

「グヴヴゥゥゥゥ!!」

「うひあ!?」

「うわああ!?」

 

 見たところLv.4のようだ。だがま、シャバラとシュヤーマ程ではない。抵抗するがその牙が顔に触れる。と…

 

「この!」

「こんにゃろ!」

 

 アマゾネスと黒髪の猫人(キャットピープル)の女がシャバラ達に攻撃する。

 シュヤーマは猫人(キャットピープル)の蹴りを受け止め足を駆け上がり体当たり。

 

 シャバラはふっ飛ばされたが衝撃を流し床に爪を立てながら体勢を立て直す。

 

「シャバラ、シュヤーマ、そこまでにしておけ。ミアに殺されるぞ」

 

 リリウスの言葉にシャバラ達はミアの存在に気付き尻尾と耳を垂らす。2匹でもミアは恐ろしいらしく、リリウスの後ろに隠れた。

 

 リリウスはそのまま運ばれてくる料理を食らう。が、当然ファミリアが食われかかって何もしないわけもなく………

 

「おうおうおう! いきなり何すんねんごらぁ! 躾のなっとらん犬やな! 誰に手を出したかわかっとるんか!」

 

 ロキが叫ぶ。リリウスが食事を止めず振り返ればアイズとリヴェリア以外の団員が睨んできている。

 

「? 手を出す? 笑い話を提供してやったんだろ。こいつ等は、俺の犬とは思えないほど優しいからな」

 

 そう言いながら2匹の頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。

 

「笑い話やと? その犬っころども、本気でウチの子食い殺すつもりやったろうが!」

「グゥルルルル!」

「『そうだな。だが、強い奴に殺されそうになり震えるだけの冒険者の姿は面白いんだろ?』と言っている」

「バウ! ワフ、クルルル」

「『それが自分達の失態ならなお面白いんだろうが、そこは我慢してほしい』と言っている」

 

 2匹の言葉を翻訳してやるリリウス。事実としてミノタウロス相手に追い詰められた……アイズが間に合わなければ殺されていた相手を笑っていたのだ。

 

「はっ! くだらねえ、何犬っころに責任押し付けてやがる! 怖くて噛みつけねえなら、隅っこで震えてろ雑魚が!」

 

 と、吠えてくる狼人(ウェアウルフ)を鬱陶しげに見つめたリリウスははたと気付いた。

 

「……………? お前、【灰狼(フェンリス)】か? 変わったな」

「…………ああ?」

 

 嘗ての二つ名を呼ばれ訝しむベート。リリウスの記憶では、粗野ではあっても乱暴ではなく、誇り高くあったが傲慢ではなかった気がするが。まあ、5年もあれば人は変わるか。

 

「俺が騙ったかはそこの神なら解るだろ。それに、怖い? お前等が?」

 

 何故、と言うように首を傾げる。

 

「臆病な卑怯者に率いられた烏合の衆の、何を恐れろと?」

「っ! てめぇ、今団長を馬鹿にしやがったな!」

 

 リリウスの言葉に長髪のアマゾネスが叫ぶ。宴会で酔わせようとしてたり熱い視線を送っていたり……フィンが好きなのだろう。

 

 アイズが止めようとするがそれよりも速く飛び掛かる。

 

「死にやがれええええ!!」

 

 リリウスは迫る蹴りに対して垂直にナイフを構える。余計な方向からの力を一切加えられなかったナイフは第一級の肉を貫く。

 

「……はっ!?」

 

 痛みより困惑が先に来たアマゾネスは、しかしすぐにそのまま足を押し込もうと力を込める。

 ナイフが深く刺さりながらも頭蓋へ叩き込もうとするが、リリウスの手に足が触れた瞬間止められる。

 

 突き刺さったナイフを動かす。肉と骨が軋み苦痛に顔を歪めるアマゾネスの頭を掴みペレットへ顔面を叩きつけた。

 

 まあ第一級ならこの程度の熱でダメージなど負わないだろうが。

 リリウスはふと第一級の幹部が一方的にやられて固まる【ロキ・ファミリア】を見る。

 

「どうした、笑えよ。弱い奴が強い奴に甚振られる光景が、想像しただけで笑っちまうようなツボなんだろ?」

 

 誰もが言い返せない中、それでも動く者がいた。正論も持論も無視して、ただ家族を助けるために。

 

「こんにゃろ!」

「………………」

 

 リリウスが抑えつけているアマゾネスの妹であろう短髪のアマゾネスに向かって長髪のアマゾネスを投げつける。

 

「わ、とと!」

「飯の邪魔だ。とっとと失せろ」

 

 【ロキ・ファミリア】は戦争とでも思っているのかもしれないが、リリウスにとっては食事中に騒がしくされた程度の認識。先に手を出したのはシュヤーマ達だし、この辺りで終わらせて食事を再開したかった。

 

「あの…………」

「ああ?」

 

 だがアイズが話しかけてきた。敵意はないようだし聞いてやろうと振り返るリリウス。

 

「ここまでコケにされて引き下がれるかい!」

「ロキ、いい加減にしろ! 酒場の席で咎められることをしたのは我々だろう!!」

 

 が、ロキが叫びリヴェリアが止めようとするも三大派閥の一角としてのプライドか、他の団員もリリウスを睨みつける。

 

「そこまでだ」

 

 だが、彼等はファミリア。決定権は団長であるフィンにある。

 

「まずは謝罪を。不快な思いをさせすまない。それと、久し振りだね?」

 

 確信を持っていってくるフィンにリリウスは舌打ちしながらフードを取る。外套の下にしまっていた白い髪を取り出すとフワリと流れた。

 

「やっぱり…………」

「え? お知り合いですか?」

 

 殆どの団員が驚く中困惑する一部の団員。リヴェリアがその名を呟く。

 

「………リリウス?」

「え、リリウスって…………」

「リリウス様!? アルヴの王森をお救いくださった!?」

「それって、Lv.8の……」

「Lv.8!?」

 

 ザワザワ酒場中が騒がしくなり一部の者達が距離を取る。

 

「強けりゃ好き勝手言って良いんだろ? なら見逃せ。殺されたくなかったら」

 

 まさかの脅しに店員ゆえ中立だったリューはリリウスがそこそこ苛ついていることに気付く。あの白髪の少年、もしや友達? 挨拶しなくては。

 

「一応、僕達にもメンツがあるんだけどな」

「潰れて困る面なんざになんの価値がある。力関係が変わるわけでもあるまいし」

 

 フィンの言葉に吐き捨てるリリウス。メンツがどうなろうと弱くなるわけでも強くなるわけでもない。

 リリウスからすればどうでもいいもの。それを理由に絡んでくるなら適当に痛めつけると目が言っている。

 

「そもそも弱者を笑うお前等が強者の機嫌を伺うだけだ。何が変わる?」

 

 ミノタウロスに襲われ死にかけた冒険者を笑い者に出来るのは、言ってしまえば彼等が強者だから。ミノタウロスより強いから、というわけではなく、彼等は誰を笑い者にしようと文句を言われない。

 

 そう思ってるんだろ? とリリウスは言外に蔑む。が………

 

「ふざけんじゃねえ! 誰がてめぇの機嫌なんざ伺うか!」

 

 ベートが縛っていた縄を解き蹴りを放つ。リリウスは店の外へ蹴り飛ばした。

 

「飯うまかった。これ金………」

 

 リリウスは金を払うと店を出る。そのままベートへ追撃するのかと思えば、背を向け歩き出した。

 

「ガアアアアアア!!」

 

 月の光で獣化したベートを振り向かず裏拳で殴り飛ばす。

 また襲いかかってきた。踏みつける。

 立ち上がり向かってくるたびに殴り、蹴り、捻り、砕き……

 

「も、もうやめてください!!」

 

 割り込んできた眼鏡女ごと吹っ飛ばし、蹴り上げ、叩きつけ、投げ飛ばし…………。

 

「ま、だ………だ……………」

 

 頭蓋の一部が砕かれ目玉が神経だけで垂れ下がるだけ。手足だって砕けて、壊れてない場所を探す方が難しいベートはそれでも立ち上がろうとする。

 

 ベートから向かっているのでリリウスを止められないリヴェリアはベートを止めようとするが、そのボロボロの体の何処にそんな力があるのか、振り払い再び向かおうとするベート。

 

「結果は分かりきってんだろ」

「だ、ったら………なんだ…………」

 

『巫山戯んな! 弱え奴だけ相手して、強い奴は他の誰かに任せろってかあ!?』

 

「……………訂正する。変わってねえな、お前」

 

 相手が強者だろうとそれを理由に戦いを避けることをしない。だが鬱陶しい。と………

 

「そこまでだ」

「………エピメテウス」

 

 リリウスの肩をエピメテウスが抑えた。

 

「もう気を失っている」

 

 その言葉にベートへ視線を向ければ、確かに気を失っていた。

 

「……そいつに免じて見逃してやる」

 

 と、リリウスはロキに視線を向ける。

 

「子供の敵とか、舐められた報復とか……してえなら何時でも来い。その時はお前の神命に従った奴を殺す」

「ベートに免じてくれんなら、ウチは今回の件飲み込んだる」

「………そうか」

 

 リリウスはそう言うと歩き出した。

 

「………あの男、接近が見えたかい?」

「ワシには見えんかったな」

「何者だ? いや、今はいい。ベートとリーネの治療を!」

 

 アイズはリリウス達が去った方向を見つめる。ずっと再会したかった人。あの時のことを謝りたかったのに………。

 

 彼等の背中と彼等が向かう先にある月明かりに照らされるバベルを見ながら、アイズはしかし追いかける事が出来なかった。

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