ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:仮面の聖女

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邪神の問いかけ

 闇派閥(イヴィルス)の襲撃が行われる街で、リリウスは地図を確認しながら拠点を探す。

 とはいえ、こんな瓦礫と空き家だらけの街では余り意味がないが。

 人目がないのは喜ばしい。気にせず食事が行える。

 

 まあ薄味だが。かと言って、Lv.7を食ったら胃もたれする。あの毒もあるし………今ならもう少し耐えられるだろうが、その場合街が耐えられないだろう。

 普段なら街が半壊する程度無視するが、今はアーディの代わりに動いている。

 

 正義の味方って面倒くさいな。

 助けてやったのに石投げられるし。

 でも殺すと()()()が怒りそうだし………そういえば誰に怒られるんだっけ?

 

「悪って楽でいいなあ。つまるところ『悪』だからと何でもしていいと思ってやがる」

「か、は…………お、お母さん………おとお、さん…………」

「自分で自分と同じ奴を増やしても、悪だから気にしないし、可哀相だからしても良いと思ってやがる」

 

 バキャッと自分より高い背丈の闇派閥(イヴィルス)の頭蓋骨を踏み砕く。

 小人族(パルゥム)の子供であるリリウスより大きいが、年齢は1つ2つ下だろう。動きからして、一般人に紛れることも想定した恩恵なし。

 

 骨が細くて砕きやすいので食べやすいが味が薄い。

 口元の血を拭い、見回りを続ける。

 今、冒険者に補給する薬や食料も少なくなってきているらしいが、リリウスには関係ない。

 

「お、これモンスターのドロップアイテム………」

 

 闇派閥(イヴィルス)の子の、冒険者だった父の形見を噛み砕き、唇を舐めるリリウス。予想外の美味だ。

 中層モンスターの、発達した場所。美味くて当然。

 

「ん?」

 

 と、リリウスは鼻をヒクヒクと動かす。そのまま、匂いに誘われるようにそちらに向かうリリウス。

 

「来たか、小娘」

「………………」

「………いや、小僧だったか」

 

 第7区画、廃教会。リリウスが潰した悪党共の違法市(ダーク・マーケット)があった場所だ。ついでに言えば、黒衣の魔女と出会った場所でもある。

 

「………髪が汚れているぞ、こっちに来い」

 

 遥か格上の灰色の女。確か、【ヘラ・ファミリア】のLv.7【静寂】のアルフィア。

 

「せっかくの白髪を血と埃で汚して………」

「俺の髪だ」

「良いから来い」

「…………………」

 

 敵意がない。なんなら、オラリオの民や冒険者も含めて、一番敵意がない。

 大人しく従うリリウス。何故か用意していた桶から水をすくい、髪の汚れを落としていくアルフィア。

 

「小娘かと思っていたが、小僧だったとはな。だが、まあその白髪は良いな。特に、目が赤くないのがいい」

 

 目なら、白髪関係ないのでは?

 とはいえ敵意がないし、かと言って逆らえる相手でもないので大人しくされるがままのリリウス。

 

 伸ばしっぱなしの泥と埃と返り血と汗でベタベタな髪は、どんどん綺麗になっていく。何となく、眠い。

 

「お前については、エレボスから聞いた。オラリオの瑕疵とは、よく言ったものだ」

「菓子?」

「瑕疵だ。今のオラリオの脆弱さが、お前を生んだ」

「俺を生んだのはクソみてえな母親だ」

 

 ウツラウツラと船を漕ぐリリウス。アルフィアはそうではない、と呆れる。

 

「このオラリオの、失望に値する現状がお前という人間のあり方を歪めた」

「……………選んだのは俺だ」

「…………そうか」

 

 魔道具(マジックアイテム)か何かを使ったのか、リリウスの髪を乾かすアルフィア。そのまま櫛で梳いていく。

 

「ザルドの片腕を奪ったそうだな」

「腹が腐ったがな」

「悪食が過ぎるぞ」

「食えりゃなんだって良いだろ。まあ、あれは2度も食おうとは思えないし、なんか食いたくない奴にもあったけど」

「…………お前、仮にも私は都市の破壊者だぞ」

 

 普通に会話するリリウスに、アルフィアが呟く。

 

「別に俺が被害受けたの自爆ぐらいだし」

「都市を破壊したんだが………」

「……………ああ」

 

 そういえば、と言うように思い出すリリウス。自分以外のことなど割とどうでも良い。でも今は都市を守らなきゃいけないから、相打ち覚悟で魔法で食うか?

 

「やめておけ。お前の魔法と私の魔法がぶつかればどうなるか解らんが、少なくとも魔法を発動する前にお前など捻り潰せる」

「………………お前も、あの男も、街を破壊しているくせに敵意を感じない」

 

 と、リリウスは視線をアルフィアに向けた。

 

「何がしたい?」

「…………答えてやる義理はない」

「そうか」

 

 じゃあ良いやと、欠伸をするリリウス。あっさり引かれ、むしろアルフィアの方が拍子抜けだ。

 

「お前は、今のオラリオをどう思う?」

「何だお前、オラリオに良くなってほしいのか?」

「失望していると言ったはずだ。マシなオラリオを知っているだけだ」

「その頃に戻ってほしいのか」

「違う。戻るのでは駄目だ。また繰り返す」

 

 繰り返す、という言葉に込められた失意と絶望に、リリウスは目を細める。何となく、見えてきた。

 そもそも現状のオラリオ最強達に、過去の英傑(ゼウスとヘラ)の足元に及ぶだけと詰っていたのはリリウスだ。

 

「………聡いな、お前は。余計なことを言うべきではなかった」

「超えられると思ってるのか? 八年を費やして、進まなかった彼奴等に」

「超えろ。超えられぬなら死ね」

「……………」

 

 リリウスの髪を編み込みながらアルフィアは不遜に命じる。超えろと言うくせに、少しも加減する気はないのだろう。

 

「そうまでしなければ、あの絶望には抗えない」

「俺が喰ったら?」

「ザルドの報告を考えるなら、小さく素早くなった災厄が壊れるまでに地上を消し飛ばすだろう」

 

 確信を持った言葉だった。事実として喰った筈の力に飲まれたリリウスとしては否定できる要素がない。

 

「…………………寝る」

「そうか。私は、少し出る………エレボスめ」

 

 腹が減り、なのに頭を回転させたリリウスは眠気を覚えた。欠伸をすると眠れそうな場所を探すリリウス。

 

「お前は、この街から逃げないのか?」

 

 リリウスがその気になれば、ソーマを連れ都市の外に自分達だけで逃げる事は可能だろう。Lv.5の、第一級の冒険者にとって、市壁やその外に控えている雑兵など超えるのは容易い。

 

「………俺は、お前の息子じゃない」

「…………………私の子ではない、妹の子だ」

「そう………か………」

 

 

 

「………………」

 

 本当に寝た。警戒心がなさすぎるのではなく、アルフィアが手を出さないと確信しているのだろう。

 妹の息子…………重ねていたのは事実だ。

 妹とは白髪という共通点と、この教会で出会ったという縁しかないが。

 

 やはり、会いに行かなくてよかった。会いに行けば、きっと自分はここに居なかっただろう。

 

「願わくばお前の未来にも、数多の英雄が立ちはだからんことを」

 

 アルフィアはそう言い残すと、わざと教会のそばで騒ぎを起こしたエレボスを内心で罵りながら、とりあえず一発は殴ると決め出ていった。

 

 

 

 

 エレボスがリオンを探し輝夜とライラに出会い、役立たずのヴィトーに代わりアルフィアが参戦、自分にかすり傷をつけるというまあまあ感心する偉業に免じて見逃した後、ライラの放った爆音に引き寄せられたリュー。

 

 火薬の匂いや魔力の残滓の中で彷徨っていると、奇跡的に無事な教会を見つけたリューは中に入ってみる。

 

「!?」

 

 柱と一体化した女神の彫像の下で、丸くなり眠る白い毛並みの獣。

 リューの親友(アーディ)を喰らったその口で、アーディの代わりをすると嘯く人喰いの怪物。

 

【飢鬼】(ラークシャサ)!」

 

 本来はリューより格上のLv.4。

 それも、Lv.4の中では白兵戦を得意とし、ランクアップ時に数字がリセットされた潜在能力値(エクストラステイタス)も間違いなく群を抜いている存在。

 

 それが無防備に寝ている。今なら、Lv.3の自分でも殺せる。そうでなくとも、初撃で傷を与えることが出来れば………!

 

「…………ん」

 

 まだ距離はあるが、リューの殺気に反応したかのようにピクリと動く。

 リューの二つ名は疾風。それは魔法もそうだが、速さも由来。この距離なら、起きる前に…………!

 狙うなら頭。あるいは首………!

 

「………………ぁ」

 

 その細い首を見て、はたと殴られたような衝撃を受けるリュー。

 細い首だ。リューの両手を使えば簡単に一周した上で、指が余る。ライラよりも小柄な、子供の首。

 

 いいや、違う! こいつは化け物だ! 人の血肉を喰らい、そこに罪悪感も嫌悪感も持たず、血に塗れたその口で、平気で恩を返すなどという言の葉を紡ぐ、大凡理解出来ない怪物だ!

 

 本当に?

 

『あの子は子供よ、リオン。善悪も教えられなかっただけ………私達が知らず、示してあげられなかった子供』

 

 以前、闇派閥(イヴィルス)が相手だとしても余りにやり過ぎだと苦言を漏らしたリューにアリーゼが言った言葉が蘇る。

 

『だってまだ子供だもん。私があの子ぐらいの頃は、冒険譚読んで笑ったりハラハラしたりしてたのにな〜』

 

 どうして気にかけるのか、そう尋ねたリューに、嘗てのアーディはそう答えた。

 

『ま、アタシは善悪を判断できる余裕はあったからな………それに、アタシはお前等に恵まれたがあのガキは自分で決めるしかなかった』

 

 同族だからと甘すぎないかと言ったリューに、あの時のライラは肩を竦めた。

 

 いや、いいや! 違う、あれは断じて子供なのではない! 人の形をした怪物、人の皮を被った獣!

 そうである、筈なのに………!

 

 何度見ても、そこにいるのは子供だった。

 怒りに身を任せ、エルフの潔癖に縋り目を逸らし続けていたが、人喰いの獣はしかし誰にも善悪を教えられなかった人の子だった。

 

「あぁ………私は、何を…………!」

 

 昨日、怒りのままに戦った剣士の少女もそうだ。

 何をしているんだ自分は。彼女も、彼も、守らねばならぬ子供なのに……。

 

「なんだ、正義の眷属による子供の撲殺劇か、『正義の派閥』と『都市(オラリオ)の瑕疵』の決定的な決別が見れると思ったんだがな………」

「!?」

「いやあ、残念残念。存外理性的じゃないか、リオン」

「邪神、エレボス!!」

 

 リューの言葉に、闇から滲み出るように現れた邪神は微笑む。と………

 

「あ………?」

 

 リューの声にとうとう眠っていた子供が目を覚ました。リューを見て、エレボスを見て………灰色の髪の女によって【釣り針】が弾かれた。

 

「うっわ、一切の躊躇無しで殺しに来たよこの子。一応それなりの神威を出してたんだけどな」

「恐れ多いという感情を理解していない。怯える程の神威が、この獣には丁度いい」

「【ヘラ・ファミリア】!!」

 

 女の正体は、アルフィア。絶対のLv.7。

 

「しかし俺はついている。なあ、リオン。何時かの答えを聞かせてくれ」

 

 ドクンと、リューの心臓が早鐘を打つ。リリウスはアルフィアを警戒して動かない。

 

「リオン、お前の『正義』はなんだ? ちなみに、そこの幼子にも同じ問をしたら『大きな声を聞くこと』と答えた。だから、リオン………正義(お前達)にその声を聞かれず、獣に堕ち何もかも喰らう事しか出来なかった子供の前で、お前の正義を教えてくれ」




その頃のリリウスの心境
(なんか喰う気が失せてきた。ん? つまりあの女は…………)
と、割と核心に迫っているが、実際には街に出てるのは娘なのでちょっと惜しい

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