ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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ギルド提示板

 悔しい! 悔しい! 悔しい!

 何が親しくなるにはどうしたらいい、だ! 彼女の前に立つなら『何もかもしなくては』ならないのに!

 

 何もしないまま何かを期待して、ありのままでありもしない未来を夢見た。

 怪物から逃げ出したくせに、怪物と戦う彼女の側に居れる訳が無いだろ!!

 

 湧き上がる自身へ向けた殺意を押し付けるようにモンスターを切り裂くベル。

 

「っあああ!!」

 

 弱者の咆哮。弱くて惨めで、怖いからではなく否定出来ないから逃げ出すしか無かった己への怒りをナイフに乗せる。

 

 防具も纏わずナイフ一本。自棄の強行。間抜けの凶行。

 身の程を弁えず、階層で己を慣らすことなく突き進み6()()()。冒険者になって半月。早すぎる進行の正体は、適正階層を無視して下に降りただけ。

 

 そうして出会ったのはウォーシャドウ。上層最強とは言わぬが、それでも上位に位置する人型のモンスター。

 

 影のような黒い体に鋭い3本の爪を持つ鏡面の怪物はゴブリンやコボルトで調子に乗った新米を容易く殺すだけの力を持っていた。それが2匹。

 

 ベルは戦闘のさなか短剣を落としてしまったが、一匹を拳で撲殺。仲間が殺されて硬直した2匹目を拾った短剣で切り裂いた。

 

 その姿を見て、誰が彼を冒険者になって半月だと思うか。しかし、それでも半月。ダンジョンに対する理解がたりない。

 

 バキバキと壁がひび割れ現れる4体のウォーシャドウ。それだけでなく、彼が現在いる広間(ルーム)唯一の入り口にもモンスターが集まっていた。

 

 時刻は夜。冒険者も多くが地上か、或いは()()()()()()()()に留まる中、唯一の獲物を求め集まってきたのだ。

 

 上級ならざれどベテランの冒険者でも死を覚悟する窮地に、ベルはウォーシャドウの爪を拾う。

 加工もされていない鋭い爪を直接握る。抜き身の刃物そのものを握る手から血が滴る。

 

「あああああ!!」

 

 血の匂いに色めき立つモンスター。そんなモンスターにも劣らぬ咆哮を上げ、ベルはモンスターへ突っ込んだ。

 

 

 

「はぁ、はぁ…………ぐっ」

 

 有限を排した無限の怪物。されど一律同じ数が生まれ続けるわけではない。

 壁が破壊されれば修復に時間をかける。怪物を生めば壁は壊れ、ほんの僅かなインターバル。

 

 呼吸を整えようとするベルだが、素早い影が死体の隙間を縫い襲いかかる。

 

「ぐっ!?」

 

 速い上に、重い。

 ベルが体を回転させ何とか受け流す。地面を削りながら睨みつけてくるのはダンジョン・リザード。

 

 壁や天井に張り付き縦横無尽に動き回り予想外の方向から襲いかかってくるモンスター。だが、動きが普通ではない。

 

 強化種だ。ベルが殺した同族の亡骸を喰らい魔石を取り込み力を得たのだ。

 

「ゲゲゲゲゲ!」

 

 鋭い牙の生え揃った口を開け壁を走るダンジョン・リザード。ダラダラと垂れる涎を気にもせず、力に酔いしれ襲いかかり…………炎に飲まれた。

 

「え………」

「よお、ベル」

「………リリウスさん」

 

 振り返ると褐色肌の大男と白髪の小人族(パルゥム)。どちらも知り合いだ。そう言えば大男の名前聞いてなかった。 

 

「っ! 僕はまだ、戦えます!」

「そうだな。そして死ぬ」

「!!」

「まあ俺が言えた義理じゃねえが。力が欲しいか?」

「……………え?」

 

 その言葉にポカンと固まるベル。リリウスはふと集まってきたモンスターを見る。

 

「…………あれは蛇だな」

「蜥蜴だろ?」

「いや蛇だ。体長いし」

 

 と、リリウスは小石を掴む。握力で握り砕きながら礫に変えると人差し指の腹と親指の先に挟む。

 

「何をする気だ?」

「せっかくだし、威力を試す」

 

 パリッと発電し、リリウスが礫を指で弾く。瞬間、大気が引きさかれる音と熱せられた大気が振動する音………雷鳴が響き渡る。

 

 限界が来ていたベルは雷光と雷鳴で意識を失い、モンスターの群ごとダンジョン6層の一部が消し飛ぶ。

 無言で見つめられるリリウスは、地上に出るまで視線を合わせることはなかった。

 

 

 

 

「ルアアアア!!」

 

 黄昏の館修練場。暴れ狂う嵐の如く、ベートはガレスへ猛攻する。

 

「ぬぅ、病み上がりめ。大人しくせんか!!」

 

 敢えて攻撃を受け『耐久』にものを言わせた防御を行ったガレスはそのままベートを殴り付ける。オラリオでも屈指の『力』の持ち主。超前衛特化の拳は同じ第一級でも格下であるベートを吹き飛ばす。

 

「べ、ベートさん!」

 

 リーネが回復させる傍ら、ガレスもポーションを飲む。

 

「まだだジジイ、つきあえ…………」

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】から帰ってすぐにダンジョンに向かおうとしたベートを止めれば鍛錬につきあわされ、この調子。

 

 眼窩底骨折で片目を失いかけていたのに、その目には強い怒りが宿っていた。そしてそれは、おそらくは己自身に向けているのだろう。

 

「ベートさん、もうこれ以上は………」

「急ぎすぎじゃ。少しは休まんと」

「休んで強くなれんのかよ!?」

 

 体を労れと諭そうとするガレスの言葉をベートは一蹴する。そんな時間はないと己を急かす。

 

「報復でもする気か? やめておけ。悪いのは儂らじゃろう」

「笑わせんなよ爺…………俺は負けた。俺が弱かった。あれはそれだけだろうが………それだけ!!」

 

 言ってしまえばそれだけだが、ベートにとってはそれだけではない。

 強者によって部族も故郷も奪われたベートは己の牙を研ぎ故郷を取り戻した。力が無ければ奪われ、奪い返すには、護るには力がいることを知っている。

 

「てめぇこそ、寝ぼけてんなよ爺!! 俺達より強い奴が居た! 俺達を殺せるだけの化け物を見た! なのに、なんでてめぇは何もしてねえ!!?」

 

 ベートは弱者が嫌いだ。弱いままで満足し冒険もせず冒険者を気取る連中が嫌いだ。半分より上になれただけで満足して、頑張ったと嘯き何もしない奴等が嫌いだ。

 

 そもそも、そもそもだ。Lv.7となって追い抜かれて、Lv.8になって置いていかれて、何故『弱者』に甘んじる。

 

 そうじゃないだろ。ベートが悪くねえと、そう思えたのは強者に従う弱者が、強者になろうと足掻くから。『雑魚』であっても『屑』じゃなかったからだろう!!

 

「強い奴が現れて、吠えることも出来ねえなら俺の上に立つんじゃねえ! フィンも、てめぇも、纏めてぶちのめすぞ!!」

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】の【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ。弱者を見下し嘲るオラリオでも屈指の嫌われ者が負けた。

 完膚なきまでにボロ雑巾のようにボロボロにされた。

 

 本来なら彼を嫌う者達によってあることないこと広められるだろう。自分で勝ったわけでも無いくせに、ベートが自分より弱くなったわけでもないのに好き勝手騒ぎ酒の肴にしただろう。

 

 だが、そんな噂はギルド提示板に載せられた情報によって塗りつぶされた。

 

「…………これ、本当かよ?」

「ギルドも確認してるだろ」

「でも、いくら強いつったって小人族(パルゥム)がまさか」

「今フィン様まで侮辱した?」

「ところで隣の誰?」

「知らん」

「名前は………ああ、こいつが聖地の」

「英雄の子孫とかいう? 愚物だけどな」

「Lv.2か………フッ、ゴミめ」

「お前の眷族Lv.1だけじゃ〜ん」

 

 張り出されるランクアップ情報。そこに乗るのは、リリウス・アーデ。つまりは……

 

「Lv.9………人類最高到達点」

 

 

 

 

「1年前にLv.8になったばかりなのにね! お姉ちゃん的に鼻が高いわ!」

「なんかもう、すげえわ。うん、すげえ」

「語彙力がなくなっておりますねえ」

「ぐぬぬ……私も絶対に」

 

 星屑の庭では【アストレア・ファミリア】もその知らせを聞いて喜んでいた。セシルは悔しがっているが。

 

「私達も遠征で鍛えなきゃ! と言いたいところだけど、行方不明者の捜索ね!」

 

 それで強くなるのが遅れるとしても、彼女達は構わない。困ってる人を助け、悪を見つければぶっ飛ばす。それが彼女達の在り方だ。

 

「確か17階層で見失うんだっけ?」

「奴等も知らぬ未開拓領域に迷い込んだのかもしれんな。あのナマズ共のように、休息の場と思わせて襲ってくるような」

「服も溶けるし散々だったわねあれ」

 

 

 

 

 さて、その頃のリリウスと言えば。

 

「……………………」

「昨日も会ったが、改めて…………久し振りだな」

「ああ」

「少し、話さないか?」

「奢りだろうな?」

「ああ」

 

 リリウスはシャバラの首元を撫でリヴェリアについていくように促す。シャバラは昨日の出来事を思い出しながら少しだけ警戒し、しかし従い、主人を運ぶ。

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