ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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人と怪物

ロキは別にウラノスが犯人とは思ってないですよ。ディオニュソスに頼まれたのと、偉いしちょっとくらい何か知らねえかなあと探った程度だと思います。

 


 

 大凡三十年前、闘技場(コロシアム)と呼ばれる地獄が生まれた。

 唐突に、前触れもなく現れたその正体を知るのはウラノスとその腹心であるフェルズ。

 

 生み出されたのは、産まれたから。永く長い転生の果てに、前世の情景を胸に宿し理知を持つモンスターが。

 

 母の憎悪を引き継がず、怪物の使命を持たぬ裏切り者。同族にすら嫌悪される異端の輩。されど、我が子。

 

 母たる迷宮(ダンジョン)は彼等のために住処を作り、同時に彼等を見定めるべく実験場を生み出した。

 それが闘技場(コロシアム)。リリウスはその地下で未発見の安全領域(セーフティーゾーン)を見つけたが、恐らくは異端児(ゼノス)の為に用意された空間。公式には知られていない。 

 

 そんな、本来なら憩いの場で争う2つの影。

 片方はフィルヴィスで、もう片方もフィルヴィスだ。

 

「お前、お前ええ!! よくも押し付けてくれたな! 彼奴等何時も変なことしか言わないし、今日なんて手を出すなとエニュオに言われたリリウスに知られるし!! 後そのエニュオもなんか興奮して気持ち悪かったし!!」

「私悪くないだろ!」

「自分だけあれを味わわないとか許せるか! 同じ私なのに!!」

 

 喧嘩の理由は解らないが、後から来たフィルヴィスは怒っていることだけは解る。

 

「私だって、経験値(エクセリア)と魔石の確保に、異端児(ゼノス)達の勉強を!!」

「ぶっ殺してやるううう!」

「きゃあ! 自分殺し!」

「フィルっち! 落ち着け!」

「疲レると凶暴になるんデすね」

「自分同士ノ争イトハ、醜イナ」

 

 なんだろう、あの光景。と、金色の羽毛を持ったセイレーンがバサリと浮き上がる。

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

 本来なら怪音波を出すセイレーンだが、その喉から奏でられるのは時を忘れさせる美声。フィルヴィス達が喧嘩をピタリと止める。

 

「あら? もう皆集まってるの?」

 

 と、不意に聞こえてきた声に振り返ると牛人(カウズ)がブラッティファングに乗ってやって来た。その隣には青銅鎧の巨人。

 

「フィルヴィスちゃんも、両方とも揃っているのね。喧嘩したの? もう、自分同士で傷つけるなんて悲しいわ」

 

 あらあら、と頬に手を添え微笑む美女。美しいと素直に思う。後胸がでかい。地上に居れば神々がこぞって求婚するだろう。と、思うのはまだ神を常識的に思いすぎ。実際は、『ママになってください!!』と迫る。アミッド達人類には高度すぎる性癖なのだ。

 

「エウロペ」

「久しぶりねリリウスちゃん。大きくなった?」

「背は大して伸びてない」

「じゃあ、いろんな経験をしたのね」

 

 そう言ってしゃがみ頭を撫でる。リリウスにしては珍しく、されるがままだ。

 

「そちらの2人は初めましてよね? 私はエウロペ。この子達の、保護者と先生…………かしら」

 

 

 

 

 

「「【終わる幻想、還る魂。引き裂けぬ貴方(きずな)】」」

 

 分身魔法、【エインセル】の解除式。白と黒が混ざり合い、やがて暴風のように吹き荒れる魔力。

 リリウスやエピメテウスが接敵した『精霊の分身(デミ・スピリット)』の最上位にこそ届かずとも、上位に匹敵する強大な存在感。

 

 その魔力も直ぐに抑えられる。垂れ流しにしていれば、この安全な筈の領域にも気付かれるだろう。

 

「…………ふぅ」

 

 互いの記憶を共有し、嫉妬やら怒りやら喜びやらが混ざり合うフィルヴィス。氷で分身を作るリリウスの白の芸術(精霊の秘術)とも異なる、正真正銘自分を分ける無二の唯一の秘術(オンリーマギア)

 

 怪物の如き心を持つ『人間』に仲間を殺され、人間の如き他者を思う『怪物』に触れたばかりの頃、不安定な彼女の心を守るために発現した魔法。

 

 ステイタスを半分に分けるというデメリットこそあれど、中々有用。いざという時魔法を解除するだけで逃げる事の出来る魔力で出来た『分身体』が基本的に潜入調査をしているのだが、それが理由でよく喧嘩するらしい。

 

「さて、改めて紹介しよう。フィルヴィス・シャリア……リリウスの共犯者だ」

「…………………」

 

 リリウスの隣に座るフィルヴィス。アミッドはむむ、と眉根を寄せる。

 

「お前達も協力者ということでいいのだろうが…………いいのか?」

 

 そう言ってフィルヴィスが見るのは、エピメテウス。

 リリウス以外、この場で知る者はいないが彼は古代の英雄。モンスターが人類を蹂躙する光景を見てきた生き証人。

 

「………私は、忘れたことはない。お前達の牙が命を貪り、お前達の爪が肉を引き裂き、お前達の足が血に染まる大地を踏みつけた光景を」

「「「………………」」」

 

 それは俺達じゃない、とは………誰も言わなかった。

 

「お前達は、人を殺した事があるか? 人を襲わぬと、そう誓えるのか?」

「…………殺したことは、ある」

「はイ」

「アア、アルトモ」

「殺しました」

「殺した」

「ごろ、じた」

 

 殺してないと言っていたら、燃やしていた。襲われたから、仕方なかったと言葉が続いていたら、斬っていた。

 

 甘言を用いる人間と甘言を用いる怪物がいたとして、同じ悪意を持っていたとして、それでもエピメテウスは怪物を殺すだろう。怪物と人の溝はそれだけ深い。言葉が通じる。心がある、それを証明された程度で埋まらぬほどに。

 

 故にこそ、エピメテウスは彼等を殺さない。

 

「……………そうか」

 

 エピメテウスは目を伏せ、ここに来てからずっと触れていた剣の柄から手を離す。その反応に、リリウスもゴロリと横になった。

 

「アミッドは?」

「…………彼等が人と同じ心を持ち、人と同じ言葉を持って繋がりたいと願い、傷付くのなら………癒します。私は、汎ゆる病、傷、呪を殺すと決めています。それが怪物であろうとも、人の心を持つのなら」

 

 

 

 

「役立たずはぁ、金をもらえると思うなでしたっけぇ? あはは、あっは! じゃあ今日の稼ぎは誰のものでしょうねえ?」

 

 無邪気な子供の笑い声。赤い髪の狼人(ウェアウルフ)の少女は、ダンジョンの中だというのに楽しそうに笑っていた。

 

 上層とはいえ、怪物の住処には違いないのに。

 

「オークを倒したお姉さん? このお金じゃあ、鼻も口もつぶれたままですかねえ。インプを引き受けたお兄さん? あれ、二度とダンジョンには潜りませんね。う〜ん、誰もお金を有効活用できない。なら、貴方が持ちますか?」

 

 コテン、と体ごと首を傾げ、無邪気に笑う。

 

「笑い話の種にサポーターを蹴って、魔石を零して足止めしてしまったのも、サポーターが悪いですからね。その音に寄ってきたキラーアントを殺しきれなくて仲間を呼ばれても、いざという時の盾にもなれないサポーターが悪いですもんねえ」

 

 でも、その()()()は昨日までしか使えない。

 

「まあ昨日の話で、今日はぜぇんぶ貴方のミスですけどね! 不思議ですかあ? こんな事起きるわけがないと思ってますう? サポーターがいないだけで、何でって………だって、()、貴方をサポートしてあげましたから。そしたら、ふふ……適正階層を超えちゃって」

 

 そして、盛大に失敗した。

 

「大丈夫です。数多の冒険者を見てきた、()が断言する! 君達は死なない! ちょっと痛い目にあって、ちょっと傷が残るけど、魔石もドロップアイテムも武器すら置いて、情けなく逃げれば逃げられますよ。そして、貴方のお仲間に誇りを優先する人は貴方を含めて一人も居ない」

 

 だから全員助かると、少女は保証する。

 

「ああ、でも貴方は想像より弱かったから、思っていたより馬鹿だったから、こうして助けなきゃいけなくなったけど」

「…………っ! 何で、こんな事を!!」

「あれ? あれれ? それって重要? 人を蹴るのも、殴るのも、面白いからしていいって、言ってたじゃないですかぁ」

 

 甘く甘く、蕩けるような声が脳に沈む。クスクスと嘲笑う少女の目が細められ、息がかかるほどに顔を覗き込まれ、男は魂を奪われたかのように固まる。

 

「じゃあ、そうですね。世界最強を偽物だ! あんなチビの冒険者、オレでも勝てるぜと言ってたからぁ、闇派閥(イヴィルス)とかの残党かもしれない私が脅威に思ってくれた、なんてどうです? 良かったですねぇ、将来性がありますよ! これからも、頑張って冒険者を続けましょー!」

「っ! う、うあああ!!」

 

 怒りか恐怖か、己でも分からぬまま遮二無二振るった剣は、しかしあっさり受け止められる。

 

「まずは、Lv.2のあたしより強くなる事から始めましょうね?」

「あ…………ぁ」

 

 見るからに自分よりも遥かに年下。幼女とも言える少女は、されど格上。男はその場で膝をつく。

 仲間を置いて逃げて、上層へ駆け上がって、モンスターこそ出るが他の冒険者も居る安全な正規ルートにたどり着けたとは言え不用心。

 

 少女は鼻歌を歌いながら、地上を目指して歩き出した。

 

 

 

「あはは。あははは。あ〜………趣味に走るのは駄目ですね。稼ぎが少ない」

 

 硬貨の詰まった袋を弄びながら、黒髪の猫人(キャットピープル)は呟く。さて、次は誰を狙うか。

 

「聞いたか? あの【(カリ)】が弟子を取ったんだってよ」

「………………」

 

 ピクッと猫耳が揺れる。

 

「弟子の為に【ロキ・ファミリア】に喧嘩売ったとか」

「ん? 弟子が出来たのは祭りの後って話じゃなかったか?」

「ちげえよ。旅の目的が、そもそも弟子探しだったんだ」

 

 噂はバラバラ。それでも共通点はある。

 世界最強が、弟子を取った。厳しくも優しく育てているらしい。リヴィラで頭を撫でてもらってるのを見たとか、兄さんと呼ばせているとか…………。

 

「ふ〜ん…………」

 

 次の獲物、決〜〜めた。

そろそろ200話。みんなは何が読みたい?

  • シヲモトメルノハ【タナトス】
  • モトメルノハ【ディオニュソス】
  • チカラヲモトメルノハ【フレイヤ】
  • ヒビカスノハ【ゼノス】
  • ドウケルノハ【ロキ】
  • 勇蹄再演【バロール戦】
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