ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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特別番外IF闘国羅刹

 子が売られる。それは別に珍しい事ではなかった。少なくとも、その時代に於いて表向きに行われぬだけで裏で行う者も居た。

 リリウスの親もそうだった。端金で子供を売る探せば何処にでも居る屑。外道と呼ぶのも烏滸がましいせせこましい屑。

 

 与えられた名前だけは覚えていた。

 まあ2桁にもならない子供を買うようなクズが買った子供の名前など呼ぶはずも無いが。

 

 リリウスを買った商人がわざわざ金を払った理由はリリウスの容姿だ。男女の境目が曖昧とはいえ、育てば線の細い美少年になるだろうことを長年の奴隷商売で見越していた。

 

 男に売るのも良いし女に売るのも良い。顔に怪我などしないよう最低限の労働を与え損にならない程度に食事を与えた。

 ただ、だからといってそこまで大事にするわけもなく、奴隷達の暴力には気づかぬ節穴であった。

 

 特別扱いが気に入らなかったのだろう。顔に痣が残らぬよう、体に傷が残らぬよう殴り、蹴り、血が出ないよう気を付けながら痛めつけ、飯を奪う。

 

 だがリリウスは屈さない。気絶するまで彼等に挑み、目覚めれば船に住み着く鼠や虫を食らい、奴等を必ず殺すと心に誓った。

 

 そんな殺意も憎しみも、腹が減ればどうでも良くなると知ったのは味見しようとした商人の首を隠し持っていた骨のナイフで突き破った時だ。やってやったというより、肉があるという感想だけ。腹が減った。だから喰おうとして、船がざわついた。

 

 嵐に流された船はある海域に入ったのだ。

 テルスキュラ………アマゾネスが支配するこの世界で最も人の血にまみれた野蛮な国。

 国民である彼女達は殺し合いに明け暮れ、女しか生まれないアマゾネスである為、労働力であり種である男を外部から攫う。

 

 アマゾネスは強い雄を種に選ぶが、その国では違う。戦士とは自分達であり、強者とは自分達であり、それ以外は弱者。獲物でしかない。

 

 とはいえ、それでも好みはある。小人族(パルゥム)などはまず論外。嘲笑し、嘲弄する侮蔑の対象。アマゾネスに逆らえない他の奴隷共も憂さ晴らしに殴り、蹴る。幼い小人族(パルゥム)が死んだところで、どうせ労働力は変わらない。

 

 リリウス達がテルスキュラの奴隷になって一年経った。奴隷達が大量に死んだ。犯人はリリウス。止めに来たアマゾネスの片目を奪うも殺されかけたところで、騒ぎを聞きつけたカーリー………テルスキュラの主神が現れた。

 

「これまで奴隷同士の殺し合いはあったが、ここまでは初めてだ。この後殺されるかもしれんというのに、そこまで彼等が憎かったか?」

「憎くはあるんだろうが…………殺せたから」

 

 偶然、一人殺せた。とたんに今まで殴り蹴り嘲笑うだけだった奴隷達の動きがぎこちなくなり、今なら殺せると殺した。

 

「憎いから殺せる時を伺っていたのではないのか?」

「飯を奪ったからだ」

 

 殺す理由などそれだけで十分だった。生きるために必要な食事を奪う。それは命を奪おうとするのと同義。だから殺す。その言葉にカーリーはほぅ、と楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「お前に会えたのは僥倖だ」

「なんじゃ、妾に惚れたか? まあ妾はこの通りロリ体型じゃから小人族(パルゥム)のお主が惚れるのも仕方ないが」

「恩恵を寄越せ」

「……………ほう?」

 

 因みにリリウスは共通語(コイネー)ではなくアマゾネス達の言語で喋っている。一年間、時折現れるアマゾネス達を観察し覚えたのだ。

 

「貴様! 図に乗るな!」

 

 リリウスに片目を抉られたアマゾネスが叫び地面に叩きつける。それでも生きてるのは、まがりなりにもソーマの恩恵を持つ神の眷属だから。そうでなければとっくに他の奴隷に殺されていただろう。殆ど未更新の、一般人に毛が生えた程度のステイタスでも一般人よりは上なのだ。

 リリウスは眷属を知っている。今の世において、この国において、それがどれだけ有用かも。

 

「ふむ、まあ妾は闘争が盛んなこの地に降りただけで、別にアマゾネスに拘っている訳では無いがの。だがここはテルスキュラ、アマゾネスの国。その国で妾の眷属になるという意味がわかっているのか?」

「知るか」

 

 そう、知らない。この国がどういうところかなど、アマゾネスの生態などまるで興味が無い。ただわかるのは弱いままでは奪われ、腹を満たせない。

 

「闘争も知らん。ただ力がいる。邪魔する奴等の喉笛を食い千切る牙がいる」

「だが、所詮小人族(パルゥム)ではなあ」

 

 と、度重なる暴力と飢餓のストレスで色が抜け落ちたリリウスの髪を翫ぶカーリー。ニヤニヤ笑うその笑みは、しかし直ぐに驚愕と苦痛に彩られる。

 

「!?」

 

 リリウスが噛みついたのだ。小指側の掌………血が吹き出て骨が軋む。リリウスを押さえつけていたアマゾネスが慌てて髪を掴み無理やり引き離す。

 

「………………」

 

 下界の子供は神を傷つけられない。絶対という訳では無いが、神威を放った神を傷つけられる者はまず居ない。カーリーは神威を放った訳では無いが、隠していたわけでもない。神特有の気配は出ていて、普通の人間には傷つけるという思いすら抱けない………Lv.1の、ガリガリの死にかけなどまず神に敵意を抱けぬ筈なのに………

 

「放せ」

「黙れ! このまま首をへし折って……」

「放せ。食い殺すぞ」

「!?」

 

 格下のはずのリリウスに睨まれ思わず飛び退くアマゾネス。リリウスは女神(カーリー)の血を舐めながらゆっくりと立ち上がる。

 

「くだらねえ娯楽に時間を使うな。(お前)にとって、アマゾネスも小人族(じんるい)の違いなんざねえだろうが」

 

 神という存在を上と認識しながらも、その言葉は何処までも嫌悪し見下していた。

 

「闘争なんざクソ食らえだ。だが、この国で生きていくために力がいる。腹を満たすには力がいる。その為に闘争が必要なら、てめぇの娯楽に付き合ってやるって言ってんだよ」

 

 小柄なカーリーよりも更に小柄な小人族(パルゥム)の少年……いや、幼児の目は憎しみも怒りもなく、虚無の様な闇が広がりされどその奥に歪な輝きを宿していた。

 

「さっさと血を寄越せ」

「…………いいだろう。ステイタスを更新してやる。だが、戦士に相応しいかは見て決める」

 

 

 

 

「グルオオオオオオ!!」

 

 闘技場の中央で獣が叫ぶ。血に染まった口元、指先。足元には引き千切られた肉片。その咆哮は勝利の咆哮であった。

 闘争を愛し、殺し合いを尊び、他者の戦いを儀式と見世物にするアマゾネス達は、しかし勝者を称える声は未だ上がらない。

 

 何故ならそれは闘争ではなかったからだ。

 隙をつかれ片目を奪われた情けない同胞が、今度は油断なく小さな雄を殺す、闘争とも呼べぬ一方的な暴力を愉しみに来た彼女達が見たのは、Lv.2の戦士を食い殺すLv.1の筈の小さな獣。

 

 そう、食い殺した。

 共通語(コイネー)で何かを呟き、吠えた。何かの魔法を警戒し距離を取った隻眼のアマゾネスは、しかし眼の前に現れた獣に反応できず腕を噛まれ、引き千切られた。

 

 腕の肉を食う獣は肉の味を覚え隻眼のアマゾネスを睨み、そこからは一方的だった。

 こちらを食おうとするモンスターとだって戦ってきたはずの彼女は逃げ出し、追いつかれ組み伏せられ、腹を食い破られた。

 

 内臓を引き摺り出し暴れる手足を潰し、千切り、邪魔な肋を直接掴み剥がし、肉を食らう。

 それは闘いというには一方的で、蹂躙と呼ぶには凄惨に過ぎ、まさしく捕食というべきものだった。

 

 

 

「……………ん?」

 

 と、魔法の効果が切れたのか正気に戻るリリウス。口元に広がる血の味に、足下に広がる肉片。口の周りは血に汚れ、すぐに自分が人を食ったのだと把握した。

 

 とりあえず腹が減ったので残りを食っていると、パチパチと小さな拍手が聞こえた。

 

汝こそ真の戦士(ゼ・ウィーガ)

 

 女神の称賛にアマゾネス達も勝者(リリウス)に向け拍手を、称賛を送る。煩わしいので、獲物を持って与えられた部屋へと帰った。

 

 その日、テルスキュラにて二度目のステイタス更新。リリウスはLv.2へと昇格した。

 その日テルスキュラに、史上初めてのアマゾネス以外の、それも男の戦士が生まれた。

 

 

 

 

 まともな食事が与えられるようになった。畜舎と変わらぬ共同部屋から、雨風を凌げるだけの部屋を与えられ新しい服を渡された。

 

 先達から教えを受けろとカーリーが命じ、現れたLv.3の戦士はリリウスを死んでも良いと鍛え、半年後には逆にリリウスが殺した。リリウスは僅か半年でLv.3へと昇格した。

 

 殺し合いを禁じられているわけでは当然ないが、それでも闘技場以外で、それも格上を殺し食ったリリウスをアマゾネス達は畏怖と称賛を以て距離を置くようになった。

 Lv.3ともなれば本来なら師弟の契りを結び後進の戦士を鍛えるのだが、カーリーはリリウスをその役目から外した。

 

 リリウスは力を得て腹を満たすことしか興味がなく、誰かを育てるなどしないだろう。それに、リリウスは先達と呼べるほどこの地に居た訳でもない。

 敵対しない限り食うことはないだろうが、相手のアマゾネスが食われるかもしれぬと怯えまともに学べぬだろうという考えもあった。

 

 

 

 リリウスは戦い続けた。勝てば飯を食い続けられるし、報酬としてより多くの飯を貰えるからだ。

 略奪には参加しなかったが、高い戦闘能力を誇るアマゾネスの集団を手に入れようとする襲撃者達には襲いかかり皆殺しにした。

 

 テルスキュラでもっとも恐れられている戦士。それがリリウスだ。

 戦士になってから1年。5歳ぐらいの頃、そんなリリウスに声をかけてきた者が居た。

 

「読み方を教えろ」

 

 喜劇の英雄譚(アルゴノゥト)の欠片。難破した船か、略奪してきた船に紛れていたのだろう。断ろうとしたが夕食を分けてくれるらしいので文字を教えてやった。

 

 

 その数日後幼いアマゾネスが新品の本を持ってやってきた。

 

「読んで?」

「断る」

「読んで?」

「嫌だ」

「よ〜ん〜で〜!!」

「………………………」

 

 

 

 

「『アルゴノゥトは精霊の剣と魔剣を手に、迷宮へと挑みました。しかし地図もなく飛び込んだ為、迷ってしまいました。ですが、アリアドネ姫が残した道標を見つけ…………』」

 

 隣に座り目をキラキラさせるアマゾネスの少女。ふと、視線を感じたので振り向くとこの前文字を教えるようにせがんできたアマゾネスの女がジッとこちらを見ていた。

 特になにも言ってこないので無視して続きを読む。

 

 

 

 アマゾネスの少女、ティオナが文字を自分で読めるようになったのは直ぐだった。褒めて欲しいのか自慢したいのか、リリウスに読み聞かせる。

 

「…………読める……のか………」

 

 そう言って去っていくアマゾネス。ティオナと師弟の契を結んでいるらしいバーチェが去っていく背中は、何処か寂しそうに見えた。

 

 それからティオナは勝つごとに新しい本を貰いリリウスに読み聞かせるようになった。正直食事の邪魔だ。適当に何か喰おうとするとちゃんと聞いてと邪魔してくる。

 

 だがまあ、きちんと話を聞くことに集中すれば多少は飢えから気がそれる。ただし勝手に食料を取ろうとすると蹴り飛ばしてその日は部屋に入れてやらない。

 

「ケチー!」

「黙れ。俺の飯は全て俺のものだ」

「でもほら、この英雄も皆で食べるご飯は美味しいって言ってるよ!」

「知るか。味より量だ」

「べ〜だ! リリのけちん坊、もう知らない! また明日ね〜!」

 

 走り去るティオナ。そう言えば、最近彼女は笑顔が増えた。こんな国で見かける笑みなどまず狂気的なものばかりだが………。

 

「……………今度はお前か」

 

 そんなことを考えているとバーチェがやってきた。その手には本。彼女の本ではない。ティオナの本だ。

 欲しいものはあるかと問いかけてきたカーリーに、ティオナが欲しいと答えた物。もらっているのはティオナぐらいだが、これは別にカーリーがティオナを特別扱いしているのではなく他のアマゾネスが何かを欲しいと言わないだけだ。

 

 そしてティオナばかり欲しいものを言うので本がどんどん増えていく。その本をティオナはバーチェにだけこっそり貸しているのだ。

 

「……………………」

 

 年上のプライドか、読めないというのが恥ずかしく、かと言って感想を聞かれた時に答えられないかもしれないのでこうしてリリウスに教えを請う。

 バーチェは食料を持ってくるので特に追い返さない。

 

 

 

 

 その日は何時もの集会。狂気に染まるか心の死んだアマゾネス達がカーリーの前に集められる。

 もうじき7歳になる者達は、そろそろ『儀式』を行う頃。

 

「カーリー、あたしティオネと戦いたくない。2人でこの国を出たい」

 

 誰も口を開かぬはずのその場で、ティオナが手を上げ儀式を拒絶した。

 

 

 

 読み聞かせに来るティオナがいなくなり、文字を習いに来るバーチェも来なくなった。静かに食事が出来て良い。ただ、バーチェが持ってくる分の食料がなくなったからか少し物足りない。

 でもスキルのせいで常に飢えているから、違いはないはず。ただの気のせいだろう。

 

 

 

 リリウスが子作りの出来る体になるとそれまで恐れているだけだったアマゾネス達の目も変わり始めた。

 彼女達はアマゾネスなのだ。強い雄の子種を欲する。リリウスはその日一番沢山の食料を持ってきた奴なら相手してやると言うと、食料の奪い合いが起きた。

 

 

 

 数いるLv.5を殺し、バーチェとバーチェの姉であるアルガナはLv.6へと昇格した。

 

 

 

 

 その昔リリウスに眷属を皆殺しにされた神が海底に封じられた怪物の封印を解いてテルスキュラに誘導して来たりもした。海を乾かす程の高熱を放つ漆黒の蛇だ。

 

 封印していた雷の精霊を食い手に入れた力で殺した。

 

 

 

 リリウスはLv.7(最強)になった。

 

 

 

 

「オラリオに攻めるぞ」

「は、やだ」

 

 唐突にカーリーがなんか言い出した。

 

「お前も付いてこい」

「その耳は飾りか?」

 

 聞けばオラリオの女神から【フレイヤ・ファミリア】を滅ぼす為に手を貸せという『依頼』が来たらしい。

 世界最強と称される美神の眷属達との戦争。闘争を求めるカーリーからすればまたとない好機。

 

「オラリオが生んだLv.7とテルスキュラが生んだLv.7。どちらが上か、妾の前で証明してみせろ」

「嫌だね面倒くせえ。なんで俺があの身の程知らずのカスと戦わなきゃならねえ」

「身の程知らず?」

「最強なんざ名乗れるのは身の程知らずだろうが」

「ふうむ、しかし仮にも暗黒期とやらを終わらせたオラリオの眷属達の中の最強だぞ?」

「だから何だ。七年前、先代の『真なる最強』達に数を減らす手伝いをしてもらってその後も2年かけてようやく勝った都市の最強にどれだけの価値がある」

 

 リリウスは暗黒期の詳細を聞き、死の7日間で最強を超えた等と語られるオラリオに対して思ったのは全面戦争を()()()()()()()()()暗黒期はまだ続いていたか、そもそもオラリオ側が負けていたと判断している。

 

「お主オラリオの連中が嫌いじゃなあ」

「ゼウスとヘラの足元に一人及んで七年、なんの成長もしねえ奴等に何を期待しろと? 平和も作れねえくせに平和の象徴を追い出し都市に混乱をもたらした結果、俺が奴隷として売られたんだ」

「じゃが、こうして妾に出会えたではないか」

「結果論だろ」

 

 それが不運であるとは言わないが、幸運などと寝言でも言えない。

 

眷属(我が子)に嫌われて妾淋しい」

 

 うぜえ。

 

「とにかくこい。何なら、そのままオラリオに住んで良いから」

「……………………」

 

 古代の怪物、ヴリトラを殺して以来リリウスのステイタスは伸び悩んでいる。リリウスは自分より強者を食う事で本来ありえぬ速度で成長出来るが、最強となった今リリウスの成長は微々たるものだ。

 

「お前が俺を手放すのか?」

「ならお主、バーチェを殺せるか?」

 

 

 

 

 

 オラリオに向かう為にオラリオ近くの港町、メレンにまずは向かう。メレン港についたと思うと緑色の変なモンスターが船を襲ってきた。ので食った。

 

「…………リャガ・ル・ジータ………ディ・ヒリュテ」

 

 と、不意にバーチェの声が聞こえてきた。見れば確かにヒリュテ姉妹が水面から顔を出していた。

 

「…………あれはエルフの女王か。よりにもよって、本当に見栄ばかりの虚飾の勇者のファミリアにいたとはな」

 

 

 

 

 

「あの男は何者だ?」

「んえ?」

 

 リヴェリアはティオナにリリウスについて尋ねる。アマゾネスの国であるはずのテルスキュラ。実質カーリー・ファミリアとも呼べるそこに一人存在する男の眷属。しかも小人族(パルゥム)

 

 ティオネとアルガナの市街戦に割り込みどちらの攻撃も片手で止めた規格外。何らかのスキルではなく純粋なステイタスで行ったとするならば小人族(パルゥム)最強のフィンよりも………流石にそれはないか。

 フィンがどれだけの苦難を乗り越えあの強さに至ったか、他でもないリヴェリアが知っている。

 

「リリはね、リリウスだよ。そう言えばなんで戦士なんだろ? よく知らないけど、私の幼馴染! すっごく強いの! でも皆怖がってた」

 

 アマゾネスの国で特別に戦士として認められる他種族の男。彼もフィンに劣らぬ才能を持っている………世界勢力とは言えダンジョンがないことを考えるとフィン以上の才能を持つということか。フィンが知ったら欲しがりそうだ。

 

「私に文字を教えてくれたんだ。『最近馬鹿みたいに笑うようになったな』って褒めてくれた」

「…………………」

 

 それは褒めてるのだろうか?

 

「本当は、私達が国を出たらリリもついてきてくれないかなって思ってたんだけどね…………」

 

 そう寂しそうに呟くティオナは、なるほど彼によく懐いていたのだろう。

 

「でも、う〜ん…………最近何処かであったような。何処だったかな〜?」

 

 

 

 

「どんな理由で【フレイヤ】に挑む奴が居るかと思えば、ただの女神の嫉妬かよくだらねえ」

 

 カーリーとイシュタルの対談。ほぼ無理やり連れてこられたと言ってもいいリリウスは、イシュタルを見て面倒くさそうに吐き捨てた。

 

「言うな、小僧。情夫風情が偉そうに」

「ああ?」

「嫉妬などではない。正すだけだ。私とフレイヤ、どちらが美しいかなどこうして私を前にすれば解りきった事だろう?」

「アフロディーテの方が美人だったな。性格が愉快で、お前ほど老人臭くない」

「ぶふー!」

 

 カーリーが吹き出した。腹を抱えてゲラゲラ笑う。イシュタルが怒りのまま殺せと吠えると彼女の眷属が襲い掛かり…………

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な…………」

「………これ、俺達がオラリオに着く前に潰されてんじゃねえの」

 

 半殺しにされ転がるイシュタルの眷属達。何名かは戦うことすら出来ず隅で震えていただけ。リリウス一人に蹂躙され、カーリーの眷属達は熱の籠もった視線をリリウスに向けた。

 

 

 

 なのでリリウスは早々に船を出てメレンに紛れた。

 アマゾネスに対して警戒心が上がっているメレンでも、小人族(パルゥム)のリリウスは顔を見た【ロキ・ファミリア】ぐらいしか気付かないだろう。逆に言えば顔を見ていた者達は気付いて。

 

「お前は…………」

「あん?」

「………少しいいか?」

 

 烏賊の串焼きを食っていたリリウスにかけられる声。振り返るとエルフの女王。無視して次の屋台に向かおうとする。

 

「ま、待ちなさい! リヴェリア様に対してなんですかその態度は!」

「うるせえな…………てめぇ等と話すことなんざ何もねえよ」

「お客さん! お金!」

「そこの女が俺と話す代わりに金を払ってくれるとよ」

 

 

 

 

「カーリーが来た理由? フレイヤと戦いたいんだとよ」

 

 後イシュタルの依頼を受けたからと言うのは簡単だが証拠を集めろとかリヴェリアの隣のエルフが言ってきそうなのでやめた。

 

「【フレイヤ】は仮にも都市の片翼を担う派閥だぞ」

 

 もし倒される様なことがあれば、生き残っていた闇派閥の残党も活気付くだろう。

 

「だから何だ、かつての龍の如き両翼に劣る虫の羽なんざ、誰が引き千切ってもおかしくねえだろ」

「な!? 我々を侮辱しますか!」

 

 両翼とはつまり【ロキ・ファミリア】を含めての言葉。エルフの従者が思わず叫ぶ。

 

「事実だろうが。影しか踏めてねえお前等が、どの面下げて最強を名乗ってる。黒竜に踏み潰されて終わるだけの雑魚のくせに」

 

 嫌悪を滲ませ吐き捨てる言葉に、エルフの従者は杖に手が伸びる。

 

「オラリオに死を振りまいた闇派閥(イヴィルス)だが、オラリオに闇とやらを招き入れたのはお前達だ。その自覚もせず何年も暗黒期を続けさせた奴等が、偉そうに吠えるな」

「お前はまさか…………」

 

 と、そこに一人のアマゾネスが現れる。アマゾネスの言語で何やらリリウスに伝える。

 

「チッ…………」

 

 忌々しそうに舌打ちしたリリウスはそのアマゾネスを引き連れその場から去った。

 

 

 

 カーリーはどうやらヒリュテ姉妹とアルガナ、バーチェを戦わせる気らしい。最近ランクアップしたというヒリュテ姉妹はともかく、アルガナ達ならランクアップするかもしれない。

 

「オラリオの両翼両方に喧嘩売ろうってか」

「羽虫なのだろう?」

 

 聞いてやがったらしい。

 

「どっちが勝つかのう」

「くだらねえ。勝つのはアルガナとティオナだ」

「ほう? その心は?」

「未来を見てる。明日を想像してる。自分が生きてる姿を想像できねえやつが、明日の飯を食えるかよ。解りきった話だ」

 

 そう言って果物にかぶりつくリリウス。

 明日を楽しみに生きているティオナと今に怯えるバーチェ、今日より強い自分になるために殺戮を繰り返すアルガナと、カーリー達との再会により過去に囚われているティオネ。

 

 同じ強さの者達が争えば、後は思いだけが結果を左右する。それはリリウスの持論だ。

 

「それ妾の飯…………」

「知るか、飢え死にしてろ」

 

 

 

 

 結果的に言えば、バーチェとティオナはリリウスの予想通りの結果になった。

 カーリーは解りきった結果と言い切ったリリウスを思い出し微笑み、ティオナを連れて帰ろうとしたが【ロキ・ファミリア】のアイズ、ロキが乱入。

 

 ティオネの方は……………

 

 

 

「そこまでにしよう」

 

 怒りと殺意に飲まれかけていたティオネに声を掛ける少年の声。金髪の小人族(パルゥム)………世界最強の小人族(パルゥム)にして一族の希望と名高き【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナだ。

 

 海が凍っている。そこを渡ってきたのだろう。

 

「言葉が通じるかわからないが一応言っておこう。ここで手打ちにしないかいテルスキュラの戦士達」

「やめてください団長! 邪魔を……邪魔をしないでください!」

 

 リリウスが言ったとおり、満身創痍なのはティオネ。しかし彼女はまだ戦う気らしい。

 まあ、大方カーリーが助けを求めたら【ロキ・ファミリア】を襲撃し続けるとでも脅したのだろう。

 

「ティオネ、いつから僕達は君に守ってもらわなければならないほど惰弱になった? 君をそうまで駆り立てた執着は意地か? それとも私情? 私怨ならば、よくも振り回してくれたと言っておこう」

 

 その言葉にティオネが俯いた、軽蔑されたと思ったのだろう。

 

「その上で言わせてもらうが……まったく。いつもは押してくるくせにこんな時は引くなんて、何時からそんな駆け引きを覚えたんだい?」

 

 その言葉にティオネは顔を上げた。

 

「あんまり心配をかけないでくれティオネ。無事で良かった。後でたっぷり説教してやる。そこで待ってろ」

「はいっ!」

 

 完全に番を見つけたアマゾネスの顔だ。だが、それは恋を知らないアマゾネスからすれば茶番同然。アルガナはふざけるなと叫んだ。

 

「君は共通語(コイネー)を理解出来るようだね。僕がティオネに代わって『儀式』…それをやろう。僕が勝ったらティオネ達にもう近づかないでくれ。約束を破ったら、僕が君達の国を潰しに行く」

「相変わらず、弱いと思ってる相手には強気だなあ。まあ、強い奴に強い言葉を使ったところで本来より弱く見えるだけだからなあ」

 

 と、船の上で闘争を見学していたリリウスが甲板におりてきた。

 

「君は、同族かい?」

「傷だらけの女を殴ろうなんざ、勇者のすることじゃねえなあ。俺が代わってやるよ」

「ふざけるな! リリウス! これは私のぎ───!!」

 

 リリウスにも噛みつかんと叫ぶアルガナは、リリウスの裏拳を食らい彼方まで吹き飛ばされ水柱を立てた。

 

「おい、誰かあのバカ回収しておけ」

 

 アマゾネスの言葉で伝えられ、船に残っていたアマゾネス達は慌てて海に飛び込む。

 

「彼女を庇ったわけじゃないのか………」

「ああ。俺がお前を嫌いだから譲ってもらおうと思ってな」

「初対面だと思うけど…………」

「オラリオに暗黒期を齎しておいて恥ずかしげもなく勇者を名乗るジジイなんざ噂だけでも嫌うには十分だろ。まあ、結局自分の身は自分で守るしかねえってのはよく解ったよ。そのくせ都市の守護者を名乗るんだから、尊敬するね」

「てめぇ、リリ! 団長に対して……!」

 

 ティオネが叫ぶが、リリウスは取り合わない。

 

「俺はお前達が闇に染めたとかいうオラリオに生まれた。一族の希望? 勇者? 光にでもなりてえのか? 笑わせる。お前の光に集まった蛾なんざ燃えて灰に散るのが精々だ。ほかでもないその光が虚飾にまみれた誘蛾灯なんだからな」

 

 フィンは目を細める。この同族は、ただフィンだけが名を知られてるからとか、小人族(パルゥム)の代表のような顔をしているからとか、そんな理由で嫌っているのではない。

 フィンという人間を理解した上で嫌っている。

 

 自分の本質が人に好かれるとは思ってないが、だからこそ彼のように同族に知られるのは困る。

 

「まあ安心しろよ、俺は儀式なんぞ興味ねえ。負けても死んで無けりゃティオネが慰めてくれんだろ」

「…………僕はこれでも、一族最強として誇りはあるよ」

「誇り? 名誉もねえてめぇが何を以て誇りとなす」

 

 

 

「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」

「【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】」

 

 

 

 

「【ヘル・フィネガス】」

「【ラーヴァナ】」

 

 戦闘欲に支配された狂戦士と理性を捨て力を得た獣が互いに吠え、駆ける。決着は一瞬。

 陸まで吹き飛ばされたフィンは民家の一つを破壊した。

 

「団長!! てめぇ!!」

「………………」

 

 ボロボロのティオネが襲いかかってくるが、腹を蹴り気絶させた。

 

 

 

 

「アルガナの方はお前がぶっ飛ばしたらしいな」

「そもそもティオナもティオネももうお前の子供じゃねえのに儀式に参加させようとしたお前が悪い」

 

 主神相手に悪びれる様子もなく魚料理を食い漁るリリウス。あの後【ロキ・ファミリア】の面々を殴り飛ばしてアマゾネス達を回収し、その姿に改めて発情したアマゾネス達が関心を引こうと次々料理を持ってくる。

 

「おうこらクソチビ! ウチのかわいい眷属痛めつけてくれた落とし前どうつけてくれんねん!!」

「弱い方が悪い。力で何もかも黙らせてきた冒険者が、力で口を塞がれたなら文句言うな」

 

 【ロキ・ファミリア】が偉いのは強いから。単純な理屈だ。テルスキュラを蛮国と罵ろうと、外の世界もさして変わらない。

 

「くはは! 妾の眷属の方が強かったからと言って、嫉妬は見苦しいぞロキ!」

 

 カーリーは酒を飲みながら叫んだ。絶賛恋の季節がやってきて闘争どころではないテルスキュラの現状にやけ酒をしているのだ。

 今まではリリウスが適当に相手していたから発散していたし、強さを見れどまだそれだけ。今回は雄に敗北し、その雄を蹂躙したというのが良くなかった。

 

「どうせ俺が一番沢山飯を持って来いと言えばまた殺し合うだろ」

「お主それで殺し合いに発展しそうになるとどっちもぶん殴って飯を奪うじゃん」

 

 食料の奪い合いは起きても、殺し合いに発展しても、それで死者が出たことはない。リリウスが漁夫の利の如く現れ食料を強奪するからだ。

 

「それが一番飯を食えるからな」

 

 因みに昨夜の襲撃には薬で傷を癒やした【イシュタル・ファミリア】も参加していたらしいが、全員さっさと逃げている。

 

 

 

 

「じゃあ、約束通り俺はオラリオに帰る。お前等はギルドの許可が無い限りオラリオに入るな」

 

 リリウスは幾つかの金品とモンスターのドロップアイテムが入った袋を持ってオラリオに向かった。テルスキュラ最強の戦士………この世で最も人殺しに長けたLv.7。ギルドは【カーリー・ファミリア】はともかくリリウスを欲した。代わりに【ロキ・ファミリア】の敗北は口外しないよう通達された。

 

「別に自慢するようなことでもねえだろ。本当の最強であるゼウスやヘラを超えたわけでもねえ」

 

 当代最強と言えば聞こえが良いだけの、最盛期を超えられない今のオラリオの片翼を千切り最強を名乗ったところで、リリウスからすれば道化と変わらない。

 

「お〜い! リリ〜!」

「……ティオナ」

「オラリオに来るんでしょ? ね、ね、うちに入ろうよ!」

「断る。俺は勇者が嫌いだからな。もっとガキだったなら兎も角、今の俺は英雄譚好きのお兄さんなんで」

 

 それに聞けば、遠征で金を使いすぎたらしい。食事に気を遣わせられたらたまったもんではない。

 

「そっか………あ、ティオネをありがとね。アルガナに殺されてたかもしれないし、勝ってもきっと、良くないことになってたと思う」

「…………ティオナ、お前は今笑えてるか?」

「うん! 私、笑ってるよ!」

 

 

 

 その数日後、オラリオで一躍有名になるファミリアがあった。そこには髪の色こそ違うがリリウスによく似た少女が居た。

 

「………誰だっけ?」

 

 新聞の切れ端を見ながらモンスターを食らうリリウス。

 

「これはナンと読むのですカ?」

「ああ、これは………」

「おーい! そろそろ移動しようぜ!」

 

 ダンジョンを移動する一団、リリウスも入り込んだその旅団のリーダーが叫ぶ。リリウスは文字を尋ねてきた女に後でな、と呟くと立ち上がった。

 

 己の姓を忘れた彼と、兄の存在を知らぬ彼女が再会するのは、まだ少し先の話。

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