ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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2人の覇者

 アスフィ・アル・アンドロメダはリュー・リオンの友人である。初めてあった日から、お互い苦労人気質から同調し、仲良くなった。

 だけど、先日リューと会った時、それなりに付き合いのあるアスフィが見たことないほど、リューは憔悴していた。

 

 それは駄目だ。あのままでは駄目なのだ。オラリオに再び希望を灯せるとしたら、それは勇者でも猛者でもなく、正義の乙女(彼女)達をおいて他に居ない。

 それを伝えなくてはとリューを探す。

 

 だが、そんな彼女を闇に潜む者の愚行が襲った。 

 

 

 

 

 

「ま、また闇派閥(イヴィルス)が攻めてきてっ………」

「うわあああああああ!?」

「助けてえええ!!」

 

 阿鼻叫喚の悲鳴が錯綜する。力無き民衆達が散り散りに逃げた。

 ギルドに向かう闇派閥(イヴィルス)の大部隊。それは頭が良い者程予想出来なかった愚者の愚挙。

 

「まさか、こんな中途半端な時期(タイミング)で部隊を動かした!?」

 

 『嫌がらせ』の範疇を超えた攻勢。先走った一部の暴走など、本来なら直ぐに鎮圧出来たはずだ。だが、出来なかった。

 邪神の悪意が絡みついたがゆえに。

 

 

 

「避難要請に従わなかった奴等か…………」

 

 聞こえてくる悲鳴や冒険者の叫びを聞きながら、未だ立てないリリウスは舌打ちしながら呟く。

 

「アンドロメダ!?」

 

 繰り広げられる闇派閥(イヴィルス)の所業をまざまざと見せつけられたリューも声を上げた。邪神の王の命を無視して行動に移したのは【白髪鬼(ヴェンデッタ)】オリヴァス・アクト。

 

 ヴァレッタ程極まっておらず、ディース姉妹程狂ってもいない血に酔う悪党はアスフィをオラリオの絶望の象徴にしようと思いついたらしい。

 

「極まってるなあ、オリヴァス。醜いほど『悪』を実践しているようで、何より」

 

 エレボスは混乱と暴力の劇を愉しむ。

 

「さてリオン、遊戯(ゲーム)だ。お前は『トロッコの問題』を知っているか?」

 

 唐突にエレボスはトロッコについて語りだした。線路を走っていたトロッコが突如制御不能になって、そのままでは前方の5人の男を轢き殺す。ただし分岐器で進路を変えるとその先の『女』が死ぬ。

 

「…………?」

「思考実験の一つだ。下界の住人はいつも面白い事を考える」

 

 どうやら神の知恵ではなく、下界の住人が思いついたものらしい。リューは何が言いたいのか理解できずとも、嫌な予感がした。

 エレボスは割れたステンドグラスから覗く惨状に再び目を向けた。

 

「単純だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。分岐器を切り替えず『男達』を見殺しにするか。或いは切り替えて『女』を自分の手で殺すか」

 

 視界が明滅し、脳裏が赤く燃える。鼓動の音が全身に響いた。

 

「……………………まさ、か」

「そのまさかだ、選べリオン。多を殺し、個を救うか。民衆を守るため、『女』を犠牲にするか。その答えをそこの獣に示せ」

 

 『悪』とは眼の前のような存在のようなものを言うのだと、リューは凍てつく体で確信した。

 あれが『正義』とやらの敵、『悪』と呼ばれるものかと、リリウスはリューを見て認識した。

 

「お前がここを飛び出し、今にも死にそうなあの『女』を救おうとするのなら、民衆を全て殺す。絶対だ。我が真名に誓い、ありとあらゆる手段、軍勢、殺意をもって鏖殺を遂げる」

 

 事実エレボスは、それを行えるだけの『力』を持ち、オラリオにはそれを止める『力』が無い。

 

「そしてお前がここに残り、『女』 を自分の意志で見殺しにしたのなら、民衆は全て救い出そう。嘘はない。我が魂を賭して、あらゆる暴力と蹂躙を終わらせる。『女』の命を代価に、神の宣言をもって兵を引かせよう。誰にも邪魔はさせない」

 

 リリウスはアーディの代わりに民衆を守ると決めている。ならばこの場合、冒険者でありそもそも死んでも民を守るらしい都市を守護する戦力を助ける理由はない。

 

 あの『女』がアーディならば、そもそもリリウスが優先するのはアーディだったのだが………その場合アーディに民衆を助けるのが恩返しになると言われるだけか?

 

「…………ふざけるな。…………ふざけるなっ!?」

 

 妖精は吠える。遊戯(ゲーム)と称し、命を天秤にかけさせその重さを問い笑う邪神を糾弾する。

 

「貴方はっ、(おまえ)はッ、命を何だと思っている!!」

「俺はそんな常套句を聞きたいんじゃない。『選べ』と言っているんだ。お前の『選択』を示せ。拒否権はない。俺がそれを絶対に許さないからだ」

 

 無辜の民を、或いは『女』を救える手段を有しながら、何もしないのは紛れもない悪だと地下世界の神は保証した。

 何も選ばずどちらも見殺しにする殺戮者に成り果てると。

 

「ほら、選べ。とっとと選べ。『女』が死ぬぞ? そうなればお前は『悪』、そんなのは嫌だろう正義の眷属? だから、それを選べよぉ。お前の『正義』を」

「…………………」

 

 リューの答えを聞けと命じられ動けないようにされたリリウスは、目だけ動かし惨劇を見つめる。逃げ遅れた民のみならず逃げなかった民すら守ろうと冒険者が動きを制限され、その後ろで子を守ろうとする女を見つけた。

 

 あれは恐らく親子なのだろう。

 

 

 

 

 

 妖精の絶望より、時は遡る。ガレスとシャクティは嫌がらせを超えた大規模な『襲撃』………殺戮を止めるべく走っていた。

 

「急げよシャクティ! 手遅れになるぞ!」

「解っている! クソ、限られた者達しか急行できないとは………!」

「少数精鋭で叩くしかないわ! 襲撃地点はすぐそこじゃ! 敵を一気に片付けて──!!」

 

 それがオリヴァスだけなら、フィンの読みを抜けた愚者のみの愚行ならなるほど、少数精鋭で制圧しただろう。

 だが、少数の精鋭を遥かに超える個の暴力が立ちはだかった。

 

「ぐううううううっ!!」

「ガレス!?」

 

 鉄塊の如き大剣が振るわれ、ガレスが吹き飛ばされる。

 現れたのは黒い鎧に身を包んだ隻腕の大男。

 

「つまらん戦に駆り出されたものだ」

 

 大男、ザルドは温度の感じぬ冷たき呟きを零す。

 

「いや、既に俺はくだらぬモノに堕ちていたか。ならば、くだらぬ使役に振り回されるのも道理だな」

「お前は、ザルド!? アルフィアと同じく、本当に儂等の敵に回ったか!!」

 

 大抗争の夜、ガレスはリヴェリアと共に対面したアルフィアに敗れた。故にザルドについては後から報告で聞いたのだが、直接目にして顔に苦渋を滲ませた。

 

「久々だな、老け顔のドワーフ。お前との記憶、不思議と酒場での光景しか思い出せん」

「はっ、懐かしいな………また儂と酒の飲み合いでもするか? 最近できた『豊穣の酒場』が、美味いドワーフの火酒を出すぞ?」

「お前の主神ごと、ことごとく俺に酔い潰されたのを忘れたか? 今度は『額に牛肉(ミノ)』程度では済まさんぞ?」

 

 8年ぶりの再会に、挑発ともしれない軽口をたたくガレス。しかしその頬に伝うのは歴然とした冷や汗。

 シャクティは混乱していた。ガレスが酔い潰されたとかマジか、とか………額に『牛肉(ミノ)』と書く最強ってなんだとか。

 

「しかし報告はもっと鮮明にしてほしいわい。お主の片腕が()()()()()いたと聞けば、少しは希望が掴めたものを」

「たかが腕一本、失った俺に並んだつもりか?」

 

 隻腕なれど、眼の前の『覇者』から感じる威圧は圧倒的。そんな『覇者』はフッと嘲るように笑う。

 

「何より俺が片腕を失ったのは昨晩だ。その後出会った全てを喰らった。報告のしようもない」

「オッタルか…………?」

「あの猪小僧など、それこそ腕一本で捻り潰せる。オラリオめ、噂は正確に流せ。最強の小人族(パルゥム)はあの自称勇者ではなかったのか? 危うく種族単位で失望するところだった」

 

 それはつまり、ザルドの片腕を奪ったのは小人族(パルゥム)であり、ザルドなりの称賛なのだろう。

 事実としてザルドから片腕を奪うなど世界最強の小人族(パルゥム)であるフィンでも無理だ。

 他の可能性があるとするなら【フレイヤ・ファミリア】の…………いや

 

「【飢鬼(ラークシャサ)】か………!?」

「ああ、そういう二つ名らしいな。俺に良く似ていた………俺のガキの頃ならいざ知らず、何故今もあんなガキが生まれるのか。俺達が作ってやった平和は何処に消えた」

「……………………」

 

 かつて大神(ゼウス)女神(ヘラ)により齎された平穏な時代。彼等は闇派閥(イヴィルス)を殲滅出来なかったが、その理由は単純だ。巣穴から出て来ず、巣穴に引きこもった鼠よりも危険な怪物を相手にしなくてはならなかったから。

 

 彼等の一人でもいればこんな時代は訪れなかった。それはたった2人でオラリオを蹂躙してみせた眼の前の男が証明している。

 

「俺達を超えるのではなかったか? あれから8年、何故影を見た程度で停滞している。何故、闇がこうまで蔓延った」

「そう思うなら、そちらこそ何故闇派閥(イヴィルス)に加担する!?」

「成さねばならぬと、そう思ったからだ。お前達の惰弱、お前達の脆弱………このまま都市が腐り果て世界を腐らせるというのなら、摘み取るしかあるまい」

 

 

 

 

 

 一方別の場所では、アイズとリヴェリアがアルフィアと戦っていた。いや、戦っているというのも正確な言葉か定かでは無いほど一方的だが。

 

「あの日、お前達は私達を都市より追放し最強の座を手に入れた。ならば私達の代わりになり得たかと思えば、この体たらく。残るべきだった。残すべきだった。お前達に託した結果が、あの子だ」

 

 ザルドは期待しているようだが、アルフィアは10になったばかりでありながら()()も成り果てた子供に期待を押し付ける気がしれない。あのデカブツは後で少し殴っておこう。

 

「お前達が齎した闇は晴れない。下界は救われない」

 

 と、そこまで呟きアルフィアはアイズに目を向けた。

 

「それとも、そこの()()()()()()()を『生贄』にでも使うか?」

「────黙れっ!!」

 

 その言葉に、リヴェリアは叫ぶ。魔法を消し去る規格外を相手に、今だけは魔導士であることを捨て白兵戦で挑む。

 アイズもそれに続いた。まるで母子の如き連携は、しかし『覇者』にはまるで通じない。ドレスを掠らせることすらしなかった。

 

「生娘の分際で母にでもなったつもりかエルフ……………ああ、成る程。この苛立ち、私自身にも向けられているな」

 

 杖を掴み、刃を受け止め、女は息を吐く。

 

「まさか、散々嫌った私自身を更に嫌う事になるとは」

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