ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
電気で神経を焼かれる痛みは知っている。しかしそれは、あくまで気付けである。
滅茶苦茶痛いが死ぬほどでも無ければ体が痺れて動かなくなるほどではない。
少なくとも、飛んでくる雷撃を馬鹿正直に受けるような耐性をベルは持っていない。
「っ!!」
「ほらほら、そんなに離れないで! せっかく、私と戦いたかったのでしょう!」
「ぐぅ! 【ファイアボルト】!!」
仮に
「貴方が後2つ、いえ………一つでもレベルが上ならば、もう少し面倒になっていたかもしれませんね」
「アタシ達を忘れるな!」
『なー!』
と、セシルとユーフィの
第一級とも渡り合う中位精霊の一撃を雷の剣で受けるヴィトー。吹き飛ばされながらも、傷はない。
「…………さて」
面倒。
ヴィトーはそう結論づける。
やたら回避が上手い駆け出し冒険者だけなら、なんとでもなる。だが中位精霊とLv.3が面倒。
対人技能は暗黒期が終わってからオラリオへ訪れたセシルより、暗黒期において幾人もの冒険者を切り刻んだヴィトーの方が上。だが、精霊が厄介。
「【ファイアボルト】!!」
おまけに、
魔導師としての常識がなければ、爆薬付きの火矢と思えばまあ問題ない。
「ですが、ええ。勝てぬ相手に挑む貴方は、『英雄』のようですね!」
セシルの剣を弾き、ユーフィの蹄を回避し、ベルへと斬りかかるヴィトー。逸らそうとしたベルは、しかし『力』の差で吹き飛ばされる。
「私は『英雄』に憧れています!」
「………!?」
「いえ、尊敬と言ってもいい! この欠落染みた箱庭で、理不尽に負けず、不条理に抗い、世界に叛逆し続ける者達! 貴方の師もまた、このオラリオで理不尽に晒され、不条理を踏み潰してみせた!」
追撃。何とか回避し魔剣を振るうも回避される。
ベルの魔法より威力も範囲も高いが、だからこそ警戒され当たらない。
「その姿のなんと気高く、崇高なことか! 神々などより遥かに崇拝されるべき存在ですとも! 私は『英雄』を敬い続けます! そして、そんな私の前に貴方は現れた!」
「ぎっ!?」
「一度戦ったあの時から、私の関心は貴方でもちきりです! 年甲斐もなくワクワクしていまして!」
放たれる雷撃が片腕を焼く。
「貴方のあり方は尊い! きっと『英雄』達に近い! ははははは! ええ、ええ、声を上げて笑ってしまいますとも! 存分にあがいてください! 心行くまで藻掻いてください! 壮絶な最期を迎える英雄譚のように!!」
「ぐああああああああああ!?」
剣の連撃。雷の追撃。
「あのミノタウロスと戦ってきたのでしょう? 逃げたにせよ、勝ったにせよ、大変でしたねえ? そのうえで、Lv.4の私との戦い…………流石にもう立てませんか? 立てませんねえ? ああ、残念です。とても、とても」
金属音が響く。雷が体を焼き、剣が体を切り裂く。
「この!」
「不意打ちとは、乱暴なことを!」
ベルを嬲る姿に激昂し、冷静さを失ったセシルの剣が弾かれる。ユーフィの蹄を雷の剣が受け止め、眩い雷光が瞬き電熱が大気を膨張させる。
「さて、チェックメイトと行きましょう」
氷、炎、雷、風、光、闇……数多の属性の魔法が飛んでくる。
「いやあああ! 死ぬ死ぬ、死んじゃう!」
「叫ぶ余裕があるなら大丈夫って、リリウスちゃんが言ってた!」
「あら懐かしい。一緒に下層に潜ってた時ね」
「アリーゼ! 今は敵に集中してください!」
精霊はケラケラと残虐に笑う。
弱者を甚振る強者の愉悦に酔い、破壊を齎す彼女は精霊であると同時に、モンスター。ダンジョンも判断に困り破壊者を生み出さず傍観しているのは救いなのか。
「ていうかアレってリリウスが戦ってたっていう『
「あれは、バロールよりちょっと弱い程度です」
「ええ、【
ここにいるのは3人。後【ロキ・ファミリア】からアイズが1人。
一度撤退して戦力を補充するべきだが、出入り口は破壊されている。
「【
「【
風の力を借りた業火が迫りくる魔法とぶつかり合う。如何に精霊の力と言えど、救世の英雄候補にとされる第一級、その中でも上位のLv.6二人の魔法の合わせ技に短文詠唱で打ち勝てるわけもなく、炎に飲まれる『
「アハ………デモ、平気」
腰辺りにある花弁や葉が2人の攻撃を防ぐ。深層の階層主の如き防御力。あれを突破するのは、簡単ではない。
「後デ遊ンデアゲル」
蠢く触手が狙うのは、冒険者ではなく…………
「妹ちゃん!!」
狙いはノエル。ノエルを抱きかかえたまま走ろうとするリリ。だが、遅い。
「げう!!」
「リリ!」
ノエルを傷付けぬよう手加減しリリを吹き飛ばし、触手がノエルを絡め取る。
触手を抑えるものはなく、ノエルを助けられるものはなく、肉体の一部が口を開ける。
寄生元の怪物の本性を顕に醜い口でノエルを飲み込んだ。
「ノエル!!」
「……………アハ」
ヒュウ、と風が吹き荒れる。吐き出される息が白く染まり始める。
「アハハハ! アア、アアァァァァ〜〜〜〜〜〜!!」
恍惚と、ただの分身
同時刻、『魔界』に身を潜める『彼女』は身を震わせた。
己の触手がまた新しく姉妹を取り込んだ事を喜ぶように、或は身勝手にも独立した一部を羨むように。
「キャアァァハハハハハハハアハハハハハハハハァ!!」
吹き荒れる冷気。降り注ぐ、本物の雪。緑の肌が美しい蒼に染まり髪の毛は雪のように穢れを知らぬ白へと変わる。
「アア、アァ………アリア。貴方もおいで? 一ツになりマショウ?」
氷の角を生やした『
「そして、ソシタラ! あの英雄達を食ベルの! 私を何度モ殺しタ、炎と破壊の英雄ヲ!!」
唐突に真冬が訪れたかのような大寒波。しかしカチカチと歯が鳴るのはなにも寒さだけではない。
存在の格が跳ね上がった。さっきまでとは比べものにならない力の塊がそこにいる。
「『
生み出される雪像。魔力の質をたった一つの存在が塗り替えてしまったが、それでも量は減るどころか増えている。
「アレってリリウスよね? あと、リリウスが連れて帰ってきた人……」
「流石に本物のような強さはないと思いたいですが」
「あったら私達死んじゃうよ…………」
まあ、本体より性能が劣っていても、じゃあ勝てますと言うほど、穢れた精霊は弱くない。勝てる可能性が低かった相手が、勝てる可能性が滅茶苦茶低い相手になっただけだ。
絶望の宴は止まらない。
被害なく止めることが出来る最強の冒険者は更に下。何もかも焼き尽くして破滅を消し去る英雄は地上で、きっと少女諸共焼くしか出来ない。全てを都合よく救う方法は、何処にもない。
この物語に訪れる結末は悲劇。英雄の悲壮。勝利のあとに残るのは、残酷なだけの現実……。
「どうしても勝てない相手と出会った時?」
ベルの言葉にリリウスはふむ、と考える。時間は1秒もないだろう。
「逃げる。俺はそうした」
もっとも、逃げたのはこんがり焼かれてからだが。それまでは普通に戦っていた。スパルナの個鳥的判断で動けなくなっていたり気絶したリリウスを慌てて運んでいたので、本人が逃げようとしていたかは………。
「でも、逃げられない敵に会うかも」
「それは会ったことがねえから知らねえ」
「え、でも………
本来なら口外を禁じられているが、ベルはリリウスの弟子という事もあり、絶対真似してはいけない要注意事項の一つとして聞かされていた。
「俺は勝ってここにいる」
「それは、そうですけど………」
「勝つ負けるなんざ考えるだけ無駄だ。互いに牙を剥いて喰うか喰われるか噛み付き合って、喰われるかもと怯えるのも、喰えると油断するのも不要。喰われてたかもなんて、生き残った後に考えろ」
ヘスティアのジャガ丸くんを食いながらリリウスは言葉を続ける。
「勝てないかどうかは、勝敗が決まってから解ることだ。だから、もし殺されると思っても、まだ動けるなら動け」
俺の弟子ならな、その言葉を区切りに休憩が終わる。
「…………」
凍えるような空気の中、吐き出した息が白く凍り付く。それでも、胸から体にまわるその熱に一切の衰えはない。
『ベル、平気?』
「………傷が………ユーフィ?」
中位精霊といえども精霊は精霊。ノエル同様、ベルの傷を癒したらしい。
「ありがとう」
『……にげないの?』
「逃げないよ」
『こわくないの?』
「怖いよ」
『でも、たたかうの?』
「戦うよ」
立ち上がる。
立ち上がり、前を見る。ユーフィはん〜、と悩んだ後、幼女の姿を取りベルの背中に引っ付く。
「じゃあ、いちどだけ………セシルじゃないあなたに、えいゆうのようなあなたに、ちからをあげる。あのこたちを、たすけて」
「うん!」
少年の気配に反応するように穢れた精霊は固まり、振り向く。自分が何故振り返った理由も分からず、再び破壊本能のまま目の前の全てを殺し、
この物語に訪れる結末は悲劇。英雄の悲壮。勝利のあとに残るのは、残酷なだけの現実……。
いいや。まだ、結末は決まっていない。
死ぬその時まで諦めない、未完の英雄が、ここには居るのだから。
何時かの感想にあった【フレイヤ・ファミリア】のホストクラブイベントでリリウスが参加する場合、アフロディーテとオソロの女装。
アフロディーテ「だって男に飢えた男目当て、男旱の女冒険者が集まる店なのよ? かっこいい格好させたら、私の可愛いリリウスが襲われちゃうじゃない」
温度差よ。グッピーなら死んでたな
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