ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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伝わりづらかったので少し変えました。深夜テンションって駄目だね


救われなかった者

 大食いで何でも食えるリリウスと言えど、崩れる建物の中で人一人を食う程早食いではない。

 だから腕を食い動ける程度に回復し、アーディを連れ脱出した。その後は闇派閥(イヴィルス)を食って回復した。

 

 捕食を許可したアーディは、リリウスにとって恩人だ。だから恩に報いるために意識のない彼女に代わり彼女のしそうなことを代わろうとした。だがどうやら、目覚めたらしい。

 

「素晴らしいな。答えを得た正義の妖精の下に眷属が集い、死んだと思われていた親友が笑顔で現れる! 感動的、泣けるね。俺が喜劇主義なら万雷の喝采を浴びせてやりたい」

 

 民衆は石を投げた自分達のために戦う彼女達を見て動揺し、応援してやってくれという冒険者の言葉に、一人また一人と応援し、謝罪する。

 その中には娘を失った母の姿もあった。

 

「──覆った」

 

 その光景に、エレボスは呟く。

 

「完璧に、決定的に、言い訳のしようもなく。あれだけの『絶望』が、『希望』へと。たかが10と1人の『正義』の使者と、1人の『民衆の守護者』によって、完全に息を吹き返した」

 

 『絶望』が伝染するなら、『希望』もまた伝染する。ポツリポツリと呟かれていた声は今やビリビリと体を震わせる轟音となり正義の使徒を、そして何より民衆達を鼓舞する。

 

「リオン………それがお前の『答え』か」

 

 繋いでいくと、その為に絶望に抗うと吠えた妖精にエレボスは笑みを浮かべた。だがそれも一瞬。直ぐに酷薄な邪神のほほ笑みを浮かべた。

 

「ならば、俺も『契約』を遵守しよう。ありとあらゆる手段、軍勢、殺意を以て民衆を殺戮する。やれるものなら『正義』を残してみろ。今より殺戮の号令を──」

「それを下す前に、私と話をしましょう」

 

 透き通るような女の声が響いた。エレボスは思わず目を見開く。

 

「ええ、私よ。エレボス。前日あったばかりだけど、あえて言うわ…………久し振りね」

 

 正義の女神、アストレア。今まさに戦っているリュー達の主神の登場に、リリウスは直ぐ様2柱の神の間に割り込む。動けるようになってすぐそれとは、成る程良く理解している。

 ここでアストレアが天に還され、ただの人となった【アストレア・ファミリア】が蹂躙されるのが最悪だと察しているらしい。

 

「…………大丈夫よ。彼は、エレボスはここで私を殺さない」

「そう思うか、正義の女神(アストレア)? 絶対悪(おれ)がお前を辱めるかもしれないぞ?」

「ええ。だって、それは貴方が望む結果ではないでしょう?」

「…………くく。その度胸に免じて、話に応じてやる。確かに、それで得た勝利など面白くもない」

 

 下界は殆どの神にとって何処までいっても盤上だ。或いは人間以上に自らが課したルールに縛られる神も多い。

 

「だが、その前に。リリウス、お前の感想を聞かせろ」

 

 その言葉に、そう言えばリューの答えを聞けと言われたことを思い出すリリウス。感想………『正義』を巡らせるというリューの『答え』………

 

「………俺には誰かを助ける為に力を振るう理由はさっぱりだ。だがまあ、ああいうのが増えて、消えないなら少しはマシになるんじゃないのか?」

 

 それこそ、多くの声を聞き届け嘆きの声を消している内に小さな子供の声にも気付けるように。

 

「話は終わりか?」

 

 ならもう留まる理由もない

 

「【傲慢なる悪意の王】」

 

 魔力が溢れ、リリウスは敵を見定める。

 

「【血の河を啜れ、肉を貪れ】」

「【ラーヴァナ】」

 

 第一級の力を以て飛び出すリリウス。その詠唱を聞いていてエレボスは目を細めた。

 

「傲慢、悪意………おかしな話だな。善も悪も切り捨てた彼の詠唱が、自身を悪と断じ、傲慢を悪とするなんて」

「………………」

「優しい子だ」

「ええ、そして、悲しい子」

 

 正義の女神と絶対悪は、そこに関しては同じ感想を抱いた。

 

 

 

 

「オリヴァス様ぁ!?」

「このままではもちません、どうか、撤退を………!!」

「馬鹿なっ、馬鹿なぁぁ………あれだけの戦力がありながら、何故!?」

 

 理解出来ぬとオリヴァスが叫ぶ。数の優位はこちらだった。勢い付いていたのもこちらだった。たった、たった10と少しで覆るような状況ではなかったはず。

 

「私達の『正義』を信ずる意志が、お前達に勝った。それだけだ」

「おのれ、おのれ………! くそぉ!!」

 

 市壁の突破という連戦続きで疲れている【アストレア・ファミリア】から逃げようとするオリヴァス。

 事実、彼女達も深追いする余力はなかった。だが…………

 

「あ………?」

 

 一陣の風が吹き抜け、オリヴァスの右腕が消えた。石畳や瓦礫を砕きなから減速した影は咥えたオリヴァスの腕をペッと吐き捨てる。

 

「!? ぐあああああ!!」

「オリヴァス様!?」

「ラ、【飢鬼】(ラークシャサ)! 己、こんなタイミングでぺぇ!」

 

 グシャリと闇派閥(イヴィルス)構成員の首が踏み潰された。間髪入れず、リリウスの爪がオリヴァスへと迫り──。

 

「【福音(ゴスペル)】」

「ギャウッ!!」

 

 横合いからの魔法によって纏めて吹き飛ばされた。獣のような悲鳴を上げ瓦礫に突っ込むリリウス。掠っただけで吹き飛んだオリヴァスは、ヒィィと情けない悲鳴を上げながら這々の体で逃げ出した。

 

「アルフィア…………!!」

 

 現れたのは、漆黒のドレスを着たまさに『絶望』の具現。オリヴァスなど相手にならぬ、この状況を一人でひっくり返せる『覇者』。

 『覇者』は正義の派閥に目も向けず、リリウスを見据える。

 

「起きろ。その程度で参る貴様ではあるまい」

「あたしは完全無視だぜ」

「おやまあ、年も考えず幼い子に執着するなどいい趣味をお持ちで」

 

 ライラの絞り出すような声に、輝夜は精一杯の皮肉を吐き捨てる。アルフィアは呆れたように嘆息した。

 

「あれが子供であると思うのなら、何故お前達は恥ずかしげもなく共に戦う同志と見る。気が知れんな」

「………!!」

 

 10になったばかりの少年が戦う現状を嘆かず受け入れる輝夜に吐き捨てるアルフィア。輝夜の顔が苦渋に歪む。と………

 

「ガア!!」

 

 瓦礫が飛んでくる。アルフィアがそれを避けると首を狙う『釣り針』。刃でもある鉤爪を躱し、鎖を掴み引き寄せる。

 

「!?」

 

 逆に釣り上げられたリリウスの首を掴み地面に叩きつける。

 

「カフ!」

「その魔法……いや、話を聞くのに都合がいい」

「ゲホ、話…………?」

「ああ、そこの小娘と、エレボスの問答の真似事だ。善も悪も削り取り、切り捨てたお前に聞きたいことがある」

 

 地面を跳ねながら距離を取ったリリウスはアーディを見て、周りを見て、構えを解かないまでも話を聞く姿勢を取る。蹂躙されるよりマシだと思ったのだろう。

 

「切り捨てたところで、根幹が消えて無くなるわけでないだろう。お前が求めていた正義は何だ。その求めた正義は、その小娘の出した正義に沿うものか?」

「…………知らん」

 

 数秒考え、出した結論に嘘はないつもりだ。少なくともリリウスにとっては。だが、アルフィアの求める答えではなかったのか殴られた。

 

「!?」

「答えを濁すことは許さん。お前は、理解を捨てた。捨てるということは持っていたという事だろう。だからお前は、正義も悪も嫌いなのだろう?」

 

 リリウス・アーデは勇者達への当たりが強い。リリウス・アーデは闇派閥(イヴィルス)への当たりが強い。

 反発し、罵倒し、詰る。秩序のトップも、混沌の勢力と等しく、本当は嫌っている。

 

「私に隠し事をするな。お前の言葉を聞かせろ」

 

 リリウス・アーデはアルフィアが苦手だ。向けてくる感情が理解できない。敵なのに、アーディやアミッドのような言い表せない何かを感じる。

 

「お前が正義を捨て、悪を捨て、獣に成り果て尚、今の秩序側の最強達を嫌う根幹。お前の怒りを教えろ」

 

 アルフィアの両の目が開く。左右異なる色の瞳が、リリウスを見据えた。

 

「だって、正義なんて何処にもないんだと思っていた!!」

 

 気付けば、リリウスは叫んでいた。余計なものとして己から切り捨てた筈の感情。しかし、削っても切っても、己から湧き出続けた感情を、初めて切り捨てる前に形にして吠えた。

 

 だってここには親に庇われる子供が居たから。

 今まさに、消え入りそうな声に駆けつけてもらえた生贄の聖女(アスフィ)が居たから。

 冒険者の助けなんていらないと、一度は拒絶した民衆がいる。

 『正義』を罵倒し、石を投げた者達がいる。

 

 なのにここには、残酷なまでに『正義』が存在した。魔法により理性が緩んだリリウスは、故にこそ叫んだ。

 

「父さんも母さんもモンスターや周りと一緒に平気で俺()を殺そうとして、寒くて痛くて怖くて辛くてお腹が減って………なのに、誰も助けてくれなくて!! 正義が全部救えなかったとしても、何で………なんで()()なんだ!!」

 

 それはきっと、正義に救われなかった者達全ての代弁。誰もが思ってもおかしくない、事実民衆達が先程まで胸のうちに燻らせていた怒りと全く同じ物。ただ一つ違うのは、民衆達は最初から正義を見てきて、リリウスは後から正義が存在することを知った。

 

 自分で自分達を守るしかないと全てを切り捨ててから、守られる者達はいるのだと、救われる者達は居るのだと知った。

 同時に自分が救われぬ側だと言う現実を突き付けられた。飢えていても尚聡明な彼は、その現状が力無き最強の不徳である事も、その上で勇者を、正義を名乗り精一杯戦っている事も察してしまった。

 

「自分を守るのが精一杯なんだよ! なのに、何で誰かを守らなきゃならない!? 何で彼奴等は誰かを傷つける! 大嫌いだ、正義も、悪も……………!!」

 

 絞り出すような子供の声。救われなかった子供の嘆き。妹を失った男は、彼が妹と同い年、何なら数カ月は下なのを改めて突き付けられた。

 

 正義の使者達は言葉を失い、民衆の守護者は声を飲み込む。妖精の女王は人食いの獣の本心に目を見開き、風の少女は親にすら命を脅かされたという言葉を理解しきれなかった。

 

 黒衣の魔女だけが、その言葉を正面から受け止める。

 

「救えぬ正義を、傷つける悪を嫌うか………ああ、お前は本当に優しい子だ」

 

 自分を守るのに精一杯と、彼は言った。ならば、自分を守ってくれる誰かが居たならその余力を誰かに向けるのだろう。

 

「…………全ては私達の無力が発端。故にこそ、この問答で最後だ」

 

 アルフィアは背を向ける。どうせ誰も自分を止められぬと知っているから。

 

「次は敵だ。悪を嫌うというのなら、止めてみせろ」

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