ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
アイズがアクセルにたどり着くと戦闘が始まっていた。
駆け出しとはいえ冒険者の街。まだ街へは入られていない。
仮面を付けた変な人形が引っ付いて自爆したり、凄い魔力の女の人が凍らせたり…………あの辺りの層が厚い。
でも数が多い。まだ戻れない。
「ベル、レフィーヤ………頑張って!!」
「オオオオオオ!!」
グリーンドラゴンが前足を薙ぐ。当たらずとも吹き荒れる暴風が、巻き上げられた小石が十分武器となる正真正銘の怪物。
「【ファイアボルト】!!」
疾走る炎雷。三連撃。
Lv.2となり威力も上がった速攻魔法。竜の鱗には通じず、緑眼がベルを睨む。
「グオオオオオ!!」
「くっ!」
振り下ろされた竜の爪が地面を切り裂く。ギリギリで回避したベルはその場で魔法を放とうとして下がる。余計な隙はさらさない。カズマの言う通り、距離を取って……!
「ゴアア!!」
ガバッと開いた口の奥、煌々と輝く炎が灯る。
「【アルクス・レイ】!!」
「ガッ!?」
しかし吐き出される前に必中の
「コルルル」
ギロリとレフィーヤを睨みつけ地面を揺らしながら迫る竜頭。その牙は、騎士によって阻まられる。
「グゥ!!」
硬い!
それが竜が抱いた感想。上顎は剣で、下顎は牙に触れぬように押さえられているが、普通ならそんな事をしても顎の力だけで骨を砕けるはずなのだ。
「アァ、この圧迫感……!」
モンスターは人の言葉が解らぬ。
モンスターは竜である。
迷宮にて同胞の魔石を求める毎日であった。しかし目撃証言がないのは、目撃者を殺してきたから。
口の中の人間はそんな冒険者達と全く違う反応。敵意が感じない。
「あ、ちょっと牙刺さった! いい、良いぞ! 焦らしプレイとは…………カズマ、この竜解ってる!」
「今助けますダクネスさん!」
「ああ、お構いなく!」
ベルはグリーンドラゴンの目に向かって炎を放つ。迫りくる緋色の雷にグリーンドラゴンはダクネスから口を離し回避。
「【黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう】」
ピクリとグリーンドラゴンはその膨大な魔力に反応する。
「【覚醒のとき来たれり】」
魔力の発生源はめぐみん。あれは、無視できるものではない。
「【無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!】」
「グルオオオオオ!!」
「いかせんぞ!」
グリーンドラゴンの突進を受け止めるダクネス。自分より小さな人間に受け止められると思ってもいなかったのか、驚愕で固まるグリーンドラゴン。
「てやぁ!」
スカッ!
「グル?」
しかしダクネスの攻撃は空を切る。え、と固まるダクネスの上を飛び越えるグリーンドラゴン。
「【踊れ踊れ踊れ。我が力の奔流に望むは崩壊なり並ぶ者なき崩壊なり】」
「ダクネスさん!?」
「まさか、アイズさんが近くにいないから!?」
同じ衣装を着ると共鳴するらしい。ならば、近くに居ないとダクネスは元の頑丈なだけの女に戻るのだろう。
「ソゲキ!」
「ギッ!」
潜伏していたカズマの狙撃がグリーンドラゴンの目を狙う。咄嗟に首を動かし回避するグリーンドラゴン。
「【アルクス・レイ!】」
さらに追い打ちのレフィーヤの魔法。完全に勢いが止まる。
「クリエイトウォーター! からのフリィーズ!」
再び駆け出そうとしたグリーンドラゴンの足元に水を巻いて凍らせる。範囲は足の1本分であっても、バランスを崩すには十分。
「【万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!】【エクスプロージョン!!】」
グリーンドラゴンの真上に現れる巨大な
瞬間、爆裂。
業火が周囲を照らし、衝撃波が地面を砕く。
大気が震え、破壊が伝播する。とんでもない威力だ。
「はふぅ…………」
「めぐみんさん!?」
ぶっ倒れためぐみんに慌てて駆け寄るレフィーヤ。まさか、怪我を!?
「ふへぇ……いい、爆裂でした。あ、ご心配なく。魔力を使い果たしただけです」
「そうですか…」
威力の代償に
あれなら流石の強化種と言えど……………
「ゴルルルルル!!」
「なっ!?」
ズゥン! とグリーンドラゴンが降りてくる。咄嗟に飛行して躱していたらしい。無傷ではない。余波だけで相当なダメージを負っている。だが、直撃していない。
ボロボロになった翼だが、まだ飛行は可能なようだ。
戦闘中、一度も飛ばなかったのに!
(遊んで…………? いや、自分を試してた!?)
強化種となって
その力を十全に使うのは今日が初めて、目の前の相手は弱すぎず、かつ強すぎない手頃な相手。
だが、命を危機を前に初心を貫くほどの意志はグリーンドラゴンになかった。
今はただ、殺意を向ける。己を殺しうるめぐみんに向かい………。
「っ!」
レフィーヤがめぐみんを背に庇う。魔法は間に合わない! そもそも本来ですらLv.4の竜種の攻撃をこの程度では防げない!
迫る炎に為す術はない。目を閉じ、訪れる死に怯え…………
「…………え」
リィィン、と鈴の音が響く。目を開けたレフィーヤが見たのは、恐ろしい竜に立ち向かう白い背中。
「うおおおおお!!」
英雄になりたいと、少年は思った。
この数日過ごした憧れの人。大好きな英雄の名を持つ者。冒険者の先達である少女。
そして、異世界で出会ったベル達とは異なる冒険者達。
正直、ベルはこの戦いについていけてるとは言い難い。魔法は通じず、かと言って接近するわけにもいかない。
カズマのように指示を出すことも出来ない。それでも、だからこそ、この場の英雄に憧れた。
レフィーヤがめぐみんを庇おうとした瞬間には、もう走り出していた。
僕も、僕だって………!!
皆みたいに、貴方みたいに誰かを助けようと怪物の正面に立てる英雄に!!
「うおおおおお!!」
「ゴガッ!?」
竜の頬を拳が穿つ。牙がへし折れ足が浮き上がり体が傾く。
轟音を立て倒れるグリーンドラゴン。カズマもダクネスも、めぐみんも目を見開く。レフィーヤも誰よりも戦慄する。
「Lv.2の力じゃない…………強化スキル? 今の光が?」
「え、強化スキル?」
「何で貴方が驚いているんですか!?」
「す、すいません! まだ目覚めたばかりで………じゃあ、今のが【
それはランクアップ時に目覚めた
「光が溜まって………一時的な強化?」
「いえ、これ……
なるほど、溜めが必要なら今の一撃にも納得………納得、できなくはない。条件付きの一撃のみと言うならあり得なくはない。
でもグリーンドラゴンを殴り飛ばすなんて、レベル差を覆しかねない超強化。
「ゴ、ア………ゴルル!!」
脳が揺さぶられふらつきながら立ち上がるグリーンドラゴン。敵意がベルへと向けられる。
「っ!」
ドン! と地面を含み跳び上がる。全体重を乗せた前足が大地を砕く。
「ゴアアアア!!」
「【ファイアボルト!!】」
己に向けられた大口へ炎を放つも吐き出される炎はベルの魔法を焼き尽くす。
「くっ!」
炎を回避したベル。地面が溶ける熱量。
グリーンドラゴンは空へと飛び上がり一方的に焼こうと翼を広げて………
「【
翼に縄が巻き付く。竜の力で引きちぎるも、バランスを崩し墜落。
「【アルクス・レイ!】」
「グオオオオオ!?」
レフィーヤの魔法が翼の付け根を焼く。帆のような翼が地面に落ちた。
「ベル・クラネル! 今の、できますか!?」
「えっと、夢中でした!」
つまりやり方はわからない、と。
「なら、時間を稼いでください!」
「はい!」
「後、私やっぱり貴方嫌いです!」
「ええ!?」
「駆け出しなのにアイズさんに目をかけられて、団長やリヴェリア様も褒めてたし、アイズさんと仲が良いし、狡いスキル持ってるし、アイズさんにジャガ丸くん作ってあげられるし!」
それにとっても頑張ってる。少なくともレフィーヤが知る駆け出しやLv.2の中では一番。
「だから、負けてあげません! 貴方が嫌いだから、貴方の強さを信じます! 任せます、
「はい、
ベルは駆け出す。背後に控える魔導師を信じて。
目の前の巨大な敵に挑む。英雄のように!!
「オオオオオオ!!」
翼を奪われたグリーンドラゴンはレフィーヤに向かい吠えるが、リィンという鈴の音に反応してしまう。
「【黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう】」
「グル………ガアアアア!!」
どちらを狙うか逡巡した後ベルを先に潰そうと尾を振るう。咄嗟に回避するベル。自分でも予想以上に後ろに飛び、光は消えていた。
「【覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!】」
行動を起こすと維持できない。なら、1秒だけの
「【踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり】」
「…………!」
「グオオオオオ!!」
竜が大地を揺るがす。逃げない。
牙が迫る。避けない。
炎が迫る。睨みつける!
「【ファイアボルト!!】」
限界まで、ギリギリで溜めて放つ。放たれた炎雷が竜の息吹を打ち消した。
「よくやったベル!」
ダクネスが竜の尾を掴む。あれなら剣技がどれだけ下手でも関係ない!!
「ぶん投げろ、怪力娘!!」
「怪力っていうな! うおおおおお!!」
ダクネスはグリーンドラゴンをぶん投げた。体高6
「【万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!】」
詠唱完成。迸る魔力。竜が慌てて立ち上がろうとするも、遅い。
「【エクスプロージョン!!】」
一筋の光が竜へと走り抜ける。次の瞬間、目も眩む強烈な光。周囲の空気を震わせる轟音。
グリーンドラゴンの体は炎に飲まれ消し飛んだ。
「…………あちらも終わったようだな」
大地に転がるヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンの死体。エピメテウスに勝てぬと解ると食い合い、さらなる強化種となった。
その光線の威力は周囲に穿たれたクレーターを見て推し量れるだろう。エピメテウスの知る漆黒の怪物を除いた如何なる竜より強かった。
「凄いわねエピメテウス! ちゃんと私を守ってくれたし、特別に名誉アクシズ教徒に認定してあげる!」
「それはいらん。本当、マジで…………戻るぞアクア。あのトカゲが逃げ出さぬうちにな」
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