ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
正義の宣誓。民に希望を灯し、絶望を振り払い、光を示した。『正義』はここにあると、多くの民に知らしめた。
誰もが暗い顔をしていたオラリオの顔に活気が戻る。顔が晴れぬは、他でもないその正義の使者達だが。
「………………放せ」
余計なものを再び削り落とし、食事をするリリウスを片腕で抱きしめているアーディ。リリウスは邪魔だと困惑していたが、それでも振り払わない。
「ごめん。ごめんね………!」
正義の宣誓はいっそ残酷なほどに『正義』の存在を証明し、同時に救われなかった者にその現実を突きつけた。
『正義』が無力なら意味がなかったろう。だが、民衆を救ってみせた。
正義が存在しないならとっくにつけた諦めも肯定されただろう。だが正義を信じた少女を救ってみせた。
「別に俺だけじゃない………」
正義に救われなかった者など他にもいる。その多くがそのまま闇に飲まれ上がってこなかっただけ。這い出し、抗い、力を手にしたのが偶々リリウスだっただけだ。
アーディはリリウスを子供として扱っていたし、ライラやアリーゼもリリウスの何もかもにも噛みつくような敵愾心も、善も悪も切り捨てた獣の如き価値観も『正義』が彼を救わなかったからだと理解して………だけど、そんな彼女達ですらリリウスを戦力と数えていた。
勿論彼女達は無理強いをしたわけではない。
リリウスもだからこそ戦力を遊ばせるわけには行かないと言葉巧みに彼を動かそうとする勇者や力持つ者の責務を問う正義の妖精に比べ彼女達に噛みつかない。
後、最近娘ができたからか人食いを嫌悪しながらも子供が戦うことに難色を示す妖精の女王はなにか言ってこない限り無視する。
だけど、だからといってリリウスが何も感じてないわけではなかった。感じた端から余計なものとして捨てていただけ。
「いっそただの獣であってくれれば楽だったのだが………」
「それは逃げてるだけだぞ輝夜………」
「解っている。すまない…………」
いっそ正義も悪も捨てた獣ならば気も楽になると言うのに、リリウスのあの言葉は、正義に期待していた子供の泣き声だった。
獣ではなく、獣のように生きる事でしか生きられなかっただけ。正義も悪も本当は知っていたけど、それにすがる暇すらなかった子供なのだ。
「何時か私は言ったな。私達は英雄ではない、全てを救うなど不可能だと」
「ええ……」
正義を名乗りながらも、未熟な自分達では全てを救えない。犠牲が出ることも、犠牲者を大切に思っていた者達からの誹りも覚悟しておくべきものだと輝夜はリューに語った事がある。
【アストレア・ファミリア】の中ではライラに並び後ろ暗い過去を持つ。極東の闇を引き受ける一族である彼女は、人間の醜さを見てきた。
だから、正義の派閥でありながら正義の力を疑い、犠牲が仕方のないことだと思っていた。
「取り消す気はない。だが、謝罪する。あんなものは言いわけだ、犠牲を出した事を苦しむふりをして、犠牲になった者から目を背けていた」
覚悟していた? 覚悟するということは、辛いことなのだろう。だが受け入れ、前に進まなくてはならない。なるほど、それも『正しい』のだろう。
だが、自分達が傷付き血に染まった現実を受け入れた『正義』を、何故犠牲者が信じられようか。
「我々は英雄ではない。だが、英雄のように誰もを救いたいと、そう願っていたはずなのにな」
「力があるという理由だけで、彼を子供として見なかった………いえ、人を食うという理由もありますが」
「……………………」
リヴェリアが戻ってきてから様子がおかしい。聞き出したいエルフ達だが恐れ多くて聞き出せない。
「…………ねえ、ロキ」
と、そんなリヴェリアをどうしたものかと眺めていたロキにアイズが話しかけた。
「モンスターと人は、違うよね?」
「なんや藪から棒に。当たり前やん」
「でも、じゃが丸くんのお兄さんが…………」
「じゃが丸くんのお兄さん………?」
「………
なんとなく言いたいことは解った。人を殺す人と、人を殺すモンスター。どちらも見て、アイズも悩んでいるのだろう。
「モンスターは人を傷つけるから殺さないと。でも、
「じゃが丸くんのお兄さんって…………もしかして
この街で人でなし扱いを受けるとしたら、彼ぐらいだろう。一応ギルドの命令に従い表向きでは人を食ってないが、薄々感づいている者は居るし、何より彼は一度だって命に目を向けない。民も、冒険者も、
「またあの男ですか!」
「リヴェリア様に心労をかけるとは!!」
アイズの言葉からリヴェリアの悩みを推測しようと聞き耳を立てていたエルフ達がロキの言葉に騒ぎ出す。
「違うよねロキ………自分の子供を傷つける親なんていないよね? ずっと、誰も手を差し伸べてくれないなんて嘘だ」
子供が救われないだけならアイズもそうだった。今は、リヴェリアが抱き締めてくれた。英雄は現れなくても、救おうとしてくれる誰かは現れるのだと思っていた。
何よりも理解できないのが、両親すらモンスターと同じで自分を殺そうとすると叫んだ事。アイズにとって両親は強く、優しく、親のようなリヴェリアも厳しくも優しい………親とは、そういう者のはず。
「………いや、普通に自分の子供殺す親はおるで」
「ロキ!?」
うまく言葉を濁してくださいと視線を送っていたエルフ達はロキの言葉に思わず目を見開いた。
「あの子はな、アイズたんに似てるんよ。でも、アイズたんと違って優しい両親も、頼れる大人達もいなかった。そんなものが存在することすら知らなかった」
「…………知ってたの?」
「神やからなウチ。フィンも気付いとるで…………」
そのうえでフィンはリリウスの過去も苦悩も無視することを決めたが…………なにせ彼一人で冒険者数人分の戦力になる。ザルドの片腕を奪ったというガレスの報告を信じるなら、今は恐らくフィン達にすら並んでいる。
「どうして、そんな……だって、人はモンスターじゃないのに」
なのに、どうして人を傷つけるのか。モンスターという恐ろしい存在がいるのに、何故。
「本当に、何でやろうなあ………」
「ねぇロキ………私は、剣を持ったよ。じゃが丸くんのお兄さんも、きっと同じ………でも」
彼は誰が助けてくれるのだろうか…………助けたとして、今更? アイズにとって幸せは取り戻すもの。じゃあ、彼は…………?
「本気か、フィン?」
「ああ。ザルドの腕を奪える戦力を遊ばせる余裕なんて、今のオラリオにはない」
来る決戦には彼も参加してもらう。ザルドの腕を奪った、オラリオの最高戦力の1人として。
「だが、あの子は………!」
「
「………名を背負わせる意味が、わからないお前ではないだろう」
Lv.7の片腕を奪う若き戦士。なるほど、正義の使者により希望を取り戻し始めたオラリオに、さらなる士気を与えるだろう。
だが一度でも英雄になった彼を、世界は見つめ続ける。そして直ぐに手のひらを返すのだろう。
「あの子は、敵意には敵意を返す。それこそ獣のように」
「安心してくれ。彼が都市に被害を出すなら、僕が止めるよ」
そうして最悪の
「駄目だ。それは、駄目だフィン………だって、あの子を必要な犠牲と認めてしまえば、私達は本当に最強になれたとしても、その時の私達は民衆の味方ですらない…………」
「リヴェリア? …………そうか、彼の本音を聞いたんだね。まさか、彼がそれを吐露するなんてね」
「っ! 知っていたのか!?」
「ああ、だが今更どうしようもない。過去を変えるのは、神すら不可能だ。彼はもう、ああ成り果てた」
善も悪も切り捨てた。生きる為に必要な本能を残し、人らしさを自ら手放した。
「それに、切り捨ててきたのは彼も同じはずだ。【ソーマ・ファミリア】で
勿論酒に酔うソーマの眷属が異性と交わる機会は他の派閥に比べ圧倒的に少ないだろう。リリウスの両親とて、酒に代わる快楽でまぐわった可能性すらある。
それでも数人は居たはずだ。だが、【ソーマ・ファミリア】の幼子は彼と、あと一人。
「自分の為に彼だって切り捨てた」
「だが、その『悪』を私達は見もしなかった………!」
念の為言うと、【ソーマ・ファミリア】の幼子はソーマがある程度育てた。リリウスや彼の妹も同じだ。そうなれば酒を作る時間が減るため、子をなさないのがファミリア内の暗黙の了解。
殆どが生まれぬよう避妊薬を使うか、生まれる前に流された。
それでも生まれた数人は、確かにいるのだが………どうなったかなど今の【ソーマ・ファミリア】を見れば解る。
酒に溺れ自滅するか、こき使われモンスターの前に囮として投げられ最期を迎えるかだ。
「……………解ったよリヴェリア。君の不興を買いたくはない。だけど、何もさせないというのはなしだ。それはそれで、オラリオは彼を敵にする」
「…………あの子は、きっと戦うよ」
正義を嫌うのと同じくらい、彼は悪を疎んでいるのだから。
ちなみにリリウスが闇派閥になるとしたら、それは親を殺したあと分岐点が存在する。
具体的にはアーデ夫妻の金を狙った他の団員に襲撃を受けリリが死んだ場合。
そうまでしなきゃ彼は悪に落ちないんですね。
因みに主神はタナトス。
因みに因みに何故か目は紅い。