ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「戻ってきたね」
「はい」
アイズの言葉にベルが頷く。ちょっとダンジョン温泉という寄り道をしてしまったが、日が沈む前に帰れたらしい。
「護衛ありがとね、ヴァレン某君」
ヘスティアは恋敵にもちゃんとお礼を言えるのだ。
「じゃあ、帰ろっか」
「はい、神様!」
「俺はよるところがあるから………リリ、シュヤーマ達と帰ってろ」
「わふ!」
「あう!」
護衛は任せろと吠えるシャバラとシュヤーマ。リリウスは【ディアンケヒト・ファミリア】に向かった。
「お湯と混ぜると衣類を溶かす粘液だ。あそこのお湯とだけの可能性もあるから、そっちも採取してきた」
衣類を溶かす粘液と聞いてギョッと固まる【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達。しかしアミッドは落ち着いたものだ。
「成る程、買い取りましょう」
「か、買い取るんですかアミッド様!?」
「はい。血が乾き傷と癒着した場合や、衣服越しに熱湯などで火傷した時に傷を悪化させることなく剥がせます」
「あ、そ、そういう使い方…………」
「他にどのような使い方が?」
「……………?」
団員達の言葉に首を傾げたアミッドはリリウスに視線を向けるがリリウスも首を傾げた。
この男、妹が裸を見られたと聞いても「シャバラやシュヤーマだって着てない」と思う生粋の野生児である。
リリが嫌な思いをしたと言うから埋めただけで、どう嫌だったのかは良く解っていない。ある意味アマゾネスに近い貞操観念のショタ。やべえ。
彼が普段着ている服は全て
【ディアンケヒト・ファミリア】で換金を終え、【ソーマ・ファミリア】のホームへ戻ろうとするリリウスはふと立ち止まる。
大通りから外れた路地裏に続く曲がり角に、焼きたての串焼肉が置かれていた。
「……………?」
駆け寄り手に取る。食べる。
視線を路地裏の奥に向けると焼きたてのパイ。
てってってっと駆けていくリリウスは導かれるようにダイダロス通りの奥へ奥へと進んでいく。
やがて行き止まりの開けた空き地。中央にはジャガ丸くん。
「キヒヒヒヒ。ダァ、メ……ですわよぉ? 美味しい匂いに釣られて、一人でこぉんなに人気のない所へ来るなんて」
匂いは感じなかったが、気配は感じていた。路地裏に入る前からこちらを見ていた視線の主が現れる。
影から這い出すように、白い肌に赤と黒のドレス。何処か浮き世離れした女は左右異なる瞳を弧に歪めリリウスを見つめる。
瞳、と言って良いのか。
女の左目は、針が動く時計そのもの。
「特にぃ、貴方のような可愛らしい方は倒錯した趣味をお持ちの方に大層気に入られますからねえ」
「誰だ、お前?」
「さて、何度目かのはじめまして…………わたくしは時崎狂三と申します。時の精霊ですわ。わたくしのことは、狂三お姉ちゃん、或は狂姉と呼んでも構いませんわ。少々、
カチャリと向けられる妙な形をした筒。
それは神の恩恵を授かりランクアップを果たした者には大した効果を齎さぬ故この世界では研究されていない、礫を放つ機構。名を銃と呼ぶ。
なお神々は普通に知ってる。二丁拳銃は浪漫だとか。
それは火薬を炸裂させ鉄の礫を飛ばすため、爆音が鳴る。その音を銃声と呼ぶ。
ダァン! と銃声が鳴り響いた。
「え、
「はい………心配はしていませんが、何かあったのでしょうか」
翌日の18階層。ベルとリリは再びここに訪れていた。
理由はヘスティアの髪飾りの一部がなくなっていたから。
前回は
実はベルはあの後Lv.3にランクアップしていた。規格外すぎる。
Lv.3が2枚に、Lv.4が2枚。さらに上位精霊という札を加えたパーティはリヴィラの平均的なパーティの総戦力を遥かに超える。
「クンクン………ワン!」
シャバラが地面に鼻を鳴らしながら茂みに飛び込む。直ぐにヘスティアの髪飾りの一部を咥えて飛び出してきた。カランと金が音を奏でた。
「よ〜しよし。えらいね、シャバラ」
ノエルがひっくり返ったシャバラの腹を撫でる。ハフハフと気持ち良さそうに息を荒げるシャバラ。
シュヤーマは不機嫌そうに唸るとリリの後ろから脇腹をつつく。
「惜しかったですね〜。シュヤーマも頑張ってましたよ」
顎の下を両手でワシャワシャ撫でてやるとクウゥンと気持ち良さそうに鳴いた。
と、その時………
「グオオオオオオオ!!」
「今のは……興奮したモンスターの遠吠え? 森の奥に集まって………まさか、誰か襲われて……」
それを認識し、視線を向けると木々の隙間から見えるモンスターの影。遠吠えに引き寄せられたモンスターも見える。
「行こう、リリ! モンスターの群れが見える! あの数、普通のパーティじゃ危ない!!」
それだけの理由で助けに飛び出すあたり本当にお人好しだと呆れながらもリリもベルの背中を追いかけた。
「シドー…………おきろ、シドー!」
少女の言葉で目を覚ます少年、名を五河士道。心配そうに覗き込む紫のドレスを来た美少女は十香と言い、士道とキスしたことがある少女だ。
「と、十香……? ここはいったい………?」
周りを見回す。森の中だ………何故こんな場所に?
「私にもわからん………まるで見たことのない景色だ。だが、今は大事がなかった事を喜ぼう。シドーが無事で何よりだ!」
「お、おお………良くわからないけど、心配かけたみたいだな。すまん………」
「私の方が心配していた」
そう話しかけてきた花嫁衣装を思わせる白いドレスに身を包んだ少女の名は折紙。士道とキスしたことがある少女だ。
「うお! 折紙、居たのか!」
「そう」
「シ、士道さん……大丈夫、ですか?」
そう尋ねてきたのは兎を思わせるレインコートを着た幼……少女。名前を四糸乃。彼女にも、士道はキスしてる。とんでもねえ。
「いやあ、本当なら出番は次なのにお得だねえ!」
「? 何を言ってるの、よしのん?」
彼女の腕の兎のパペットはよしのん。四糸乃の友達であり、別人格的なものだ。
全員怪我をしてはいないと安堵する士道だったが折紙が素人判断は危険と脱がそうとする。彼女は変態なのだ。
十香は止めようとしたが傷を放置しては危険と言われるとあっさり脱がせる側に回った。彼女は素直な良い子なのだ。
「……………………」
「ん、あれは………耶俱矢!?」
慌てて逃げる士道が4人目の少女を見つける。ベルトを巻き付けたかのようなとんでもねえ格好をした士道とキスしたことがある少女、耶俱矢だ。
「私は…………あれ?」
「耶俱矢! お前も来てたのか!」
「…………士道? どうして私、こんなところに………え?あれ? 夕弦………は?」
双子の姉妹である彼女は己の半身の名を呟く。何時だって一緒に居た………殺し合いをしてでも生きて欲しかった姉妹がここに居ない。
「え、えっ!? 夕弦っ、夕弦!? なんで、どうしていないの!? 何で私一人だけ…!? 何が起こってるの!? 夕弦ー!」
取り乱す耶俱矢に士道達が慌てて駆け寄る。
「しっかりしろ耶俱矢!」
「そうだぞ耶俱矢、落ち着くのだ!」
「そう。息を吸って。ゆっくり吐いて。それでも駄目なら士道の胸に顔を埋めて、深呼吸するといい」
「何を言ってるんですかねぇ折紙サン!?」
「………! ごめんなさい、無神経だった」
「い、いや、わかって貰えば」
「それをしていいのは私だけということ?」
「やっぱり解ってなかった!」
士道のツッコミが森に響く。漫才じみたやりとりに耶俱矢が落ち着きを取り戻していく。
「みんな、ごめん……取り乱して。変な場所にいて、夕弦と居なくて………私」
「いや、耶俱矢達は双子の
精霊と、そう呼んだ。そう、彼女達は精霊。
「不安だろうけど、まずは状況を把握するのに力を貸してくれ。俺達もここが何処なのか、何なのかも解っていないんだ」
「う、うん………ごめん、士道」
改めて辺りを探る。他に霊力らしい気配は………。
「あれ、そういえば皆、その格好は………」
と、士道が漸く彼女達の姿に違和感を覚える。
光を反射、等ではなく言葉通り淡く輝く衣装。
その名は霊装。
精霊の力………霊力で編まれた鎧である。だが、彼女達は纏えない筈なのだ。彼女達は精霊の力を士道の中に封印しているのだから。
「………一体なんで」
「うむ。先程から、力が漲って来るのだ」
「そういえば、士道に力を封印される前みたい」
「俺の身体………というか、霊力の
「恐らく、そういったものとは違う」
霊力が逆流しているのではなく、この場に満ちる力が霊力に似ていて結果として力が満ちているような、そんな感覚らしい。
「霊力に似た力が、ここには充満しているってことか? いや、でも………そんなこと」
「腑に落ちないのは私も同じ。けど、何も分からないこの状況において霊力があるのは心強い」
「し、士道さんは私達が守ります!」
「安心してよね、士道君!」
「………そうだな。とりあえず、ここが何処なのか手掛かりを………」
と、その時だった。
「グオオオオオオオ!!」
「な、なんだ!?」
突如響く声。振り向くとこちらへ迫る大きな影。
「大きな熊!? いや、熊なのか………それに、なんだあの巨大な虫は!」
「明らかに異様な生物。私達が知る生態系ではないことは確か」
「ちょっと、どーなってんの!? 本当にここ、何処なのよー!」
「わ~、でっかいクワガタ!」
「こ、こわい………!」
異形の怪物達はその目に爛々と敵意の光を宿し向かってくる。
「来るぞ!」
「【ファイアボルトォォォ】!!」
が、走る紅の雷。空を走り熊へと当たると爆音を響かせ吹き飛ばす。
「なっ!?」
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……無事、だけど」
やってきたのは白い髪に赤い瞳の少年。歳は士道と同じぐらいだろうか?
本来交わらぬ筈の世界の、出会うはずのない少年達。如何なる運命のいたずらか、2人はこの日、この場所で出会った。
それが何を齎すのかは、神すら知らぬ未知である。
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